日記
2026年・8月
31日
……ふぅ。
……。
……アミ。
ん……。
……少し、良いだろうか。
とと様……?
……ん、居ないか。
居ます、とと様。
……お。
あの、どうされましたか。
……少しだけ、とと様に時間を呉れないか。
時間……ですか。
……ほんの少しで、良いんだ。
……。
……難しいかい?
私は、大丈夫ですけど……とと様は、お忙しいのでは。
とと様も大丈夫だ……問題無い。
……時間を作って下さったのですね。
アミと、どうしても話したかったのだ。
……私と。
夕食の時でも良いのだろうが、出来る事ならば、直ぐに。
……。
アミ……部屋の中に、入っても構わないだろうか。
勿論です……どうぞ、中へ。
然うか……良かった。
気が付かずに、申し訳ありません。
今、開けます。
あぁ良いよ、自分で開けよう。
ですが。
構わないよ、アミ。
其れよりも、急に来てしまって済まない。
いいえ、いいえ、そんな事はお気になさらず。
勉強をしていたのだろう?
……はい、していました。
ならば、気にしなくても良い。
とと様……。
勉強をしていなくても、気にしないで良いからな。
……然ういうわけには。
其れよりも、応じて呉れて有難う。
……。
ん?
……とと様さえ良ければ、いつでも来て下さい。
あぁ、然うしよう。
だが、配慮はしなくてはな。
配慮なんて……。
年頃の子供達の部屋に、無遠慮に入るものではない。
……其れは。
かか様と話し合って、得た結論だ。
……。
アミ、どうした?
矢張り、迷惑だったろうか。
……あの、とと様。
なんだい、アミ。
部屋に入る前に一度、訪いを入れて下さると……其の、良いと思います。
今みたいにか?
……はい。
うん、分かった。
ならば、訪いを必ず入れるようにしよう。
ごめんなさい……とと様に、こんな事。
いいや、構わないさ。
当然の事だ。
……どうぞ、部屋の奥に。
うん。
……。
マコトは……いや、其の前に。
……とと様?
アミ。
……はい。
此処には、アミと私……其れから。
……マコトは、寝台で眠っています。
あぁ、然うみたいだな……。
……分からないところを教えていたら、眠ってしまって。
頭の中が、いっぱいになってしまったんだろう……気持ちは分かるよ。
……マコトは、とても頑張っていたんです。
うん……頑張ると、疲れてしまうものだ。
……。
なぁ、アミ。
……はい、とと様。
此処には、アミとマコト、其れからとと様しか居ない。
……。
堅苦しい話し方は、しなくても良いんだ。
以前と同じように、話して欲しい。
……其れ。
うん……?
……かか様にも、似たような事を言われました。
ふふ、然うか……。
……。
アミ……?
……とと様は、歳星の王ですから。
王であり……アミのとと様でもある。
……。
いや、アミのとと様の方が先だな……。
……とと様。
城の者達が居る場であれば、其の言葉遣いでも良い……が、親と子だけの時はもっと砕けて欲しい。
幼い頃のように……とまでは、言わないが。マコトと話す時のように、私達にも柔らかい言葉遣いで話して欲しいんだ。
……。
駄目かな……?
……ううん、駄目じゃない。
じゃあ……。
……元服の儀を、前にして。
うん……?
……いつまでも、幼い子供のままでは駄目なのだと。
アミはずっと、とと様とかか様の子だ……其の事実は、未来永劫、変わらない。
……だけど、大人にならなければいけないの。
……。
いつまでも、とと様とかか様……父上様と母上様に、甘えていてはいけない。
……故に、畏まった言葉遣いをしている。
……。
正直な事を言ってしまえば、私達は寂しいんだ。
……寂しい?
急に、アミが遠くへ行ってしまったようで。
……遠くには、未だ。
未だ、という事は……いずれは、行ってしまうのだな。
いいえ、私は行かないわ……とと様とかか様のお傍で、ずっとお支えしたいと思っているから。
アミは今でも、かか様の思いを引き継ぎたいと思っているのかい……?
……はい、引き継ぎたいと思っています。
然うか……。
……ん。
大きくなったなぁ……。
……とと様、あの。
つい此の間まで、とてとてと歩いて、私について……いや、其の頃にはもう、難しい書物を読んでいたな。
……幼い頃からの、願いなんです。
かか様のようになる事、か。
……かか様のようになりたくて、お勉強を続けてきたの。
あぁ……。
……此れからも、続けてゆくの。
良ぉく、知っているよ……。
……私、お勉強が好きで良かった。
好きだからこそ、なのだろう……。
……。
アミが傍に居て呉れるのならば、とても心強く思う……。
……私の力など、些末なものかも知れません。
いいや、其れは無い。
……。
些末なものなど、あるものか。
……もっと、頑張ります。
もっと……?
……もっと頑張って、今よりもずっと。
うん……頑張れ、アミ。
……はい、とと様。
だが、己を追い詰めるだけのような、そんな無理はしては駄目だぞ。
……分かっています。
うん……。
……。
マコトは……起きそうにないな。
……多分、夕食まで起きないと思う。
ふふ、然うか……。
……マコちゃんの寝顔を見ていると、幼い頃の事を思い出す時があるの。
マコトの寝顔は……幼い頃から、ちっとも変わっていないからな。
……マコちゃんの事をずっと、可愛いと思ってた。
其れは……今も、だろう?
……今は、可愛いとも思うけれど。
他にも、あるのか……?
……精悍さも、感じるの。
精悍……成程。
……本当に、大きくなったと。
確かに大きくなった……マコトを肩車して走っていた頃に比べると、倍以上だ。
……背丈だけでなく、筋肉も。
大分、確りとついてきた……だが、まだまだ此れからだ。
……其れから、骨格だって。
骨格……?
……私と違って、骨が太くてがっしりとしているの。
ふむ……。
……とと様に、良く似ている。
昔、とと様も同じような事を言われたな。
……かか様に?
とと様の骨は、太くて折れそうにないと。
……。
言われた時は、いまいち分からなかったが……。
……いつ、分かったの?
ん……。
……言えない?
言えなくはないが……然うだな。
……言えないのなら、言わないで。
アミはマコトの骨が太いと、どうして気付いた……?
どうしてって……躰に、触れているから。
……つまり、然う言う事だ。
あ……。
……抱き締めると、其れが良く分かる。
……。
辰星の民の躰は、歳星の民の其れと比べると、一回り程小さい……其れは、分かっていたのだが。
……骨までは、考えていなかった。
骨など、皆、同じだと思っていた……が、違った。
……加減を間違えると、折れてしまいそうだと。
ん。
……かか様に、言ったのでしょう?
あー……。
……言って、ない?
どうして、分かった……?
