血統,、なのかもしれない。
    エル・カザドの、さ。








    今日のお昼はわたしが作るよ、エリス。


    ロント。


    だめかな、ナディ。


    駄目じゃないけど。


    ナディはエリスのごはんが大好きだから、不満なのは分かるけど。


    不満ではない。


    本当かな。


    子供が自分達の為に作ってくれるのに、不満に思う親なんかいるかい。


    わ。


    楽しみにしてるから。


    いえっさ。


    ロント、任せちゃっても良い?


    うん、任せて。


    そうだ、ロント。


    うん?


    今日、お昼食べたら町に行くから。
    あんたもおいで。


    町に?


    そ。


    エリスも行くの?


    ん。


    そっか。
    わたしは良いよ。


    どうして、ロント。
    一緒に行こう?


    ナディと二人、デートしてきなよ。
    エリス。


    デートだなんて。
    町には


    物々交換、しに行くだけなんだけど。


    たまには良いと思うよ。
    町でデート、するのも。


    て、言われてもなぁ。


    …。


    エリスに何か買ってあげなよ、ナディ。
    たまにはさ。


    たまには、ね。


    私は


    エリスはいらないかもしれないけど。
    でも、ナディがもしも何かくれたら嬉しいでしょう?


    …嬉しい、嬉しいけど。


    わたしは畑、やってるよ。
    クイも見てなきゃ。


    でもロント、一人で


    私は一人でも大丈夫だよ。


    でも


    エリス。


    …ナディ。


    年頃ってやつなのかもね。


    …そんな。
    だってロントはまだ


    もう十二、だよ。
    エリス。


    …。


    わたしはもう、大丈夫。
    ナディ。


    ん?


    ナディはもっと前から一人だったんでしょう?


    …まぁ、ね。


    わたしはナディの子供だから。


    ……。


    むしろ、遅いくらいだと思うんだ。


    …ロンティタ。


    あたしの場合、好きで一人になったわけじゃないけど。
    まぁ、良いや。


    …ナディ。


    ロント、じゃあお土産は何が良い?


    お土産?


    そ、お土産。


    じゃあ…あったら桃が食べたい。


    無かったら?


    そしたら、ルクマが良いな。


    ルクマ、ね。
    分かった。


    ありがとう、ナディ。


    …。


    ありがとう、エリス。


    …おみやげ。


    ん。


    必ず、持って帰ってくるね。


    うん、ありがとう。
    楽しみにしてるね。


    …あの人の分も、きっと。


    ……。


    うん?
    二人とも、どした?


    …なんでもない。


    なんでもないよ、ナディ。


    そ?
    じゃ、まずは朝ごはんを食べようか。
    今日はそれからだ。


    …いえっさ、ナディ。


    いえっさ、ナディ。








    お、なかなか美味しそうだ。


    本当に?


    本当に。
    エリスの教え方が良いんだな。


    だってエリスだもの。


    あはは。


    …もう。


    じゃ、食べよっか。


    うん、みんなで食べよう。


    …わたしは。


    ん?
    どした?


    ……。


    …行くの、ロント。


    …。


    行くんだね。


    …うん。


    だから今日のお昼…


    エリス。


    …ナディ。


    ロント。


    …。


    お茶くらい、あった方が良いと思うよ。


    …あ。


    素直じゃないのは、魔女特有のものかもしれないけど。
    でも、それは裏返しだから。


    …かな。


    ……。


    エリス、食べよう。
    折角、ロントが作ってくれたんだから。


    …。


    それとも、なに?
    あたしと二人じゃ嫌だって?


    …意地悪。


    はは。
    じゃ、ロント。


    うん。


    ロント…。


    行ってきます、エリス。


    …うん、行ってらっしゃい。








    アリス。


    …。


    アリス。


    …。


    アリ


    しつこい。


    アリス。


    …。


    ごはん、一緒に食べよう。
    近くにいるんでしょう?


    …。


    お弁当、作ってきたんだ。


    …相変わらず、おめでたいわね。


    畑仕事が一段落ついて、今は休憩時間なんだ。


    聞いてないわよ。


    ナディとエリスにも作ったんだよ。
    だから、同じものなんだけど。


    …。


    じゃがいもとチーズ、それから添え物にそらまめ。
    簡単なのしかまだ作れないけど、二人はおいしいって言ってくれて嬉しい。


    …どうでも良いわね。


    休憩時間が終わったらナディはエリスを連れて物々交換しに町へ行くから、午後からはわたし一人で畑をやるよ。


    …だから?


    アリス、姿を見せて欲しい。


    …。


    ナディはいない。
    エリスも。


    …なんでよ。


    見たいから。


    …。


    声だけじゃ足りない。
    会いたい。


    ……あんたさ。


    うん。


    どうして私に拘るわけ?


    好きだから。


    …莫迦じゃないの。


    そういうもの、だから。


    ……。


    アリス、一緒に食べよう。


    …あいつらと食べれば良いでしょ。


    ……。


    ……。


    …エリスは少し困ったような顔して笑うんだ。


    私なんかと関わるからよ。
    あいつは私が憎いから。


    …違うよ。


    違わない。
    私もあいつが憎いから。


    …。


    …全てを手に入れて。
    憎くて、仕方が無いわ。


    全てなんか


    あんたも憎い。
    あいつの血が混じったあんたなんか。


    …。


    …。


    ナディは…ああいう人だから。
    放任じゃなくて、多分、信頼してくれてるんだと思うんだけど。


    …本当、どうでも良い事ばかり喋る。


    …。


    …。


    …アリスと食べたいんだ。


    …。


    会いたい。


    ……。


    アリス、わたしは


    一緒にしないで。


    …。


    人間の血が混ざったあんたなんかと。


    …。


    あんたにとってはどうでも良くても。
    私には違うのよ。


    …。


    汚い。


    ……。


    …さっさと、戻りなさい。
    私なんかと


    でも、アリスは応えてくれるから。


    …。


    …だから、諦める事なんて出来ない。


    ……。


    …ここで、食べる。
    戻らない。


    ……人間って本当、うざい生き物だわ。








    ……。


    ……。


    話はこれでお仕舞い。
    じゃ、畑に行こっか。


    ……。


    …ロント。


    ロント、行くよ。
    エリスも今日は


    ナディ。


    ん?


    話してくれて、ありがとう。


    どういたしまして。


    エリスも、ありがとう。


    …ううん。


    わたしは、ナディとエリスの子供でいいんだよね。


    勿論。
    大体あたしが子供が欲しいからって、他のヤツにエリスを任せると思う?


    思わない。


    なら、良し。


    わたしはエリスから生まれてきた。
    そうでしょう、エリス。


    …うん、そうだよ。
    貴女は私のお腹に宿って、そして、生まれてきてくれた。


    わたしの為にエリスは…魔女の力を使って、ナディの躰を変えた。
    人ではない、ものに。


    …人ではないもの、ね。
    だとしても、ロント。


    ん。


    あたしは何も変わってない。
    ねぇ、エリス。


    …。


    あたしは、誰?


    …ナディは、ナディだよ。


    で?


    …私はそれだけで、いいから。


    ロント、オーケイ?


    …うん、オーケイ。


    ナディのばか…。


    だって大事な事だから。


    …もう。


    ナディの右腕はその時の後遺症なんだよね。


    まぁ、ね。
    でも、なんて事無い。


    うん、知ってるよ。
    ナディは、いつだってそうだった。


    いつだって?


    ナディ。


    うん?


    わたしには…わたしの中にも、魔女の力があります。


    それはトランプの絵柄を変える、とか?


