あなた、だれ? …。 みたことないけど、どこからきたの? …。 うーん…あっちのほう? …ちがう。 じゃ…あのやまのむこう? …。 そうなの? …。 こんなところでなにをしているの? …しらない。 しらないの? …。 もしかして、まいご? …まいごってなに。 えと…。 …。 まいごはまいごだよ。 …わからない。 ママは? …ままってなに。 じゃあ、タタは? たたってなに。 ……え、と。 …。 どうしてここにいるの? …つれてこられたから。 だれに? タタとママじゃないの? ……わからない。 どこにいるの? しらない。 …。 …。 そうだ、じゃあうちにおいでよ。 …。 こんなところにいたらピューマにおそわれちゃう。 …ぴゅーま? そう、ピューマ! こーんなにおっきくてね、 ぴゅーまってなに? あたしたちよりもずっとずっとおおきくて、くちもこーんなにおおきくて ……わかんない。 えと、たべられちゃうんだよ。 そうなの? そうだよ。 だから、いこ。 …。 きっと、むかえにきてくれるよ。 あたしのむら、ここからすぐだから。 …。 いこ? …。 きょうね、むらのおまつりなんだ。 だからいっしょにあそぼ。 …あそぼ? ふえ、ふいたりするの。 たのしいんだ。 ……たのしい。 だからさ、いこ。 そろそろあさごはんのじかんだし。 …。 いこ。 ね? ……うん。 うん! …なに。 あぶないから。 ……。 ころんだら、けがしちゃうから。 …てを、どうするの。 つなぐの。 …。 ね。 ……。 …わ、あなたのて、つめたい。 ……つめたい。 あたしのて、あったかい? …うん。 じゃ、あっためてあげるね。 …。 あたしはキジャ。 あなたは? …? なまえ。 なんていうの? …しらない。 え。 そんなの、ない。 ……ないの? …。 え、と…それじゃ、あとでおしえて。 …。 さ、いこ。 あたしのうちはあのおかのむこうだよ。 ……。 …ふ。 …。 …ナディ? ナディ…どこ? …ナディ…ナディ…。 光 の 行 方 ナ お、と。 エリス、こんな時間にお出かけ? …ナディ。 だめよ、お子ちゃまはもう寝る時間。 …おこちゃまじゃないよ。 お、怒ったか〜? …ナディこそ、どこにいっていたの。 あたし? あたしは…まぁ、夜のお散歩ってとこかな。 …おこちゃまはねないとだめなんだよ。 いやいや、あたしはお子ちゃまじゃないですから。 …みまわり。 ん? みまわりにいってたんでしょ。 …む。 ナディ。 …まぁ、一種のクセみたいなもんで。 ほら、自分の身は自分で守れ、てね。 …わたしはナディにまもられてばかり。 あ、いや、それは…ほら、あたしが決めた事だし。 …。 それに…あたしだってエリスには守られてる、し。 …。 あ、あー、ほら、とにかくもう寝て寝て。 おやすみのキスももう一回してあげるから。 …。 エリス、躰冷やすから。 ほらほら。 ……ナディもいっしょ。 …。 いっしょ。 …分かった、分かったから。 ぜったい。 うん、絶対。 …もう、いかないで。 …。 いかないで。 …エリス。 おいて、いかないで。 …大袈裟よ。 …。 ……はぁ。 まったくエリスは…。 …。 あたしはあんたの傍にいる。 約束、したでしょ? 忘れたの? …わすれてない。 だったら。 あたしはどこにも行かない。 オーケイ? …でも どうにも抜けないのよ。 ……。 習慣ってヤツは、ね。 でも本当にどこにも行かない。 あんたを置いてなんか、行く筈ないの。 ……うん。 じゃ、おとなしく寝る? …ねる。 よぉし。 …でも。 うん? ……め、さめちゃった。 目瞑ってれば眠れるって。 疲れてるんだから。 …。 さ、エリス。 …いえっさ。 …マ。 ……どこ。 ママ…タタ…どこ…。 ……ばあちゃん…おにいちゃん…。 どこ…どこ…。 ……あたしを…おいて、いかないで…。 …。 …。 ……あぁ、最悪。 …。 