エリス、エリスや。
…。
居るのなら、返事をしておくれ。
…なに、おばあちゃん。
日が傾いてきた。
そろそろ、ごはんにしようかね。
…うん。
エリス。
…なに?
あんたが作るんだよ。
…。
さぁ。
でも…わたし、つくれない。
誰だって最初は然うさ。
…。
エリスや、よくお聞き。
…うん。
誰かの為に、作ること。
誰かが自分の為に、作ってくれること。
そして、一緒に食べること。
それはとても仕合わせなことなんだよ。
……。
誰だって最初は上手に出来無いさ。
けれど、やらなければずっと出来ないままだ。
…。
いつか、あんたにも。
作ってあげたいと思う人が出来るだろう。いや、必ず出来る。
その時に何も出来なかったら…どうするんだい?
…わからない。
今は分からないだろうね。
けれどいつか、分かる時が来る。
…。
何にせよ、出来ないよりは出来た方が良いのさ。
…。
さぁ、エリス。
今夜は芋と豆の煮物にするよ。
あんたが作るんだ、良いね。
…でも。
いきなり一人でやらすわけじゃないよ。
安心しな。
…うん。
B u e n A p e t i t o !
あー、お腹いっぱいー。
……。
そんなに辛くもなかったし、財布にも優しかったし。
うん、満足。
……。
ねぇ、エリス。
……。
ん?
……。
エリス、どした?
まさか食べすぎて、苦しいとか?
…。
まさかね。
あんた、あまり食べないもんなぁ。
まぁ、元々食が細いんだろうけど。
ナディ。
うん?
……
なに?
…わたしが。
?
エリスが?
…つくったら。
エリス、何か作るの?
……。
…?
……ごはん。
ごはん?
…。
つかエリス、作れるの?
……。
そういやばあちゃんと暮らしてた時、なんか作ってたね。
スープみたいの。
…。
いつもあんたが作ってたの?
…うん。
そっか。
なんだ、早く言ってくれればいいのに。
…。
あたしは…まぁ、あんたも知ってのとおりだし。
…。
ま、お腹に入れば同じだしね。
毒じゃなきゃ、それでいい。
…さっきの、おいしかった?
うん。
…でも、おなじなの?
うん?
…おなかに、はいれば。
まぁ、ね。
どこも同じような味だし。
あの店のタコスなんか、どこも一緒だし。
……。
エリスさ。
…なに。
作ってみてよ。
…。
エリスのごはん。
食べてみたい。
…ほんとう?
うん。
作ってくれるなら、ね。
じゃあ、つくる。
お。
そしたら、たべてくれる?
うん、食べる。
おなじ、だから?
そうなんだけど。
でも、ちょっと違うかな。
ちがうの?
どうして?
さぁ、どうしてかなぁ。
…ナディ?
そっか、エリスのごはんかー。
…なんでわらってるの?
楽しみ、だから。
…どうして?
作ってもらえるから、かな。
……。
でもエリス、どうしてまたそんなコト思ったの?
…。
ま、思いつきでも嬉しいけどさ。
…うれしい。
誰かの手作りごはんなんて、久しぶりだから。
いや、店のも一応作ってはいるか。
…おみせのごはんはちがうの?
違わないけど。
でも、違う。
…?
よくわからない。
はは。
…なにがおもしろいの?
あんたの顔、かな。
…むぅ。
ふふ。
……。
…でも本当にエリスが作ってくれたら。
ん…。
…嬉しいな。
……。
久しぶり、なんて、もんじゃないからさ。
本当は。
……。
ありがと、エリス。
…まだ、つくってないよ。
そうだけど。
…。
いつでもいいからさ。
気が向いたら、でも。
じゃあ、あした。
明日?
うん。
でもどこで…まぁ、いいや。
じゃ、明日ね。
いえっさ。
うーん、今日はここまでかな。
……。
エリス、今夜はこの辺で野宿。
オーケイ?