    ううん。
    わたしの中にある魔女の力は…過去を、伝え見るものです。


    過去を、ね。


    驚かないんだね。


    だってあたし達の子供だから。
    ねぇ、エリス。


    …。


    躰の自由がきかなくなった時だって。
    ナディはエリスを一度だって責めたこと、なかった。


    理由、無いから。


    それどころか、右腕一本くらいなら安いものだって。
    いつも笑ってた、エリスの大好きな笑顔で。


    ……。


    だからエリスの中はナディへの想いでいつも、溢れてる。
    エリスの中はナディへの想いで、いつも満ちてる。
    他の誰かが入る余地なんて、ないんだ。


    …参ったなぁ。


    ……。


    流石にちょっと、照れ臭いんだけど。


    ……。


    ごめんなさい。
    勝手に見てしまって…。


    ま、あたしは別に良いけどね。


    …。


    エリスは良くないかもね?


    …ばか、言わないで。


    ごめんなさい、エリス。


    …ううん。
    本当の


    事、だから?


    …ナディは黙ってて。


    いえっさ。


    ありがとう、ナディ、エリス。
    生物の理を壊してまで…


    …。


    …。


    わたしを、うんでくれて。
    わたしを、のぞんでくれて。


    ロント。


    …ロンティタ。


    だから、エリス。


    ……。


    この力はエリスがわたしにくれたもの、大切なもの。
    忌むものじゃない。一度だってそんなこと、思ったことない。


    でも私は…わたし、は…。


    …知ってるよ。
    でも、それでも、わたしには大切なものだから。
    それは変わらないから。


    ああ、ロント…。


    ナディ。


    …ん。


    ナディがわたしに赤い髪を、褐色の肌を、くれた。
    わたしにナディの血をひいてる証をくれた。


    そんな大層なもんじゃないけど。


    でもこの瞳の青はエリスから。
    そうでしょう?


    …う、ん。


    わたしは、エル・カザドと魔女の子供。
    わたしは、二人の子供に生まれてよかった。


    エル・カザド?


    だから、わたしも…ナディに言わないと。


    魔女の力なら、聞いたけど?


    わたしは、アリスが好きです。


    …アリス?


    エリスのお腹にいる時から、ずっと。


    て、あのアリス?


    …ナディ。


    エリス、あんたは知ってたの?


    ……ロント、は。


    うん。


    アリスに助けて貰ったの。


    アリスに?
    いつ?


    …本当だったらわたし、ここにはいなかったんだよ。


    いなかった?


    わたしはあの時、本当だったら死んでた。
    失われるはずの命だった。


    ちょっと待った。
    話が見えないんだけど。


    アリスが、自分の命をロントにくれたの。


    アリスが?


    ロントが生まれた時、呼吸してなかったのは覚えてる…?


    忘れる筈ない。
    あの時は…て、あの時に?


    …そう。
    私がナディに…命を分けたように。


    アリスが、ロントに?
    でもあの時、アリスは


    いたんだよ、ナディ。


    どこに。


    見えなくても、近くにいたの。
    そう、見えなくてもずっと…。


    んー…。


    …だってアリスはいつも、貴女の事だけを見てたから。


    あたしを?


    ……ナディは鈍感だから。


    あたしはエリスを愛してるから。


    …。


    ロント、あたしの中は見えるの?


    …ううん。
    ナディは、見えない…。


    そっか。


    でも、分かるよ。


    じゃ、どんな?


    いつだって、エリスの事でいっぱい。
    他の人が入り込む余地なんて、ない。


    だってさ、エリス。


    …ばか、うすらタコス。


    で?
    あんたはアリスが好きなの?
    命を貰ったから?


    ううん、それだけじゃない。


    だったら?


    …わたしの中にある魔女の力。
    想いが、過去と一緒に流れてくる力。


    想いが?


    …アリスはいつだって、独りで。
    いつだって、淋しそうだった。
    エリスがナディと心から結ばれた時、アリスは声を殺して泣いてた…。


    アリスが、泣いてた…?


    ……。


    わたしはそんなアリスのそばにいたいと思った。
    ずっと、そばに。


    …それで?


    ナディと同じだよ。


    あたしと?


    ナディがエリスをしあわせにしたいと願ったように。
    アリスをしあわせにしたい。
    して、もらいたい。


    それはアリスじゃなきゃ駄目なの?


    駄目だよ。
    ナディがエリスじゃないと駄目なように、わたしも。


    …そっか。
    あたしと同じ、か。


    ……エル・カザド・デ・ラ・ブルハ。


    エリス?


    …分かってた。
    だって、あなたの子供だから。


    あんたの子供でもあるぞ、と。


    ん…。


    大体、エル・カザドって何?


    ナディの、


    ことだよ。


    あ?
    あたし?


    …そう。


    なんであたし?


    エリスを見つけて、想いを重ねて、結ばれたから。


    だったらエリスは?


    …私は魔女だよ、ナディ。


    む…。


    …魔女、だから。


    んーー…。


    ナディ、エリス。


    ん。


    …。


    ありがとう。
    わたしは二人が大好きです。









    このトマト、少し熟しすぎてない?


    …。


    半分は熟してても良いけど、もう半分はそんなに熟してないのが良いな。
    一度には食べないからさ。


    …。


    ん、ありがと、おばちゃん。
    で、そっちのなんだけど…これ、でどうかな。


    ……。


    お、マジで?
    ありがと!


    ……。


    あと桃なんて、ある?
    数はこれだけ欲しいんだけど…。


    ……。


    あぁ、やっぱ無いか。
    他んとこも?そっか、だよねぇ。
    じゃあルクマは?
    向こうの?


    ……。


    分かった、行ってみるわ。
    ありがと、おばちゃん。


    ……。


    エリス。


    ……。


    エリス。


    …ん。


    欲しいの、無い?


    …もう、良いの?


    あたしは、ね。
    あんたは食べたいの、無かった?


    ん…。


    おばちゃん、もう少し良い?
    ん、ありがと。


    ……。


    ん?


    …これ。


    これ?


    ロントが、好きなものだから。


    ああ、それなら。
    ほら。


    …あ。


    もっと欲しい?


    …ううん、それだけあれば。


    おばちゃん、もう一つ良いかな。
    うん、熟してるので良いや。
    今夜、食べるから。


    ナディ。


    あんたも好きだからね。


    …うん。


    今日の夕ごはんはあたしが作ろう。
    あんたとロントが好きなスープを、ね。


    …ん。


    よし。
    あとルクマと…チーズも欲しいかなぁ。
    ね、エリス。


    …。


    ルクマは向こうの。
    チーズは…


    ……。


    …。


    ……ん。


    エリス。


    …ナディ。


    考え事も、良いけど?


    …。


    二人きり、なんだから。
    もう少し、あたしに心を向けて欲しい。


    ……。


    それともやっぱり、あたしと二人きりじゃ嫌だって?


    …ううん。
    そんなわけ、ない。


    本当に?


    …う、ん。


    じゃあ手、このままで良い?


    うん…。


    オーケイ。


    …ごめんね。


    ほんとだ。


    …。


    ロントばっかり。
    もう少しあたしの事も構って欲しいもんだ。


    …ばか。


    あはは。


    ……。


    エリス、さ。


    …うん。


    欲しいの、何か無い?


    …?


    本、とか。
    服、とか。
    なんでも良いよ。
    折角、町まで来たからさ。


    …ロントが言ったから?


    言われる前から、考えてた。


    …本当?


    本当。


    …ナディは?
    欲しいの、無い?


    あたしは、これと言って。


    …私も、これと言って無いよ。


    言うと思った。


    …。


    じゃ、あたしが勝手に買ってあんたにあげようかな。


    …勝手に?