なんで今更…。 …んん。 …。 ナ…デ…ィ…。 …おーおー良く寝てるなぁ。 目、覚めたなんて言ってたクセに。 ……ん。 と。 良く寝てる子は起こしちゃいけないってね。 ……。 はぁ…。 …。 …これじゃ、行けないな。 もう…。 …。 また、起きちゃうかもしれないし…ね。 …。 …全く。 人の腕を何だと思ってるんかね、君は。 ……ふ。 …腕、まぁた痺れちゃうじゃないの。 ……ふふ。 ナディ…。 …お。 ……。 …寝言。 たく、どんな夢見てるのよ。 …。 ……ま、いっか。 仕合わせそうだし…。 …。 ……エリス。 …。 ずっと、傍にいるから。 …。 ……だから。 ……。 …。 …。 …あたしの傍に、いて。 …。 ……独りは、もう。 …。 エリス…。 ……。 …エリス。 …。 …。 ん…。 ……何、やってんだかな。 …。 これじゃ寝込みを… ……る、よ。 …え。 いるよ。 …エリス、あんた。 わたしはナディのそばに、ずっと、いる。 これからもずっと。 …。 いるから。 ずっと、いるから。 ……いつから? …め、さめてたから。 て、コトは最初からかい…。 …キス。 う。 …おやすみの、じゃなかった。 うん、それはちょっと… …ナディ。 …良く寝てるなぁ、と思ったからと言うか。 もういっかい、して。 ……へ。 さっきのキス。 …あ、いや。 ナディ…。 ……んッ? …。 エ、エリ… ……もういっかい。 し、したじゃない、今。 …ちがう。 ちゃんとナディから…。 …。 …おねがい。 ………。 ナディ…。 ……いいの? …どうして? だから…。 …ナディじゃなきゃ、いや。 …! ……どんなナディでもナディだよ。 わたしのすき、な…。 エリス…。 ……。 ……。 ナ……デ………ィ。 …。 …。 …え、と。 …。 エリス…? ……。 …。 …。 ……嫌、だった? …。 エリス…。 ……かった。 え、なに? ……きもち、わるかった。 ………。 だって ……無理かもしれないけど、今のは忘れて。 …。 もう、しないから。 もう、二度と…。 それはだめ。 …嫌だったんでしょ。 いやじゃないよ。 でも気持ち悪いって。 …なんか、へんなかんじだったから。 変な…。 …けど、いやじゃなかったよ。 ……いいわよ、無理しなくても。 してないよ。 …もう、いいから。 もう、二度と、しない。 だめ、やだ。 ……女同士だもんね。 ナディ。 …。 ナディ。 …さ、もう寝ないと。 ナディ…! ……。 …きもち、よかったの。 ……言ってる事が違う。 よく、わからないの。 …。 …ナディのしたがわたしのなかにはいってきて。 はじめてで…よく、わからなくて…。 ……。 いやじゃなかったの…ほんとうに、いやじゃないの。 …。 …ナディ、ほんとうだから。 ほんとうだから…だから。 ……エリス。 …。 分かった…信じる。 …ナディ。 でも嫌だったらすぐに いやじゃない。 …。 ……あのね、ナディ。 ……ん。 もういっかい…して。 …。 …もういっかいだけ。 ……本当に? …。 されても、いいの? して、ほしいの…。 ……うん。 ……。 …。 …ふ…ぁ。 ……はぁ。 …だめ…つづけて。 …。 んん…。 …。 ……ん…んん。 ……エリス、もう。 もっと…。 …エリス。 ……あついの。 …。 ナディのことをおもうと…あついの。 とても、とても…あつくなるの。 ……あぁ。 ……だから、ナディ。 …。 …。 …エリス、あたしは。 すき…。 …。 …すきなの。 ……。 ナディが…ほしいの。 ……く。 ……ナディ? …。 ナディ? どうしたの? ……エリス、は。 …。 本当にあたしのこと、好き? …すき。 誰よりも? すき、だいすき…。 …。 …ナディは? …? ナディは…わたしのこと…。 分からない。 ……え。 どうして、こんなに好きなのか。 …それって、どういういみ? ……。 