−Media mandarina. エリス。 …。 お待たせ。 ……うん。 エリス。 …。 エリスってば。 …な ほい。 ……。 うん、ナイスキャッチ。 ……これ。 みかん。 …みか? オレンジじゃないのよ、これ。 ……。 食べたこと、ある? …ない。 オレンジも? …うん。 そっか。 …これ、どうするの。 もちろん、食べるの。 …。 皮、むいてね。 …かわ。 んで、中身を食べるの。 …たべるの? そ、食べるの。 甘くて、おいしいのよ。 ……ふぅん。 オレンジは皮が厚くて手でむきにくい。 けど、みかんは… ……。 ほら、簡単。 ……。 エリスもやって …やらない。 こらこら。 ……たべないから。 そんなコト言わないで。 せっかく、買ってきたんだからさ。 …。 いちご、もいいけどね。 みかんもおいしんだって。 …。 ほら、口開けてみ。 ……。 早く早く。 ……。 開けないと、無理矢理こじあげるぞ? …それ、ほんとうにあまいの。 甘いよ。 …。 さ、エリス。 ……。 ん? …じぶんで、たべる。 そ? んじゃ、はい。 でも。 うん? さきにたべて。 先に? …。 まぁ、いいけど。 んじゃ… ……。 …うん、甘い。 …。 次はエリス。 …ほんとうに、むぐ。 つべこべゆーな? ……。 どう? ……あまい。 でしょ? あたしはどっちかと言うと、みかんのほうが好きなのよね。 …どっち? オレンジより。 あれは皮がむきづらくて、面倒。 ……ふぅん。 もっと食べる? …。 ん? …かわ。 もう、むけるでしょ? ……じゃあ、いらない。 は? …。 んー…。 ……むいてくれたら、たべる。 人にむけって? ……。 …しょーがないなぁ。 じゃ、むいてあげるか。 ……。 はい、エリス。 …ん。 ありがとう、は? ……。 あ、り、が、と、う。 …あまい。 …。 もっと。 …あー。 ? へんなかお? やかましい。 ……。 気に入った? …。 みかん。 ……。 …。 ……。 …まぁ、いいけど。 食べてるってコトは、嫌いじゃないんだろうし。 …。 でももう少し、おいしそうに食べてくれたらいいんだけどな。 …おいしいよ。 なら、いいんだけど。 …もう、ないの? もう、ないよ。 ……。 もっと食べたかった? …ないなら、いい。 じゃ、また今度ね。 …こんど? そ、今度。 …かうの? そう、買うの。 ……。 それにしても…ほら、見て。 手が黄色。 …きいろくないよ? あんたは食べるだけだから。 手袋、これじゃはめられないなぁ。 ……。 どっかで洗えないかな。 …。 ……まぁ、いいけどさ。 …。 んじゃ、行きますかね。 …うん。 …。 …。 エリス、さ。 …なに。 もしもさ、食べたことのないものが目の前にあって。 …ないよ。 いや、今じゃなくてさ。 …。 で、それを食べてみたいと思ったら、言ってよ。 …なんで。 一緒に食べよ。 …いっしょに。 そ、一緒に。 はんぶんこにして、さ。 ……どうして。 旅、一緒にしてるから。 …。 と言っても、たっかいのは無理だけどね。 ……。 そんだけ。 さ、行こ。 ナディは。 うん。 …どうして、わたしにやさしいの。 そりゃ、ばあちゃんに頼まれたから。 …おかね、つかうの。 そりゃ、一緒に旅をしてるから。 …しょうきんくびなのに。 前にも言ったと思うけど。 …。 賞金首だろうが、なんだろうが。 一緒に旅をするんだからごはんは分け合って、食べる。 それは当たり前の事なの。 あたりまえ…。 そ、当たり前。 …。 それに。 …。 あんたは知らないコトがいっぱいあるみたいだから。 しらないこと…。 食べ物とか、ね。 タコスも知らなかったし。 ……。 ま、そーいうことよ。 …どういうこと? そーいうことは、そーいうこと。 …わかんない。 分からなくてもいいわよ。 ん……。 とにかく。 