−Triangle.





   エリス。


   …。


   ありがと。
   何もなかった?


   …ないよ。


   そ。


   おしごと、あった?


   裏の仕事ならそれなりにあるけどね。


   …。


   やらないって。


   …なら、いい。


   さて、どうするかな。
   やっぱタコタコタコスかな。


   …ナディ。


   んー?


   …。


   …と。


   …。


   んー…。


   …だめ?


   じゃ、ないけどね。


   …。


   でも。


   あ。


   アリス。


   …。


   でしょ、あんた。


   …ちがうよ。


   いや、アリス。


   ちがうっていってるよ。


   エリスはどこ?


   エリスは


   アリス。


   …。


   髪の色、躰、声、同じにしたって分かる。
   前にも言った。


   …わたしはエリスだよ。


   まだ言うか。


   …。


   エリスは?


   …どうして。


   どこ?


   どうして、あんな出来損ないが良いのよ。


   出来損ないって言うな。


   出来損ないは出来損ないじゃない。


   怒るよ。


   怒れば。


   あ、そ。
   じゃ、怒る。


   …。


   エリスは出来損ないなんかじゃない。
   二度と、言うな。


   …。


   アリス、エリスはどこ。


   …なんでよ。


   あの子は相棒だから。


   …。


   あたしの、大事な人だから。


   私だって魔女なのに。


   そんなのはどうでもいい。
   あたしはエリスが必要だから。


   ……。


   そうだ。
   これ、あげる。


   …こんなの。


   甘いの、嫌いならやらない。


   …嫌い。


   そ。
   じゃあ、仕方ない。


   …。


   エリス、エリスー、聞こえてるー?
   聞こえてるなら





   ナディ。





   お、見つけた。


   …ナディ。


   たく、どこ行ってたの。


   …。


   これ、あげる。


   …あめ?


   そう、飴。
   いらない?


   …いる。


   じゃ、もっとこっちにおいで。


   …いえっさ。


   お…。


   …だめ?


   だめなわけない。


   ……ナディ。


   ………。


   アリスは嫌いなのよね。


   ……の。


   あ?


   莫迦じゃないの。
   人間のくせに。


   …ばかじゃないよ。


   エリス。


   ナディは、ばかじゃない。


   莫迦よ。


   ばかじゃない。


   莫迦じゃないの。
   あんたみたいな出来損な


   アリス。


   ……。


   あたしには何言ってもいいけど、エリスの事は赦さない。


   …。


   アリス。


   …あんたなんか。


   だめだよ。


   …。


   ナディはあなたのじゃない。


   は、何言ってんの。
   魔女のくせに恋愛ごっこなんてして。
   くだらない。


   …かんけいないっていってくれたから。


   は、おめでたいわね。
   どこまでいってもあんたは


   アーリース。


   ……。


   たく、どうしてそういう風にしか言えないのかな。


   …離して。


   まぁ、仲良くしろとは言わないけど。


   離せ!


   …と。


   ……。


   どこ行くの。


   …どこだって良いでしょ。


   ま、いいけど。


   ……次はその心臓、貰うから。


   やらない。


   あげない。


   ……。








   やれやれ。
   どうせだからごはんでもって思ってたのに。


   …。


   もう少し、素直になれば


   …ナディ。


   うん?


   …ばか。


   え、なんでよ。


   …しらない。


   なぁに、またやきもち?


   …ちがうよ。


   あ、そ。


   …。


   ま、いいや。
   ところで、エリス。


   ……。


   どこ行ってたの?


   …。


   エリス。


   …。


   …いないと、心配するでしょうが。


   アリスと、はなしてた。


   それは、


   たのしそうに、はなしてた。


   楽しそうに?
   あたしが?


   ……。


   …しょーがないなぁ。
   もう、勝手にどっか行っちゃだめだからね。


   …。


   じゃごはんにしよっか、エリス。


   ……ばか、うすらタコス。








  −El mundo.





   そういえばエリスってさ。


   なに?


   どこまで跳べるの?


   …とべないよ?


   いや、その飛ぶじゃなくてさ?


   …?


   ほら、凄いじゃない?


   なにがすごいの?


   ジャンプ。


   …ジャンプ?


   そうそう。
   どんだけ跳べるんだろうっと思って。


   なんで?


   なんとなく。


   なんとなく?


