-desfile
エリス、どこに行くのよ。
来れば、分かるよ。
つか、どこまで行くのよ。
あともう少しだよ。
あと少しって。
“家”から大分離れちゃったじゃない。
うん。
こんな時間に。
夜になったら冷えるって何度言えば
だから、これ。
ポンチョ。
あたしにも着させて。
冷えるから。
そんな時にどこへ行こうとしてるのよ。
あと、帽子。
耳あてつき。
…。
マフラー。
全部、ナディが買ってくれた。
それはあんたが勝手にふらふらと星を見に行っちゃうから。
クセ。
星空の下で、寝てたから。
あのなぁ。
ナディ。
うん?
着いた。
着いた…て。
ただの野っぱらじゃない。
そうだよ。
そうだよって。
今夜はここで星空観察するっての?
…。
て、エリス。
どこに
そこに、いて。
は?
…。
エリス。
大丈夫だから。
大丈夫って。
……はぁ。
…エリス?
ぁ……。
!
エリス!
…大丈夫だから、そこにいて。
でも!
はぁ……ふぅ。
つかまさか力を使おうとしてるんじゃ…!
……。
止めなさい、エリス!
あんた、今の躰で…!
……いくよ、ナディ。
え…。
………。
ちょ、な、なにこれ…。
…光。
いや、光って…うわ、こっち来た!
…。
つかエリス!
あんた何した
ホタル。
…は?
見せたかったの…。
ホタル…って、あの蛍?
うん…。
エリス…!
…こっちに来ちゃ、だめだよ。
消えちゃう…。
ばか!
…。
そういう問題じゃないでしょーが!
…折角、上手に出来たのに。
ばか。
……だって。
だってじゃない。
今のあんたで力を使えばどれだけ負担がかかるか、分かってるでしょうが。
……本で、見たから。
だからって
…。
……分かった。
見せてくれたのは嬉しい。
ありがとう、エリス。
でも。
…。
あんたと一緒じゃなければ、意味ない。
…ナディ。
気付いてる?
…。
あんたの痛みは、あたしに。
あたしの痛みも屹度、あんたに。
…うん。
全部じゃないけど、伝わるのなら。
あたしの力を伝えることも出来るかもしれない。
…。
あたしにはあんたのような力はない。
けど、あんたの力になる事は出来るかもしれない。
でも、それは…
良いから。
…。
もう一度、見たいじゃない?
二人の周りに飛んでるのを、さ。
……ナディ。
さぁ。
……うん。
と、言ってはみたものの。
痛みとはまた違うし、とりあえず手を…ん。
…。
……。
……貰った。
…んなわけ、あるかい。
ナディ。
ん…?
少しだけ。
…おう、持ってけ持ってけ。
……。
……。
……いくよ、ナディ。
うん、いつでも。
……。
おー…。
…今度は、青緑。
さっきは青白かったのに。
ナディ、力有り余ってる…?
おかげさまで。
て、なんでだ。
えへへ…。
蛍、蛍か…。
…。
こんな蛍、見たコトないなぁ。
こんなふわふわしてるのは…。
…他のはあるの?
一回だけ。
…そう、なんだ。
けどこんなゆったりと、こんな穏やかな光で飛んでるのは、見たことない。
…そっか。
大丈夫?
足りないなら…。
…大丈夫。
もう、貰ってるから…。
なら、良い。
…ごめんね、ナディ。
うん?
ホンモノじゃなくて。
良いって。
きれいには変わりない。
....No hay dos veces.
(…二度とない)
ん、なにそれ。
この先、たとえ同じコトがあっても。
それは全く同じにはならないんだよ。
…へぇ。
それはなかなか深いコト。
…。
Pero esto nunca tendrá un final.
(けど、それはきっと終わらない)
…。
二人、一緒なら。
でしょ?
…ん。
エリス。
…なぁに。
いつかホンモノの蛍、見せてあげる。
エリスが見せてくれたのとは違うけど、それでも。
約束…?