……マコちゃんに、言われた事があるから。
あぁ……然うか。
……マコちゃんには、私の骨は、とてもか弱く感じられるのだと思う。
か弱いと言うより、守りたいと言う気持ちの方が強いのではないかな。
……か弱いと思うからこそ、守りたいと思うのだと。
ん……。
……とと様は、違うの。
とと様は……愛しいからこそ、守りたいと。
……愛しい。
初めて、己よりも小さくて軽い躰を抱き締めた時……思っていた以上に、愛おしいと思った。
……。
だから、守りたいと思った。
か弱い、とは、思わなかった。
……小さくて、軽い躰だと。
小さくて軽い躰ではあるが、かか様は決してか弱くはない。
……。
アミも良く知っていると思うが、かか様はとても強いひとだ。
……誰も、かか様が持つ知識量には敵わない。
知識の量だけではないよ。
……ひとと、しても。
かか様は、とと様よりも強い。
故に、生涯守ろうと思っても、か弱いとは思わない。
……。
歳星の王が番の尻の下に敷かれている、然う言われている事は知っている。
……ん。
其れくらいは把握しているさ。
此れでも、此の星の王だからな。
……嫌ではないの。
かか様の……いや、止めておこう。
……。
顔が少し、赤いようだ……座って、休んだ方が良い。
……えと、大丈夫です。
然うか……?
……うん、顔が少し熱いだけだから。
ふふ……然うか。
……。
マコトも恐らく、か弱いとは思っていないだろう……アミも、強いから。
……そんなに、強いかしら。
あぁ、強いよ……幼い頃から、ね。
……自分では、分からないわ。
まぁ、そんなものだ……。
……。
アミはいずれ、かか様と同等……いや、其れ以上の知識量を持つ事になるだろう。
……私は。
勿論、此のまま勉強を続けていけばの話だが……。
……続けるわ。
であるならば……かか様を追い越す事だって、十分に有り得る事だ。
若しかしたら、かか様が知り得なかった事も、知る事が出来るかも知れない。
……かか様が知らない事なんて。
先の事は、かか様でも知らない。
知りようが、ない。
……先の、事?
然う……先の事。
……。
あぁ、そんな顔をさせたいわけではないんだ……。
……先の事、なんて。
大丈夫……其の時は、未だ来ない。
……だけど、いつか。
済まない……不安にさせたいわけではなかったんだ。
……。
かか様……メルクリウスは、大丈夫だ。
……本当に。
あぁ……本当に。
……。
とと様が言いたかった事は、未来の事だ。
……未来。
知識は過去から現在、未来へと積み重ねてゆくもの……其れは、かか様から教わったろう?
……うん、小さい頃に。
かか様は過去、現在、そして未来……生き続ける限り、知識を重ねてゆくだろう。
……うん。
けれど……どうしたって、限りがある。
……限り。
誰であろうとも、其の時は……必ず、来るものだから。
……。
其の先の未来、其の時に生まれるであろう知識はアミ、君が重ねてゆくんだ。
……私に、出来るの。
出来るさ……。
……。
かか様から知識を受け継いで、未来へと繋げてゆく……其の過程で屹度、かか様が知らない新しい知識を得る事になるだろう。
……あぁ。
アミは其の知識をも重ねて……更に、未来へと繋げてゆくんだ。
……其の先の未来でまた、新しい知識が生まれるのね。
其の知識は……かか様とアミの思いを引き継いだ者達が、未来へと繋げてゆく。
……知識は、積み重ねてゆくもの。
知識の中で屹度、かか様とアミの思いは生き続ける……私は、然う思う。
……とと様の思いは。
とと様の思いは……さて、どうかな。
……生き続けると思うわ。
だが、とと様程度の知識ではなぁ。
……程度なんかでは、ないわ。
ん……。
……とと様は、かか様が知らなかった事を沢山教えたの。
……。
だから……とと様の知識や思いだって……ずっと、生き続けるの。
……有難う、アミ。
あ……。
……。
……あの、とと様。
背丈、少し伸びたな……。
……え。
躰は、痛まないか……?
……少しだけ。
少し、か……くれぐれも、無理をしてはいけないよ。
……うん、分かってるわ。
ん……なら、良し。
……。
起きないな……マコト。
……ねぇ、とと様。
なんだい、アミ。
……マコちゃんは、とと様のように。
大きくなるだろうが、とと様ほどではないかも知れぬ。
……。
あくまでも、マコト次第だ。
……マコちゃん次第?
鍛練を怠れば、とと様を追い越す事は難しいだろうな。
……マコちゃんは屹度、怠らないわ。
然うかい……?
……私とかか様を、守れるようになりたいと言っていたから。
アミは分かるが、かか様を守るのはとと様だ。
……。
ははは。
……とと様は、私達三人を守って呉れるのだろうと思う。
何故、然う思う……?
……だって、とと様だもの。
……。
……そんな事は、ない?
いや……アミの言う通りだ。
……。
マコトは、食べ盛りだから……此れからもっと、大きくなるだろう。
けれど、鍛練を怠れば……ただ、大きくなるだけになってしまう。
……ただ、大きく。
だから、アミ……アミに頼みがある。
……なに。
マコトを支えてやって欲しい。
……マコちゃんを?
言われなくても、しているだろうが。
……。
頼む。
……私に出来る事なら。
アミにしか、出来ない。
……そんな事。
アミの代わりは、何処にも居ない。
……私の代わり。
誰も、アミには為り得ぬ。
……。
だから……アミ。
……ん、分かった。
有難う……そして、済まない。
……どうして、謝るの。
いつか、重荷になるかも知れない。
……ならないわ。
……。
……重荷になんて。
なった時は……忘れて良い。
……ならない、なるわけない。
……。
……ならないの。
ん……然うか。
……。
と……前置きが、随分と長くなってしまった。
……前置き?
あぁ……。
……とと様は、お話に来たのよね。
話もだが、お礼も。
……お礼?
桂花茶、とても美味しかった。
……おやつの。
知っているとは思うが、マコトが持って来て呉れたんだ。
……マコちゃんのおやつは、どうだった?
あぁ、美味かったよ。
……然う。
嬉しいかい?
……ん、嬉しい。
アミが淹れて呉れた桂花茶も美味しかった。
……。
然程、嬉しくはないか?
……嬉しい。
うん、良かった。
……有難う、とと様。
此方こそ、有難う。
……明日の事は、聞いてる?
あぁ、聞いているよ。
……とと様は。
勿論、一緒に過ごす。
……良いの、かか様とのお茶の時間に。
良いに決まっているさ。
……。
ジュピターも来るぞ。
……ジュピターも?
とは言え、あいつは窓の外からだが。
……其れでも、嬉しい。
ふ……。
……なぁに。
あいつが知ったら、喜ぶだろうな……と。
……ねぇ、とと様。
ん……?