   そう、なんとなく。


   …。


   言っとくけど、魔女だからとか、そんなコト言ってるわけじゃないわよ。


   でも、ナディはとべない。


   あたしはね。


   …。


   だから、少し羨ましい。


   …うらやましい?


   高く跳べれば、遠くまで見えるじゃない。


   …。


   あれかな。
   あたしも毎日跳んでたら、跳べるようになるかな。


   …むりだとおもう。


   やってみないと、分かんないわよ。


   じゃあ、やるの?


   やってみようかな。
   今日から。


   きょう?


   よ、と。


   …。


   どれだけ跳べてた?


   …このへん。


   うーん…大体、1メートルってとこかな。


   すごいね。


   そう?


   うん、すごい。


   助走したらもっといけるかな。


   とりみたいだね。


   こらこら、飛んでないって。


   とりだよ?


   おいおい、どんだけだよ。


   …。


   まぁ、あんな風に飛べたらいいと思うけど。


   ナディ。


   あーん?


   みせてあげる。


   みせる?


   …。


   なに。


   じっとしてて。


   え、ちょ、なに…わぁぁ。


   ……。


   て、なにすん…


   …つかまってないと、おちちゃうよ。


   ……何の話だ。
   つか、下ろしなさいって。


   ……。


   いや、マジで待ってって。
   エリ


   ……えい。


   ちょ……ッ!


   ……。


   おおわぁぁあぁ…ッ!


   ……。


   エ、エリ、エリ、ス…ゥあぁッ!!


   ……とり?


   て、言うか…ッ!


   ……。


   お、落ち……うあぁぁ…!!!








   …ナディ。


   ……。


   みえた…?


   ……つか。


   …?


   死ぬかと、思った…。


   ……。


   …おお。


   ……。


   …。


   ……。


   …ありがと、エリス。


   ……どうして?


   見せてくれようとしたから。


   …。


   気持ちが嬉しい。


   …ナディ。


   でも、そっか。
   あれがエリスの見てる世界なんだ。


   …。


   て、ろくすっぽ見えなかったけどね。
   …それどころじゃなかったと言うか。


   …また、


   エリス。


   う。


   ありがと。
   その気持ちだけであたしは嬉しい。


   ……うん。


   ねぇ、エリスさ。


   …なに。


   見せてあげる。


   …?


   あんたの知らない世界。
   ジャンプしたって、見えない世界を。


   わたしの…。


   でも、その前に。
   ウィニャイマルカ、だけどね。


   ……うん。








  −Las Emociones.





   〜〜♪


   …お。


   〜♪


   ……。


   …あ、ナディ。


   ただいま。


   ただいま?


   戻ってきたら、ただいま。


   …。


   隣、いい?


   …うん、いいよ。


   はい、これ。


   …タコタコタコス?


   そ、いつものタコタコタコス。
   ほい、こぼさないようにね。


   …いえっさ。


   …。


   …。


   …ねぇ、エリス。


   ん…。


   さっきの、なんの歌?


   …うた?


   何かな、って。
   ほら、あんたがタコタコタコスじゃない歌を歌ってるの初めて聞いたから。


   ……。


   エリス?


   …しらない。


   は?


   ……。


   知らないって。
   さっきまで歌って…


   …。


   …。


   …わかんない。


   …そ。


   ナディ。


   うん?


   おいしいね。


   まぁ、いつもの味だけどね。


   でも…おいしい。


   …そっか。
   なら、


   ふたりで、たべてるから。


   …え。


   ひとりじゃ、ないから。


   …。


   …だから、おいしいの。


   エリス…。


   …。


   …ま、確かにね。


   ん…。


   ほっぺたについてる。


   …とれた?


   ばっちり。


   …ん。


   …。


   …なに?


   逢った頃に比べたら、少しはおいしそうに食べるようになったなって。


   …いつも、おいしいよ?


   いつも、ね。


   こげたソーセージいがい。


   あー…あれは、ねぇ。


   …。


   …。


   …。


   …ねぇ、エリス。


   うん?


   おいしいね、これ。


   うん、おいしい。


   ふふ、そっか。


   うん、そうだよ。


   あ、ほら、こぼれそうだって。


   …こぼれた。


   あーあ。


   ……。


   おいしそうに食べるようにはなったけど、食べ方はまだまだだなぁ。


   ……こぼれた。


   しょーがない、ほら。


   …?


