我ながら、妙なのに懐かれたと思う。
…。
…。
…あんたさぁ。
なに?
どこまでついてくる気?
どこまで?
そう、どこまで。
ナディはどこに行くの?
あたし?
そう、ナディ。
…どこだって良いじゃない。
そうなんだ。
そうよ。
じゃあエリスもどこだっていいよ。
…は?
連れ出してくれるって言ったから。
…いや、あれは。
あれは?
…だから、
約束。
だから、
したよ。
それはあんたが勝手にそう思っただけで、あたしは
……。
…ああ、もう。
どこにいくの?
…時間つぶし。
時間つぶし?
そ。
分かったなら、
でもいない方が良いって言ったよ?
…。
ナディ?
…あーもう。
じゃ、好きにすれば。
いえっさ。
…でも。
あたしの後を、どこか当たり前のような顔をしてついてくるそいつが、妙に可愛いと思ってしまうのはなんでなんだろう。
たく、階段を上るのも億劫だってのに。
行き着いてもおなかがふくれるわけでもない、だから、これ以上の消耗は勘弁して欲しいってのに。
ついてくるエリスをちらりと見やれば、その手が何かを持っているわけで。
この時間に持っているモノと言えばきっとあれに違いなんだろうけど…それに対してあたしは手ぶら。ま、これはいつものことなんだけど、さ。
あーあ…いっそ、貰っちゃおうかな、それ。
などと薄ぼんやり思いながら、昼休み時の最早指定場所とも呼べる場所に妙な転校生をつれて向かう。
ちらちらと視線が刺さるけど、どうでもいい。どうせ、物珍しいとかそんなのに決まってるし。
つか、あたしだけならそんなに珍しくもなくなっていただろうに。
ガイジンの新顔、それを不本意ながらも連れて行くガイジンのあたし。
…何がそんなに面白いんだか、こいつらは。大体、あんたらもこの国から出たら、ただのガイジンだっ…
ぐぅ。
なんの音?
音なんか、してない。
おなか?
気のせいだ。
…ふぅん。
…ああ、くそう。
せめてもの救いは、今日、体育がなかったってコトぐらいだ。
ここ?
そう、ここ。
へぇ。
イヤなら
イヤじゃない。
…あ、そ。
ここ…。
…。
空が、よく見えるね。
…屋上、だしね。
屋上…。
そう、屋上。
今の時期だとちょっち、寒いけど。
…うん、寒い。
イヤなら、
イヤじゃない。
…ちょっと。
こうしてれば、寒くない。
…。
寒くないよ?
…そうかもしんないけど
ナディが。
あ?
…ナディが、教えてくれたんだよ。
あたしが?
…。
あんたとは今日、初めて会ったんだけど。
…。
転校生。
…そうだったね。
何言ってんだか。
ほら、離れて。
…。
…エリス。
うん…。
……う。
…。
……。
…寒い?
慣れてる。
…。
…あそこ。
どこ…?
あそこが、あたしの場所。
本当なら
私達の場所?
…こいつ。
ガイジン、同士。
…。
…だめ?
あーもう、良いわよ。
おいで、エリス。
いえっさ。
それから。
ガイジンって言葉、あたしはあんまし好きじゃない。
じゃあ、もう言わない。
…あ、そ。
うん。
そのフタをぱかっと開ければ。
そこにはそれはもう、三大欲の一つを大いに刺激してくれる光景が広がっているわけで。
…。
…。
…ナディ。
…あ?
ごはん、食べないの?
食べないの。
どうして?
どうしても。
なんで?
なんでも。
今はお昼休みなんでしょ?
あーそうね。
お昼休みはごはんを食べるんじゃないの?
だから、食べればいいじゃない。
ナディは食べないの?
食べない。
どうし
だから、どうしても。
…。
…。
…。
…ほら、食べるならちゃっちゃと食べちゃいな。
…。
…。
…。
…時間、なくなるわよ。
…。
…。
…それ。
…。
誰が、作ったの。
…だれ?
弁当。
おいしそうね。
おいしそう?
うん、おいしそう。
ほんと?
その卵焼き…いやオムレツかな。
なんて特に。
…!
ん?
あげる。
…は?
ナディにあげる。
は、なんで?
食べて。
いや、だからなんでよ。
あんたの弁当でしょ。
うん、私の。
じゃあ
ナディ。
…。
ナ
いらない。
…。
あんたの弁当でしょ。
ちゃんと食べなさい。
…。
ほんとに時間、なくなるわよ。
…。
なくなっても知ら
ぐぅぅぅぅぅぅぅ。
あ。
……。
おなかの音?
…違うわよ。
おなか。
だから違うって。
おなか、空いてる?