……。
日が暮れる前にごはんの支度、しちゃわないとね。
今日は缶詰のとうもろこしでも…
……。
ん?
……。
エリス、何してんの?
ごはん。
ああ。
…。
て、ほんとに作んの?
つくる。
ああ、そう…。
……。
えと、何を作るの。
ごはん。
いや、それは分かったから。
…?
なんのごはん?
……。
ん、いも?
ナディ。
うん?
ひ。
火?
つけて。
いいけど。
ひ、くれちゃうまえに。
オーケイ、エリス。
オーケイ、ナディ。
んじゃ…あの辺がいいかな。
……。
エリス。
…ん。
火、起こしたけど。
こんなんでいい?
じょうでき。
…そーですか。
で?
……。
へぇ、皮むき出来るんだ。
…できるよ。
そっか。
良かった、無駄にならなかった。
……。
買ったのはいいけど、どうにも面倒でさ。
……。
……。
……。
んー……。
……。
じゃ、エリスに任せようかな。
…ん、まかされる。
……。
…なに?
いや、楽しみだなって。
…。
いも、炒めんだ?
いためる?
…まぁ、いいや。
……。
車って、便利だね。
…?
フライパンだの、歩きだったら無理。
…そうだね。
でしょ。
……。
なに、作ってくれるのかな。
…なんでわらってるの。
そりゃ、楽しみだから。
たのしみだと、わらうの?
うん、あたしはね。
かわりもの?
なんでだ。
…ん。
と、危ないか。
火、使ってるし。
……。
…ほんと。
楽しみだな…。
……。
…この際、味はどうでもいいや。
ナディ。
ん?
おまめのかんづめ。
豆の?
あけて。
いえっさ、エリス。
……。
よ、と……。
……。
…はい、これでいい?
うん。
あとは何すればいい?
……。
ない?
…おみず、いれて。
水?
まだ。
…じゃ、入れる時言って。
ん…。
……。
……。
…ねぇ、エリス。
……なに。
まだ?
まだ。
……。
……。
…エリスー。
まだ。
……。
……。
…あーーー。
まだ。
…だから、待ってるじゃない。
……。
ねぇ、エリス。
まだ。
…ちょっと、話さない?
ただ待ってるのも、さ。
…いいよ。
良かった。
……。
エリスは誰に教えてもらったの?
…?
料理、って言うのかな。
……。
ばあちゃん?
……うん。
そっか。
…。
南、行こうとしてたんでしょ?
それなのにばあちゃんと一緒にいた。
それはなんで?
……。
話したくない?
…わからない。
…。
わからない…けど。
…そっか。
……。
じゃあさ、今作ってるの、ばあちゃんに教わったやつ?
…うん。
そっか…。
……おばあちゃん。
うん。
…わたしがいなかったら、しななかった。
……。
わたしが、いっしょにいたから。
エリス。
…いなければ、よかった。
…。
……。
…ばあちゃんはさ。
…。
あんたのこと、優しい子だって言ってたよ。
…やさしくなんか、ない。
あたしも、その通りだと思う。
……。
何考えてるか、いまいち、つかめないけどさ。
…。
あんたは、優しい。
心が柔らかいのかもしれないね。
…ナディ。
……。
……。
…に、しても。
お腹、へったな…。
…もうすこしだよ。
ん、分かった。
……。
じゃがいもの煮物、かぁ。
……。
うん、いい匂い。
おいしそう。
……パン。
うん?
ない。
ああ。
でも、なんで?
…。
…。
……。
じゃがいもはさ、エリス。
…うん。
それだけでも、主食になるもんだから。
…しゅしょく?
そう、主食。
腹がふくれるものってこと。
…。
それにほら、豆も入ってるし。
十分、十分。
…そう、なんだ。
さ、食べよ。
折角、エリスが作ってくれたんだし、冷める前に食べたいな。
…。
食べてい?