そう。
いつかの桜のように。
…ん、約束。
-El cortejo fúnebre del otoño.
さぁて今日の宿は、と。
…。
エリス、今夜は星の下じゃなくて屋根の下で寝る予定だから。
あんまりボロじゃなくて、でもそんなに高くないところ、探そ。
…。
あとごはん。
久しぶり、に…?
…。
エリス。
ナディ。
聞いてた?
あれ、なに?
ん?
あれ。
どれ?
ひとがあるいてる。
ああ、歩いてるね。
て、そりゃ歩くでしょ。
なにか、はこんでる。
なにか…?
……はこ?
…。
おおきいね?
……ああ。
なぁに?
…エリス。
うん。
……。
ナディ?
……あれはね、葬列。
そうれつ…?
そう。
そうれつってなに?
誰かが亡くなったの。
なくなってないよ、いるよ。
…エリスが箱って言ったのは、棺。
ひつぎ…?
亡くなった人が入るもの。
……。
…亡くなると言うのはね。
うん。
…死んだ、と言うこと。
しん、だ…?
…そう。
……。
……。
……しんじゃった。
…。
はかせも…。
…。
わたしが……ころした、から?
エリス…。
わたしが…わたしが…。
エリス。
……はぁ。
…?
はぁ…はぁ…はぁ…
エリス、大丈夫?
……ぁッ
…!
エリス…!!
………。
…。
…ナ、ディ。
気が付いた…?
…。
よかった。
……わたし。
あの後、いいトコ見つかってさ。
…。
そんなに高くない、でもそこまでぼろくない。
…。
…今夜はゆっくり寝られるよ。
…。
あ、でもその前にごはんか。
お腹、すいた?何か食べられそう?
……ナディ。
ん…?
…。
どした…?
ナディ…。
ん…。
…。
エリス…?
…。
……どうしたの?
……。
……。
……。
……大丈夫。
…。
言ったでしょ?
何があってもあんたの傍にいるって。
……うん。
…ずっと、いるって。
うん…。
……。
…でも。
…。
はかせは…。
…あたしは博士じゃない。
……。
ね、エリス…あたしは、だれ?
…ナディ。
そう。
…。
…ほら、そんな顔してないの。
……。
大丈夫……約束は、守る。
ナディ…ナディ…。
……ずっと傍にいるから。
ずっとだよ…。
…うん、ずっと。
……やくそく。
ん、約束。
ナディ……。
……。
……。
……エリス。
…き。
え、なに…?
……。
……寝てる?
…。
…まぁ、いっか。
おやすみ…エリス。
…ナ……ィ。
…。
……ナディ。
…おはよ。
……。
…。
……ゆめ、みた。
…そう。
…。
…。
…きかないの?
聞いて欲しいの?
……。
仕方ない。
聞いてあげようかな。
…。
なぁに?
自分で言っておいて、やっぱり言いたくないっての?
…あのね。
うん…。
…おぼえてないの。
……なんじゃそりゃ。
でも…。
……。
…ナディはずっといっしょだから。
……。
ずっと…。
…どんな夢見たんだか、分からないけど。
ん…。
……寝ながら泣かれると。
正直、困る。
……。
あたしはここにいるのに…。
…ナディ。
……ただでさえ、ないわけじゃないのに。
…?
……後でくるんだ、これが。
…なにをいっているの?
…。
ナディ…?
…こっちの話。
……。
まぁ、怖い夢じゃないならいいんだけどね。
こわくはなかった…とおもう。
そっか。
…ねぇ、ナディ。
ん…?
…もうすこし、こうしてたい。
…。
してたい…。
……仕方ないなぁ。
…。
少しだけ、ね。
……。
お…。
…もっと、だきよせて。
…。
もっと…。
…たく。
起きたら起きたで我侭なやつだ。
……ナディ。
…。
……。
…これで、オーケイ?