   交換。


   ……。


   いらないなら、いいけど?


   …。


   いる?


   …うん。


   じゃあ、あげる。


   じゃあ、もらう。


   ここでありがとう、でしょ?


   …そうなの?


   そうなの。


   ふぅん。


   ふぅん、じゃなくて。


   …。


   …ま、いっか。


   …〜♪


   …。


   ん〜…。


   …エリス、それ。


   …どれ?


   その歌。
   さっき言ってたの、つかあんたが歌ってたの。


   ……。


   もっと聞かせてよ。
   いやじゃなかったら、だけど。


   …いいよ。


   やった。


   …うれしいの?
   なんで?


   いいじゃない、そんなの。
   嬉しいものは嬉しいんだから。


   …ふぅん。


   でも、食べ終わってからね。
   またこぼしたら、もったいないから。


   …。


   オーケイ?


   オーケイ、ナディ。








  −Qué te gusta...?





   …ねぇ、エリスさ。


   ……なぁに。


   …。


   …ナディ。


   ……あたしのどこが、好きなの?


   ナディの…?


   …うん。


   …。


   …エリス?


   ナディはどうして、わたしがすきなの…?


   …え。


   どうして…?


   どうしてって…聞いてるのは、あたしなんだけど。


   おしえて。


   ……。


   …まじょなのにっていうと、おこるからいわないね?


   言ってる…。


   …だからもう、いわない。


   ……。


   ん…。


   …柔らかい。


   …やわらかい?


   ふわふわだし。


   …かみのけ?


   髪の毛だけじゃない。


   …。


   …あんたの、全部が。


   ……。


   ……うまく、言えない。


   じょうずじゃなくても、いい。


   …。


   ……。


   ……。


   …ぶきよう?


   ……。


   …おこらないで。


   別に、怒ってない…。


   おこちゃま…?


   …あんたに言われたくない。


   ……すき。


   …。


   そういうところ、も。


   …あたしのどこが、いいんだか。


   しょうきんかせぎだから?


   …帰る家もない、ただの根無し草。


   エリスも。


   …。


   …でも、いまはあるの。
   わたしにも、ナディにも。


   …今だって星の下、なんだけど?


   ……。


   ん、エリス…。


   …ここに。


   …。


   ここに…あるの。


   ……。


   ナディはちがう…?


   ……ああ、そーいうこと。


   ん、そーいうこと…。


   ……。


   ……。


   …エリスは、


   わたし、いったよ?


   ……。


   …ナディは、ナディだから。
   わたしはそれだけで、いい…。


   ……。


   …それだけじゃ、だめなの?


   …。


   たりない…?


   ……だめじゃない。


   ……。


   …だめじゃ、ない。
   けど……。


   ……そういうところも、すき。


   どういうところだ…。


   …あまえんぼ、のところ。
   あまえんぼになると、はなさなくなるの…。


   ……人をお喋りみたいに。


   ……。


   ん、エリス……。


   …ぜんぶ、だいすき。








  −Mi alegría, mi corazón.





   最近、目が合うとキスをするようになった。
   勿論、周りに人がいない時の話だけど。




   …ナディ。


   んー。




   でもって今まさに、キスを終えたばかり。
   場所はいつもどおりの安い宿、の、ベッドの上。
   人の目は当然、ない。
   つか、あったらイヤだ。




   ナディは、うれしい?


   なにがー?




   きっかけはエリス。
   目が合って、笑顔を浮かべたと思ったら、触れるだけのキスをしてきたわけで。
   あっちはちゃっかり目瞑ってたけど、こっちはイキナリだったから目を開けたまま。
   間抜けもいいとこだけど、ほっぺたをほんのり赤くして仕合わせそうに微笑むエリスを見てしまったら文句なんて出てこない。




   わたしと、キスして。


   …あ?




   …やれやれ。
   今回はなんのきっかけを作ろうとしているのかね、こいつは。




   うれしい?


   …。


   うれしくない?


   それは、ないでしょ。


   ないの?


   ないない。


   じゃあ、うれしい?


   …つか、聞く?
   普通。


   きかない?


   と、思うけど。


   でも、ききたい。


   あーそう。


   ナディ。


   …こらこら、寄りかかるなって。


   うれしい?
   うれしくない?


   だから、嬉しくないはないって言ってるでしょーが。


   じゃあ、うれしい?