…うん、いいよ。
うん、ありがと。
……。
ふふ。
久しぶりだな、こういうの。
…。
……。
……。
……。
…おいしい?
……。
…?
ナディ…?
……エリス。
…おいしくない?
おいしい。
……。
…おいしい。
……どうして。
おいしい……。
…ないてるの。
泣いて…?
…なみだ。
……。
……。
…ねぇ、エリス。
なに。
…気紛れだった、かもしんないけど。
…。
また、作ってよ。
気紛れでも、なんでもいいから。
……。
…また食べさせてくれたら、嬉しい。
……。
…いやなら、いいけど。
……いいよ。
……。
また、つくるね。
…うん、ありがとう。
……。
おかわり、してもいいかな。
…まだ、たべおわってないよ。
そう、なんだけど。
…まだ、あるから。
…。
だから、いいよ。
おかわり、しても。
…うん。
……。
……。
…これね。
…ん。
…チーズ、いれるとおいしいの。
チーズ?
ん…。
ああ、確かにおいしそう。
…あとね。
うん。
カボチャでつくってもいいの。
ああ、カボチャ。
じゃあさ、エリス。
…なに?
今度はカボチャで作ってよ。
エリスが作ったの、食べてみたい。
…。
いつでも、いいから。
作ってくれたら、嬉しい。
…いえっさ、ナディ。
あー、食べた食べた。
すっごく、おいしかった。
…。
満足、満足。
…いっしょ?
うん?
おなかのなかに、はいったから。
…。
いっしょ?
…まぁ、ね。
そっか…。
だけど、思い出した。
…?
ごはんが、こんなにおいしいものだったってこと。
……。
誰かが作ってくれたごはん、誰かと一緒に食べるごはんが。
こんなにおいしかったってこと。
……。
…ああ、そっか。
…なに?
教えない。
…。
…ん?
……。
エリス?
……。
……。
……。
…あたし、ずっと一人でさ。
……。
一人でごはん、食べてきてさ。
お腹に入れば、みんな、一緒でさ。
……。
…いつの間にか。
おいしいとか、感じなくなっちゃってさ。
……。
…だから今、エリスと一緒に旅をしてて。
余裕とかあるわけじゃないけど、それでも。
……。
思えば、あのタコスの味だって。
あんたと一緒に食べたものは…さ。
……。
…あんなに、味がするもんだったんだって。
思い出したような気が、して。
…。
ま、おいしいかどうかは、別としてね。
どこのタコスも似たような味だし。
……。
…教えたよ。
…。
…。
…ナディは。
…うん。
みかくおんち?
…おい。
ん。
そういう話を、してたんじゃないんだけど。
…ちがうの?
違います。
…。
…あーあ。
なんか、力抜けた…。
…ふふ。
お……。
おもしろいね。
…何が。
ナディが。
…あのな。
ふふ、ふふ。
……まぁ、いいけどさ。
ナディ。
なに。
わたしも、おいしい。
…。
…ナディと、いっしょだから?
あたし、賞金稼ぎだけど?
エリスはしょうきんくび?
…。
…。
…あは。
ほんと、面白いかも。
…おもしろい?
うん、面白い。
…そっか。
よかったね。
あんたもね。
…ん。
エリス。
…なに。
また、作ってよ。
…つくるって、いったよ。
うん、そうだった。
…やくそく?
約束、か。
じゃ、約束。
うん、やくそく。
・
……約束、か。
ナディ。
エリス。
ごはん。
あぁ、もうそんな?
うん、もうそんな。
そっか。
…。
ん、なに?
…躰、どう?
んー、まぁまぁかな。
て、さっきまで一緒にいたでしょうが。
……。
そんな顔、するな?
…。
今はただ体力が落ちてるだけだから。
大丈夫って言ったら、大丈夫。
…うん。
それで?
ごはん、なに?
…。
エリス?
…なんだと思う?
んー……。
…分からない?