ねぇ、ナディ。 …分かって、言ってない? わからないよ。 ……う。 ナディ…ちゃんと、おしえて。 ……だから。 だから…。 ……離したくないと思っちゃうくらい、好きなのよ。 だれのことを? …絶対、わざとでしょ。 ううん。 ほんとかぁ。 だってちゃんといってほしいから。 …。 ナディ。 …エリス、あたしはあんたが好き。 …。 好きよ、エリス。 …分かった? …うん、わかった。 …うん、それは良かった。 ……なに? おでこ。 小さい頃、良くしてもらったの。 …あついこいのほのおが 違う。 ママに、よ。 ……ママ? そう。 あたしのお母さん。 ナディの…。 もう、いないけどね。 …うん、まえにきいた。 こう、おでことおでこを重ねるとね。 心が触れ合ってあったかくなるんだって。 …こころが。 そう。 ……あったかい。 …。 あったかいよ、ナディ。 ……うん、あたしも。 …。 …。 …ナディ。 …ん。 キスは…。 ……あんたは。 ……もう、おしまい? さぁて、どうしようかな…。 …。 …。 …ナディ。 ……だけよ? きこえない。 …もう一回だけって言ったの。 …。 それで今夜はおしまい。 分かった? …おしまいなの。 一緒にいるんだから。 …。 …したくなったら、またすればいいじゃない。 …。 …。 ……いえっさ。 …。 …。 …。 …ナディ。 …。 ナディ。 …。 ねぇ、ナディ…。 ……なぁに。 ねむれない。 目、瞑ってればそのうち眠れる。 つむっててもねむれない。 もっと瞑る。 そうすれば ナディのせい。 ……ぱーどぅん? ナディとキスしたから。 …それはあんたも同罪でしょうが。 ナディ…せきにん、とって。 …は? せ・き・に・ん。 な・ん・で。 ナ・デ・ィ・の・せ・い・だ・か・ら。 微妙に長いわ。 …ナディ。 ……。 ねぇ。 ……人の気も知らんで。 ナディ。 …大体、責任って何よ、もう。 ナディ。 ……。 ナディ。 ……。 おはなし、して。 …話? うん、おはなし。 …話ってのなんの話よ、おとぎ話とか? ナディのおはなし。 あたしの? そう、ナディの。 …と、言われても。 賞金稼ぎで、あんたと出逢って、旅して、一時は落ち着いたけど、また旅して。 こんな感じしかないんだけど。 ううん、もっとまえの。 まえ? わたしと出逢うまえのナディ。 ……。 おとこのひとにだまされたナディはしってる。 …それは忘れて良いから。 大体、あたしは騙されたわけじゃ ナディのママ、どんなひとだったの? …。 ナディのかぞくは…。 …エリス、それは。 …。 …。 ……ごめんなさい。 ……。 おこった…? …。 ナディ…。 …怒ってないけど。 …けど。 出来ればあんまり思い出したくない事まで、思い出すから。 …。 ……。 ……ごめんなさい。 …良いわよ。 …。 …。 ごめんなさい、ナディ…。 だから良いって。 怒ってないから。 …。 …。 …。 ……Ama llulla. Ama suwa. Ama qella。 …? 嘘を付くな。盗むな。怠けるな。 …。 昔の言葉よ。 …ウィニャイマルカ? そ、同じ言葉。 ばあちゃんの教え、よ。 …ナディの? そう、あたしの。 優しかったけど、厳しかった。 やさしいのに、きびしいの? うん。 …よくわかんない。 悪さをすると叱られたのよ。 …あらくれもの? おいおい、子供の時からそうだったわけじゃないって。 いまはそうなの? 今も違う。 って、話がずれていくんだけど。 お話、おしまいでいいのかな。 もっとききたい。 …ばあちゃんは。 クイが好きで。 クイってなに? ねずみ。 …ねずみがすきなの? そう。 ばあちゃん、山の人だったから。 その昔は貴重なたんぱく質源だったんだってさ。 ……おいしいの? 美味しかったよ。 ばあちゃんが料理すると。 …どんなあじ? 鶏肉に似てる、かな。 …。 何よ、その顔。 …ふぅん。 