   少し、考える。
   答えは決まっているけど、たまにはちょっと違う答えを返してやりたい。
   なんというか、ちょっとしたお返しみたいなもんだ。
   いつもやられてばかりだから。




   あんたが嬉しいなら。


   …わたし?


   あたしも、嬉しいかな。


   ……。




   きょとんした表情を浮かべるエリス。
   このカオが実に幼くて拙くて、これが時に棘となって胸をちくちくさせたりもするんだ。
   今も、なお。




   エリスは、嬉しい?


   …。


   ん?




   珍しい、エリスが答えを返してこない。
   と言うより、何かを考えてるそぶり。
   こういう時は決まって、嬉しい、と言う答えが返ってくるハズなんだけど。
   …と言う予測を立てている時点で、結局、いつもと変わらないコトに気付いた。




   …ナディ、は。


   うん。


   わたしがうれしいと、うれしい?


   そう言ったけど?


   …。


   …エリス?




   きゅうとしがみついてくる、エリス。
   その耳が心なしか、赤くなっているのは気のせい…じゃない。




   …わたしは、ナディがうれしいとうれしい。


   あたしが?


   …うれしいと、うれしい。


   ……。


   ……うれしい。




   エリスはそう言ったきり、黙ってしまった。
   あー…と思いながら、その手は勝手に小さな躰を抱き締めている。
   いつも、こうなんだ。
   いつも、気が付けば躰が先に動いていて、頭がついていってないんだ。




   ……嬉しいと、嬉しい?


   …うん。


   …。


   …ナディ。




   ああ、まずい。
   手が小さな躰を、先ずは背中から、撫で始めている。
   その躰がかすかに震えて、それに反応して、熱を帯び始めて、やっぱりそれにも反応して。
   つまるところ、嬉しくてしょーがないのだ。
   嬉しい、と、嬉しい。
   どっかの青目が言ってたけれど、やっぱりどこか似ているのかもしれない。
   …でも思うに、そーいうもんじゃないのかな、なんて思ったりもするんだ。




   ……あたしは、あんたが嬉しいと嬉しい。


   わたしも…。


   …。


   あ…。




   いつもの安宿。
   簡素な部屋の中。
   ひとつだけのベッドの上。
   エリスとあたし、二人きり。
   目が合った。
   キスをした。
   エリスからされた。




   …。


   …いま。


   …。


   ……うれしい?


   …あんたがそう、思ってくれるなら。


   ……。


   …あたしは、嬉しい。


   ……うれしい。


   …。


   ナディがうれしいのなら…。




   今、また目が合う。
   とても、とても近い距離で。
   今度はあたしからキスをする。
   何度も、何度でも、角度を変えて、深く、深く。




   …エリス。


   ナディ……あ。


   エリス……。


   ……ナディ。





   最近、目が合うとキスをするようになった。
   きっかけは、いつだってエリス。そう、いつだって。
   だけど、その先は。




   ……。


   ……ぁ。




   いつだって。








  −Magia del amor.





   …ねぇ、エリス。


   …なぁに。


   朝、なんだけど。


   …しってるよ?


   ああ、そう。


   …あかるいね。


   まぁ、朝だし。


   …ん。


   …。


   …。


   …起きたいんだけど。


   どうして?


   朝だから。


   …あさはおきないといけないの?


   いけないって言うか。
   今までもそうしてきたでしょーが。
   でもって、これからも。


   …。


   天気は、いい。
   申し分、なし。
   と、なると。


   …なると?


   さっさと出発。


   …。


   だから、エリス。


   …どけっていえば。


   あ…?


   どけって、いってくれるなら。
   どけるよ。


   …言ってくれるってね。


   いって?


   …。


   …いって?


   どけ、なんて言えるかい。


   …どうして?


   …。


   …。


   …そもそも、これはイヤじゃない。


   そうだったの?


   …あのねぇ。
   そうだったら、さっさと退かしてるわよ。


   …そう、なんだ。


   だから、困ってんのよ。


   …どうしてこまるの?


   さっさと出発したい。


   ……。


   …けど。


   ……けど?


   …。


   …つづき。


   ……なぞるな、くすぐったい。


   つづき…はやく。


   …こうしてたい、ってのもあるのよ。


   じゃあ、してよう?


   …。


   ……。


   …エリス。


   うそ。


   …あ?