おいしそうなにおい、ってのは分かる。
……。
で、ごはんなぁに?
…あのね。
鳥肉のシチュー!
…あたり。
ごはんもあるんだ。
うん、あるよ。
わぁい、やった!
…ナディの好きなもの。
うん、好き。
ナディ、好きなのいっぱいあるね。
うん。
…。
ねぇ、エリス。
あまり辛くしてないよ。
さすが、分かってる。
ナディの事だから。
ふふ。
…食べる?
うん、食べる。
食べたい、おなかすいた。
じゃあ…どうぞ?
やった。
…ふふ。
エリスも一緒に食べるでしょ?
…。
食べよ。
…一緒じゃないと、おいしくないから。
ん。
それから。
食べたいって、思えなくなっちゃから。
……。
…ん、ナディ。
もう、一人にさせない。
…しないで。
…。
しないで…ナディ。
…うん、しない。
……。
…食べようか、一緒に。
うん…。
牛肉野菜炒め、豚肉とじゃがいもの煮込み、
豆入り焼き飯、キノコのセビチェ…。
…。
じゃがいもとチーズ、コロッケ、トマトのパスタ……。
…くいしんぼ?
あんたが作ってくれたのは、どれもおいしかったな…て。
……もっと、作ってあげる。
うん…。
……ナディ。
今日のも、おいしかった…。
…良かった。
……。
…ナディ、眠っちゃうの?
ううん…。
……。
…おなか、いっぱいになったら。
眠くなってきた…
…。
……こんなの、初めてだなぁ。
こんなの…?
…こんなに、ゆっくりしてるの。
……。
ロベルトやニーナ…あそこにいた時も、ゆっくりしてたけど。
でも、今のゆっくりとは、ちょっと違う…。
…どう、違うの?
なんて、言うかな…。
…ん。
あそこにいた時は、ニーナのごはんばっかりだった…。
…。
でも、今は…エリスのごはんを、たべて。
…ごはんのこと、ばかり。
…。
…ごはん、だけなの?
ううん…だけ、じゃない。
…。
エリスとふたりで穏やかな時間、すごして……。
…。
……夫婦、みたい。
…。
すごく、いとしい…。
…みたい、じゃないよ。
…。
みたい、じゃ、ないの…。
…うん。
ナディ。
…ん?
夫婦の、証。
…。
…ナディが、くれたもの。
本物じゃあ、ないんだけどね…。
…でも、本物だよ。
ん…。
…でも、これがなくても。
…。
私たちは…
…夫婦、だから。
……。
だから、子供が欲しかった…。
…ナディ。
……夫婦、とか、じゃなくてもね。
…。
…欲しい、って、言ってくれたことが、うれしかった。
ナディ……。
…出来てる、と、いいな。
うん…うん……。
…ま、出来てなくても。
ん、ナディ…。
…また、すればいい。
……。
ふぁ……。
…少し、眠る?
う、ん……。
…寝ても、いいけど。
ん…。
…ちゃんと、起きてね。
……もちろん。
…。
もう、泣いてる子の、あたまをなでられないのは、いやだ…。
……。
…と言うかもう、泣かせたくない。
……すき。
ん、エリス…。
…だいすき。
…。
ねぇ、だいすき…。
…ん、あたしもだいすき。
……。
ありがとう、エリス。
…ありがとう、ナディ。
やくそく、まもってくれて…。
…やくそく?
ごはん、ずっと、つくってくれて…。
…。
…あの時は、こんなずっと、いっしょにいられるなんて。
おもって、なかった…。
…。
…かぞくに、なってくれるなんて。
…。
ね…いっしょに、ねる?
うん…。
じゃあ、おいで…。
…いえっさ。
・
うん?
…これ。
なに、欲しいの?
うん。
……。
…だめ?
うーん。
…おかね、ない?
