自分で、自分が、どうしようも出来なくなる。
そんな衝動に突き動かされるようになったのは、エリスを初めて知ってから間もなくのことだったと思う。
まって、まってナディ。
…。
ナディ。
…うるさい、待てない。
あ。
……。
見つけた宿。
予算の都合で今夜もおサイフにとても優しい、くたびれた感がとってもステキな宿。
それでも雨風が凌げれば…凌げるか分からないけど、屋根があるだけマシ。
適当に案内された部屋にはなかなかの年代ものベッドが一台。
テーブルも無ければ、椅子もない。窓は小さいのが申し訳程度にあるだけ。シャワーなんてあるわけない。
とにかく部屋にあるモノはおんぼろベッド、ただそれだけ。
敷布はよれよれ。枕はぺちゃんこ。支えてる脚もどこか頼りない。二人寝るには当然、サイズは小さい。
そもそも、一人寝そべるだけでも壊れるんじゃないかってくらいのオンボロさ。
つか今夜のは今までの中でも五本の指に入るほどのひどさ、かもしんない。
そんなベッドにエリスを力尽くで押し倒せば、盛大に悲鳴を上げるのは当然のコトで。
むしろ、壊れなかったのはキセキかも、なんて。
からだ、ふかないの…?
…。
ねぇ、ナディ…。
…。
あ、ん…。
……はぁ。
宿を見つける前から。
頭の中はもう、エリスのことだけだった。
エリスのことだけで、いっぱいだった。
とにかく、早く欲しかった。
とにかく、エリスの中に入り込みたかった。
一刻も早く、エリスに溺れたかった。
ナディ…ナディ…。
だから部屋に入るやいなや、奇跡的についていた鍵(勿論ボロだ)を閉め、先に入ったエリスを後ろから抱きすくめた。
エリスはそれくらいで動じる子じゃない。寧ろ、嬉しそうにどうしたの?なんて、聞いてくる始末だ。
曰く、ナディはあんまりしてくれないから、だそうだけど。
今回もいつもどおりだった。でも、今回はいつもどおりじゃない。
細くて白い首筋を舐め上げて、肩に噛み付く。
片方の手で躰を捕らえて、もう片方の手で薄いお腹を撫でる。
そしてそのままあまり肉のない太腿へ走らせて、素早くワンピースの中に潜り込ませる。
さすがのエリスもこれには驚いたみたいで。
色情に駆られまくったあたしにはその反応がたまらなくて。
エリスの口から珍しく出た制止も聞かず、聞けずに、イキオイのままにおんぼろベッドへ押し倒した。
あ……ん、だめ。
…。
……だめ、ナディ。
…うるさいって言ってる。
…。
服も脱がず、脱がさず、愛撫もそこそこに、エリスの中に潜り込もうとする。
だけど。
……ん…。
…。
……ナディの、せっかち。
準備なんて、されてなくて。
…いや、幾らかは…されてる、けど。
当然、と言えば、当然なわけだ。
今夜のあたしは本当にどうかしてる。
いつもだったらもっと…もっと、優しくしようとする。
へたくそなりに、エリスの躰にあたしの痕跡を刻んで。
肉はないけれど、柔らかい躰を愛して。
それで、それから。
……もうすこし、まって?
……。
ね…。
……ごめん。
このまま無理矢理押し入れば、エリスは痛みしか感じないだろう。
自分の熱情の為にエリスを傷つける。痛みしか、あげられない。
すんでのところでそれに気付いて踏みとどまったコトが…今夜のあたしの、唯一の救いだったと思う。
…ナディは、やっぱりやさしい。
やさしくなんか…む。
もうすこし、だから…。
……。
…でも、エリスへの入り口からは離れる事が出来ないわけで。
その近くで迷子のように行ったり来たりを繰り返す。
そんなあたしをエリスはくすくすと笑う。
あたしの髪に手を埋めて、宥めるように頭を撫でる。
無理矢理犯そうとした人間に対して、するコトじゃない。
エリスはよくあたしは優しいと言うけど、本当はエリスの方がずっと優しい。
ずっと…ずっと優しいんだよ、エリス。
はぁ…。
…。
ナディ……。
許しが出るのを待っている間、あたしはエリスの小さな胸に吸い付いていた。
愛撫と呼ぶにはほど遠く、稚拙で、我侭を満たすだけの行為で。
ひどく子供じみているけれど、実際子供なんだろうけど、エリスは許してくれる。
なにもでなくてごめんね…なんて本気とも冗談とも分からないコトを、言いながら。
もしもここから……それはきっと、とても甘いのかも、なんて。
後で思い出したら恥ずかしさで死んでしまいたくなるようなコトでも、今、この時だけは。
…もう、いいよ。
…。
おいで…ナディ。
エリス…。
…おいで、きて。
……。
優しくて、甘い声。
待ちわびていた許しが、ようやく下りる。
それまで夢中になって吸っていた胸をあっさりと解放して、その指にすべての意識を飛ばすあたり、あたしも大概だ。
何しろ、あたしは単純と書いて「ばか」と読むどうしようもないヤツだから。
つくづく、ばかはどうしようもない…なんて、今は考えられるハズも余裕もなくて。
今はただあたしの為に開いてくれたそこへ、エリスの中へ、自分を埋めて、そして。
う…ううん。
…エリス、エリス。
……ひとつで、いいの?