   ナディはたびしてないと、しんじゃうから。


   死ぬかい。


   …しんじゃうよ。


   あのね、エリ…うぉ。


   …。


   …エリ、


   めが。


   …。


   しんじゃうの。


   …あー。


   …。


   ……で。
   そんなあたしは嫌だと。


   いや…じゃない、けど。


   けど?


   …。


   けど、なに。


   …どんなナディもすき、だけど。


   だけど?


   …。


   …。


   …。


   …ああ、もういいや。


   …おきる?


   うん。


   …わかった。


   …。


   …?


   ……エリス。


   …なぁに。


   あんたとこうしてるの……好き、だから。


   …。


   …なに。


   ……まっか。


   やかましいわ。


   …ふふ。


   ……服着て、ごはんに行こ。


   ナディ。


   あー…?


   …まほう、かけてもいい?


   魔法?
   て、なんの。


   ナディがずっと…。


   …ん。


   …ずっと、わたしだけをすきでいるように。


   …。


   ……いて、くれるように。


   …あのな。


   …。


   …もう、とっくにかかってるでしょうが。


   ……もっと。


   これ以上かい…。


   …えいえんに、とけないように。


   …。


   まいあさ、かけてるんだよ?


   …毎朝、ね。
   そりゃ、とけないハズだわ…。


   …ほんとうはよるにも。


   て、おい。
   どんだけかけるつもりだ。


   ……えへへ。


   つか。


   …?


   …そんな魔法、わざわざかけなくても。
   ずっと好きに決まってるでしょうが。


   …。


   …ばーか。


   …。


   …。


   ……まっか。


   …あんたもね。








  −Un día llano





   エリス、手ぇ出して。


   手?


   そう、手。


   …。


   ほら、早く。


   ナディ。


   うん?


   後にあるの、なに?


   …。


   ん?


   …エリスさぁ。


   なぁに?


   それは言うなって、何度言えば。


   ナディは分かりやすい?


   悪かったな。


   悪くないよ。


   兎に角、素直に手出してくれれば良いんだって。
   ほら。


   …どうしようかな。


   なんだとぅ。


   ナディがそう言うの、決まってオミヤゲがある時だけだから。


   …。


   んー…。


   …たまには素直に出してくれても良いと思うんだけど。


   ナディは。


   …。


   私が喜ぶ顔、見たいんだよね?


   …言うな、恥ずかしい。


   ふふ。


   ……エリス。


   なぁに、ナディ。


   …。


   出したよ?


   …初めからそうやって出してくれれば良いのに。


   困らせたいの。


   …あ?


   大好きなナディを。


   ……意味分かんないっつの、もう。


   それで、なぁに?


   …あーもう。
   なんだかなぁ…。


   ん…?


   …まぁ、いっか。
   はい。


   ……花?


   好きでしょ、その花。


   ……。


   たまたま、ね。


   たまたま、なの?


   そ、たまたま目に入っただけ。


   …ふふ。
   じゃあ、そういう事にしておくね。


   …。


   ね?


   …しておいて。


   いえっさ。


   …。


   きれい…。


   一本だけだけどね。


   ううん、そんなの関係ないよ。


   …。


   …関係、ない。


   …なら、良いけど。


   …。


   …。


   …。


   …あー、エリス。


   花言葉。


   …あ?


   ナディ、知ってる?


   …。


   知らないんだ。


   …知ってるわよ。
   あれでしょ、花の言葉でしょ。


   そのまんま。


   じゃ、何よ。


   ……あなたの愛は生きています。


   は…?


   この花の言葉。


   …へぇ。


   貴女の愛は…そう。


   お…。


   ここに。


   …。


   ……生きてるよ。


   …。


   …。


   ……あのさ、エリス。


   ん…?


   …それは、


   やきもち。


   は?


   …今はもう、貴女だけなのにね。


   あんただけには言われたくないんだけど。


   ナディ。


   …。


   ……貴女の愛は。


   …。


   …ずっと、ここで生きていく。
   他の誰のでもない…。


   ……。


   ずっと、ずっと…私の中で。
   生きていくの。


   …。


   ……ずっと。


   …うん。


   …。


   …。


   ……ナディ。


   …なに。


   ナディの中にも


   …生きてるわよ、当たり前でしょ。


   …。


   …。


   ……うん。





   なー。





   …と。


   なー、あーー。


   ただいま、ロント。
   今日はあんたには…て、ロント。


   あーー。


   エリス、ロントが。


   …ん、掴まってだけど。


   ……。


   なーー。


   …そっか。
   そっか。


   …嬉しくない?