いいよ。
…。
欲しいんでしょ、その本。
最近買ってなかったし、いいよ。
…うん。
でも、本当にそれでいいの?
…?
それ、料理の本じゃないの?
……。
絵本とか…恋愛の話はあれだけど、物語じゃなくていいの?
…これが、ほしいの。
そ。
じゃ、買おっか。
…。
ほら、おいで。
いえっさ…!
……。
……。
…エリス。
…。
面白い?
…。
エリスー、聞いてるー?
…なに、ナディ。
それ、面白い?
…。
…。
…。
…もう、いい。
ナディ。
…うん?
ナディのすきなの、どれ?
え?
つくって、あげる。
…エリス。
うん?
…そうだなぁ。
ちょっと見せて。
うん。
んー……。
…。
…んー。
……。
…どれも、好きかな。
辛すぎるのは食べらんないけど。
どれも?
うん。
嫌いなの、ないから。
…そう、なんだ。
でも、旅をしてたら。
難しいかな。
…。
この間の煮込みはじゃがいもと豆、だったけど。
…。
材料、揃えられない。
生肉なんて、腐っちゃうし。
……。
ああでも。
…なに?
買って、すぐに料理すればいいんだ。
それなら、なんとかなるかも。
…。
あ。
…ん?
これ、食べたい。
…どれ?
チキンライス。
…すき?
うん、好き。
……。
ほんとはごはんが好きなの、あたし。
タコスより?
そう、タコスより。
…そっか。
じゃあ、つくる。
ん、楽しみにしてる。
…えへへ。
ねぇ、エリス。
…なに?
ごはん、あたしに作ってくれる為に。
…。
…この本、欲しかったの?
……。
…。
…やくそく、したから。
…。
やくそくは、まもるものだから。
…それも博士が?
ううん、おばあちゃん。
…ああ。
それから、ナディ。
あたし?
うん。
…そんなこと、教えたっけ。
わたし。
…。
…あんまり、しらないから。
…。
おばあちゃん、もっとおしえてくれるっていったの。
でも…
…そっか。
ん。
…ありがと、エリス。
すごく、嬉しい。
…ナディ。
あーあ。
…。
すごい、楽しみになってきた。
…ねぇ、ナディ。
ん…ああ、ごめんごめん。
…あ。
ん?
……。
エリス?
…いやじゃ、ないから。
…。
あたま…ナディに、なでられるの。
……。
…だから。
エリス。
…ん。
ありがと。
……うん。
……。
……。
……。
…なに?
…?
みてるから。
…見てた?
ん…。
…。
…。
…おなか、へったなって。
もうすこしだよ。
…うん。
……。
……エリスは、さ。
なに…?
結構、料理出来るんだなって。
…できるよ?
本を見て、それを覚えちゃって。
あたしには、出来ないかな。
多分、違うのが出来上がる…と思う。
…。
初めてでしょ、それ作るの。
うん。
…。
…。
…なんか、意外で。
…。
ほら、世間知らずだからさ。
……。
……。
……。
あの、さ…。
…なに。
博士と一緒だったころも
…しらない。
…。
おぼえてない。
…そっか、ごめん。
……。
…ごめん、エリス。
……いいよ。
…。
…。
……いいにおい。
ナディは。
…ん?
くいしんぼ。
……。
…くいしんぼ。
うん、そうかも。
…。
…エリスと一緒にいれば。
ごはん、作ってもらえるのかな…。
…。
…手作りのごはん、食べられるのかな。
……。
…なんにせよ。
ウィニャイマルカまで、なんだけどさ…。
……。
…エリス。
……なに。
おなか、すいた…。
…もうすこし。
うん…。
……ナディ。
ん…。
……ナディの、いうこと。
…。
きく、から。
…え。
ウィニャイマルカに、ついたら。
ナディ、そういったから。
……。
…だから。
…っ。
あ。
……。
…ナディ。
……ごめん。
…。
ごめん、火、使ってるのに。
…ううん。
……あたし、変だ。
うん…。
…。
…きょうのナディ、へん。
……うん。
…。
…。
…はなして?