……かか様の体調が良くなったら。
うん……外で、お茶の時間を。
……。
さて……そろそろ、戻らねばならぬ。
……はい、とと様。
では……また、夕食の時に。
はい……夕食の時に。
……。
……。
……マコトはとうとう、起きなかったな。
ふふ……はい。
30日
……然うか、分かった。
んー。
より一層の警戒を、決して気を緩めてはならぬ。
ほんの僅かでも何かあらば、直ぐに知らせを寄越すように。
んーー。
然し、何を考えているのか……未だに、良く分からぬ。其の意図は、何処にあるのか……太白の目的ならば、分からなくもないが。
とは言え、腹の底までは読み切れぬ……今以て辰星への思惑も捨ててはおらぬようだし、全く、厄介でしかないな。
んんーーー。
あれ以来、目立った動きは見られなかった……今の其れについても、目立った動きかと問われれば、然うとは言えないだろう。
けれど、今までとは違う何かを感じる……其の何かとは、何か……強いて言葉にするならば、気配の違和感。
んーーーー……あ。
辰星と共に問い掛けたところで、返答はただの一度も無い……何処までも、静かに佇んでいるだけ。
いた、見つけた。
姉姫殿とも、話しておかねばなるまい……あぁ、メルクリウスにも同席してもらうつもりだ。
メルクリウスが居て呉れた方が、話がまとまり易い……あぁ、然うだ。彼の者は此の星にとって、疾うの昔になくてはならぬ存在になっているのだ。
ふん、ふん。
勿論、私にとってもだ。
私の想いは、生涯、変わらぬ。
ふーん。
なぁ、ジュピター。
ふふーーん。
いざと言う時は、
とと様、ジュピター。
……うん?
話してましたか?
あぁ、ジュピターと話していた。
忙しいですか?
いや、今は忙しくないかな。
では、少し良いですか。
構わないが、少しで良いのか?
はい、これを届けに来ただけですので。
ふむ、此れは何だ?
見た通り、あたしが作ったおやつです。
へぇ、マコトが作ったおやつか。
かか様とお茶の時間を過ごしたとは言え、そろそろ、小腹が空いている頃だと思ったんです。
ははは、良く分かったな。
分かりますよ、とと様のお腹は良く空きますから。
ぼんやりしていても、寝ていても、とと様のお腹は空くんです。
其れは、生きているからだ。生きている限り、腹は空く。
ひとのこも龍も、生ある者は全て、然ういう風に出来ているのだ。
知ってます。
此れでもな、歳を重ねて幾分かは大人しくなったんだぞ?
いくぶんか、ですか。
応、然うだ。
そうとは思えない。
む。
と、かか様が言ってました。
かか様が……ならば、然うなのだろう。
おやつ、食べますか?
勿論、食べるぞ。
では、どうぞ。
応、有難う。
おいしそうですか?
うん?
あたしが作ったおやつ。
んー、然うだなぁ。
おいしそうでなければ、あげるのはやめます。
何故、然うなる?
なんとなく、です。
なんとなく、か。
どうですか、とと様。
おいしそうですか。
ふ。
分かりました、持って帰ります。
美味そうだ。
ん。
美味そうだよ、マコト。
うれしいですか?
あぁ、嬉しいよ。
マコトがとと様におやつを作って呉れて、とても嬉しく思っている。
そうですか、ならばあげても良いです。
然うか、ならば有り難くもらおう。
うん、ありがたくもらって下さい。
どれ、早速食べるか。
ここで食べるのですか。
流石に、此処では食わぬよ。
立ちながら食べていたなどと、若しもかか様に知れたら。
行儀が悪いと、しかれ、しから、しかられます。
あぁ、確実な。
とと様、お話は本当にもう良いのですか。
あぁ、もう終わった。
ジュピター、お前も下がって……あ、下がらない?
はは、そうだよなぁ。
仕方ない、此処で食うか。
ジュピター、実はお前の分もあるんだ。
そっか、匂いで分かってたか。やっぱり、鼻が良いなぁ。
ジュピターの分もあるのか。
だってなかったら、拗ねちゃうじゃないですか。
拗ねは……するか。
ジュピターは、とと様と似てるところがあるので。
言う程、似ていないぞ。
かか様が、言ってたんです。
だから、とと様とジュピターは、似てるんです。
まぁ……かか様が言うのなら、仕方無いな。
なんだい、ジュピター。
ジュピターも、似ていないと言っている。
かか様が言ってたんだ、どちらもかわいいと。
ん。
ん、自分の方がかわいいか?
はは、そうかもなぁ。あ、かもじゃない?
……ん、んんっ。
のどの調子が悪いんですか、とと様。
可愛いかどうかは、此の際、横に置いておこう。
横に置いて、元に戻します。
戻さなくて良い。
横に置いたら、忘れちゃうかもしれません。
其のまま、忘れても良い。
かか様に、持って帰りたいです。
持って帰らずとも、かか様は分かっている。
だから、わざわざ持って帰らなくても良いんだ。
とと様。
なんだい、マコト。
とと様の、どこがかわいいのでしょうか。
ジュピターは、まぁ、かわいいと思います。
さぁ、何処だろうな。
知らないのですか?
あぁ、知らない。
それとも、とぼけているのですか?
惚けても、いない。
かか様に聞けば
聞かなくても、良い。
気になることがあったら、すぐに聞く。
そう、決めているんです。じゃないと、忘れちゃうから。
直ぐに聞かず、先ずは己の頭で考えてみる事も大切だ。
考えているうちに、忘れちゃうんです。
然ういう時は、何かに書いておけば良い。
但し、此度の事は書かなくて良い。
書いたことを、忘れます。
……アミに教わった事は。
忘れるわけないです。
……かか様に、
忘れないです。
……とと様に
わりと忘れます。
……マコト。
はい、とと様。
出来れば、とと様の言葉も覚えておいて欲しい。
多くでなくても、構わないから。
覚えていることも、一応、あります。
例えば、どんな事を覚えている?
ごはんの作り方です。
あぁ、其れはちゃんと覚えているな。
あとは、鍛練。
うん、良いな。
他のことは
他の事も成る可く、覚えておいて呉れると助かる。
……。
マコト、聞いているか?
まさか、上の空ではないよな?
小さい頃、とと様に良く遊んでもらった事は憶えてます。
……。
だから、今度はあたしがとと様をおんぶして走ります。
……とと様は、肩車だったが。
おんぶもしてくれました。
……したな、確かに。
あ、もしかしないでも、忘れてましたね。
いや、忘れてはいない。
そうかなぁ、忘れてたと思うけどな。
マコトは躰を動かす遊びが特に好きだった。
躰を動かすことが、ちっちゃい頃から好きだったんです。
静かに書物を読むアミとは、まさに真逆だったな。
あたしも読みましたよ、書物。
まぁ、読んではいたが。
かか様が書いてくれた書物が好きでした。
今は、どうだ?