    あたしの勝手で買う、だから。
    あんたが要らないって言っても、だーめ。


    もし、受け取らなかったら?


    それは考えてない。


    …。


    何が良いかな。


    ん、ナディ…。


    飾るもの…例えば髪とかさ?
    良いかもね。たまには、さ。


    ……。


    何か良いもの、あれば良いけど。


    …ナディ。


    ん?


    …ありがとう。


    それは後で聞きたい。


    …後?


    夜にね。


    …。


    ベッドの…そう、あたしの腕の中で。


    ばか。


    本気なんだけどな。


    そういうこと、外で言わないで。


    恥ずかしい?
    でも、誰も聞いてないけど。


    そういう問題じゃないの。


    それにあたし達より凄いのなんて、山ほど見てきたじゃない?
    ほら、どっかの町の公園でなんかさ、コトに及びかけてるやつらが…


    ナディ。


    あれには困ったねって、話。
    目のやり場にさ。


    ……見てたくせに。


    あんたもね。


    …。


    それに、あたしの場合は目に入ってきただけだし?


    ずるい。


    エリスとしたい、なんて、考えてなかったし。
    少し、しか。


    …うそつき。


    自覚してない頃は少しどころか、思いもしなかったけど。
    してからは結構、大変だったな。
    自分を抑えるのに。


    ……。


    ま、この町ではそういうの、あまり見ないけど。
    いるんだろうけど、あまり来ることないから。


    ……。


    若いからねぇ。
    ま、若くなくても盛んな人はいるし。


    ……。


    ま、こればっかりはしょうがない。


    …ねぇ、ナディ。


    うん?


    ロントも…その、アリスと。


    そういう関係になれば。


    …。


    ならなくても、好きなら。
    触りたいくらいは思ってると思うよ。


    ……。


    …複雑?


    ……。


    エリス。


    …う。


    しょうがない。


    ……。


    聞いた時は、吃驚したけどね。


    …今頃、ロントは。


    アリスは、素直じゃないから。
    時間、かかりそうだ。


    ……。


    それに、うまくいくかも分からない。
    けど。


    …。


    親としては叶えてやりたい、かな。
    ま、どうしようも出来ないけど。


    …ナディ。


    あんたは少し、複雑だろうけど。
    こればかりは、しょうがない。


    ……。


    あたしがあんたを好きになったのは、誰かに言われたからじゃない。
    それはあんたも同じ。
    でしょ?


    ……うん。








    今日は穏やかな日だ。
    これならエリスの躰に負担がかからない。
    だからナディは今日にしたんだろうな。
    いつだって、一緒が良いんだ。
    あの二人は。


    ……。


    わたしが入る余地なんて、あるようで、本当は無いんだ。
    でも、二人は入れてくれた。


    ……。


    桃、無いだろうな。
    ねぇ、アリス。
    桃、食べたことある?


    ……。


    甘くて、おいしいんだよ。
    町に行った時、ナディが交換してくれたんだ。


    ……。


    アリスにも、食べさせてあげたいな。


    ……。


    わたしが、今よりも大きくなったら。
    必ず。


    ……。


    …。


    ……。


    …アリス、どうしても食べてくれないんだね。


    ……。


    ……。


    …そういう顔。


    ん…?


    あいつにそっくりで、虫唾が走る。


    …。


    …ただでさえ、私と同じ顔で気に入らないのに。


    同じじゃないよ。


    …。


    とても似ているとは思うけど…同じじゃない。


    …は。


    ね、アリス。


    …。


    食べよう。
    一緒に。


    ……。


    これが嫌なら、違うの作ってくるから。
    そうだ、アリスは何が好き?
    聞いてなかった。


    ……。


    辛いのは平気?
    甘いの、好き?好きじゃない?


    …同じよ。


    え。


    あいつと、私は、同じ物から造られた。
    だから。


    ……。


    …確かに全く同じでは無いわ。
    だけど、魔女の遺伝子は同じよ。


    ……。


    …あんたは、自分の母親に恋してるようなもの。
    莫迦みたい。


    違う。


    違わないわ。


    違うよ、アリス。


    何も違わないのよ!


    …。


    いい加減にして。
    これ以上、私に関わらないで。


    …。


    …私はもう、消えていくだけの存在なの。


    そんな事ない。


    …。


    そんな悲しい事、言わないで。
    言わないでよ。


    …私はもう。


    アリス。


    形を、成していないわ。
    あるのは…アリスと呼ばれた、その形骸だけ。


    …。


    だからあんたが幾ら私に執着しても、無駄なのよ。


    …。


    分かってたんでしょ、私と言う存在がもう居ない事ぐらい。
    なのに、莫迦みたいね。


    …莫迦でも構わない。


    ……。


    わたしは、エル・カザドの子。
    だから、莫迦で良いんだ。


    …は、何よそれ。
    意味が分からない。


    アリス。


    ……。


    形を成していないと言うのなら、わたしが、形を成してあげる。
    欠片を集めて、アリスの形にしてあげる。


    …無理ね。


    やってみなきゃ、分からない。


    ……。


    ウィニャイ、マルカ。


    …!


    永遠の場所。
    そこへ、行こう。


    …そんなもの、無いわ。
    そう、私には


    ウィニャイマルカは誰にだって、ある。


    …。


    人によって、その形が違うだけで。
    誰にだって、あるんだ。


    …それは。


    だから、アリス。
    一緒に行こう。


    あいつの言葉そのものじゃないの!


    …う。


    誰があいつの言葉なんか、真に受けると思ってるの。
    受け入れるぐらいだったら、今直ぐ消えてやるわ。


    …アリス。


    ……もう、どうでも良いのよ。


    ……。


    こんな惨めな事、無いわ。


    …惨めじゃない。


    惨めよ。
    あんたなんかに、分からない。


    ……。


    …もう、消えさせて。
    もう……良いの。


    嫌だ…!


    ……そう、言って。


    アリス、別れるのは嫌だ。


    あんたは、私を繋ぎ止める…それが、どんなに、私にとって…。


    アリス。


    ……どんな、に。


    アリス。


    ……そんな瞳で見ないで。


    アリス。
    わたしと、一緒に。


    …あいつに似た、瞳で。
    見ないで…!








    あ、あ、あ……。


    …はぁ。
    はぁ……。


    ナディ…ナディ……。


    …はぁ、エリス…エリス……。


    なか、に……。


    …はぁ…はぁ。


    ……ん、あぁぁッ。


    エリ、ス……!


    あ、あ、あぁぁ…ッ。


    はぁ…はぁ、はぁ…はぁ…。


    ……あ、ぁ。


    ……く。





    ………。





    あ……。


    ……ッ。


    ア…あぁんッ。


    エリ……ス…ぅ…ッ!!


    ひぁ、ぁあッ、…ぅ、あぁぁ…っ、…、……。


    ……。


    …ぁ、……ぅ……あ…。


    ……エリ、ス…。


    ナ……ィ……。


    ……エリス…。


    あぁ……、…。


    ……。





    ………。





    ……、



    ……?
    エリ、ス…?


    ……。


    …エリス。


    ……ぅ。


    どこか、…?


    ……。


    エリス……。


    ……。


    ……エリス。








    ………あああああぁぁ…ッ。









    …ッ。


    エリス。


    ……。


    エリス。


    …あ。


    どうした?


    …う、ううん。


    …。


    あ、ナディ…。


    …ロントの事、まだ気にしてる?