……うん。
…。
ナディ…。
……エリス。
…。
…。
……あなたが、いてくれて。
-Loreley
…。
…。
…髪の毛、くしゃくしゃね。
…ナディのせい。
なんだとぅ…。
…ほんとのこと。
……。
みだれがみっていうんだよ。
…まんまじゃない。
えへへ。
まぁ、エリスの髪は元々、ふわふわしてるから。
…?
…目のとこ、邪魔じゃないかな、て。
……。
まぁ、いいけど。
…ナディはやさしい。
…いやみか。
…?
いやみ…?
…なんでもない。
…。
…。
…でも。
…でも?
いじわる。
…いじわる?
うん、すごくいじわるなの。
…詳しくは聞かない。
きいて。
…やだ。
…。
…。
……なかなか、してくれない。
だから、良いって。
くれないくせに…しつこい。
だから…。
なんどもなんども…
エリス。
…きょうだって。
エリス、もう
へんになっちゃうっていってるのに…。
…っ。
きいて、くれないの。
……。
…いつも。
…。
……いってるのに、ね。
……エリス。
けど…む。
もう、本当に勘弁してって…。
…。
……ああ、もう。
……ナディ。
…。
…ナディはいじわる。
…わかってる。
…すごく、いじわる。
……わかってるって。
いつもはやさしいのに…。
……どうしようも。
…。
どうしようも、なくなっちゃうのよ…。
…。
…もっと、優しくしたいのに。
でもいつも、止まんなくなっちゃって…。
…。
…自分が、自分でなくなってしまうようで。
ううん、ちがうよ。
え…。
いじわるなナディもナディ。
……。
ナディなんだよ。
………。
ナディ…?
…。
なかないで。
…。
ナディ…。
………ごめん、エリス。
どうして?
……。
わたしはうれしいんだよ?
……。
うれしいんだよ…ナディ。
……エリス。
うれしいの…。
……。
…。
エリス…。
…あなたに。
ん…。
えいえんのあいを…。
……。
ずっと…ずっと、あなただけを…。
…。
…。
……あーあ。
…?
あたし、エリスが好きなんだ。
……。
どうしようもないくらい。
…ナディ?
どうして、こうなっちゃったんだろう。
……。
最初は…ただの、仕事だったのに。
……こうかい。
守ろうと思って、ずっと傍にいようと決めて。
どんな事があっても一人にはさせないって。
こうかい、してるの?
…。
…ナディはやさしいから。
……そんなに優しくないよ、あたしは。
ううん、やさしい。
いまだって…。
…。
…ほんとうはわたしのこと、すきじゃなかったのに。
わたしが、ん。
…。
…。
……好きなのよ。
……ナディ。
知らなかった自分に、エリスがいなかったらきっと、ずっと気付くことがなかった。
…。
あんたが好きなの。
……。
だから…後悔なんてしてない。
……。
後悔は…ない。
…うそ。
…。
ナディはいつも、つらそうなかおをしてる。
…!
わたしはしあわせなのに…ナディがくれるのに。
なのに、ナディはつらそうで…。
…。
ナディはいつも、わたしをまもってくれた。
しあわせをおしえてくれて…してくれたのもナディで。
…。
…だけど。
わたしはナディをしあわせにしてあげられない。
そんなことない。
……。
…こうなること。
あたしは…望んでた。
…。
望んでいたから。
……。
最初はただの仕事だった。
こうなるなんて、本当に思ってもいなかった。
エリスは…そう、同性だから。
……。
……。
……ナディ。
…好きなの。
…。
壊してしまいたいくらい、自分だけのものにしてしまいたいくらいに……愛しているの。
…。
……優しくしたいなんて、嘘。
あたしは、本当はエリスを…。
…。
……ごめんね、エリス。
…あやまらなくてもいいよ。
…。
あやまるひつようなんてない、から。
……エリス。
ないんだよ…ナディ。
……。
……。
……後悔。
…。
…して、ない?