こらこら、人をげてもの食いのように見るな。 そうだ、エリスも一度食べてみれば良いよ。 …いらない。 贅沢なヤツめ。 …。 そもそもクイってのは食用なの。 家で飼ったりもするのよ。 ナディの家にもいたの? いたよ。 ……。 野菜くずをあげたりしたっけ。 …。 こぉら、エリス。 …おもしろいね。 面白いのかな。 もっと、はなして。 …え、と。 ばあちゃんは山の人だったけど、ママは違ったの。 どこのひと? ココペリって覚えてる? おじいちゃん。 かえりによったけど、いなかった。 うん、あれは吃驚した。 ココペリがなに? ココペリの話はママから聞いたのよ。 …ふえ? そう、笛。 上手に吹けばココペリが来てくれるってね。 …。 ココペリはママの故郷に伝わる話で。 それを聞いた時、あたしは …ちいさなナディはいっしょうけんめいれんしゅうしたんだよね。 …よぉく、知ってるな。 だってあったから。 …ほ? あったの。 ちいさなナディと。 …いつ。 おじいちゃんのところで。 じいちゃんって、ココペリの? うん。 ……逢った記憶、無いんだけど。 でも、あったの。 ふえ、ふいてた。 ………。 いまみたいにポンチョ、きてたよ。 …。 ちいさくて、かわいかった。 …エリス、眠くなった? ううん。 …。 ナディはママとおばあちゃん、すきだったんだね。 …家族みんな、好きだったよ。 それから村のみんなも…。 …。 …あんたが逢った小さいあたし、ポンチョ着てたんだっけ? うん。 いまみたいの。 …今のやつはあたしが作ったヤツだから。 ナディが? そう、あたしが。 うそはつくな? ……これぐらいは出来るっての。 …。 子共の頃は…ばあちゃんが作ってくれたヤツを着て、ママに貰った笛を吹いてた。 ママは、ママの“ママ”から貰ったんだって。 …。 ……あの頃は。 こうなるとは思わなかったな…。 ……。 …人生なんて、分かんないもんだ。 …ナディ。 …ん。 むかしに、もどりたい? …。 …わたしとあうまえに。 別に? …。 …ま、みんなにもう一度くらいは会いたいかな。 無理だけどね。 …。 ……エリス? …もどったら。 ナディとはあえない…。 …。 ナディは…。 いや、逢うんじゃない? …え。 うん、逢う逢う。 …そう、かな。 多分。 …たぶん、なんだ。 人生はやり直せるもんじゃ、無い。 …。 だから今が大事。 戻るとか、戻らないとか、そんなのはどうでも良い。 あたしはあんたといる今が、一番、大事。 …。 でしょ? …うん! よしよし。 じゃ、今日はこれでおしまい。 えー。 えー、じゃない。 …ナディ。 ん…。 …すき。 ……何度も聞いた。 …ナディはなんどもいってくれない。 …。 …。 …好きよ。 ……なんども、ききたい。 ……今日はおしまい。 また明日。 …いえっさ。 不満げな声を出して。 …。 …これからずっと一緒にいるんだから。 何度も聞く事になるわよ。 …。 焦る旅でもないんだから…。 …かぞく。 ん? わたし、かぞくがいなかったから。 …。 …つくられたそんざいだから。 エリス。 …ナディのかぞく、あってみたかったな。 …。 ……ママってどんななんだろう。 …。 やさしいのに、きびしいってなんだろう…。 …エリス。 …。 あたしは優しくて厳しいつもりなんだけどな。 …ナディ? そう、あたしが。 …ナディはやさしい。 そして、厳しい。 叱る時はちゃんと叱る。 ……。 ん、何かなその顔。 …ナディはわたしのかぞく。 え。 …だったら、いいのに。 ……。 …。 エリスは…その、あたしと家族になりたいの? …なかよしふうふ。 いや、だから…まぁ、良いや。 確かにそういうものとは限らないものだし。 …こいびと。 ……恋人、はちょっと。 …。 なんか、照れる…。 …それだけ? それだけ、て。 ……。 あー…。 ナディ。 …えと。 かぞくになって。 ……。 わたしの。 …。 …。 ……エリス、さ。 …。 結婚でも、いっそしてみる? けっこん? そうすりゃ、晴れてあたし達は家族、かも。 する。 でもさ、例えばあたし以外のそう、誰か良い人が現れたらいつでも いや。 …。 ナディとけっこん、する。 …。 ナディと。 …あたしと。 ナディとかぞくになりたいの。 …。 ナディじゃなきゃ…いや。 ……自分で言っておいてあれだけど。 …。 軽く言っちゃったな…。 …かるく。 エリス、ちゃんと考えた方が良いよ。 …どういういみ。 あたしはエリスが仕合わせになるのなら わたしのしあわせはナディといっしょにいることだよ。 …でも。 ……ナディと。 ナディのあかちゃんと…。 あたしと…て、今なんて言った? ナディと。 その後。 誰の赤ちゃんとだって? ナディの。 ………ぱーどぅん? わたしがうむの。 い、いやいやいやいや、無理だから! 普通に! …むりじゃ、ないよ。 いや、無理でしょ。 女同士で わたし、まじょだから。 ………前にも言ったけど。 男じゃないと できるよ。 ……エリス。 だから。 エリス、そもそも子供がどうやって出来るか知ってて言ってるの? しってるよ。 ……。 ナディ、すごいかお。 ……だったら。 だったら、なに? ……鳥が連れて来るとかじゃないのよ。 それはハポンのおとぎばなし。 ……。 …ナディ。 …力はだめ。 絶対にだめ。 なんで? …大体、結婚もしてないでしょ。 けっこんすればいいの? …。 じゃあ、あしたする。 …無茶言うな。 …。 ……と言うかまだ、キスしかしてないってのに。 …する? し、しないから! と言うか何を…! …しないの? …。 しないの? あ、う。 ……。 と、とにかく。 けっこんしよう? ……その話はまた今度にでも。 ナディがいったのに。 …そうだけど。 …。 ……もしもするなら。 ちゃんとしたいでしょ。 …ちゃんと? そう、ちゃんと。 なにを? な、何を…て。 なに? ……ぷ。 ぷ? …ロポース、とか。 ろぽーず? ……ええい、いいかげんもう寝やがれ。 あ、にげた。 逃げてない。 眠くなったの。 おやすみ。 にげた。 …だから! ……。 ……今度、ちゃんと言うから。 こんどっていつ? 今度は、今度。 …わかんない。 いずれ。 …やっぱりわかんない。 い、今は仲良しな相棒で良いじゃない。 …こいびとじゃないの? だ、だから…。 …ナディ? ……恥ずかしげがないと言うかだな。 だめなの…? なんで…? …ああもうッ。 ナディ…しぃ。 よる、だから。 ……ごめんなさい。 て、周り荒野だけど…。 …。 …。 …なかよしふうふ。 ……んじゃ、それで。 わたしとナディはなかよしふうふ。 ……夫婦って家族なんだけど。 なに? こっちの話。 さ、もう寝られるでしょ。 …どうだろう。 目、瞑ってれば眠くなる。 はい、瞑った瞑った。 …。 いえっさは? ………いえっさ。 ………ディ。 ……ナディ。 …ナディ。 ナディ。 ……。 「Nadie」…。 …ナディ。 …ッ ナディ、ナディ。 …さわらないで! い、た…。 ……。 ナディ…。 ……あ。 だいじょうぶ…? …エリス。 あせが…。 …ごめん、エリス。 …。 痛かったでしょ? ごめんね。 …ううん、へいき。 …。 それより、ナディが…。 …あたしは大丈夫。 でも ちょっと嫌な事を思い出しただけだから。 …。 今となったら大した事じゃないんだけどなぁ。 やだなぁ、あたしも。 …うそ。 …。 ナディ、うそついてる。 …嘘なんて、吐いてないわよ。 うそ。 ……。 わたしには、いえないこと? …大した事じゃないから。 それに聞いたってつまらない事だしね。 つまらないことなんて、ない。 …。 ナディのことだから。 …。 ナディの 「Nadie」… …つぅ。 ナディ? だいじょうぶ? …。 ナ ごめん。 …。 