……いえっさ。
…。
…。
…ナディ。
…。
もう、できるよ。
……うん、エリス。
……。
・
……。
…ィ。
……。
…ナディ。
……。
ナディ、ナディ…。
…エリ、ス。
ナディ……。
…どし、た?
……。
ん……?
……。
…どうしたの?
……。
…ちゃんと、おきたよ。
うん…。
もうねぼうは、しない…。
…。
…しない。
……う、ん。
…。
…。
ね、エリス…。
……なぁ、に。
今なら、起きられそうな気がする…。
…。
ちょっと、手伝ってよ…エリス。
…いいよ。
ありがと…。
……。
んー…。
……どうすれば、いい?
足、なまってると、思うから。
…。
立つとき、ちょっと、支えてほしいかな…。
…いえっさ。
あぁ、でもその前に。
…?
あたしの上に乗ってよ、エリス。
…。
あんたを、感じたい。
…でも。
だいじょうぶ。
……のらなくても。
前は、言わなくても、乗ってたくせに。
……。
…早く、エリス。
う、ん…。
……。
…だいじょう、ぶ?
あぁ…。
…ナディ。
やっぱり、いいな…。
…。
…あの、旅が終わって。
終わっても、一緒にいる…。
ナディ…。
…なんでか、分からないけど。
…。
あんたと、あの旅をしてた頃。
あんたがごはんを作ってくれるようになった頃。
その頃の夢を、こうなってから、よく見るんだ。
…。
…色々、鈍ってるのかな。
そうかも…。
…こいつ。
だって…。
…ん、エリス。
……だいて、もらえないから。
…。
…。
…ばぁか。
ナディ、くいしんぼだから。
…だから?
だから…。
…。
…エリスのこと、たべないとだめなの。
……。
……くいしんぼ。
つまり、欲求不満って言いたいのか…。
…ふふ。
どんだけだ、あたしは…。
…ナディは、くいしんぼ。
分かったって、もう…。
…そのままで、いてね。
あ…?
…そのままで、いてほしい。
…。
…。
…ばーか。
ん……。
待て!
はぁ、はぁ、はぁ…。
そっちへ行ったぞ!
…はぁ、はぁ。
逃がすな!
……く。
捕まえたら、ただで済ますな!
……もう、すこし。
あんなクソガキ、野放しにしとけばまた盗るに決まってる!
…もう、すこしで。
いっそ、殺してしまえ!
あんな浮浪児一匹、死んだところで誰も何とも思わねぇ!
……くえ、る!
闇へ逃げろ。
闇へ、闇の中へ。
あたしを隠す、隠してくれる場所へ。
光が届かないところへ。
はぁ、はぁ……。
……。
…やっ、た。
……。
…ざまぁ、みろ。
…。
はは、あははははは。
……。
…はぁ。
……。
もう、光の中を歩かない。−歩けない。
もう、光が射す場所へ行かない。−行けない。
もう、二度と。
……あ、れ。
……。
あじが、しない…なん、で。
……。
…あ、あはは。
……。
…なんだ、これ。
ぜんぜん、おいしくない……。
……。
まぁ、いいけど……くえれ、ば。
……。
……。
……。
……う。
……。
うぅ…うぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁあああ。
……。
あぁ…ぁぁあ。
…なかないで。
…!
だれだ…!
……。
うぅぅ……。
…こわがらないで。
……。
まって、いかないで。
……。
まって、おねがい。
……。
…おなか、すいてるんでしょう?
……。
おいで…わたしのところ、へ。
……。
…おびえないで。
ひかりは、あなたを……。
ナディ…。
……う。
…。
…あれ。
……。
また、ねてた…?
…うん、ねちゃってた。
そっか…。
…ナディ。
ん、エリス…。
……。
なんか、寝てばかりだなぁ…あたし。
…うん。
でも、ちゃんとおきてる…でしょ?