…。
あたしと…こんなことになって。
どうしてするの。
…。
わたしは…ナディがすきなんだよ。
…。
だいすきなの。
…でも。
するはず、ないよ。
……でも。
ナディ。
…。
…わたしはずっと、ナディとこうしたかった。
されたかった。
……。
…するだけじゃだめなの。
されたかったの、ナディ。
……。
…。
……あたしは。
…。
エリスに仕合わせになってもらいたかった。
ナディがいれば。
わたしはなれるよ、なってるよ。
……だから。
…。
エリスが他の誰かに真似事じゃない、恋をして…あたしを必要としなくなったら。
あたしはいなくなろう、と…。
……まねごとってなに。
…。
ふうふはおとことおんなだから?
…。
こいびとは、おとことおんなじゃないとだめなの?
…。
…そんなの。
……だって。
わたしはナディがすき。
ナディだけがすきだから、ほかのひとをすきになんてならない。
なるはず、ないのに。
………だって。
ナディじゃなきゃ、だめなの。
エリス…。
…だめなんだよ、ナディ。
……こんな、こと。
だめなの…。
…。
…ナディいがい、いらない。
なにも、いらない。
…。
ねぇ、ナディ。
ナディのいう、ちゃんとしたこいってなに?
……。
わたしがナディをすきなのは、ちゃんとしてないの?
おんなどうしだから?
…。
おしえて、ナディ。
…。
……どうすれば、いいの。
…。
どうすれば…ナディはつらそうなかおをしなくなるの。
……エリス。
…。
エリス、あたしは…。
…いなくなれば、いいの。
え…。
わたしがいなくなれば。
ナディはつらくなくなるの…?
……。
そうなの…ナディ。
…。
…そうなら。
エリス…。
…………ばいばい。
あ。
ナディがつらいのは、いや。
エリス。
ナディがわたしのせいできずつくのは…いや、だから。
ま、待って。
…。
…待って、エリス。
……。
…お願い、行かないで。
…。
一人は…もう、いや。
…。
いや、なの……。
…ナディは。
…。
……わがまま。
……。
わたしも、わがまま。
…。
ごめんね…ナディ。
…ううん。
…。
あたしは…エリスが好き、だから。
だから…。
…。
……怖かった。
いつか、他の誰かと行ってしまうのが…。
…いかないよ。
あたしとこうなった事を後悔して…。
しない。
だったら、自分から…。
…ナディ!
う…。
…ナディ。
あたし…あた、し…。
…。
ごめん、ごめんなさい…エリス…。
……。
お願い、あたしを好きでいて。
あたしだけを…。
…わたし、いったよ。
…。
ナディがすき。
ナディだけが、すき。
ほかのだれかなんてしらない、どうでもいい。
ナディさえいれば、なにも…
……ぁ。
いらない。
……。
…いらないよ、ナディ。
う…。
わたしがほしいのは、あなただけ…だから。
……ぅぅ。
……。
エリス…エリス…エリス……エリス…。
……わたしのこと、すき?
好、き…。
…わたしのこと、ほしい?
…ほしい、ほしいよ、
なら…あげる。
……。
ぜんぶ、ぜんぶ……ナディにあげる。
あ…あぁ。
…ほんとうはもう、あげたけど。
ナディはどんかん、だから…。
…。
…また、あげるね?
……。
いくらでも…あげる。
…ありがと、ぅ。
ナディがいらないっていっても…あげるから。
……。
あげるか、ら…。
…言わない。
……。
欲しい、欲しい、欲しい…。
…あげる。
エリス、が。
ぜんぶ。
全部、あたしのものにしたい。
して。
あたしだけの…。
して、ナディ。
…。
…して、ほしいの。
…ッ。
ナディ…。
……エリスッ!
……。
はぁ…。
…。
エリス、エリス、エリス…。
…。
……。
……わたし、は。
好き…すき……すき…。
あなただけ、の……。
…。
…。
……ごめんね、エリス。
…。
それから…ありがとう。
…。
あたしを好きになってくれて…。
…おたがいさま。
ん?