今も好きです。
ふふ、然うか。
分かり易いものな。
アミちゃ……アミが書いたものも、好きです。
アミが書いたもの?
あたしが分かるように、忘れないように、書いてくれたんです。
何を書いてもらったんだい?
色々です。
色々とは。
んー。
マコト?
それより、おやつは食べないのですか。
食べながら、聞こう。
……。
此の後、何もないのなら
色々は色々だよ、とと様。
お。
はぁ……つかれる、この話し方。
そんなに疲れるか?
つかれるよ、なんだか口の周りがこってきちゃった。
口の周りが凝る、か……ふ、なかなか面白い表現だ。
とと様だって、ずっと真面目な顔をしてるとつかれるだろ。
うん、疲れる。
其れこそ、顔全体が凝ってしまうようだ。
だから、やーめた。
どうせ、ここにはジュピターしかいないし。
なぁ、マコト。
なに。
堅苦しい事は、苦手か?
あまり得意じゃない、つかれるから。
とと様も、昔は得意ではなかった。
今は得意なの?
いや、今もどちらかと言えば得意ではない。
ふぅん。
ふぅんって、興味無いか。
あるけど、今はそれよりもおやつを食べて欲しい。
あぁ、然うだな。
ジュピターも、少ないけど食べて。
とと様よりは、多いぞ。
ジュピターはとと様よりもおっきいだろ。
なら、とと様よりも多くなきゃ。
と言う事だ、良かったなジュピター。
今日のおやつはさ、桃の甘煮なんだ。
糖は控え目にしたから、あんまり甘くないかもしんない。
糖は控え目か……となると、長くは持たないな。
だけど、かか様とアミちゃんはおいしいって言ってくれたんだ。
だから、おいしいには自信がある。すっごく、ある。
ふたりが美味しいと言ったのならば、期待出来る。
ジュピターだったら一口で食べ終わっちゃうと思うけど、出来れば、味わって食べて。
出来るか、ジュピター。
ジュピターはかしこいから、出来るって言ってる。
はは、然うか。
ならば、一緒に食べようか。
早くしろって、言ってる。
あぁ、分かった分かった。
全く、仕方の無い奴だな。
仕方のないやつは、とと様だって言ってるよ。
はいはい、然うだな。
うん、そうだよ。
マコトはもう、食べたのか。
かか様とアミちゃん、三人で食べた。
かか様とも?
今日は、かか様も一緒だったんだ。
其れは、良いな。
とと様も、一緒に過ごしたかった。
とと様とは、また今度だよ。
今度か、其れはいつになるかな。
明日。
あ?
明日、無花果の甘煮を作るんだ。
明日、なのか?
うん、明日だよ。
明日……かか様も、一緒に?
とと様とかか様と、アミちゃんとあたしだよ。
其れは、いつ。
だから、明日だよ。
明日の、いつだ?
とと様とかか様のお茶の時間。
私達の?
かか様は良いって言ってくれた。
あー……。
とと様は良くないなら、あたしたち三人で
いや、良くないわけではない。
どっち?
明日のお茶の時間は、皆で過ごそう。
あはっ。
ジュピター、お前も来い。
ジュピターも?
窓の外からにはなるが、其れでも良いだろう?
良いって、言ってる。
お茶の時間になったら、また呼ぶよ。
時間は知ってるから、勝手に来るって言ってる。
ん、ちゃんと憶えていたか。
流石だな、ジュピター。
ジュピターは、かしこいから。
……。
とと様?
……なぁ、マコト。
なに、とと様。
此れから、時間はあるか。
……。
ないか?
ないわけでは、ないよ。
と、言うと?
アミちゃんに、講義のことを聞こうと思ってるんだ。
講義?
出たんだ、アミちゃんの講義。
然うか、ではお勉強をするのか。
分からないところがあったら聞いてって、言われたんだ。
分からないところは、分かっているのか?
む。
おっと。
分かるよー。
然うか、済まない。
分からないところを聞くんだから、分からないって言えば良いんだ。
……ん、少し待て。
なんで?
分からないところは、分かっているんだよな。
分かってるよ。
例えば、何が分からなかったんだい?
全部。
……然うか。
あ、でも、分かることもあった。
何が分かった?
……。
マコト?
……なんだっけ。
アミが教えて呉れた事は、覚えているのではなかったのか。
んー……なんだっけな。
……まぁ、此れからだな。
それより、おやつだよ。
ジュピターもまだかって、怒ってるよ。
あぁ、然うだった。
とと様とジュピターが食べ終わるまで、ここにいる。
居て呉れるか。
しかたないから。
ふ。
なに。
其の言い方、かか様に似ているな。
だって、あたしはかか様の子だから。
とと様の子でもあるぞ?
知ってる、良く似てるって言われるから。
マコトとアミは、間違いなく、とと様とかか様の子だ。
ふぅぅん。
どうでも良いか、然うか。
良かったって思ってるんだ。
良かった?
とと様とかか様の子で。
……。
なんでかは、分からないけど。
……其れでも、良いさ。
早く食べてよ、とと様。
ん、分かった。
では、頂きます。
うん、召し上がれ。
……お茶は、ないのか。
あるよ、飲む?
出来れば、飲みたいな。
そっか。
……ジュピター、美味いか。
はい、とと様。
応、有難う。
ジュピター、おかわりいるかい?
あるのか、おかわり。
ん、あるよ。
とと様には
あんまり、ないよ。
……まぁ、良いが。
ジュピター、おいしいだろ?
……。
ははは、そうだろ?
なんせ、あたし特製だからな。
……うん、美味いな。
うまい?
あぁ、桃の程良い甘みが美味い。
薄麦餅は?
まぁ、待て。
今は、
薄麦餅も早く食べてよ、とと様。
あぁ、分かった分かった。
……。
ん……じっと見ていなくても、良いぞ。
じゃあ、横目で見てる。
横目?
とと様が得意。
……かか様から、聞いたのか。
アミちゃんと聞いた。
……確かに、とと様は横目で見る事も得意だ。
それで、かか様が食べてるとこを見るんだろ?
……かか様には、お見通しだったけどな。
かか様が分からないわけ、ない。
ふ……全くだ。
……。
さて……。
……。
……薄麦餅は、まぁまぁだな。
まぁまぁ?
悪くはない。
おいしくない?
いや、悪くはないだけだ。
それは、おいしくないんだろ。
美味しくないわけではない。
どっちなのさ。
どちらかと言うと、美味い。
……。
はは、良く分からないか。
……分かんない。
悪くはない、は、美味しくないという意味ではない。
取り敢えず、今は其れだけ憶えておけば良い。
むぅ……。
ジュピター、美味かったか?