あまり名前を呼ばないで。 今は。 ……。 あはは、参ったなぁ。 なんで今頃…。 …すごい、あせ。 ちょっと暑いね、今夜は。 ぜんぜん、あつくないよ。 よるだから。 …。 ナ…。 …。 …。 …あんたにそんな顔させたいわけじゃないのにね。 ……。 …なきゃないで、困るもんだ。 ……。 …いいよ、呼んで。 …けど。 特別。 …。 だから、大丈夫。 …ナディ。 うん、なに? …だいじょうぶ? …大丈夫よ。 ああ、でも…。 …。 …少し、寄りかかってもいい? …。 いや、ならいいけど。 …ううん、いいよ。 ありがと…。 すこしじゃなくても、いいよ。 …。 ぜんぶ、ナディのぜんぶ、ささえたいから。 ナディがわたしにしてくれたように。 ……。 だか…ら。 ……はぁ。 …。 ……エリスはあったかい。 …。 ……さっきまでの感情が嘘みたいになる。 ……ナディ。 …こんなに、エリスの中で。 ……。 ………落ち着く、なんて。 …うん。 ………。 わたしでいいのなら…ずっと、ずっと。 ………エリス。 …。 …。 …ナディ? ねちゃった…? …残念だけど、起きてる。 このままでもいいよ。 …そのつもり。 …。 ……エリス。 …? なに? …あたしの事、知りたいって言ったよね。 …うん。 どんな事でも? …うん、どんなことでも。 ナディのことなら…どんなことでもしりたい。 …じゃあ、話してあげる。 …。 …あたしはさ、エリス。 …うん。 誰でもないのよ、本当は。 …ナディはナディだよ。 …今は、ね。 ……。 …あの日から。 村が、みんなが焼けてしまった…あの日から。 …ナディはナディじゃなかったの? ……本当はもう、あまり覚えてないんだけどね。 …きいてもいい? …。 ナディは…。 …覚えているのはみんなの温かさ。 自分の事はほとんど覚えてないの。 ……。 なんと呼ばれていたのか…今となってはもう、思い出せない。 …。 だから、「Nadie(名無し)」。 あたしは誰でもない、誰にもなれない。 ……ナディ。 そう呼ばれる事であたしは誰でもない事を否が応にも思い知る、思い知らされる。 誰とも温もりを分ち合えず、仕合わせとは縁遠いところで、賞金稼ぎとして時には人を殺して。 ずっと、そう生きてきた。 ……。 だからもう諦めてた…違う、ないと思っていた。 こんな温もりを手に入れることは。 …。 あたし達が初めて逢った時、エリスは占いのばあちゃんと暮らしていたでしょ。 …うん。 そのばあちゃんが占いをしてくれてね。 あたしは聞いたの、お金持ちになれる?って。 …なれるの? ううん、数奇な人生を送るって言われた。 故郷が焼かれて、名無しになって、生きる為に賞金稼ぎになって。 それだけでもう十分だって言うのにね。 …わたしもいわれた。 かわってるって。 …本当に数奇だった。 …。 あんたと逢って、守るって決めて。 全てが終わって…それから。 …。 …あたしはもう、誰でもない自分に戻れなくなってた。 あたしの名前はナディ、それで良くなってた。 …。 名無しだろうが、誰でもないだろうが。 あたしは“Nadie”としてあんたの傍に居たい。 …なのに。 …。 …なんでまた、あの頃の感情を思い出すのかなぁ。 …ごめんね。 …うん? わたしがむかしのこと、はなしてっていったから。 ……。 …わたしがナディのこと、しりたいっていったから。 ……。 わたしが あたしは仕合わせになりたかった。 …。 金持ちなんかじゃ、ないの。 …。 なりたかったのよ…エリス。 ……ナディ。 誰でもないあたしを…誰も好きになってくれない。 なってくれないと…ずっと、あたしは すき…。 …あたしも誰も好きになれない、なってはいけないと すきだよ、ナディ。 ……。 …ずっと、すき。 ずっと、ずっと…すきだよ、ナディ。 ……。 …ナディはわたしにとってたいせつなひと。 だれよりも…だれよりも…。 …エリ…ス…。 わたしの…ナディ。 ……。 …わたしのしあわせはナディといっしょにいること。 ナディじゃなきゃ、だめなの。 ……う、ん。 ……。 ……あのね、エリス。 …ん。 あたしを…その。 …。 ……愛して。 …。 それだけであたしは…。 …あいしてる。 …。 あいしてる…あいしてるの、ナディ…。 ……エリス。 …。 ……。 …あんたがあたしに名前をくれた。 …ナディ。 あたしは、ナディ。 名無しなんかじゃ、ない。 ……。 …そうでしょう、エリス。 うん……。 あ、いた。 …。 いきなりいなくなっちゃったから、さがしちゃった。 …。 でもよかった。 …なにが? だって、なにもいわないでさよならするなんてさびしい。 せっかくともだちになったのに。 …ともだち? うん、ともだち。 …。 きょうはね、しゅうかくのおまつりなんだよ。 …しゅうかく? うん、パパとかサラとか。 ……。 しらない? …しらない。 えと…いもととうもろこしのことだよ。 …。 それからはい、これ。 …これ、なに。 クイ。 きょうはとくべつだからごちそうなんだ。 これはあなたのぶん。 …たべるの? うん、おいしいよ。 …。 ね、たのしい? …。 あたしね、おまつりだいすきなんだ。 …。 たのしいから。 …。 それにともだちもふえた。 …わたし? うん。 …それ。 ふえだよ。 れんしゅうしてるんだけど、なかなか、じょうずにふけないんだー。 ……あ。 ね、むこうへいこうよ。 みんなが だめ。 え。 …。 どうしたの? にげて。 ……にげる? なんで? …。 あ…。 はやく。 ま、まって、よくわかんないよ。 いいから。 よくないよ。 …。 なにいってるの? にげるってなに? …。 ね …! …? あ…。 にげて、はやく。 まって、あっちにはママが、みんなが…! きじゃ。 あ…あぁ。 はやく、ここから。 ひ…ひが…! …。 どうして…どうして…。 …。 ママ!タタ!! だめ。 はなして! はなしてよぅ!! いっては、だめ。 どうして、だってみんなが! みんなが…!!! ……。 あぁぁぁ…!! ……。 だめ、だめ……。 ……どうせ、すべてやけてしまうから。 …! …。 いやだ…いやだ…! …ッ いかないと…! だめ! …あッ。 …。 な…ん、で。 いったら、やけちゃうよ。 きじゃも。 そんなの…ッ …はやく。 あ、やだ、はなして…ッ …。 ママ…!! タタ…!! おにいちゃん…!! …。 ばあちゃん…ッ!! …。 みんな…みんな、もえちゃう…もえちゃう…!! …。 だれか…だれか、たすけて! みんなを、たすけてよぉ…!!! …。 た…あ。 ……。 …あ、あぁぁ。 …。 ひが、ひがみんなをたべちゃう…。 …。 あぁぁ…!! ……。 …あ。 …。 あ…あ…。 …きじゃもたべられちゃうよ。 ……。 だから。 ……。 こっち。 ぁ……。 …。 …。 …。 …。 ……こっち、にも。 …。 …。 …やっぱり、だめだよ。 あたしはみんなを ……はぁ。 …? はぁ…はぁ…はぁ。 ど、どうしたの…? はぁ、はぁ、はぁ…ぁッ …! はぁ…。 ……ひ、が。 …はぁ、はぁ。 ……。 ……は、やく。 ……。 はやく…! エリス。 …。 エリス。 …。 エリス? ちょっと、どしたの? …なにが? 何がって。 呼んでも返事しないから。 きこえなかった。 ごめんなさい。 あ、いや…別に何ともないなら良いけど。 …。 よし。 んじゃ出発す、る… …。 ちょ、エリス? …なぁに? 何って…。 …ナディ? あんた、なんで泣いてるの…? …わたし、ないてるの? …。 ほんとだ…なんで? いや、あたしが知りたいんだけど…。 ……。 本当にどうしたの。 …なんでもない、とおもう。 なんでもなくて泣くかい。 …。 とりあえず、顔を… ナディ。 うん? …え。 …。 いや、何してん、の…? …だいて。 