一緒に旅をしてるんだから、遠慮はしない。 無理な時は無理って言うから。 …みかんも? そう、みかんも。 ま、今回はほっとんどあんたが食べちゃったけどね。 あたしはむくだけで。 …。 そういうことだから、ごはんは分け合って一緒に。 それだけ、覚えておきなさい。 ……いえっさ。 ・ ……。 今日は何してたんだ? …お。 ただいま、ロント。 それはおみやげ。 みかん? そう、みかん。 いっぱい貰ってね。 エリスは? なか。 そっか。 じゃロント、一緒に帰ろっか。 うん! ナディ。 エリス。 おかえりなさい、ナディ。 ただいま、エリス。 これ、おみやげ。 みかん? そう、みかん。 市場でいっぱい貰ってね…て、さっきも同じコト言ったばかりなんだけど。 私は聞いてないから。 ま、良いけど。 でも、こんなにたくさん? 傷がついて、出荷出来ないんだってさ。 で、勿体無いから貰ってきたってわけ。 タダ? そう、タダ。 こんなにあるから、今夜のごはんはみかんかな。 良いの? 冗談。 知ってる。 エリス、エリス。 なぁに、ロント。 むいて、むいて。 うん。 はい、待った。 …? なに、ナディ。 ロント、自分で剥いてみなさい。 えー。 えー、じゃない。 ほら、やってみ。 …むぅぅ。 剥き方は分かるでしょ? …。 て、いきなり指を突っ込むな。 汁が飛ぶし、ぐちゃぐちゃになる。 …うぅ。 あーこら、それじゃ… …わ! あー。 ……うぅぅ。 汁、目に入るって。 あーもう、しょうがないなぁ…。 ナディ。 うん? 私が剥くね? けど 剥くね? …しょーがないなぁ。 ロント、目、こすっちゃだめだよ。 しみるー。 だめ。 うー…。 ロント、目、洗って ナディ、連れて行ってあげて? エリス、 あげて? …帰ってきたばかりなんだけど。 あげて? …あーはいはい。 行くよ、ロント。 …いえっさ。 ロントが戻ってくるまで、皮、剥いておくね。 いえっさ!! ロント、おいしい? うん! だって、ナディ。 はいはい、それは良かった。 ナディも食べる? あたしは 食べる? …じゃあ。 いえっさ。 ……まぁ、良いや。 エリス、もっと。 て、あんたはいい加減食べすぎだっつの。 ロント、あんまりたべてないよ。 五つも食べれば十分、だ。 エリス、もっともっと。 ロントはみかん、好きだね? うん、すき! じゃあ、また明日ね。 やだ、いまたべる。 お腹、壊しても知らないわよ。 いいもん。 あ、そ。 ナディ、はい。 ありがと。 きれいに剥けてる? うん、剥けてる。 良かった。 じゃあ、いただきま… ……。 …て、ロント。 見すぎだから。 ずーるーいー。 なんでだ。 あんたはもう、食べたでしょーが。 ずるい、ずーるーい。 あーもう、やかましい。 エリス、ロントも、ロントも。 ん…。 エリス、もう駄目よ。 お腹壊したら大変だから。 …だって? うーー。 …お、このみかん、美味しい。 おいしい? あんたも人の分ばかり剥いてないで、食べてみなよ。 じゃあ、ナディ。 うん? 剥いて? …は? 剥くの。 …誰が? ナディが。 何を? みかんの皮を。 誰に? エリスに? ……あー。 早く、早く。 …いや、なんでそうなる? 決まってるの。 決まって? 初めてみかんを食べた、あの日から。 …て、待て。 そんな前の、 覚えてた。 …や、まぁ。 あの時は本当に… ……。 …まだ、食べ終わってないんだけど。 待ってる。 待ってるなら、自分で 待ってるから。 …あーそうかい。 じゃ、待ってなさい。 いえっさ。 うー、ロントもたべたいー。 いっぱいあるね。 うん? みかん。 しばらくは食べられるかな。 ロント、喜ぶね。 あいつは見てないと食べ過ぎる。 大丈夫だよ。 剥いて貰わないとあの子は食べないから。 もう、自分で剥かせた方が良いと思うんだけど。 