やくそく、したから…
…。
ナディ…。
……はぁ。
ナディ…?
…光だな、て。
…?
まだ、明るい。
良かった。
…ほんの少し、だったから。
うん?
…ねむってたの。
そっか。
…ん、ナディ。
さて、起きるかな。
そろそろ、寝てばかりも飽きた。
……。
エリス。
…ん、手伝うね。
うん、ありがとう。
…ううん。
んーーーーーーー……。
…。
やっぱり、外は良いなぁ。
…ん。
少しずつ、動かしていかないと。
完全に鈍っちゃってるから。
…旅、続けられないね?
うん。
…ねぇ、ナディ。
ん?
…。
なに、エリス?
…ごめんなさい。
…。
……。
ねぇ、エリスさ。
…なに?
ごはん、次はなに作ってくれる?
…。
楽しみ、だから。
…くいしんぼ。
食べないと、動けない。
…。
旅。
あんたと二人で続ける為に、さ。
…ナディ。
オーケイ、相棒?
…オーケイ、相棒。
で、なに作ってくれる?
…。
ん?
ナディが、一番好きなもの。
一番好きなもの?
何が一番好き?
一番、一番ねぇ。
うん、一番。
そうだなぁ……。
……。
んー……。
……。
…やっぱ、あれかな。
なぁに?
あんたと一緒に食べる、ごはん。
…。
それが、一番。
…じゃあ。
うん。
私が作らなくても、いいんだ。
え?
…私と一緒なら。
あの、タコスでも。
……。
…なんでも、いいんだ。
そんなの。
…。
なんでもいいわけ、ないじゃない。
…でも、言ったよ。
あのさ、エリス。
…。
あたしはあんたが作ってくれるのを前提で、話してたつもりなんだけど。
……。
あんたが作ってくれるのは、みんな、おいしい。
だから決められない。どれも一番、だから。
…一番、なのに?
そう、一番なのに。
…変なの?
それだけ、好きなのよ。
すき…。
…そ、好き。
……何が、好きなの。
……。
教えて…ナディ。
…どうしても?
どうしても…。
…。
ん、ナディ…。
…あんた、が。
……。
好き、だから。
…。
…オーケイ?
うん…オーケイ。
それは、良かった。
…ナディ、あつい。
久しぶりに外に出たから。
…それだけ?
それだけ。
…本当に?
本当に。
……。
……。
…ふふ。
あのね、ナディ。
ん…?
鶏肉のスープ。
…。
作るね。
そっか。
うん。
あれ、汁も麺もあんたが作るとすごくおいしいのよね。
うん、楽しみ。
ナディ。
なに、エリス。
楽しみ?
ん、楽しみ。
ふふ。
…なに。
いっぱい。
うん?
早く、元気になれるように。
いっぱい、召し上がれ。
初めてにしてはまぁまぁだね。
…。
あんたは見込みがありそうだ。
続けていけば、上手になるだろうよ。
…おばあちゃん。
基礎さえ覚えてしまえば、後は応用だ。
それは自分で何とかするんだよ。
…おしえて、くれないの?
そればかりは自分でなんとかするしかないね。
…。
明日からあんたには幾つか料理を教えていく。
数は多い方が良いからね。
…。
エリス。
…なに。
美味しいかい?
…。
どんな美味しいものでも、一人で食べると、味気が無いものになる。
酷いと、何を食べても味がしなくなってしまう。
味覚をどこかに置いてきてしまうんだよ。
…。
あんたが若しもこの先、そういう人と出逢う事があったら。
あんたが思い出させてやると良い。取り戻してやると良い。
…。
…近いうちに出逢うだろう、その人の為に。
あんたは覚えておくべきなんだ。
……。
これでパンがあると良いね。
…あした、かってくるね。
ああ、そうしておくれ。
…うん。
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