    ううん…。


    …なら、良いけど。


    ……。


    贈り物、かぁ。
    改めて考えると、難しいなぁ。


    …ナディ。


    欲しいの、言ってくれたら別なんだけど。


    …私。


    しぃ。


    ……。


    一緒にいるだけで。
    あたしもそうだけど、でも、たまにはさ。


    ……。


    けど、難しいな。


    …ナディ。


    帰ろうか。


    …。


    贈り物は…内緒で用意しておく事にしようかな。


    …ごめんなさい。


    良いって。
    内緒にして、吃驚させてあげる。


    …もう、言っちゃってるよ。


    でも、いつ買ってくるか分からないでしょ?


    ……。


    エリスはあの子のお母さんだから。
    気になるのは


    違うの。
    ロントの事は


    実を言うと、あたしもちょっと気になってさ。


    …。


    アリス、か。


    …しあわせに、なって欲しい。


    …。


    ナディ、そう言ってた…。


    …うん。


    それは、その気持ちは今でも…。


    変わらないよ。
    今でも、変わらない。


    …。


    エリス。


    …あの子は、アリスの為に生まれてきたの。


    …。


    だからナディは子供が欲しいって、言ったの。
    自分ではもう、アリスを…私がいるから、しあわせに出来ないから。


    ううん。


    あの子はアリスをしあわせにする為に…。


    ねぇ、エリス。


    …う。


    あの子を授かって、しあわせになったのは、あたし達。


    …。


    あの子がくれた、しあわせは。
    確かにここにある。


    …。


    あるんだよ、エリス。


    ナディ…。


    と言うか、あんたは一人で考えすぎるって。
    あたし、置いてけぼりも良いトコだ。


    …う。


    子供が欲しいと思ったのは単純に、エリスと自分のが欲しいと思ったから。
    アリスの事なんて、何も考えてなかった。
    ましてや、自分の子供にアリスをしあわせにして欲しいなんて、考えつきもしなかった。


    …。


    それから、エリス。


    …はい。


    あんたがいるからこそ、あたしのしあわせはあるの。
    アリスじゃなくて、あんただからこそ、あたしはしあわせなの。
    あたしは、あんたが好きだから、あんたを選んだの。
    あたしが好きなのはアリスじゃなくて、エリス、あんただから。


    ……。


    何度、言わせんだ?


    …ごめんなさい。
    それでも、私…


    あんたの優しさは、アリスを傷つける。
    酷く。


    …!


    多分、だけどね。


    わたし、そんなつもりじゃ…。


    ん…分かってる。
    アリスは…分かってないかもしれないけど。
    いや、分かるから怒るのかな。


    ……。


    難しいんだけどさ。
    でも、どうしようもない。
    そう、あたし達にはもう。
    だって。


    …。


    もう、選んでしまったから。
    後悔、していないから。
    だから。


    …。


    ロントが、アリスをしあわせにしたいのなら。
    ロントのしあわせが、アリスと共にいる事なら。
    アリスが、しあわせになるのなら。


    ……私、駄目だね。


    んーなんで?


    ナディにようには、なれない。


    ならなくて良いって。
    むしろ、ならないで欲しい。
    あたしは自分が大好きなわけじゃないから。


    自分が…?


    そう、あたしはエリスが大好きだから。


    ……あ。


    子供、もう一人作ろうよ。
    そろそろ、良いと思うんだけどな?


    ……ばか。


    はは。


    どうしてそういう話になるの。


    駄目だった?


    だめ。


    リリオに言われてからもう、二年経ってるんだけどなぁ。


    ……。


    エリス。


    …ばか。


    帰ろうか。
    ロントにお土産、持ってさ。


    …。


    いえっさ?


    …うん。








    レベルAですね。


    そうですか。


    ですがこちらはレベルE、最低ランクです。


    ……。


    レベルAは矢張り潜在能力が高いと思われます。
    ですがレベルEは…前回の測定値すら僅かにですが下回っています。


    見れば分かりますよ。


    …これ以上の測定は無意味かと。
    一定していると言えば聞こえは良いですが、こうまでも測定値が上がらないのは


    それは君が決める事ではありません。


    …失礼しました。
    しかし同じ遺伝子を持っているのにも関わらず、ここまで顕著になるものなのですね。


    一卵性の双子でも、同じデータにはならないでしょう?


    …。


    レベルA、レベルE。
    どちらにせよ、魔女の遺伝子を持っています。
    それに


    …それで?


    何か大切なもの、そうたった一つだけでも失わせてみれば、変わるかも知れませんよ。
    特にレベルEは、ね。


    大切な…?
    ですがこの施設内で


    昔居たと言う魔女は。


    ……無視(しかと)かよ。


    真の力を得る為に大切な何かを…人、とも言われていますが、犠牲にしたと言われてます。
    然う、その目の前で。必要とあれば惨たらしく殺したのかも知れませんね。


    ……。


    レベルE、私にはその力を表に出さす奥に秘めているようにも見えます。
    無意識に、とでも言いましょうか。


    ……。


    無意識でも構いません。無意識でも発現すれば、ね。
    一度、実験してみれば良いのですよ。


    …大切な何かを犠牲にする、ですか。


    はい。
    さて、何が良いでしょう。


    レベルAは現状維持で宜しいですか。


    然うですね。
    何か変わった事があれば報告して下さい。


    …了解しました。
    では。








    ねぇ。


    …。


    ねぇ。


    …。


    へんじしないよ、この“できそこない”。


    ……。


    みんなそういってるわ、あなたのこと。
    わたし、きいちゃったの。


    …。


    あなた、まただめだったんだって。


    …。


    でも、いいわ。
    わたしにはかんけいないもの。


    …。


    わたし、れべるえーなんだって。


    …わたしは。


    れべるいー、でしょ。


    ……わたし。


    つぎのそくていまでじかんがあるから、すきなことをしててもいいって。


    ……わたし、もういや。


    ?
    なに?


    …まじょ、なんて。
    なりたくない…。


    なにいってるのよ。
    わたしたち、まじょなのよ。


    …そんなの。


    れべるえー、れべるいー。
    でも、わたしたちはいっしょなの。


    …。


    せかいでわたしたちだけよ。
    なのに。


    ……。


    ねぇ、わたしたちはずっといっしょよ。
    だって、まじょなんだもの。


    …。


    そうね、いまよりももっとおおきくなったら。
    こんなとこ、でればいいわ。


    …でる?


    そのときはいっしょにつれていってあげる。


    …ほんとう?


    ええ。
    わたしたちはせかいでたったふたり、なんだから。


    …うん。


    そうだ、あなたきいた?


    …え。


    わたしたちの“なまえ”。
    こんどからはそれでよばれるんだって。


    な、まえ…?


    そう、なまえ。


    …それも、きいたの?


    しりたい?


    …うん、しりたい。


    いいわ、じゃあとくべつにおしえてあげる。
    あなたは……








    …“E”llis。









    ロント。


    あ。
    お帰りなさい、ナディ、エリス。


    ただいま。


    …ただいま、ロント。


    早かったね。
    もう少し遅いと思ってた。


    まぁね。


    ……。


    もしかしてエリスの体調が良くないの?
    じゃあ、早く家に帰らないと。


    …ううん、大丈夫だよ。


    本当に?


    …ん。


    なら、良いけど…でも、久しぶりに町に行ったから。
    疲れちゃったでしょう?


    …少し。
    でも、大丈夫…。


    ナディ。


    一度、家に戻るよ。
    それから。


    ん、分かった。


    その前に、ロント。


    …?
    わ。


    お土産。


    わぁ、そんなに?