空いてません。
でも、なったよ?
なってません。
ここに来る途中でも。
なってないって言ってんでしょーが。
でも、聞こえた。
聞こえたよ、ナディ。
…つかなんでそんなに嬉しそうなのよ、あんた。
嬉しそう?
…人の腹の音聞いて、そんなに楽しいのか。
やっぱり。
…。
ナディ。
……いらないわよ。
がんこ?
やかましい。
つか転校初日だってのに、どうしてあんたはあたしに
いっしょ、だから。
…いっしょ?
いっしょ。
ガイジンだから?
それは好きじゃないって言ったよ。
…。
…だからもう、言わない。
……。
……。
…あのアホ担任が言ったコトなら、あんまり真に受けんな。
面倒だから。
オムレツ。
…いや、だからだな。
あげるね?
…。
…。
…ね?
……ああ、くそぅ。
…。
こんなんじゃ全然足りないのよ。
うん。
うんって、あんたね。
けど今はこれだけしかないから。
…。
今は。
……もう面倒になってきた。
んじゃ、それ、貰うけど後で文句言わないでよね。
言わないよ。
もう、ナディにあげるって決めたから。
…。
はい、ナディ。
……いただきます。
どうぞ。
……。
…。
……。
…おいしい?
……おいしい。
ほんとう…?
…嘘なんか、言うか。
…。
…おいしいわよ。
うん…よかった。
…変なヤツ。
よかった、ともう一度小さく呟きながら嬉しそうな表情を浮かべている転校生エリスに、教室で感じた変なドキドキを思い出して、目を逸らす。
ほっぺたが無駄に熱い。空気は冷たいのに。あーもう、意味が分からない。
確かにオムレツは、おいしかった。おいしかったのだ。丁度、あたし好みの味で。
あたしはどちらかと言うと、ふわふわした半熟のもより、きっちりと卵が固まっている方が好きだ。
と言うのも、半熟の卵には良い思い出がないのだ。主に腹の関係で。あの時は酷い目に…て、あれ、いつだっけ。
まぁ、良いや。今はそこじゃないし。
で、エリスのオムレツ、誰が作ったんだか分からないそれは、まさに丁度良い……え、と、日本語でなんて言ってったっけな。
塩と……松、じゃなくて、え、と……梅?まぁ、なんだ。そんな感じだったわけだ。
中身のじゃがいもは冷めているクセにほくほくで、味は辛いわけではなくて、卵にはほんのり甘いトマトケチャップがかかってて。
どこを取っても、あたしの好みそのもので。
また、作ってあげるね。
…うん。
約束?
…て。
これ、あんたが作ったの?
?
そうだよ。
えー…。
確かに、だ。
もう一度、食べたいかな…なんて、思ったけどさ。
思ったけどさ、まさかコイツが作ったなんて、思ってなかったわけよ。
思ってなかったのに、思ってなかったのにさ。
また、作ってあげる。
…あ、そ。
どうしてか、ストンと納得してしまった。
ただ腹がすごく空いていて、そのせいで、すごくおいしくて、自分好みの味に感じちゃっただけかもしんないってのに。
だからそんな自分を認めたくなくて、わざとそっけない返事を返しているのに、コイツときたら。
…。
…じぃっと見るなって。
嬉しそうに、してるのだ。
このくそ寒い空の下で、くっつくなって言ったのに、いつの間にかそっとくっついてきていて。
でもあたしはそんなエリスから離れなくて、離れろとも言わないで。言えないで。
なんていうか、なしくじ…なしずし?そう、確かそんな感じだ。
そのうち、指なんか絡めあって。
…さっさと、食べなよ。
うん…。
制服越し、そんでもって指先からはじかに、伝わってくる、エリスの体温、に。
あたしは、空腹すら、忘れてしまいそうな…
ぐぅ。
またなった。
…気のせい。
ふふ。
……あーもう、ちくしょ。
オムレツ、が食べたい。あったかいのが、食べたい。おなかいっぱいに食べたい。
いっそ、オムレツじゃなくてもいい、おなかがいっぱいになれば!
ちがうのも、作ってあげるね?
……。
だからって、あんたが作ったのなんて、一言も、言ってないんだけど…!
思って、ないんだけ、ど…!!
約束…。
ああもう!
勝手に、すれば!
うん…勝手にする。
…と、この時は売り言葉に買い言葉?で、つい口が、と言うか感情のままに、言っちゃったわけだけ、ど。
まさか、本当に……と言うのも、また別の話で。
…だから早く、食べろって。
いえっさ…。
…あーあ、もう。
我ながらに妙なのに懐かれたもんだ……。
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