   いや、嬉しい。
   嬉しいに決まってる。


   良かった。


   そっか、ロントが!


   …うん。


   エリス!


   わ…。


   早く教えてくれれば良かったのに。


   …ふふ。


   そのうち、歩き出すかな。


   気が早い…。


   だって、立ってるし。


   …掴まって、なのにね。


   ……。


   嬉しい…?


   うん、嬉しい。


   …ねぇ、ナディ。


   うん?


   お花、潰れちゃう。


   と。


   下ろして?


   いえっさ。


   ね、今度はロント、抱っこしてあげて?


   でも折角、立ってるのに。


   お願い。


   …ん、いえっさ。


   …。


   エリス、どこ行くの?


   お花。


   …?


   萎れてしまわないように。


   …ああ。


   ロントに、見せてあげるの。


   うん。


   …。


   ロント、さぁおいで。


   ねぇ、ナディ。


   ん?


   今日は何の日か、覚えてる?


   今日?


   そう、今日。


   んー……。


   覚えてない?


   …生憎。
   日付感覚が薄いもので。


   ふふ。


   で、なんの日?
   ロントが立った日とか?


   …。


   エリス?


   ……内緒。


   は?


   ふふ。


   て、エリス。


   今は、内緒。


   今って。


   …また、後で。


   ……。


   …ベッドの中で、躰に聞いて?


   は……。


   …冗談。


   ……望むところ、だ。


   …。


   意外そうな顔、して。


   …ううん、嬉しいの。


   ……。


   ……。


   …ちゃんと、聞き出すから。


   ……いえっさ。








  −Yerba Mate.





   …これ、なに?


   マテ茶。
   飲んだこと、ない?


   …。


   ばあちゃんのとこで、飲まなかった?


   …のんでない。


   そっか。
   ばあちゃんはコカ茶かな。


   …コカ?


   ああ、コカ茶も知らないか。
   ま、北ではあんまり飲まないだろうし。


   …。


   一般的にはマテ・デ・コカって言うらしいんだけど、あたしはそれもひっくるめてマテって呼んでる。
   けど場所によってはマテと言えばこのマテ茶…イェルバ・マテのことで、コカ茶とは違うものなのよ。


   …。


   ちなみにこれはいわゆるマテ茶のほう。
   最近では飲むサラダなんて言われてるみたいかな。
   コカ茶じゃないわよ。


   …これ。


   ん?


   のむの?


   そう、飲むの。


   …。


   はい、エリスの分。
   このストローみたいの…ボンビーリャって言うんだけど、これで飲むのよ。
   そのまま飲むと葉っぱも口ん中に入っちゃうから。


   …いらない。


   そう言うなって。


   …。


   そんなにクセないから。


   クセ?


   味の。


   …。


   まぁ、そのうち慣れる。


   …クセ、ないんでしょ。


   でも慣れないうちは、ちょっと渋いかもしれないから。


   …じゃあ、いらない。


   おいおい。


   …。


   こんな旅ばかりしてるとね、野菜不足になりやすいのよ。


   …いいよ。


   だーめ。


   …。


   つかあんた、野菜きらい?


   …ううん。


   そ。
   じゃ、飲んどけ。
   体もあったまるから。


   ……。


   おいしいわよ?


   …しぶいっていった。


   慣れればおいしい。
   はい。


   ……。


   熱いから、気をつけてね。


   …あつい。


   だから、熱いって。


   …。


   …。


   …。


   …どう?


   …どうって?


   味。


   …。


   飲めそう?


   …のんでるよ。


   いや、それはそうなんだけど…。


   …。


   …無表情すぎて読めないし。


   …。


   ま、いいや。


   …ナディはのまないの。


   ボンビーリャ、それしかないのよ。


   …。


   だからあんたが飲み終わったら…?


   あつい…。


   …ま、ゆっくり飲みなさい。


   …。


   …。


   …。


   …そういや、さ。


   ……。


   これをよく飲むとこの話なんだけどね。
   マテ茶にコーヒーを入れると「仲直りしよう」って意味になるんだって。


   …なかなおり?