おたがいさまっていった。
……。
わたしはナディがすきで…ナディもわたしのこと、すきだから。
…。
…ちがうの?
違わない…。
…。
…あ。
ナディはわたしだけのもの…。
…。
だめ…?
…だめじゃ、ない。
…。
むしろ、もらってくれると嬉しい…。
…もらう。
…。
ぜんぶ、もらう。
う、うん…。
…えへへ。
エリス…?
うれしい。
…。
……うれしい。
……。
……ナディ。
…。
…?
……な、んか。
うん。
…はずかしくなってきた。
…いまさら?
う。
……。
だ、だって…。
…だって、なに?
……。
ナディ?
…みっともない、と言うか。
…。
……みっともない、と言うか。
ひっし?
……う。
けど、さっきはいじわるじゃなかったよ?
……。
…わたしのことだけ、おもってくれた。
そ、それはさっきだけのことじゃ…。
…しってる。
…。
わたしいがいのこと、おもっていたら。
ゆるさない。
…。
ゆるさないよ?
は、はい…。
…。
…と言うか、思えるハズないじゃない。
なら、いい。
……。
ナディはうすらタコスだから。
…あたし、今、すごい惨めなような気がしてきた。
だから、わたしがいつもそばにいてあげる。
…。
…わたしはいつだってナディのものだよって。
おしえてあげるの。
…エリス。
……おしえてあげる。
うん…。
ナディもおしえて?
…あたし?
ナディは…いつだって、わたしのものだって。
……。
やくそく…。
…いえっさ。
……。
…あのさ、エリス。
ん。
…。
…くすぐったいよ、ナディ。
…。
…なぁに?
…。
ナディ?
……。
あ…。
……好き。
……。
…うん。
これでまた、頑張れそう。
そうなの?
うん。
わたしをだくとがんばれるの?
…うん。
……たんじゅん?
ほっとけ。
…。
…そろそろ、行かないとね。
じゃあ、いっぱいだいていいよ。
……。
わたしもがんばれるから。
…あ。
えへへ。
…もう、行くんだって。
わたしもたんじゅんなの。
…。
ナディにうつされたから。
…うつるんかい。
うつるんだよ?
だから、ナディのせい。
…責任取れってか。
とって。
…。
とって?
あたしはもう、あんたものだから。
…。
あんたも…あたしのものだから。
…。
だから……それでチャラってことで。
だめ。
なんでよ。
だめなの。
わ…。
えへへ。
…どうしろって言うのよ。
キスいっかい。
…そんなんでいいんかい。
じゃあ、いっぱい。
…だから、行くんだって。
いっしょうをかけてもいいから。
…。
いいよ。
……じゃあ、それで。
いえっさ!
ちょ…。
…えへへ。
……。
…まずい?
…!
ば、ばか…っ!
……ふふ。
-Blick auf mich.
彼女は時々、“遠く”を見ている事がある。
エリス、エリス…。
…ナディ、ナディ…ッ!
青い瞳に映るのはどこまでも広がる荒野、果てしない空。
“煩わしいもの”が一切無い、世界。
その中に私はいない。
…はぁ。
や…ッ
空を飛ぶ鳥のように生きてきた、彼女。
彼女を縛ることなんて本当は出来ない。
心を私ではない何処かへ、知らない処へ…そんな背中を見るたびに、思い知らされて。
今だって。
…エリス。
あ、あぁ…。
誰よりも近くにいるのに、私の声はその耳に届かないような気がして。
躰だってこんなに近くにあるのに。
確かに、この熱は本物なのに。
はぁ…っ。
……ぁ、ッ!
…ねぇ。
その瞳に、私は。
………エリ、ス?