    まぁ、ね。


    桃、無かったから…。


    ううん。
    ありがとう、ナディ、エリス。
    後でみんなで食べよう。


    それは今、食べちゃいな。


    うん。
    …あ、でも、手が土まみれ。


    ああ。


    ……。


    じゃあロント、あんたも一回家に戻れば良い。
    畑はそれからだ。


    でも、


    始めたばかり、じゃ、ないでしょ。


    え…。


    見れば分かる。
    あんたこそ、もう少しゆっくりしてると思ってんだけど。


    ……。


    ……。


    まぁ、良いや。
    一旦、皆で帰ろう。


    ……。


    …?
    エリス…?


    …ん、なんでもない。
    大丈夫…。


    ナディ、エリスが。


    分かってる。


    …あ。


    言わないのが、あんただから。


    な、ナディ…。


    良いから。
    ロント、行くよ。


    いえっさ。


    ……。


    人の中に行って。
    疲れないわけ、ない。


    …ナディ。


    ねぇ、エリス。
    ナディに何、買ってもらったの?


    …ん。


    ?
    ナディ?


    それが、ねぇ。
    また今度になった。


    え、どうして?


    さて、どうしてかな。








    ロンティタ、何してるの…?


    ……。


    ん…?


    ……。


    …あ。


    ……。


    そこはだめ。


    ……。


    …そこは、だめだよ。


    ……。


    だめ。


    ……。


    …そこに入っている物は、玩具じゃないから。


    ……う。


    こっちにおいで…?
    お話、してあげる…。


    ……。


    …さぁ、ロンティタ。
    おいで…ママのところに。


    ……。









    …銃、を。


    ……。


    お願いします。


    ロント、いきなりどうしたの…。


    ……。


    いきなりじゃないよ、エリス。
    前から考えてた。


    前からって、いつから…?


    ……。


    …アリスを守ろうって、決めた時から。


    アリス、を…。


    ……。


    わたしは…アリスを守る力が欲しい。
    今のわたしじゃ、何もしてあげられない。


    何もだなんて。
    貴女はずっと、本当に小さい頃から


    エリス。


    …ナディ。


    ナディ、わたしに銃を教えてください。


    ……。


    ナディ…。


    食べない?


    え…?


    ルクマ
    結構、いけるよ。


    ……。


    ……。


    うん、おいしい。
    ほら、エリス。


    あ、う、うん…。


    ……。


    で。
    銃、だっけね。


    …はい。


    アリスを守る力だっけ。


    …。


    あれは人を殺すわよ。


    …そういう使い方をすれば。


    じゃあ、あんたはどうやって守るつもり?


    ……。


    あたしは賞金稼ぎだったから。
    生きる為に殺した。


    …でも。


    でも、じゃない。


    でも、エリスを守ったんでしょう!?


    …ロント。


    それはエリスと出逢ってからの話。
    それに寧ろ、あたしは守られてばっかりだったよ。


    ……。


    ……。


    ロント。
    独りよがりでは、何も守れない。
    あたしはそれを先の旅でエリスに教えて貰った。
    今思えば、だけどね。


    ……。


    ナディ…。


    何度も助けて貰った。


    ……。


    …それでも。


    ……。


    それでも、教えてください。


    それでも、って?


    それでもわたしは、アリスを守る力が欲しい。
    アリスのそばで、ずっと、アリスを守りたい。


    ……。


    …エリス。


    …うん。


    ナディ。


    ロント、ルクマもういらない?


    …!
    わたしは…!


    …。


    …あ。


    んー…。


    ……ごめんなさい。


    思えば。


    …う。


    あんたがそこまで強く言ってくるの、初めてかもね。
    いや、初めてか。


    …。


    いつも聞き分けが良くてさ。
    我が侭らしいこと、言わなくて。


    ……。


    ちっとも、子供らしくなくて。
    手なんて、ほとんどかからなかった。
    ねぇ、エリス。


    …うん。


    ……。


    ロント。


    …はい。


    銃は人を殺す。


    …。


    守る為に殺す、死なせる。
    それを分かってる上で、言ってるのなら。


    …。


    ロント。


    …分かってるなんて、本当は言ってはいけないんだ。


    ……。


    わたしは…ずっと、二人に守られてきた。
    血のにおいも、硝煙のにおいも、わたしは知らない。


    …。


    …。


    わたしは…


    そりゃ、当たり前だ。
    あんたはあたし達の子供なんだから。


    …子供は親に守られて、大きくなる。
    大きくなって、いつか、親から巣立っていく…。


    ナディ、エリス……。


    ロント。


    ……。


    エリス、ごめん。


    …ううん。
    ナディが、そう決めたのなら…


    嘘つくな?


    ……。


    …ごめんなさい、エリス。
    ごめんなさい……。


    ……。


    あ、エリス…。


    良い。


    でも、


    あたしが行くから。


    …。


    明日から。


    …あ。


    あんたに、教える。
    でも、容赦はしない。
    その覚悟は?


    …言ったんだ。
    だから。


    …。


    ないわけ、ない。


    …オーライ、ロント。


    …ッ。


    じゃあ、エリスのところに行ってくる。
    ルクマは食べちゃっても良いから。


    …はい。
    あ、でも。


    ん?


    こんなには、食べられない…です。


    じゃ、また後でみんなで食べよっか。


    う、うん…。


    ああ、なんだったら先に畑に行ってて。
    後で行くから。


    いえっさ…ナディ。


    うん。


    ……。


    さて、どう宥めるかな。








    なに、してんの。


    …あ。


    ん?


    ……や、やだ。


    む。


    ごめんなさい…ごめんなさい…。


    て、なんであやまんの。


    だ、だから、つれていかないで…。


    どこに。


    …う。


    うん?


    ………。


    んー…ま、いいや。
    あんたさ、なまえは?


    …?


    なーまーえ。


    …なま、え?


    そう、あんたの。
    なに?


    わたし、の…。


    うん。


    ……。


    あたし?
    あたしは…あれ。


    …?


    そう、あれ。


    ……あれ、なに?


    え、しらないの?


    …わたし。


    んー…。


    そと、でるの…はじめて、だから。


    はじめて?


    ……。


    ふぅん、そっか。
    じゃ、おしえてあげる。


    あ…。


    かお、あげないと。
    みえない。


    ……。


    あれはさ。


    う、うん…。


    キジャって、いうの。


    …きじゃ?


    で、それがあたしのなまえ。


    きじゃ…あなたの、なまえ。


    うん。


    …きじゃ…あなたは、きじゃ…。


    あんたの、なまえは?


    わたし…わたしの、なまえは…。


    ……。


    …できそこない(エリス)


    え、なに?


    わたしは……エリス。


    エリス?


    ……。


    そっか、じゃあ。


    …ぅ。


    エリス、いこう。


    …え。


    もう、よるになっちゃうから。
    ひとりじゃ、あぶない。


    や、やだ、いきたくない…。


    ちがうよ、エリス。


    …。


    あたしのいえにいくの。
    エリスのいきたくないとこなんか、いかない。
    いかなくて、いい。


    …ほんと、う?


    うそなんか、つくか。
    うそついたら、ばあちゃんにすんごいおこられるから。


    …ばあちゃん?


    おこると、こわいんだ。
    きょうもおこられちゃってさ。


    ……。


    さ、いこう。
    エリス。


    …いい、の。


    ん?


    いっても、いい…の。


    あたりまえ、だ。
    さ、いこう。


    ……うん!









    エリス。


    ……。


    エリス。


    …ナディ。


    ん。


    ……ごめんなさい。


    ん、なんで?


    …。


    良いんじゃない?