   そう、仲直り。


   ……ふぅん。


   …。


   …。


   …あとさ。


   ナディ。


   うん、なに?


   おいしいの?


   へ?


   いれて。


   …まぁ、あんまりおいしくはないんじゃないかな。


   のんだこと、ないの?


   うん。
   でも、おいしくなさそうじゃない?


   ふぅん…。


   …。


   …。


   ……え、と。


   あと、なに。


   え?


   あと。


   ああ。
   気になる?


   …。


   ん?


   ……。


   ……。


   ………。


   ……はちみつを入れるってのもあるんだって。


   はちみつ?


   そう、はちみつ。


   …どんないみなの?


   気にな


   …。


   …。


   …。


   ……プロポーズ。


   プロポーズ?


   そう、プロポーズ。
   はちみつ入りのマテ茶を女から男に渡せば、プロポーズしてほしい。
   男から女に渡せば、そのままプロポーズ。
   で、断る時は出涸らしのマテ茶を渡すんだって。
   面白いわよね。


   …へんなの。


   …。


   …。


   ……まぁ、いいけどさ。


   …。


   …。


   …ねぇ、エリス。


   …なに。


   おいしいと思う?


   …?


   これに、はちみつ。


   …。


   もし、このままで飲みづらいなら…


   …でがらし。


   …。


   …。


   …誰があんたにプロポーズなんかするかい。
   あたしはただ、飲みやすいほうがいいかなって…。


   …。


   …別にいいけどさ。


   …。


   飲み終わったら言って。


   ……いえっさ。








  −Dos huevos.





   あんたの肌、は。


   …ん?


   ほんと、焼けないわよね。


   …ソーセージ?


   いや、その焼けるじゃなくて。


   …。


   日焼けの話。
   こんだけ太陽の下にいるのに、全然、だもんなぁ。


   ナディは、やけたの?


   あたしは…元々、こんなもんだから。
   ま、幾らかは焼けてるけど。


   そうなんだ。


   そ。


   ん…。


   おまけにすべすべだし。


   …うぅ。


   お、と。


   …くすぐったい。


   ごめん、ごめん。


   …。


   荒れないのは、正直、羨ましいなぁ。


   …ナディはあれてるの?


   まぁ…ねぇ。


   …。


   お…。


   …あれてる?


   どう、思う?


   …。


   ……お。


   …。


   …て、エリス。


   ん?


   どこまで触る気だ?


   ぜんぶ。


   全部?


   だめ?


   顔だけにしときなさい。


   …。


   手も、いいから。


   …うー。


   うー、って。


   ナディはさわった。


   おいおい、顔しか触ってないじゃない。


   …さわりたい。


   あ?


   さわらせて。


   て、こらこら。


   うー。


   つか、話が変わってるって。


   はなし?


   肌の話だったでしょうが。


   だから、さわるんだよ?


   いや、なんか違う気がする。


   …。


   あたしは


   じゃあ、さわってもいいよ。


   …あ?


   さわって。


   て、ちょ、なに。


   …。


   つか、どこ触らす気だ。


   …エリス?


   そりゃ、エリスだけど、ってそうじゃなくて。


   …。


   つか、いつから触る触らないの、


   ナディがさわったから。


   ……。


   …わたしに、さわったから。


   …。


   …。


   …えーと。
   よく分からないけど、エリス。


   …。


   ……とりあえず、離してくれない?


   …いやじゃないよ。


   それは、分かったから。


   …。


   その…もう、いいから。


   …。


   …。


   ……。


   ……。


   …ナディ。


   ……なに。


   どうしてそっぽむいてるの?


   …別に。


   …。


   …なんとなく、見られないのよ。


   なんで…?


   …なんとなくって言ってるでしょーが。


   ……いやだった?


   …むしろ、その逆。


   ぎゃく…?


   …ああもう、それ以上言うな。
   それからいいかげん、離して。


   ……。


   …エリス。


   …。


   ……。


   …あ。


   ……あんたが、離さないから。


   …。


   …。


   ……ナディ。


   …なに。


   …せなか、さわってもいい?


   ……好きにすれば。


   …ん。


   ……。


   ……ナディもすきにしていいよ。


   …。


   …。


   …そーいうこと簡単に言うな、ばか。








  −Triangler.





   あ、……あ。


   …はぁ。


   ナディ…ナディ、ナディ…。


   …エリス。


   すき…だいすき……。


   ……。


   あ、ぁ、あっ、あ…!