……て。
……貴女の心の中に、私は。
え…。
……。
…分かってるの。
私はきっと、貴女を縛り続ける。私は貴女が好きだから、愛しているから。
そんな私を…自由を奪う存在であるわたし、を。
エ、エリス…。
……っく。
…一人で何処かに行かないで。
行ってしまわないで、置いていかないで。
お願い…拒絶、しないで。
え、えと……ごめん、どこか痛くした?
…て。
え…う、わ!
……い。
な、なに…あ。
……ください。
私に、場所を。
……。
……。
……エリス。
ナディ……。
私に、貴女を。
……。
ぁ…。
…だから、お願い。
私だけを、見て。
-El amor gana?
愛は勝つんだよ。
……。
勝つの。
…あーはいはい、そうね。
勝った。
…とりあえずごはん、食べちゃいなさい。
いえっさ。
…。
…。
…エリスー。
なぁに?
今度はなんの?
…。
何を聞いたんだか、読んだんだか、見たんだか。
…。
ん?
ナディ。
……は?
えへへ。
いや、えへへって。
信じてたから。
何を。
ナディ。
……。
だから、最後に勝ったの。
…何に?
こんなん。
……。
ごはん、おいしいね?
…うん、そうねぇ。
だからずっと、信じてるの。
…話、繋がってないわよねぇ?
つかれたら、いつでも胸の中でねむってもいいんだよ?
……。
ナディげんてい。
…わー嬉しい。
でも夜は言わなくてもあまえんぼ。
…うっさいから。
Love
will grow.
…。
El amor crecerá.
言いかえなくても分かるわ。 てか、朝っぱらから恥ずかしいから。
…。
あーもう、よくもそんなに恥ずかしいコトばかり思いつくと言うか…覚えると言うか。 思えばそーいう言葉を覚えるのは
わざと。
……は?
えへ。
いや、えへじゃなくて。 何がわざとなのよ。
ないしょ。
…なんだとぅ。
ナディは純粋。
…そうでもない、けど。
知ってる。
だって夜はわがままだから。
…。
わがままなこども。
……あのね、エリス。
うん?
さっさと食べて、出発。 オーケイ?
オーケイ、ナディ。
……。
おいしい。
……誰が我侭な子供だ、たく。
本当なのに。
良いからさっさと食べる。
はぁい。
…。
おいしいね。
よかったね。
うん、よかった。
…。
…。
……なんか、朝からすごい疲れた。
朝も甘えてもいいんだよ?
いいから、早く食べろ。
-Música de un desierto.
~~♪
…。
~♪
……ナディ。
んー?
それ、なに?
それ?
ナディのくちからおとがする。
口笛。
知らないの?
くちぶえ?
くちなのにふえなの?
笛、と言うか。
でもまぁ、そんなもんなのかな。
…。
口をこーして……
…。
ピィィィ…。
…と、こんな感じ。
へぇ…。
やったこと、ない?
ない。
そっか。
そだ、こんなのもあるよ。
…?
指をくわえて…
ピューーィ…!
わぁ。
これは指笛って言うの。
ゆびぶえ…。
やってみる?
教えて
やらない。
…ああ、そう。
…。
ま、いいや。
…。
…~~♪
…
~~♪
ナディ。
ん?
おもしろいね。
…へ。
くちぶえ。
おんがくになってる。
まぁ、ね。
ゆびぶえはもうしないの?
口笛の方が手軽。
手を使わないだけに。
…。
…あー。
そうなんだ。
…うん、まぁ。
……。
ねぇ、エリス。
ん?
教えてあげるけど。
べつにいい。
…あ、そ。
ナディ。
うん?
きいてるね。
…。
ナディのくちぶえ。
…聞かせるものでもないけど。
きいてるの。
……ま、いいけどさ。
……。
-パレード
…くそう、青目のやつめ。
空、雲、山、川、緑…。
仕事は仕事でも、こんな話は聞いてないっつの。
ナディ。
あ、なに?