はは、然うか。明日も楽しみだな。
……とと様。
うん?
明日は、おいしい薄麦餅を作る。
明日も、薄麦餅なのか?
違うけど、とと様だけ薄麦餅にする。
待て待て、どうしてとと様だけが薄麦餅なんだ。
おいしいって、言わせたいからだよ。
かか様とアミには、何を作るんだ?
あんみつ。
餡蜜?
無花果のあんみつ。
とと様も、餡蜜が良いな。
だめ、とと様は薄麦餅。
じゃあ、餡蜜も
ふたつはだめ、どっちか。
……ふたつは、食べ過ぎか。
食べすぎると、お腹が痛くなる。
とと様のお腹は大丈夫だぞ。
とと様だけふたつは、こーへーじゃない。
……公平?
思い出した。
何を。
こーへーの意味、アミちゃんに教わったんだ。
……今日の講義、か?
うん。
然うか……思い出せて、良かったな。
思い出したんだから、わすれてないよ。
ん……なかなかの、屁理屈だな。
へりくつ?
とと様も、無花果の餡蜜が食べたい。
だめ、とと様は
良し、分かった。
なにが?
今日の夕ごはんか明日の朝ごはんに、薄麦餅を焼いて欲しい。
……。
其れならば、
作るよ。
作る?
かか様が、アミちゃんとあたしが作ったごはんを、食べたいって言ったから。
……いつ、作るんだ?
まだ、決まってない。
アミちゃんと何を作るか、決めないといけないし。
薄麦餅は作るんだな?
ならば、其の時に
アミちゃんが作らないって言ったら、作らない。
……。
とと様は、薄麦餅。
……私も、皆と同じものが食べたい。
とと様、しつこい。
……む。
まったく、とと様はしかたないな。
……出来れば、餡蜜に。
考えとく。
……応。
このお茶、アミちゃんが淹れてくれたんだ。
……アミが?
かか様は、おいしいって言ってた。
……マコトは?
おいしいに決まってる。
……然うだよな、アミが淹れて呉れたんだもんな。
なんのお茶かは、今は、言わない。
ん……其れは、飲んでからか。
そう。
……。
どう?
……うん、仄かに甘い花の香りがして美味しい。
だろ?
此のお茶は……桂花茶だ。
気のめぐりを良くするんだ。
……あぁ。
あたしも飲も。
桃の甘煮と、桂花茶……良いおやつだ。
……。
有難う、マコト。
明日は、とと様をおんぶして走るから。
……は。
鍛練。
……然う言えば、そんな事を言っていたな。
かか様とアミちゃんとマーキュリーが見に来てくれるんだ。
そうだ、ジュピター。お前も見に来てよ、あたしがとと様をおんぶして走るとこ。
うん……少し、待て。
良い鍛錬になると思うんだ。
……ならないわけでは、ないが。
がんばるんだ。
……。
がんばる。
……然うか、頑張れ。
うん!
……。
ふふ~~。
……まぁ、良いか。
なに。
明日が楽しみだな。
うん、楽しみ!
29日
かか様、アミちゃん。改めて、待たせちゃってごめん。
あたし特製の桃の甘煮と薄麦餅、どうぞ、召し上がれ。
……うん、頂きます。
アミちゃん、お代わりもあるからいっぱい食べてね。
……ふふ、美味しそうねぇ。
かか様も、食べられるだけ食べて欲しいな。
……ん、食べられるだけ頂くわ。
あ、でも、いくらおいしいからって、無理はしなくても良いからね。
無理して食べても、うっかりお腹が痛くなったりして、良いことはあんまりないと思うからさ。
ふふ……分かっているわ。
残った桃の甘煮は、夕ごはんか明日の朝ごはんに食べても良いと思うんだ。
……折角だから、とと様に取っておいてあげようかしら。
大丈夫、とと様の分は別にあるから。
……あるの?
ないと、拗ねちゃうだろ?
拗ねは、しないと思うけど……でも然うね、酷く残念がるとは思う。
とと様には、後で持って行ってあげるんだ。
疲れている時は、甘いものが一番だからさ。
……屹度、喜ぶわ。
喜ばなかったら、あげないんだ。
……。
まぁ、とと様のことだから喜ぶと思うけど。
……とと様は、美味しいものだったら、必ず喜んで呉れるわ。
じゃあ、喜んでくれるな。
……今日も、自信があるのね。
あは。
……薄麦餅も、持って行ってあげるの?
うん、持って行くよ。
薄麦餅と食べて欲しいから。
……あのひとの、喜んで食べている姿が目に浮かぶわ。
だろ?
……マコトが作って呉れるおやつも、あのひとは大好きだから。
も?
……アミが淹れて呉れるお茶も、大好きなのよ。
うん、知ってる。
さっきも、うまいうまいって言いながら飲んでたから。
……さっき?
鍛練の休憩中に、アミちゃんが冷たいお茶を淹れて来てくれたんだ。
そのお茶が、本当においしくてさ。さっぱりしていて、香りも良くて、すっごく飲みやすくて。
……飲みやすくて?
躰が熱くて、たくさん汗をかいていて、でもって、喉もすっごく渇いていたから、ごくごく飲んじゃった。
……ごくごくと、一気に飲んでしまったの?
ううん、一気にではないよ。なるべく、ゆっくり飲んだんだ。
一気に飲むと、お腹が痛くなっちゃうかもしれないから。
然う……其れは、良かったわ。
ね、あたし、ちったぁ成長してるだろ?
小さい頃は、それで良くお腹を壊していたからさ。
……ええ、大分していると思う。
大分?
……矢張り、ちょっとかしら。
えぇ。
……ふふ、マコトは大分成長しているわ。
やったぁ、かか様に褒められた。
因みに……アミに、言われたわけではないのでしょう?
アミちゃんに?
……急がず、ゆっくり飲むように、と。
それは……。
……其れは?
まぁ……言われてないわけでは、ないけど。
……つまり、言われたのね。
でも、あたしは最初からゆっくり飲むつもりだったから。
と言うより、最近はずっと、ゆっくり飲んでいるんだ。
……最近なの?
大分前から、ゆっくりと飲むように心がけてる。
んー……まぁ、心掛けていたのならば、良いかしら。
うん、良いと思うんだ。
マコト。
はい、かか様。
幼い頃のあなたは、今よりもお腹が弱い子だった。
少しでも食べ過ぎてしまうと、直ぐにお腹が痛くなってしまって。
うん、憶えてる。
今のあなたは、あの頃よりは、お腹が強くなったと思うけれど……油断は。
大敵、です。
はい、良く出来ました。
これからも、油断せずに食べたり飲んだりしようと思います。
ん、然うして。
はい!