…。
ん…そう、いいこ…。
言われるがままにひとつからふたつに増やして、エリスの奥を目指す。
本当はひとつ入れてくれるだけでも十分なのに、エリスはもっと良いよって言ってくれるから。
ひとつでもきつめだったのに、ふたつになったことで更にきつくなった(でも追い出されない…)そこを進む。
進み、そしてようやく奥へと辿り着く…と言うより、収まったと言うほうが正しい。
待ち望んでいた瞬間に躰も心も、言葉にならない悦びで、打ち震える。
エリス…。
……いいよ。
それなのに、あたしと言う莫迦はすぐに収まるだけじゃ飽き足らなくなって。
指に絡まる熱いもの、それこそエリスの躰があたしの為に用意してくれたもの。
女の特性(自分を傷つけない為の防御、だ)をも、自分の都合の良いように考えて。
…ああ、ほんと救いようがない。
……エリス。
ああ、エリス、エリス…。
あ、あ、あ、あ……あぁ。
動きに合わせてエリスの口から溢れ始める声。それはとても甘ったるくて、でもどこか切なくて。
あたしを感じてくれている証、あたしの心を掴んで離さない声音。
それが、それだけが、聞きたくて。
はぁ…。
……ナディ…。
本当はこんなものを入れる場所ではないのに。
本当はあたしなんかが入って良い場所なんかじゃない。
だから、だから、あたしは。
…エリス…エリス…ぅ。
ナディ…も、う……あ、あぁぁ。
…エリスを初めて抱いたあの日から。
「ナディ」を抑えていた箍はばらばらに壊れてしまった。もう、嵌め直す事は出来ない。
解き放たれたそれは、自分で思っていた以上に…。
エリス、エリス、エリス……ッ。
あ…、あぁッ……っ、……ッ。
…違う、分かっていたからこそ、あたしは。
……。
……。
…キス、キス、キス。
さっきからずっと顔中に降り続けている。
唇が肌にそっと触れるだけの、くすぐるだけの、性的なんて言葉はぜんぜん似合わない、そんなかわいらしいキスの雨。
されるがままに、エリスの好きなままに。
……エリス。
やめないよ。
…言わないわよ。
うん。
とても満足げに、キスの雨を再開させるエリス。
ひたい、こめかみ、まゆげ、まぶた、はな…はたまにひとなめ、
みぎのほっぺた、ひだりのほっぺた、くちのはし、かおをとびだして、みみ、みみたぶ、くび。
順番は特別に決まってるわけではないらしく、あくまでもエリスのしたい風に、気侭に。
コトが済んで呼吸が整った頃からあたしの上に乗って(そもそも今夜のベッドは二人が並ぶスペースはない)、
ずっとそれだけを繰り返してる。
…エリス。
やめない。
…だから言わないって。
うん。
だけど、一つだけ。
くちびるだけには、降ってこない。
わざとなのか、なにか考えがあってのことなのか、分からないけど。
でも待ってる自分がいるのもまた、事実で。
…。
…やめないの。
……分かったって。
…。
自分の仕出かしたコトをうまく後悔出来ないまま、エリスにひたすら甘えてる。
エリスの背中に腕を回して、自分からそれを求めてる。
…ああ、どうせ後で後悔するのに。
…。
…ナディ。
……。
すきだよ、ナディ。
だから…。
……。
…とても、うれしいの。
……う、ん。
…もしかしたらエリスは気付いているのかもしれない。
あたしが後悔する、しているコトを。
だってエリスはとても聡い子だから。あたしみたいな鈍感で間抜けなヤツとは違うから。
…なんて、どんな言い訳だ。つか、言い訳にもってない。
莫迦と言うヤツはうまい言い訳すらも思いつかないように作られているらしい。
ああ、だから莫迦なのか。
……本当、手に負えない。
…だいすき。
エリス…。
…ずっと、いっしょにいて。
…。
あたしはエリスが好きで、好きで、どうにかなってしまうほどに、好きで。
だからこそ、あたしはエリスを抱きたくなかった。
抱いて、自分のものになんか、したくなかった。
好きだから、愛しているから、だからあたしの汚い手で、汚い欲でエリスを汚したくなかった。
汚したくなんかなかったのよ…エリス。
いて…。
……うん。
…でも、もう。
あたしは引き返す事なんて出来ない。
あんたを手放す事なんて、出来ない。
自分を失うほどの熱情を知ってしまった、手に入れてしまったあの日から。
もう、どうしようもない…どうしようもないのよ、エリス。
ナディ……。
…い、た。
…?
……。
ナディ…?
…大丈夫。
でも、せなか…
…大丈夫だから。
…。
それより、エリス…。
……ん。
…そして、やっとくちびるへのキス。
それはまるでとっておきだったと言わんばかり、で。
一度は沈静化していた…けれど、決して消える事は無いであろう火に、イキオイが戻る。
……本当、単純だ。
……エリス。
こんやは、ねかせない……?
…ばか。
なんのせりふだ…。
ん……。
背中に走った痛みすら、感じないふりをして。
あたしはまた、エリスの中へと沈んでいった。
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