    …でも。


    良いんだって。


    ……。


    …泣いても。


    ……ぅ。


    ……。


    ナディ…ナディ……。


    …。


    ……。


    …エリス、あたしはあの子に銃を教える。
    あの子が決めた事だから。


    う、ん…。


    …あの子はそう遠くない未来、あたし達から離れていく。
    アリスのそばにいる為に。


    ……。


    …それでも、あの子はあたし達の子供だからさ。


    ……。


    …淋しくなるとは思うけど。
    でも、大丈夫。


    …はなれていても。


    そう、離れていても。


    ……でも、ナディ。


    …。


    わたしは……さびしいよ。


    ん…。


    …もっと、そばにいてほしい。


    今すぐじゃ、ないから。


    …ずっと、はなしたくなかった。


    それは、どうしようもない。


    …。


    …道を、決めたなら。
    子供はいつか、親から巣立っていく。
    でしょ?


    ……。


    まぁ、その道にもよるけどさ。


    ……。


    …ロントは、あんたから産まれてきたから。
    だから、一度決めたら変えない…。


    …ナディのこども、だから。
    だから、かえない…。


    …。


    …。


    …あの子の想いが、アリスに届けば良い。


    ……もう、とどいてるよ。


    …。


    でも、こわいから…。


    ……。


    …みとめてしまうのが、こわいから。


    魔女は頑固で、意地っ張り。
    素直になれない。


    …。


    …だけど、エル・カザドには関係ない。
    あたしがそうだったように、あの子も。


    …ばか。


    そう、ばかだから。


    ……。


    ……。


    …キジャ。


    …。


    キジャ……。


    …懐かしいな、それ。


    ……。


    …。


    ……わたしの、たいよう。


    キジャは、月って意味なんだけどね。


    ……。


    …真ん丸い月は、たまごのよう。


    たまごは、まんまるくない…。


    …いいんだって。


    ……。


    …さ、行こうか?


    ……。


    ロントが、待ってる。
    心配も、してる。


    …でも、まだ。


    ……。


    ん、ナディ…。


    …涙は今、あたしが拭いたから。


    ………。


    て、らしくないか。


    …似合わない。


    はは。


    ……。


    いつか、あの場所に行こうか。


    …あの、ばしょ。


    そう、あの場所。


    …あなたの、ウィニャイマルカ。


    違う。


    …。


    あたしのウィニャイマルカは、あんただ。


    ……ナディ。


    さ、行こう。
    エリス。


    …いえっさ。








    あれは?


    …そら。


    じゃあ、あれ。
    いっとくけど、みちゃだめだから。


    …たいよう。


    …。


    くも…あめ、かみなり…。


    …。


    みず、かぜ、ひ……だいち。


    うん。


    …それから、つき。


    む。


    …キジャ。


    くすぐったいんだけど、エリス。


    …。


    まぁ、いっか。


    …?
    なにが、おかしいの…?


    あんた、ほんとになんにもしらなかったからさ。


    …。


    どんなとこに、いたんだか。
    そとにでらんないないなんて、あたしだったらむりだなぁ。
    しんじゃう。


    ……。


    きょうはかぜ、きもちいい。


    …うん、きもちいい。


    そと、すきになった?


    …。


    ん?


    …うん、すき。


    ほら、あたしがいったとおりだ。


    ん…。


    ねぇ、エリス。


    …なに、キジャ?


    いつか、かえっちゃうの?


    …え。


    エリスが、いたばしょ。


    ……。


    そこがエリスのいえなんでしょ。


    ……いや。


    ……。


    いや、かえりたくない…。


    じゃあ、やっぱりきまり。


    …?
    やっぱり…?


    ここにいればいいよ、ずっと。


    …。


    そんなとこ、かえらなくていい。
    ずっと、このむらにいればいい。
    なにもないけど、でも、そんなところより、ずっといい。


    …。


    なに、やだ?


    …う、ううん。


    じゃあ、きまりね。


    …でも、いいの。


    だいじょうぶ、うちのかぞく、あんなだから。
    もう、しってるでしょ?


    …おばあちゃん、こわい。


    はは、それはあたしもおんなじ。
    でも、こわいだけじゃないからさ。


    …うん。
    キジャにたくさんにてる、から…。


    あたしに?


    ……。


    んー、エリスもそうおもうかぁ。
    よくいわれるんだよなぁ。
    とうさんとかあさんより、にてるってさ。


    …だめ、だった?


    だめ?
    なんで?


    ……。


    ま、いいや。
    じゃあ、エリス。


    …あ。


    ずっと、いっしょ。


    …ずっと、いっしょ。


    うん、いっしょ。
    ほら、このむら、にいちゃんとあたししかいないから。


    …?


    こども。
    だから、あんたがいてくれるなら、うれしい。


    ……うれ、しい。


    そうだ。
    エリスがにいちゃんとけっこんすれば、ずっといっしょにいられる。
    そうしなよ、エリス。


    …けっこん?


    うん、けっこん。


    …それ、なに?


    ふーふになるんだって。


    …?


    けっこんはすきなひととするんだってさ。


    ……すきな、ひと。


    でもにいちゃん、あんなだからなぁ。


    …キジャ、が、うれしいなら。


    ……


    うれしいなら、するよ…。


    ほんと?
    じゃあ…


    ……。


    …?
    エリス?


    ……。


    …わ。


    ……キジャが、いいなら。
    わたし…ずっと、ここにいたいから。


    エリス。


    ……キジャ、といたいから。


    そっか。


    ……すき、だから。


    え、なに?


    …すき。


    エリス?


    ……だから。


    …?


    ……つれてって。


    え?


    きょうはみずうみ、いくって。


    そうだ、みずうみ。


    わたし、しらないこと、まだいっぱいあるから。


    うん、そんなかんじ。


    だから…キジャが、おしえて。


    なんでも、おしえてあげる。


    ……。


    いこ、エリス。


    …。


    ほら、て。


    …うん。









    …ロント。


    …。


    ロント。


    …え。


    ……。


    …ごめんなさい、気付かなかった。


    ううん…。


    …小さい頃。


    …。


    エリスはナディと、逢ってたんだね。


    …。


    …ごめんなさい、勝手に見てしまって。


    ううん、良いよ…。


    ……。


    …私も、覚えていなかったから。


    …。


    思い出せたのは…あなたが、私の中に入ってきたから。
    だからありがとう、ロント…。


    ……。


    …ナディも、そうだった。


    え…?


    …瞳の色が、あの人に似てきたね。


    ナディはエリスに良く似てるっていつも言ってた。
    今でも、言われる。


    …色は。
    でも、本当に似ているのは…あの人。


    ……。


    …何かを決めた時、いつもそういう瞳をしていた。


    …。


    …あとね。


    うん…。


    …銃を、握ると。
    あの人はいつも私の知らない人になって…それが少し、淋しかったのを覚えてる。


    …。


    …ロントもそうなるのかな。


    ……。


    …私を守ってくれる為。
    それを、分かっていても…淋しかった。


    …ナディは、知らない。


    うん…。


    …エリスは、言わなかった。
    どうして、言わなかったの…?


    …言えなかった。


    ……。


    我が侭、だから……だから、言えない。


    …。


    ナディが賞金稼ぎの仕事を辞めたのは、私が言ったせいなの。


    …ん、知ってる。


    ……私が我が侭を言ったから。


    どのみち、ナディは辞めていたと思う。
    エリスに言われなくても。


    …。


    エリスと生きるのを決めたから。


    …ナディの手。


    ……。


    前は“銃たこ”があって、ところどころ硬くて。
    でも、今は…。


    …。


    …肉刺だらけになっちゃったって、あの人は笑うけど。
    私はそんなあの人の手が好き…。


    …エリスは。


    …。


    どんな手でも、ナディの手を愛しいと思っている。
    そう、どんな手であっても…。


    ……。


    …どうしたら、良いんだろう。


    ロント…。


    …独りよがりでは、守れない。
    でも、どうして良いか分からない…。


    ……。


    ……ナディはエリスを守った。
    でもナディは、エリスに守られたって…。


    …あの人は鈍感だから。


    …。


    私を…そう、ずっと昔から私の心を守ってくれていた。
    それに気付かない…きっと、これからも。


    …鈍感、だから。


    ん…。


    …困ったように、笑うね。


    …。


    でも、しあわせそうなんだ。
    いつも。


    …ナディが、待ってる。


    …。


    お腹、すいたって。


    …食べてきたんじゃないの?