……うん、良いお返事。
かか様、食べて食べて。アミちゃんも、食べて。
食べて、感想を聞かせて欲しい。
ふふ、然うね……食べないと、感想は言えないものね。
聞きたい、ふたりの感想。
……では、改めて。
どうぞ、召し上がれ。
……。
ふん、ふん。
……ふ。
ふん?
……マコト、落ち着きがないわ。
ん、つい。
……。
ふぅん。
……うん。
あ、どう、どう?
……糖は、加えたの?
控え目に加えた、桃が甘いからそんなに多くはいらないんだ。
もっと言えば、糖よりも桃の甘みを楽しんで欲しい。
……然う。
ん、もう少し加えた方が良かったかな……。
……糖を控え目にしたと言う事は、長くは保存出来ないわね。
明日の……そうだな、昼ぐらいまでかな。
……ならば、明日の朝も食べられる。
うん、食べられるよ。
……。
えと、かか様……味は、どう?
……あぁ、然うだった。
いまいち……?
……甘さの加減が。
加減が……?
……程良くて、とても美味しいわ。
おいしい?
……ん、美味しい。
ほんと?
……ん、本当。
アミちゃんは?
アミちゃんは、どうだい?
……。
え、と……物足りない、かな。
もう少し、甘い方が良かった……?
……。
ごめんよ、次に作る時は……え?
……ふふ。
そっかぁ……あぁ、良かった。
……。
次は、もう少し甘めに作るよ。
……其の時は、私にも食べさせて呉れるのかしら?
勿論だよ、かか様。
じゃあ……とと様もお誘いして、皆でお茶の時間を。
明日はどうだい?
……明日?
明日は桃じゃなくて、無花果の甘煮を作るつもりなんだ。
……無花果。
無花果の栄養も、なかなか良いよ。
ふふ、確かに……とは言え、食べすぎてはいけないけれど。
だから、食べすぎなければ良いんだ。
……アミは、どう?
どうだいアミちゃん、無花果の甘煮。
……。
無花果の甘煮は、水寒天を作って、それに盛ろうと思ってる。
濃い目に淹れた焙じ茶に糖を入れたものをかけて、無花果の実も盛って……間に合えば、あんこも盛るんだ。
……餡子。
どうだろ、アミちゃん。
餡子は、アミちゃんも好きだろ?
……無花果の餡蜜。
え。
……ううん、なんでもないわ。
そう、無花果のあんみつ。
かか様はどうだろ、好きじゃないかな。
……多分、好きだと思うわ。
アミちゃんは……ん、だめ?
……分かり易い。
楽しみに、してる……?
うん、してて! 一所懸命、おいしく作るから!
……私も、楽しみ。
よぉし、明日もがんばって作ろ。
……ねぇ、マコト。
なんだい、かか様。
今度で、良いから。
うん。
夕食を、作ってみない?
夕食……夕ごはん?
食べてみたいの、マコトが作って呉れた夕食。
作る!
作りたい!
……其れと。
それと?
なんでも言ってよ。
……叶うのなら、アミも一緒に。
アミちゃんも一緒?
……ふたりが作って呉れた食事も、食べてみたいの。
だって、アミちゃん。
ね、ね、一緒に作ろうよ。
……。
作るのも、一緒に考えて……大丈夫さ、あたしと一緒に作るんだから。
ふたりなら必ず出来るよ。そう、出来ないわけがないんだ。だって、ふたりだから。
……ひとりで出来なくても、ふたりならば出来る事もある。
アミちゃんの包丁さばき、とっても素敵だと思うんだ。
とても丁寧だし、形も整っているし、幅もほとんど同じだし、皮も薄いし、潰れてることもないし。
……性格が反映されている。
とと様にだって、何度も褒められただろ?
……とても、褒めているわ。
ね、一緒に作ろ?
一緒に作ってみたいんだ。
……ねぇ、アミ。
かか様?
……矢張り、都合がつかない?
都合……。
……色々と、忙しいだろうし。
そっか……ごめん、アミちゃん。
あたし、無理を言ったかも……ううん、言ったと思う。
……。
え、作れるの……?
でも、都合が……そっか、なら作ろ!
……ふ。
かか様、楽しみにしてて!
とと様には、内緒にしてて。
……内緒に?
びっくりさせたい!
ね、アミちゃん。
ふふ……其れも、良いわね。
だろ? だろ?
ならば……内緒にしておくわ。
あと、楽しみにもしてて。
ん、分かった……楽しみにしてるわ、マコト。
ふふ、楽しみだなぁ。
……アミ、お代わりする?
あ、お代わりする?
するなら、盛り付けるよ。
……頭を使うと、お腹が空くからね。
分かる、あたしもアミちゃんの講義を受けたらお腹が空いたから。
あなたは……講義を受けなくても、空いているけれど。
鍛練をしても、お腹は空くよ。
……ぼんやりしていても、空かせていたわ。
ぼんやりしててもお腹は空く、生きてるってふしぎ。
……生きているからこそ、お腹は空く。
とと様いわく、今のあたしは食べ盛りなんだ。
……背丈も、伸びているしね。
そのせいで足が痛かったりするけど、そんなの平気なんだ。
もっと大きくなって、いつか、とと様を追い越したいから。
……ジュピターよりも、大きくなるのではなかったの?
ん。
幼い頃はジュピターよりも大きくなって、其の広い背に私達を乗せて飛んで呉れると。
あたし、気が付いたんだ。
……何に?
あたしはひとのこで、ジュピターは龍だってこと。
ひとのこは龍になれない、どこまでもひとのことして生きていくんだ。
……然う、気付いてしまったのね。
みんなは乗せられないけど、アミちゃんとかか様をひとりずつ、おんぶすることなら出来るよ。
……とと様は?
とと様は……鍛練に、丁度良いかも。
……確かに、丁度良さそうね。
良し、今度とと様を背負って走ってみよう。
……其の時は、見に行こうかしら。
え、見に来て呉れるの?
だから……背負う日を、教えて呉れたら嬉しいわ。
ん、教える!
……うん。
アミちゃんも、見に来てね。
あたしがとと様をおんぶして、走ってるところ。
……。
ん、がんばる!
だから、冷たいお茶を……へへ、やったぁ。
……矢張り、上手ね。
とと様に、言っておこうっと。
……ねぇアミ、あなたはどう?
おやつを持って行った時で良いかな、うん、良いな。
……足が痛む事は、ない?
え。
……あなたも、成長期だと思うの。
アミちゃんも、成長期?
……歳星の民に比べると、辰星の民は躰が成長する時期が遅いから。
アミちゃん、足痛い?
……大丈夫?