そしたら食べ過ぎちゃうよ? あー…それは言えるなぁ。 ね? それでも、自分で出来る事はやらせる。 …。 うまく出来なくたって良いのよ。 …良いの? 良いの。 子供ってのは失敗して、そこから学んでいくものだから。 失敗…。 失敗した事ない人間って、結構、脆いもんなのよ。 たがかひとつの失敗で、全てが終わりだと思っちゃうくらいにさ。 ナディは。 ん? だから、強いんだね。 …どーいう意味だ? そのままの意味? どうせあたしは失敗ばっかりだったですよ。 …でも。 ん…? ……強いだけじゃない。 ……。 甘えて、くれるから…。 …エリス。 良かった…。 …。 ナディ…? ……エリス。 なぁに…? ……。 ん…。 ……なに、言い出すかと思えば。 …。 …エリス。 あまえんぼ…。 ……悪かったな。 ううん、悪くない…。 ……。 ……。 ……ロントは? 夢の中…。 …そ。 ……。 …エリ みかん。 …は? 三分の一、だね。 ……え、と。 はんぶんこ、じゃないの。 ……ああ。 だけど…。 …だけど? ……今だけは、はんぶんこ。 …。 はんぶんこ…。 …て、食べる気かい。 食べる…? …今日はもう良い。 良いの…? …それより。 ん……。 …。 …わたしも、はんぶんこ? ……? ロントと…。 …。 …。 …ばーか。 ん。 ……あんたはあたしのだ。 …。 …はんぶんだって、やらない。 …。 …。 ……ナディ。 …なに。 おとなげ、ない…? …なんとでも、言え。 …。 …。 ……ベッド。 …。 …に、行こう? あそこにはロントがいる…。 …けど。 声が、聞けない…。 ……あ。 …声が、聞きたい。 …。 聞きたい……。 ん…ぁ…。 エリス…。 ……しょうがないひと。 …。 …ん? ……そういう言い回し…。 ん…。 ……まぁ、いいや。 もう…。 ……ん。 −Alle Welt. ………。 ………。 ……ここ、は。 ………。 …真っ暗。 ナディ。 …エリス。 ナディ。 エリス。 ナディ。 …? ナディ…。 エリス…! …ナディ。 エリス、エリス…! ……ィ。 エリス…!! ……。 あ…。 ……。 エリスーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!! 呼んでももう、届かない。 …。 やがて、お前の中から消えてゆくだろう。 …誰よ、あんた。 本当に居たのかさえ。 誰だって聞いてるのよ! 忘れてしまうのだ。 答えなさいよ。 …そして、変わる事は無い。 こっちの質問に、 お前の世界は、ちっぽけで歪んだ世界は。 は…? …。 …殺されたいの、あんた。 何も、変わらない。 黙れ。 変わりやしない。 黙れって言ってるの。 所詮、お前には変えられない。 ……。 変えられや、しないのだ。 ……遺言があったら。 お前は独りから、逃れられない。 温かな手など、掴めない。 掴んだところで、それは偽りだ。 お前は独り。 エリスなど、初めから居なかったのだ。 …どうぞ。 バァン…!! ……。 ……。 …そうやって、生きてきた。 …。 お前の手は、血塗れだ。 もう、落ちやしない。 …そうよ。 お前の手は何も掴めない。 …それでも。 変わらない。 ……それでも! お前の世界は。 それでも、エリスは…!!! ……。 ……。 “ナディ”。 ……。 目を、覚ませ。 ……い。 お前には何も無い。 ……さい。 お前には誰も居ない。 …るさい。 お前には、魔女さえも。 うるさい。 お前の世界は、何も、変わら うるさい…ッ!! ……。 …ここ、は。 ……。 どこ…だっけ。 ……。 あたしは……。 ……。 ……くらい。 ……。 なにも、ない…。 ……。 ちがう、あたしには……。 ……。 ……だれか、が。 ……。 だれ…だっけ…。 ……。 …あたしにはなにも、ない。 ……。 …いやだ。 ……。 