    そう、なんだけど…ナディ、だから。


    …やっぱり、ナディはナディなんだね。


    ん…。


    ……。


    …ねぇ、ロンティタ。


    なに、母さん…。


    …アリスのこと、守ってあげて。


    ……。


    わたしは…一緒に、いてあげられなかった。
    約束、したのに…それすら、忘れてしまって。


    ……。


    …だから、お願い。
    あの子の心を、救ってあげて…。


    ……。


    ごめんね…。


    …ううん。


    ……。





    エリス、ロント。





    …ナディ。


    待ちきれなくなってさ。


    ん…。


    畑に行く前にちょっと何か食べよう。
    小腹、へっちゃった。


    …食べたのにね。


    食べたんだけど、ね。
    ロント。


    …はい。


    さっきも言ったけど。
    明日から。


    …。


    オーケイ、ロント?


    …オーケイ、ナディ。








    今度町に行った時は…。


    ……。


    …あまり、いらないけど。
    でも、少しは必要だし…。


    ……。


    …プレゼントを買うにも。
    どうせなら…。


    ……ィ。


    …ん?


    ……。


    …まだ起きてた?


    ……灯り。


    ああ、明るかったか。
    ごめんごめん、今消すよ。


    ……もう、良いの。


    うん。


    …次はお金にするの?


    少しね。
    全部じゃないよ。


    ……まだ、あるよ。


    ん。


    …賞金。


    ……。


    ナディ…。


    …旅。


    え…。


    出ようと、思ってる。


    …!


    今日、思ったんだけどね。


    …そっ、か。


    今すぐじゃない。
    あの子に銃、教えないといけないから。


    …あの子が生まれてから。


    ……。


    ずっと、同じ場所にいてくれたね…。


    …。


    …ずっと、私が縛り続けてた。
    でも、もう…。


    何言ってんだ。


    …う。


    あんたも連れて行く。


    ……。


    相棒なんだから。
    悪いけど、来ない、行きたくない、は言わせない。


    …言わない。


    一人旅はしない。
    二度と。


    ……うん。


    あの銃。


    …。


    ロントに譲ろうと思ってる。


    …うん。


    嫌じゃない?


    …守る力、だから。


    …。


    殺す為の道具じゃなく…守る為の、力だから。


    …あんたが、そう言ってくれるなら。


    ……。


    かなり古い子だけど、ちゃんと手入れしてあげれば応えてくれる、くれた。
    いつだって。


    …ナディはどうするの。


    あたし?


    …銃。
    もう、持たないの…?


    あたしは…どうするかな。


    ……ここに。


    …。


    …無いと、渡り鳥(ナディ)じゃないから。


    ……。


    …だから。


    手。


    ……。


    あの頃のたこはもう、無い。


    …でも、知ってるの。


    ん…。


    あなたが手入れを欠かさなかった事…。
    あなたが感触を忘れまいとしていた事…。


    …。


    …賞金稼ぎとしてじゃなく。
    私達を、護る為…。


    …あれしか無かったからね。
    昔のあたしには。


    ……。


    まぁ、銃の事は考えとくよ。
    時間はまだ、あるから。


    …ねぇ、ナディ。


    うん…?


    …旅に出たら、あの場所に連れて行って。


    最初に行く。


    …。


    行こう。


    …ん。


    うん。


    ね…どこまで、思い出した?


    どこまで…?


    …昔の、こと。


    そうだな…。


    ……。


    …あんたは昔から泣き虫だった、それくらいまで。


    ……。


    ね、エリス。


    …いじわる。


    と…。


    ……。


    …ロントの力、なのかな。


    …。


    あたし達が、思い出したのは。
    思い出せたのは。


    …あの子は。


    …。


    私の中のアリスを見ようとしてた。


    …ああ。
    それでか。


    …でも、ナディが思い出したのは。


    お……。


    …私の、力。


    ……。


    …私は、あの子の母親だから。


    夢なんか、見せて?


    …。


    たく、このそっくり親子め。


    …だって、親子だから。


    ……。


    ……アリスのこと。


    …。


    守って、あげて。


    …あたしが守るのは、エリス。
    あんただけ、だから。


    …。


    …だから。


    あの子に、言ったの。


    …。


    ……私、言ったの。


    エリス…。


    ……。


    …そっか。


    ……。


    そっか。


    ……私、大丈夫だよ。


    …。


    もう、大丈夫だから…。


    無理しなくて良い。


    …。


    するな?


    ……いえ、さ。


    うん…。


    ……。


    ……ぅ。


    …エリス。


    ………。


    ……。


    ……。


    …明日は。


    ……き、っと。


    …きっと?


    ……はれる、から。


    ……。


    …きっ、と。


    うん。


    ……。


    …ん?


    ……。


    …エリス。
    今夜は…


    ……。


    ……分かった。
    じゃあ、いい…?


    ……、で。


    うん…なに?


    …きかない、で。


    ……ん、ごめん。


    ……。


    エリス……。


    …は…、…ぁ。








    …キジャ。


    うん…。


    ……どうしたの?


    ……。


    キジャ…?


    ……うん。


    あ。


    ……。


    ……ねむいの?


    ……。


    キジャ…。


    ……ん。


    ……。


    ……。


    ……キジャ。


    ……。


    ずっと、そばにいてもいい…?


    ……。


    …ずっと、いたい。


    ……。


    あなたと………いっしょ、に。





    み つ け た 。





    …!


    う……。


    みつけた。


    あ、ああ……。


    なに、してんのよ。


    や、やだ…。


    は、なにそれ。
    にんげんのがきじゃないの。


    あ、だ、だめ…。


    なに、もしかしてこんなのになついちゃったわけ?
    できそこないのくせに?


    やめて、やめて…。


    ああ、できそこないだから。
    じゃなきゃ、にんげんなんぞに。


    やめて、キジャは…。


    ひざまで、かしちゃって。
    まさか、あいしてるの?
    にんげんみたいに?


    ち、ちがう、ちがうから…


    にんげんの、まねなんか、して。
    あーあ。


    う…ぅ。


    やだ、やめて、やめて、アリス。


    …は。
    できそこないのくせにわたしのなまえ、きやすくよばないでよ。





    ドスッ。





    が…ッ。


    キジャ、キジャ…ッ!!


    …ふん。


    う、ぅぅ……。


    キジャ、キジャ…。


    あんたが、さぁ。
    やるべきことしないから、わざわざ、このわたしがきてやったのよ。


    …ッ!


    あんたがそんなにんげんなんぞに、なついちゃうから。


    アリス…。


    にんげんのしゅうらくをひとつ、こわしてあげること。
    こわすどころか、にんげんのがきになついちゃって。
    どこまでできそこないなのかしら、エリスちゃんは。


    おねがい、やめて、やめて、やめて…。


    なに、やってんのよ!


    う…ッ!


    このできそこない。
    にんげんひとりも、こわせないの。


    あう…う…、うぅ……。


    さいしょから、わたしがくればよかった。
    そうすれば、


    …や、めろ。


    うん?