   ……つぅ。


   あぁ……ぁ……、…っ、……。


   ……エリス。


   …ナ…ディ……。


   ………エリス。








   …………。








   …何、考えてるの。


   …!


   ん?


   …あんたは。


   あたしが?


   ……。


   そんな所にいたら、寒いと思うけど。


   …どこにいようが、


   だからと言って、入れてあげるわけにもいかない。


   …。


   今は眠っている。
   けど、すぐに気が付く。
   もう、戻らないと。


   ……。


   いないと、探すから。
   し、むくれる。


   …だから?
   そんな事、私には関係ない。


   ま、そうだね。


   ……。


   …覗き見は、感心しない。
   し、そもそも、見世物じゃない。


   …は?
   何言ってるの、あんた。


   気付いてないとでも、思った?


   …。


   人を殺しながら、独りで、生きてきたからね。
   深い眠りなんて、あの子を抱くまで忘れてた。


   …だから?


   別に。
   ただ、それだけの話。


   ……。


   顔は似てる…と言うより、元が同じな


   同じじゃない。
   あんな出来損ないなんかと、


   あんたにとっては、そうでも。


   …。


   ……あたしにとっては、そうじゃない。


   ……。


   大体、同じだなんて思ってもいない。


   ……ぅ。


   冷たい。


   …触るな。


   ……。


   私に…触るな。


   …触りたくて、触ってるわけじゃない。


   …ッ!


   ここにいたら、風邪をひく。
   それだけ、言いたかった。


   ……莫迦じゃないの。


   散々、言われてる。
   あの子にも、あんたにも。


   …。


   車に毛布がある。
   それを


   黙れ、人間。
   誰が


   …あ、そ。
   じゃ、もう知らない。


   ……。


   ま、あんたなら。
   どっか、温かい部屋にでも簡単に潜り込めるだろうから。


   …下等な人間なんかと一緒にするな。
   私は風邪なんて、


   そんなのは分からない。


   ……。


   あんたは生きている。


   …っ。


   生きていれば、風邪ぐらいひく。


   黙れ…!








   ナディ。


   エリス。


   ……。


   …エリス。


   どこに、いってたの…。


   …言われると、思った。


   ……わたしを、おいて。


   ……。


   いや……。


   …ごめん、エリス。


   ……。


   …。


   ……どうして、いわないの。


   …。


   おしえてくれな、ん。


   ……ベッドに戻ろう?


   いや…いやぁ。


   エリス。


   ……おしえて。
   ちゃんと、おしえて…。


   …。


   ……。


   アリス。


   …!


   が、わざわざ寒空の下にいてね。


   …だから。


   それだけ。


   ……さわったの。


   …。


   アリスに、さわったの。


   顔に。
   真っ青だったから。


   ……。


   …エリス。


   さわらないで。


   …。


   …わたしに、さわらないで。
   アリスに、さわったてで…さわらないで。


   ……。


   ……も、う。


   …分かった。


   …!


   ……けど、聞かない。


   あ、やだ…。


   触りたいから。
   触りたいのは、いつだって。


   ……おろして。


   …冷たくなってる。


   ナディ、だって…。


   ……。


   ……ばか。


   …。


   ばか……ば、ん…。


   ……続きは、ベッドで聞いてあげる。


   …ばか。


   ……さぁ、行こっか?


   ……ナディの、ばかぁ。








   …………。








   はぁ……。


   …や、……ぁ、…あ。


   ……。


   ……も、ぅ……。


   ……エリス。


   …っ、あぁぁぁ…ッ。


   …。


   ……、ない、で。


   …。


   …わた、し…いが、いの…ひと、に…ッ!


   …エリス。


   さわらな、いで……さわらないで。


   ………。


   やさしく、しない…ぁ。


   ……


   …や、…それ、だめぇ…んん!


   ……。


   ……は、…ナ、ディ…ッ!


   ……てる。


   ぁ……。


   ………愛してる。


   ナ、んっ…!


   ……。


   ん、んん…っ、んーー…ッ!!


   ……エリス。


   …ィ、…ディ。


   ……。


   あ、ああ゛ぁァぁ…!!


   ……くぅ。


   ・・・っ、・・・ァ・・・っ・・・…ぁ…………。


   ……壊してやりたいなんて、思うくらいに。