いやだ、いやだ……。 ……。 ……くるしい。 ……ィ。 ……? ……で。 ……だれ。 ……し、を。 だれ……。 ……んで。 ……。 …ディ。 ……ス。 ……と。 ……。 …ディ。 ………リス。 ……。 ……あ。 ……ナディ。 あれ、は……。 ナディ…。 ひかり……。 …ナディ。 あれは…。 ナディ……。 あたしの、 『せかい』 ………。 ナディ…! ……。 ナディ、ナディ…。 ……エリ、ス。 ナディ……。 …くるし、い。 ……。 …なんて顔、してんのよ。 ……。 ……。 ……。 …エリス。 ……。 エリス……。 ……ナディ。 …。 ナディ……。 ……世界は。 え…。 ……結局、変わらないかも知れない。 …ナディ? それでも。 ……あ。 あたしは、あんたと…生きる。 ナディ。 エリス。 ……。 ……。 …ナディ。 ん…。 ……。 …どうした? ううん…。 …そ。 ……。 ……。 ……やっぱり、変わらない? …それでも、構わない。 …。 …。 変わらなくても……。 …あたし達は、此処に居る。 ナディ……。 …二人の世界は、それだけで十分なのだから。 −El juego del escondite. エリス、戻ったよ。 ……。 エリス? いないの? ……。 エリス。 ……。 …エリス。 ……えへへ。 ベッドのすみっこでなにやってんの。 いるなら返事、して欲しかったんだけど。 みつかっちゃった。 そもそも、隠れてないでしょうが。 ……。 …なに。 ……みつかっちゃった。 …そりゃあね。 ……。 なに。 ……みつかっちゃったの。 それは分かったって。 …。 まぁ、いいけど。 エリス、とりあえず食料は… …。 ……なんだっての。 ……。 …だから、なに。 ……。 エリ、わ。 ……。 …なに、エリス。 ……かくれんぼ。 え? ……ナディが、おに。 あたしが…つか、かくれんぼって。 …。 …してたの? ……。 だから、ついてこなかったとか? ……。 …あー。 ……。 …エリス。 ……なぁに。 見つけた。 …。 …見つけた。 ……みつかっちゃった。 つかこの部屋、かくれんぼ出来るほど広くないけどね…。 …。 …でもなんでかくれんぼ? …? いや、あたしが聞いてるんだって。 …したかったから。 あーそう…。 ……でも。 うん? …ひとりでまってるの、やっぱりいや。 …。 ……おかえりなさい、ナディ。 ただいま、エリス…。 …ナディ。 何もなかった? …なにもって? 変なヤツが来たり…とか。 …なかったよ。 なら、いいけど…。 …かぎ、あるよ? そうだけど。 …。 …一人にさせておくの、やっぱりいやだ。 ……。 …かくれんぼ、なんて。 ナディ。 …うん? いっしょがいい。 …。 ……いい。 …だったら。 ん……。 …残るなんて、言うな。 ……。 …言うな。 ……もう。 …。 いわない…。 ……。 …いわない。 ……うん。 でも。 …うん? ……。 エリス…? …また、したい。 かくれんぼを…? …ナディが、おに。 エリスは? …ナディは、わたしをさがしてくれたから。 それだけであたしはずっと鬼役かい。 …そう。 なんてこった。 ナディはエリスをさがすの。 …まぁ、いいけどさ。 ん、ナディ…。 ……絶対、見つけるから。 …。 …絶対に。 ……うん、みつけて。 ・ ただいまー。 ……。 エリス、お腹へったー。 ……。 エリスー? ……。 ……。 ……。 …しょーがないヤツだ。 ……。 エリス。 ……。 エリス。 ……。 ……。 ……。 …エリス、ただいま。 ……。 ただいま。 …おかえりなさい。 見つけた。 …見つかっちゃった。 寝てたの? …ううん、隠れてたの。 隠れてた、ね。 ……ナディの匂いの中に。 …。 ……落ち着くんだよ? それは良いけど…恥ずかしいから。 ……。 ポンチョ、引っ張り出して。 …えへへ。 本当は寝てたでしょ? …寝てないよ? ふぅん? ……少しだけ。 …。 ん…。 …体調は? 今日は平気…。 …気持ち悪くない? うん…。 お腹は…? …大丈夫。 寝るなら、暖かくしてないと駄目よ…? ん……。 ……良し。 …ナディ。 うん? …見つけて、くれた。 あたしは鬼役だからね。 …。 …いつだって、どんな時だって、見つけるわよ。 ふふ…。 …笑って。 ナディ、お腹へった? ……。 ん…? …そうだった。 エリス、お腹へった。 じゃあ、ごはんにする? する。 …私より、先? ……。 …冗談。 ……あんたはごはんの後で、ゆっくりと。 ……。 …ゆっくりの方が、良いでしょ? ……うん。 だからってナニするわけじゃないんだけど…。 …。 …一緒にお風呂、入ろっか? うん…。 ……。 …耳、赤いね。 人のコト、言えるかぁ…。 ……ん。 ・ ロント。 …。 ロント。 …あ。 また、そんなトコにいて。 みつかった。 遠くからでも、その赤い髪は良く見える。 むー。 ただいま。 さ、下りておいで。 ……。 帰るよ。 …いえっさ。 て。 わーーー。 こらこらこらこら。 ……おかえり? 飛び下りるな、莫迦。 …? なんで? なんで、じゃない。 と言うか、何回言ったら分かるんだ。 へいきだよ? でも、駄目。 あと、ほいほい飛ぶな。 えー…。 えー、じゃない。 他の人が見たら驚くから。 なんで? なんでも。 兎に角、木に登りたいならよじ登れ。 ナディみたいに? …そう、あたしみたいに。 めんど、あぅ。 面倒とか、言うな。 ……うーーー。 あんたぐらいのうちから言うものじゃない ……。 エリスは? …ないしょ。 内緒? ……。 じゃあ、昼間は体調良さそうだった? それもないしょ。 あ? ……。 …まぁ、良いや。 ……わ。 さ、帰るよ。 ……。 返事、は? …えへへ。 …。 かたぐるま、かたぐるま。 …まぁ、良いか。 ただいま、エリス。 ただいまー。 ……。 エリスー? ……。 …なるほど。 内緒、ね。 ないしょ、ないしょ。 しょーがないなぁ。 あ。 …と。 やーだー。 …ロント。 やーーだーー。 …分かったから、髪の毛引っ張るな。 いえっさ? はいはい、いえっさいえっさ。 いえっさはいっかい。 いえっさ。 よろしい。 …あーもう。 えへへ。 ……。 んー…。 あ。 あ? …なんでもない。 あ、そ。 …あ。 何でも無いんじゃなかったの? ……なんでもないよ? あーそうかい。 たこたこたーこす、おいしーたこすーー。 ……。 …。 いけてるたこすはー ロント。 …わ。 もう、おしまい。 うー。 あんたが降りてくれないと、ごはん、食べられないと思う。 ごはん? そ、ごはん。 食べられなくても良い? やだ。 だったら、降りる。 いえっさ。 …て、こら。 あーー。 たく、あんたって子は。 たまには普通に降ろされろっての。 ナディ。 うん? また、やって。 また、ね。 いつ?いつ? 今度。 こんどっていつ? 今度は今度。 ナディのこんど、わからないってエリスがいってた。 …へぇ。 ねぇねぇ。 じゃあ、明日。 あした? 晴れたら。 やった。 晴れるか、分からないけど? はれるよ。 ぜったい。 だったら、良いけどね。 ロント、先に向こうで待ってて。 はーい。 いつもこう、素直だと良いんだけど。 ……。 …さて。 ……。 エリス。 ……。 …エリス。 ……。 ……エリス。 …。 ……ただいま。 ……。 …こっちは素直じゃない。 ……。 んー……。 ……。 …しょーがない。 ……? …これと。 ……。 …あたし。 どっちが良い…? ……。 ん……? ……ナディ。 聞こえない。 …ナディ。 こもってて、聞こえない。 ……。 …ただいま、エリス。 ……ナディ。 やっと見つけた。 …見つかっちゃった。 