    エ、リスを、いじめる…なッ!


    …なに、そのめ。


    キ、ジャ…。


    ……はぁ。


    にんげんのぶんざいで!


    …がッ。


    キジャ…!


    あんたが、このこをおかしくさせたのね。
    もとからおかしかったのを、それいじょうに。


    …エリス、は。
    おかしくなんか、ない。


    にんげんが。
    「“A”llis」(レベルエー)のこのわたしに、くちごたえをしてもいいとおもってるの。


    …ぅ…が、…ッ。


    キジャ、キジャ…ッ!!


    いいわ、さいしょにこわすのはあんたにしてあげる。


    …ぁ……。


    やめて、キジャをこわさないで…。


    あんたがやるはずだった。
    それをわたしがかわりにやってあげるのよ。
    やさしいじゃない。


    ……ぅ…ぅぅぅ…。


    やめて、やめて、やめて……。


    …おわったら。
    あんたも、すこしはまともになるでしょ。
    そしたら、いくわよ。


    ……っ、…っ。


    あ、あぁ、あぁぁぁぁ……。


    わたしたちは、せかいでふたりだけ。
    ふたりだけの、まじょ。ほかにどうるいなんて、いないの。
    だから、わたしからはなれるなんて、ゆるさない。


    ……、……。


    だ、め…いや……いやぁ…。


    …あんしんして、エリス。
    もう、おわるから。


    ………。


    ……あ、あぁ。


    おしまい。
    ほら、かんたんだった。


    ………。


    キ、ジャ……。


    …こんなの、できそこないのあんたでもできるのに。
    ばかじゃないの。


    ………。


    あ……ぁ、あぁぁぁぁぁァアアァァッ!!!!!


    …ッ?


    キジャ、キジャ、キジャ…ッ!!!


    …うるさいわね。


    キ、う…ッ。


    いくわよ。
    あのしゅうらく、こわしに。


    ……アリ、ス。


    なに、そのめ。
    このにんげんとおなじじゃないの。


    ………


    …むかつく。


    ………。


    そんなにこのがきがいいの。
    こんな、くずが。


    ……。


    じゃあ、もやしてなくしてあげる。
    そうすれば、め、さめるでしょ。


    ……、い。


    あんたは…そう、このわたしといきるのよ。
    こんなくずと、


    アリス……ッ!!!!


    …え。


    ………。


    …なによ、これ。


    アリス、わたしは。


    ……なによ、このほのおは。


    わたしは。


    …ばっかじゃないの!


    ……。


    あんたのちっぽけなほのおで、このわたしにかなうとおもってるの!


    わたしは…!!


    …うっ。


    わたしは…あなたと、いかない。


    …なに、いってんのよ。


    わたしは、キジャといきる。
    いきたいの。


    ……。


    だから…あなたと、いけない。


    …なによ、それ。
    なによ、それ…ッ!!


    ……キジャ。


    この、「“E”llis」(できそこない)がぁ…ッ!!


    ……。


    う、がぁ…ッ。


    ……ごめんなさい。


    …な、によ…こ、れ…。


    ……キジャ。
    いま……。


    ……エ、…ス。


    ………キジャ。
    わたしの、たいせつなひと……。


    ……さ、な…ぃ。


    キジャ……わたしは、あなたがすき。


    ……あぁぁぁ…ッ!!


    だから………。





    ……ぅ。





    キジャ…キジャ…。


    ……エリ、ス。


    キジャ…。


    ……なき、むし。


    ……。


    …しょうがない、なぁ。


    キジャ、キジャぁ……。


    なきすぎ、エリス……。


    ……ごめん、なさい。


    …なんで?


    なき、むし…だから。


    ……いいよ、エリスだし。


    …わたしで、いい?


    …?
    エリスは、エリスでしょ…?


    ……。


    だから、いいもわるいもない…。


    …キ、ジャ……。


    う、くるし…。


    ……。


    ……エリス。


    すき……。


    ……。


    …エリス、…キ、ジャ。


    だいす、き…。


    ……うん。


    ゆる、さ…な、ぃ……ゆるさない。


    ……だいすき、キジャ。


    …あたしも





    思っていた以上、でしたね。








    ……。


    ……。


    …アリス。


    ……。


    アリス。


    …勝手に。


    …。


    勝手に、見るな…。


    …うん。


    見ないでよ……。


    …ごめん。


    ……いつも。


    …。


    なんなのよ、あんた…なんなのよぉ。


    ……わたしは。


    う…。


    …ナディとエリスのこどもだよ、アリス。


    ……うぅぅ。


    ……。


    …どうして。
    どうして、にんげんなんか…。


    …人間、だからだよ。


    …。


    エリスも…アリス、あなたも。


    ちがう…ッ。


    …違わない。
    なにも、違わない…。


    わたしはちがう、あんなできそこないなんかと、ちがう…。


    …心が痛くて。
    いつも、泣いてる…。


    ないてなん、か…。


    …ナディを、愛していたから。


    …ッ!


    アリス、あなたは。


    ばかいわないで…ッ!!


    エリスはナディ…キジャに、惹かれた。
    同じようにアリス、あなたも…。


    ちがう…ッッ!!


    ……同じなんだ。
    わたしも、あなたも…痛む心を、持ってる。


    やめて、もうききたくない…。


    …わたしはナディになれない。


    ……ききたく、ない。


    でも、アリス。
    わたしはロントとして、あなたを愛している。


    ………。


    …耳をふさがないで。
    わたしから、目を逸らさないで。


    ……。


    …アリス。
    約束するよ。


    ……そんな、の。


    必ず、守る。


    …そんなの、うそよっ!


    嘘じゃない。


    エリスは、わたしといっしょにいるはずだった!
    でも、うらぎった!


    …裏切ったんじゃない。


    ナディ、キジャ、あいつに…ッ!


    ……。


    だから、だから…。


    …わたしを、信用出来ない。


    ……。


    人間は…裏切るよ。
    約束だって破る生き物だ。


    …ほら、…ほらぁ。


    だとしても。
    わたしは、アリスを守る。


    ……。


    ずっと、そばにいる。
    一緒に生きる、生きていく。


    ……うらぎられるのは。


    ……。


    もう、いや…いやなのよ。


    …アリス。


    ……どうして、わたしは。
    わたしじゃない、の…。


    …。


    どうして、あのふたりは…わたしを、はじいたの。
    わたしだって、まじょなのに…どうして、わたしはひとりなの。


    …独りじゃない。


    うそよ、いまだって…だってもう、かたちすらない。


    形なら、ある。


    ……。


    …ここに、あるよ。
    アリス。


    …う…ぁ。


    ナディとエリスは…あなたのしあわせを願ってる。


    ……。


    …わたしと、なろう。
    手を、繋ごう…だから。


    ……。


    手を、伸ばして。


    ……。


    ……。


    ……。


    …アリス、わたしは。
    銃を、ナディに教えてもらうよ。


    じゅ、う…。


    …あなたを守る力。
    家族を、守る力。


    …。


    …銃ですべては守れない。
    そんなの、知ってる。


    …。


    それどころか、銃は人を殺す。
    大切なものを壊す。


    ……。


    …でもわたしは、力が欲しい。
    ナディのようにはなれないかもしれないけど、それでもナディのように…。


    ……。


    …必ず。


    …。


    迎えに、行く。
    行くから、その時は。


    ……。


    …手を、繋ごう。
    繋いで、歩こう…。


    ……、ト。


    …独りぼっちにはもう、させない。


    ロン、ト……。


    …アリス。
    大好きだよ。


    …………あああぁぁぁぁぁ。








   ...six