痛かったら、すぐに言って。
あっためてあげるから。
……場合によっては、冷やす方が良い事もあるわ。
そうなんだ、じゃあ様子を見てだね。
……然うね。
アミちゃん、絶対に言ってね。
足が痛いと、眠れない時もあるから。
……。
アミちゃんがしてくれるように、あたしもする。
してもらってばっかりじゃ、だめなんだ。そうだよね、かか様。
……ちゃんと、お返しをしないと。
だから、だから、我慢しないで。
あたしもしたいんだ、アミちゃん。
……私も、したいわ。
え、かか様も?
だって……此れでも、私はあなた達の母だもの。
はは……。
……あら、違うの?
違わない!
あたし達のかか様は、かか様だけだ。
なら……昔のように、ね。
でも、かか様……。
……したいのよ、マコト。
ん……。
……アミもね。
……。
体調が良くなれば……屹度、出来るから。
……分かった、かか様。
分かって呉れて、有難う……マコト。
ううん、お礼なんて良いんだ。
でも、言いたいの……分かるでしょう?
……ん、分かる。
アミは……嫌かしら。
……。
然う……ならば、言ってね。
我慢は、しては駄目よ……。
……しないよ、かか様。
……。
アミちゃんも……しないって。
……約束よ。
ん、やくそくだ。
……うん。
アミちゃんも、やくそく。
……。
あは。
……いけない。
え、なにが。
話す事に、夢中になってしまって……折角のおやつを、ほとんど食べていないわ。
あ、ほんとだ。
……。
……。
……なぁに、マコト。
見てるだけだよ、かか様。
……どうして、見ているの?
かか様が、食べているところを見たいんだ。
……アミが食べているところは、見なくても良いの?
アミちゃんが食べているところも、ちゃんと見ているよ。
ねぇ、アミちゃん。アミちゃんのことも、見ているからね。
……どうして、私達が食べているところを見たいの?
だって、好きなんだ。
……食べている姿を見る事が?
反応も気になるんだ、目は口ほどにものを言うって言うだろ?
……つまり、目はお世辞を言わないと。
うそもね。
言っておくけれど……私は、得意よ。
知ってる、だから、じっと見ているんだ。
……ねぇ、マコト。
なんだい、かか様。
……じっと見られていると、食べ難い。
ん。
だから……見ていないようにして、見て?
見て、いないように?
とと様は、得意よ。
あー、得意そうだ。
とと様も、アミが生まれる前までは、じっと見ていて呉れたの。
アミちゃんが生まれてからは、見なくなった?
……アミを見る事に、忙しくてね。
なんとなく、分かる。
……分かる?
でも、とと様は見ていないようで、かか様のことも見ていたと思う。
……どうして、然う思うの?
とと様がかか様を見ないなんて、ありえないから。
……有り得ない、かしら。
うん、ありえないよ。
とと様がかか様を見ないなんて、ありえない。
……アミも、然う思うのね。
あたし達は、とと様の子だから分かるんだ。
……然うなの?
うん、そうなの。
ね、アミちゃん。
……然う。
へへ。
……曰く、反応が気になると。
反応?
……然う、食べている時の反応。
あは、あたしと同じ理由だ。
……其れで。
じっと見られていると、食べにくい。
然う言ったら……横目で、見るようになったの。
横目かぁ、それでもかか様は分かっちゃうな。
ふふ……然うなの。
あたしも、やってみようかな。
……ん、やってみて。
ねぇ、アミちゃん。
アミちゃんも、じっと見られていると食べにくい?
……。
そっか、じゃあこれからは横目で見るようにするよ。
……ふふ、面白い。
あ、かか様が食べてる。
……横目で見られるようになるには、時間が掛かりそうね。
アミちゃんも。
……ふたりを同時に見る事は、難しいと思うわ。
むぅ。
……とと様は、多い時は三人見ていたけれど。
三人……かか様と、アミちゃんと、ジュピターかな。
……ジュピターではなく、マコト。
あたし?
然う……あなた。
なんだ、ジュピターかと思った。
それか、マーキュリー。
……ジュピターとは、いつも一緒に食べられるわけではないから。
ん、それは確かに。
……マーキュリーは、いつも其処に居て呉れるけれど。
うん、今も見てるね。
……相変わらず、眠たそうな目でね。
今度、連れ出しても良い?
……何処へ?
鍛練を見てもらいたいんだ。
然う……マーキュリーが良ければ、私は構わないわ。
其の時は、かか様も来て欲しいんだ。
……私も?
久しぶりに、見て欲しい。
……とと様を背負う時に。
それ以外の時も。
……。
勿論、調子が良い時で良いから。
あと、講義がお休みの時。
……。
やっぱり、難しいかな。
……ううん、見に行くわ。
ほんと?
……マコトからの、折角のお誘いですもの。
やった!
……とと様と手合せしている姿も、見てみたいし。
手合せ、かぁ。
……手合せは、見られたくないのかしら?
ううん、そんなことはないよ。
良し、気合いを入れて、がんばるぞ。
……いつもは、頑張っていないの?
いつもがんばってる、だから、いつも通りがんばる。
なんだったら、いつも以上にがんばる。
……今日も頑張った?
うん、がんばった。
……アミが、見に来て呉れたから?
アミちゃんが見てくれてる時は、特に、がんばった。
……アミ、マコトの動きはどうだった?
ね、悪くなかったろ?
……正直に、思った事を話して?
……。
……。
……んー、まだまだかぁ。
ふふ……もっと、頑張らないと駄目ね。
ん、もっとがんばる。
がんばって、アミちゃんとかか様を守れるようになるんだ。
……。
とと様のように。
……屹度、なれるわ。
そのために、もっともっとがんばる。
……うん、頑張って。
うん!
……でも、無理は駄目よ。
ん。
疲れたら……ちゃんと、休息を取る事。
でないと……躰を、壊してしまうかも知れないから。
はい、かか様。
約束します。
……ん。
ね、かか様、お茶はどう?
……勿論。
もちろん?
……とても、美味しいわ。
28日
ワルプルギスの廻天を観てきました。
みんな好きだけれど、特に佐倉杏子が好きです。
……。
……アミ。
……。
どうしたの……こんなところで。
……かか様の、ご様子を見に参りました。
私の……?
かか様……お加減は如何ですか。
うん……悪くはないわ。
……良くも、ありませんか。
未だ少し、気怠いの……。
……然うですか。
ねぇ、アミ……。
……はい、かか様。
先刻も、様子を見に来て呉れたわよね……?
検温と検脈をして呉れて……記録を、つけて呉れた。
……其れから、もう、大分経ちます。
大分……そんなに、経ったかしら。
……かか様のご様子を見た後、とと様とマコ……マコトの鍛練を見学しに行きました。
いつも通りの呼び方で構わないわよ……此処には、あなたと私しか居ないようだから。
……申し訳ありません、勝手に。
ううん、構わないわ……こういう事に最も頼りにしているひとは、アミ、あなただから。
……。
勿論、とと様の事も頼りにしているけれど……今は、此処に居ないからね。
……はい。
マコちゃん。
……ん。
然う、呼んで……?