つか、見つけてたんだけどね。 素直に出てこないから。 …見つかってなかったから。 力尽く、が良かったの? ……。 …体調は? ……平気。 どれ…。 ……。 …ん、平気そうね。 うん……。 ……。 ん……。 ……ただいま? …おかえりなさい。 ……。 ……見つけて、くれた。 ずっと。 …。 あたしはあんたを見つける鬼だからね。 ……ん。 さ、ごはんにしよう。 あいつも待ってる。 ん…いえっさ。 −Methode, Glück zu finden. この血を、全部流してしまえば。 エリス! この躰は、壊れる。 エリス…! この世界から、私を消す事が出来る。 エリスゥゥ……ッ! 魔女である、私を。 う、うあぁぁぁぁぁ……!!!!! そして、初めて私は。 はぁ……はぁ…、ぐ。 ……。 げ…ぇッ。 ……ィ? ごほ…ッ。 ……。 う………げ、っ。 …ナディ。 ……げぇ…ッ。 ナディ、ナディ…。 ……。 ぁ…。 ……エリ、ス。 ……。 ……ゆるさ、ない。 ぐ……。 かってに、しぬことは……ぅ。 ……。 はぁ、はぁ……。 …ナ、ディ。 どうしても、というなら。 ……。 ……あたしが、ころす。 ……。 このてで、へしおってやる。 ……やって。 ……。 やって、ナディ…。 わたしを、まじょであるわたしを、ころして…。 ……うッ。 …。 …はぁ、はぁ、はぁ。 ごめんね…。 ………。 …くるしめて、ごめんね。 ごめんなさい…。 ……げほッ。 ……。 …エ、リ…ス。 ……それでも、わたしは。 ……。 まじょのわたしなんか、いらない。 ほしいのは… ……。 …あなたの、わたし。 あなただけの、わたし……だから。 ……う、あァぁ。 …まじょになんて、うまれたくなかった。 こんなちから、ほしくなかったよ…ナディ。 あぁぁぁぁ……ァァ…!!!!!! ……もしも、わたしがふつうのおんなのこだったら。 エリス、エリス…ッ!! わたしを、あいしてくれた…? ……! あなたのそばに、ずっといられた…? ばかなこと、いうな…! ……。 あんたは! そのままのあんたであたしのそばにいるの、いるのよ…! …ありがとう。 だから……ッ! ……こんなわたし、を。 あぁ、あぁぁ…! まじょの、わたしを……。 エリス、エリス…ッ! あいしてくれて、ありがとう…。 あぁぁ、エリス、エリス、エリス……ッ!! ……さようなら、ナ 貴女のものに、なれるから。 −Co-Abhängigkeit. その躰を見下ろすたび、思うのだ。 細くて、折れてしまいそうな躰。 膨らみなんてほとんど無い。 幼稚体型のそれとは違う。 栄養不足なのか、それとも発達障害なのか。 或いは、初めからそうなるように造られているのか。 けれど、その顔はとても綺麗で。 子供っぽいのに、それでいて、どこか艶かしくて。 いつか。 花のようだ、と。 らしくなく、思った。 …ナディ。 ……。 どうしたの…。 ……。 …さわって。 ……エリス。 浮き上がる鎖骨を、人差指の腹でなぞる。 冷たい肌。吐く息がどんなに熱くても。 薄い胸。肋骨が作る幾つかの影。 この子には肉が無い。無駄な、と言うレベルじゃない。 若しかしたら、生きる上で最低限必要な量はこれくらいで良いのかも知れない。 そうするとあたしなんかはまだまだ、重たいだけで無駄な、不必要なものが多くあるわけだ。 おおよそ、女として魅力的とは言い難いこんな躰でも、まだ。 …むだ、じゃないよ。 むだじゃ、ないの…。 いつだかそんな事を薄く笑いながらこの子に話したら、そんな答えが返ってきたっけね。 あたしの躰を小枝のようにか細い指先でなぞりながら。 おまけに。 …ナディは、みりょくてきだから。 これには笑った。 真面目の顔をしてのたまったもんだから、それはもう、おおいに笑わせてもらった。 