はい? だいて。 ……。 ナディ。 …あ、いや。 だめ…? だめ、じゃ…ないけ、ど。 …じゃあ。 …。 …。 …。 …ナディ。 …エリス。 ナディ…。 ……いきなり泣いたら吃驚するでしょうが、全く。 …うん、ごめん。 ほんとに…。 ……ナディ、あったかい。 …うん。 ナディ……。 …。 …。 …エリス。 …ん。 えと…もう、大丈夫? …まだ。 …そろそろ、出発したいんですけどー? あとちょっと。 ちょっとって もうちょっと。 …じゃあちょっとだけ、だからね。 うん…。 ……。 ……。 …て、おいこら、寝るなー。 …んん。 心配させておいて眠いだけかい。 …ねむくないよ? じゃ、離れる。 出発するよ。 …。 今日中に町に着きたいでしょ? …いえっさ。 よしよし…て、おい。 …。 …運転、しづらいんですけど。 …。 エリスー。 …なかよしふうふだから。 …。 すき、だから。 …あーもう。 …。 まぁ………いっか。 ……えへ。 こぉら、調子に乗らない。 …いたい。 全く、エリスはわりと甘えたなんだから。 逢った頃は ナディも。 いや、あたしは…。 …。 ……じゃ、行こうかね。 ごまかした。 誤魔化してない。 ご・ま・か・し・た。 ご・ま・か・し・て・な・い。 ちょっと長い。 とにかく、誤魔化してないから。 …。 …じっと見ない。 …じー。 そんな事ばかり言ってると離れさすぞ。 やだ、はなれない。 じゃ、じっと見ない。 ……。 ……。 …ナディ、すき。 …! だから、あんたは… …。 ……ッ …えへ。 ………あぁぁ、もう。 きょうはまだ、してない。 …そうだね、はいはい。 …えへへ。 ……ああ、朝から何だかもう。 …。 ……エリス。 うん? 涙、大丈夫そうね。 …ん。 …エリス。 なぁに? ……ちょっと目瞑って。 ? なんで? いいから! ……いえっさ。 …。 …。 ……はい、いいわよ。 …キス? もう、わけ分からずに泣かないように。 ……だから、まぶた? さ、さぁ、行くわよ。 ……。 それじゃ、ゴー。 ……ナディ。 運転中はだーめ。 …。 ただでさえ、運転しづらいんだから。 ……ナディ、おねがいがあるの。 だからだめだって わたし、いきたいところがあるの。 ……いきたいところ? うん。 どこ? と言うかいきなりね。 …。 で、どこに行きたいの? またリリオのとこ? まさかもう一回ウィニャイマルカ? …。 なんて。 リカルド、今はどこら辺にいるのかなぁ。 この間は… …ナディのむら。 ん、なに? ナディのむらにいきたい。 ………。 ナディのうまれた…。 ……それ、本気で言ってるの。 ……。 エリス。 ……うん。 …とりあえず理由、聞いていい? …。 あたしの事、知りたいから? …うん。 それだけ? …。 嫌って言ったら? …いかない。 …。 …。 …行って、どうするの? 行ったところでどうせ、何もない。 …いって、みたいの。 みたいって。 簡単に言ってくれるわねぇ。 ……ごめんなさい。 ……。 やっぱりだめだよね。 …言ったでしょ。 …? あまり覚えてないって。 …。 どこにあったか。 どう行くのか。 もう、思い出せない。 ……。 だから。 連れて行ってあげたくても、無理。 …ほんとうにつれていってくれるの? 人の話、聞いてた? …ナディはおぼえてない。 そう。 ……。 ま、行ったところで面白くないわよ。 ……わたし、わかるよ。 …。 ナディのむら…どこに、あったか。 …ッ どうして…ッ? ナディ、あぶない。 …わ、ととと。 危なかったぁ。 …。 …エリス。 どうしてあんたがあたしの村の場所を… …なんとなく、だけど。 ……それも魔女の力? ……。 それとも他の何か? …わかんない、けど。 …。 …でもナディがいきたくないなら、もう、いわない。 ……。 ……。 ……ちょっと、考えさせて。 …うん。 ...dos |