あっちより空気がきれいだね。
あー…そうね。
こんだけ緑がいっぱいあればね。
私、ここ好き。
ナディは?
…まぁ、あんたの躰には良いかもね。
ここなら、胸に優しいだろうし。
ナディは?
……。
ナディ?
…蚊に刺された。
あーもう!
痒い?
痒い。
すんげぇ、痒い。
あまり掻くとシミになるんだって。
…。
舐めるの?
…痒み、治まんのよ。
特異体質?
うっさい。
ほっとけ。
薬、ぬる?
…持ってるなら早く言え。
今、言ったよ?
あーはいはい。
とりあえず貸して。
…。
エリス?
でもナディは舐めた方が良いかも。
特異体質だから。
…怒るわよ?
舐めてあげる。
は?
どこ?
良いわよ。
それより薬を…。
…。
ほら、エリ…ス?
…痒い。
ざまーみろ。
…うぅ。
あまり掻くとシミになるわよ。
折角何もしなくてもきれいな白い肌なのに、勿体ない。
…。
…何。
ううん。
…なんで嬉しそうなのよ。
気のせい。
…。
蛍、いるかな。
ねぇ、エリス。
なに?
そんなに見たいの?
見たい。
ただの光る虫じゃない。
そうだけど。
違うよ。
あ?
違うの。
…あーそう。
…。
にしてもいくら夏休みだからって、なんでこんなトコで畑仕事しないといけないんだか。
涼しいのはまぁ良いけど、明日は田んぼだってゆーし。
若いのは里離れだかなんだかでろくすっぽいないし、つかエリスは見てるだけだし。
でも、良い稼ぎ?
…う。
交通費も出て、良かったね?
…あーもう。
西瓜、おいしかったね?
あーはいはい、そーねぇ。
…。
…エリス?
……私、ここが好き。
虫、多いけどね。
…。
ほら、この辺なんじゃないの?
ばあちゃんが言ってたとこ。
つか、何もいないんだけど…。
…。
…エリス。
…。
…まぁ、暗いし。
良いけど。
…ナディが転んだら大変。
そん時はあんたも道連れにしてやる。
…うん。
……。
……蛍。
…。
少なくなっちゃったんだって。
…みたいね。
せっかく、きれいところなのに…。
…あたしたちじゃ、どうしようも出来ないわよ。
…。
…エリス!
え…わ。
足元。
道連れにするのはあたしだって言ったでしょーが。
…そうだった。
…。
…。
…ほら、離れて。
これじゃ動けない。
…もうちょっとだけ。
だめ。
蛍見たらさっさと帰るんだから。
…。
帰って、さっさと寝たい。
…。
…帰りも繋いでもいいから。
ん…。
にしても、どこにいるんだか…。
…。
…あ。
…?
エリス、前。
前?
いや、こっちじゃなくて…
…。
エリス、早く
こっちにもいるよ。
え。
すごく、きれい…。
て、うわ、ほんとだ。
…。
まさか、これ全部…?
…きれい。
…。
……ナディ。
…。
…あ。
…。
…。
……昔。
…。
こんなの、見たことあるような気がする…。
あの時もこんな光が…。
…私も、あるよ。
どこでだっけ…。
…遠い、国。
ずっと、ずっと…。
…。
…あの時も、貴女と。
…。
ナディ…。
あーあ、明日も早起きかぁ。
…。
…。
…。
…エリス、さ。
もう一度、来よっか。
…え?
帰りの前の日くらいに。
まぁ、天気が良ければの話だけど。
…。
いやなら、良いけど。
…来たい。
そ。
…来よう?
晴れたら、ね。
晴れるよ。
なら、良いけど。
…きっと、大丈夫。
…。
ナディ。
あー?
約束。
はいはい、約束…て。
…えへへ。
…あんたは気を抜くとすぐそうだ。
してくれないから。
…あんたみたいにほいほい、出来るか。
良かった。
あ、何が。
ここに来て。
…。
良かった。
…そ。
うん。
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