こんな胸も無ければ、傷だらけで、おまけに背中には大きくて醜い火傷の痕があってさ。 どこをとっても、魅力なんかありゃしないってのに。 こんな躰でも欲情するヤツがいるとしたら、異常な趣味を持ってる野郎か、 穴に突っ込むコトが出来さえすれば満足する野郎ぐらいだろうよ、屹度。 笑わせるな。 笑いの後に残ったのは、静かな怒り。 静かで、けれど、沸々と燃え滾るような怒り。 だからあの夜は、どんなに悲鳴を上げても、何度意識を無くしても、止めてなんかあげなかった。 あ、だめ……。 …触れと言ったくせに。 でも、でも…あ、や……やぁ…。 …黙れ。 あかり、けして…おねがい、けして……ぇ。 人工的な光によって暴かれた躰、骨と皮だけと言っても過言ではない躰。 あたしはこの子がそれを気にしているのを知っている。 あたしに抱かれるようになってからは、特に。 だから明るい所で躰を晒すのを避けたがる、極端に嫌がる。 見られるのが、あたしに見られるのが嫌だと。 泣いて、懇願する。 するくせ、に。 みない、で…。 …他のヤツなら。 や、だ…みないで…みないでぇ。 他のヤツだったら、良いわけだ。 あ、ぅ…。 ねぇ、そうでしょう? 他のヤツだったら、あんたは見せるんだよね。 足、広げてさ。奥まで、さ。 …ちが、う。 そんなこと、いわないで…。 言ってよ。 そしたら、代わりのヤツ、連れてきてあげるから。 やだ…いやぁ…。 ほら…言いなさいよ。 ……ナディ、じゃなきゃ。 …。 いや…いや、なの……。 …見られたく、ないんでしょう。 ……。 あたしに。 全部、見せたくないんでしょう。 ……み、て。 ……。 ナディ、にしか、みせたく、ない……。 …。 ほかの、ひとなんて、いや……。 …嘘吐きには罰を。 あ、あぁぁあ…ッ!! ……。 ひ、ひあ……ぁ、あッ!! …本当。 莫迦な話。 ん、あぁ……。 …。 …ナディ、わたし…。 ……。 わたし、ちゃんとここにいるよね…。 ……。 ねぇ、ナディ……おしえて。 自分の存在を確かめる。 あたしに触れられる事で、この子は自分の存在を肯定する。 忌むべき存在である自分を、あたしに愛されている存在として。 あたしを、利用する。 あ、や……。 …エリス。 ん、あぁぁ…ッ!! ……。 あ……あぁ……。 ……。 ナディ…ナディ…ィ…。 ……。 口の中に広がる、鉄の味。 いつか傷の手当と称して、この子の指から流れる赤を吸った。 思えばその時からあたしは戻れなくなったのかも知れない。 それはあたしと同じ味だった。間違いなく。 そう、同じなのだ。 あたしと。 ねぇ、おいしい…? ……血が? …おいしい? ……そんなわけ、ない。 ……。 ……。 ナディ……。 …。 ナディ、すき……だいすき。 ………。 …だから、もっと。 もっと、わたしを……。 ……エリス。 こんなわたしでも、ひつようとして……。 熱くぬめる、その場所。 今からあたしはそこに押し入る。 押し入って、感じて、溺れて。 人間の一番弱いところを、晒して、重ね合って。 ただひたすら、自分のエゴをぶつけて、確かめ合う行為。 本来ならば、二人の命を分け合う、行為。 あ、う……ッ。 ……はぁ。 ナディ…ナディ…。 …はぁ。 わたしのなか、いるんだよね…。 …。 ねぇ、きもちいい…? ねぇ…。 …エリス。 わたしなんかでも、あなたをきもちよくさせられる…? ……。 …いつか、気付いた事。 それはただの演技だった事。この子にはそれが無い、無かった事。 気付いた切欠は……うまく、言えない。感覚に近いもの、かも知れない。 確実に言える事があるとすれば、ずれ、があったのだ。 微かな、感覚の、ずれ。 あぁ……。 ……エリス。 ね……。 ……。 …ちゃんと、かんじてるから。 ……。 あなたのこと……だから。 あなたのぜんぶ、わたしに……。 …必要の無い感覚だったのか、それとも、失敗だったのか。 何にせよ、不感症の一言で片付けられるものでは無いのだろう。 回数を重ねても、その兆候すら、無いのだから。 それでもこの子には女としての機能がある。 月のそれが、それを証明している。 いや、だからって証明とは言い切れないのかも知れない。 飾り物、或いは。 要は。 楽しめれば、良いだけの話。 ただ、それだけの為に。 仮令、この子には痛みしか無いとしても。 ねぇ、ねぇ……。 …エリス。 きもちいい…きもちいいの、ナディ…。 …。 ねぇ、きもちいい、から……だか、ら! ……。 …だから、もっと、して。 もっと、もっと…。 ……。 ね、ぇ……。 ……。 ナディも、かんじて…。 ……。 ねぇ…わたしを、かんじて。 もっと、かんじて……。 ……あぁ。 あたし達の行為は生を、証を残す為のものじゃない。 確かめ合う事すら、出来ていない。快楽すら、そこには無い。 なんて一方的な求愛なんだろう。なんて滑稽な熱情なのだろう。 何も埋まらない。何も生まれない。この行為に意味なんて、初めから無かった。 何も、何も。 …わたし、は。 ……。 ナディにこうされるために…だかれるために、うまれてきたんだって。 ……。 …そう、おもいたいから。 エリス……。 …いたみでも、いい。 あなたがくれるものなら……。 ……エリス。 なによりも、たいせつなあなた……。 ……。 …すき。 だいすき……。 それでも、あたしは。 あたし達は、続けていくのだろう。 この子が、望む限り。 あたしが、この子を手放せない限り。 ずっと、この無意味な、 −Media naranja. エリス。 ん。 最後の一つ、はんぶんこにしない? うん、する。 よし。 じゃ、 ナディが剥いて? はいはい、いえっさ。 …えへへ。 このみかん、結構美味しかったね。 うん、おいしかった。 ロントもたくさん食べたね。 おかげで思ってたよりも早く、無くなっちゃったけどね。 お腹、壊さなくて良かった。 止めなきゃ、壊してたと思うけど。 くいしんぼ、だから。 全くだ。 ふふ。 はい、エリス。 はんぶん。 ありがとう。 んー……うん、甘い。 うん、甘い。 また、貰えたら貰ってくるよ。 貰えたら、良いね。 どうしても食べたい時は言って。 いっぱいは無理だけど、何個か買ってくるから。 ん、いえっさ。 ……。 …ねぇ、ナディ。 ん…。 食べたことがないもの、いっぱい、食べさせてくれたね。 …いっぱい、でもないけどね。 未だに高いのは食べられないし…。 ううん、いっぱいだよ…。 …。 知らなかったもの、たくさん教えてくれた…。 …エリス。 ね、ナディ。 うん? …半分の、みかん。 …。 ぴったりと重なるのは、たったひとつだけ。 …。 …ナディの、エリスのと重なる? それ、食べる前に言って欲しかったな。 こうなったら、重なるものも重ならない。 …そっか、そうだね。 …。 …ね。 ん…。 …ナディとエリスは。 …。 重なってる…? …。 ぴったり重なってる…? …あんたは、どう思う? …。 ん…? …ナディが、教えて。 …。 教えて、ナディ……。 …どうかな。 …。 でも、そうだったら良いなって思ってる…。 …うん。 …。 …。 …あーあ、無くなっちゃった。 またいつか、食べられるから。 …。 ん、ナディ…。 …重なる、か。 ……。 半分の、オレンジ。 …私達はみかんだね。 みかん、ね…。 ……ナディ。 半分のオレンジ…誰が、考えたんだか。 りんごでも、レモンでも、 みかん、でも…良いのにね。 …。 …良い? 勿論…。 …うん、良かった。 エリス……。 …ん。 ……。 ……みかんの、におい。 あんたも…。 …おなじ、におい? かな…。 …いい、においだね。 そうだね…。 …わるく、ない? うん、悪くない…。 …じゃあ、もっとして? 言われなくても…。 ……ん。 |