好きなの、あなた達のお互いの呼び方が……。
……分かりました、かか様。
うん……。
……とと様とマコちゃんの鍛練を見た後、学び舎で講義をしました。
アミが……?
……許可も、取らず。
構わないわ……あなたならば、任せられるから。
……講義が終わって、諸々の片付けを済ませてから、かか様のお部屋に来たのです。
となると……其れなりの時間が経っていても、おかしくはないわね。
……はい。
あなたが講義をしている間、マコトは何をしていたのかしら。
マコちゃんは……私の講義を、見に来て呉れました。
見に……受けに来たのではないの?
……マコちゃんは、然う言っていますが。
ならば、然うなのでしょう……。
……。
後で、分からなかったところを聞いてあげて……?
……はい、然うします。
ん……。
……検温と検脈は、されたようですね。
ええ、とと様がお茶を飲んだ後にして呉れたわ……記録も、ちゃんつけてある筈。
はい……ちゃんと、つけられています。
……どう思う?
体温は少々低めですが……脈は、平脈に戻りつつありますね。
不整脈では、ないでしょう……?
はい……其の傾向は、見られません。
ふふ、良かったわ……。
……。
良かったら、あなたも取って呉れるかしら……?
……はい、勿論です。
ん、有難う……。
……いえ、当たり前の事をするだけですので。
仮令、其の行為が当たり前の事だったとしても……お礼を述べる事は、大切な事よ。
……。
とと様が、教えて呉れたでしょう……?
……はい、幼い頃に。
実はね……私も、とと様に教わったの。
……とと様に?
私の母星である辰星は……然ういった他人との交流が、とても希薄なところだったから。
……希薄、ですか。
お礼を、全く言わないわけではないのだけれど……温度が伴っていないの。もっと、冷たくて……機械的で。
必要が無いと見做される場面でお礼を言ったり、言われたりしたら……無駄だと、思われてしまう。
……無駄では、決してないと思います。
で、あるならば……言わせてね。
……。
ふふ……。
……顔色が、大分良くなったと思います。
然う……?
……お休みになっていたからでしょうか。
然うねぇ……。
……其れとも、とと様とお過ごしになられたからでしょうか。
答えは……何方も、かしら。
……。
……分かっていて、聞いたのでしょう?
かか様は……時折、とても分かり易いと思います。
……然う?
其れは、屹度……とと様と、過ごしていたからだと。
……。
……詳しい事は、敢えて、聞きません。
ふふ……ええ、然うして。
……でも、良かったです。
うん……?
……かか様の、優しい笑顔が見られて。
優しい、かしら……。
……私は幼い頃から、かか様の笑顔が好きでした。
過去形……?
……今でも、好きです。
……。
……かか様?
んー……。
……どうか、されましたか。
あぁ、うん……少し、ね。
何処か、異常を感じるのですか。
若しも感じるのならば、今一度、お休みになられて下さい。
……大丈夫よ。
ですが。
……なんとなく、気恥ずかしかっただけだから。
気恥ずかしい、ですか……?
……マコト程では、なかったけれど。
マコちゃん……?
……あなたも、好きだと言って呉れたのよね。
……。
……幼い頃の話。
かか様……。
……ふふふ。
……。
……気恥ずかしい?
いいえ……大丈夫です。
然う……残念。
……。
……ごめんなさいね、アミ。
何がでしょう……。
……あなたにはいつも、心配させてばかりで。
謝る事ではありません、かか様。
……ん。
かか様は好き好んで、体調不良に陥っているわけではないのですから。
……お休みしながら、書物を読んでいたりするけれど。
書物を読む事がかか様の活力になるのならば、私は構わないと思います。
書物が読めると言う事は、其処までは悪くないと言う事でもありますし。
……然うよね。
とは言え、限度はあります。
取り敢えず、寝台に多く積み重ねる事は止めて下さい。
……ん、分かっているわ。
兎に角、謝る事ではないのです。
心配など、させておけば良い。
……。
幼い私に然う教えて下さったのは、かか様です。
……然う、だったわね。
はい、然うですよ。
私はちゃんと、覚えています。
……ふふ。
可笑しいですか?
いいえ……頼りになると、改めて思っただけよ。
……ひとつ、良いですか。
何かしら……?
……頼りにされて迷惑だと、私は全く思っていませんから。
……。
寧ろ、嬉しいと思っています。
かか様が、私を頼りにして呉れて。
……然うなの?
はい、然うです。
だから、忘れないで下さいね。
……大丈夫、忘れないわ。
はい。
……ところで、アミ。
はい、かか様。
……お勉強は良いの?
今は……私達のお茶の時間でもあります。
……私達の?
はい……マコちゃんと、一緒に。
其れで……わざわざ、私達の部屋に?
……矢張り、ご迷惑でしょうか。
うーん、然うねぇ……。
……でしたら、直ぐに出てゆきます。
良いわ、出て行かなくても……折角、来て呉れたのだから。
……ですが。
言葉遣いも、ね。
……はい?
言ったでしょう……?
此処には、あなたと私しか居ないと……。
……。
其れで、マコトはどうしたの……?
部屋の何処を見ても、見当たらないようだけれど……。
マコちゃんは……未だ、来ていないの。
……何処に、居るのかしら。
おやつの、支度をしているわ。
……おやつの?
其の……簡単なものを、作ると。
とと様に、頂かなかったの……?
……頂いたわ、今日は麦餅に柑橘の甘煮を挟んだものだと。
其れなのに、作るの……?
……若しも。
若しも……?
……かか様と、一緒に食べる事が出来たら。
私も……?
……うん。
簡単なものだと、言ったけれど……何を、作って呉れているの。
……桃の甘煮を使った、薄麦餅を。
桃の甘煮……其れだけでも、美味しそうね。
……一口だけでも、良いの。
……。
桃の甘煮だけでも……。
……本当に、一口だけでも良いのかしら?
うん、勿論……無理をして食べても、かえって、良くないから。
然う……ならば、頂くわ。
……本当?
ん……本当。
……。
ふふ……ほっとした?
……あの、無理はしていない?
ええ、していないわ……。
……本当に、してない?
本当に、していないわ……。
……。
安心した……?
……だけど、油断は出来ない。
ふ……。
……然うよね、かか様。
ん……然うね。
……。
心配性なところは、とと様譲り……。
……とと様の、子でもあるもの。
ええ……間違いなく。
……。
どうしたの……何か、気になる事でもあるの?
……とと様と。
つい先刻まで、お茶を楽しんでいたの……。
……どんなお茶を。
蜜が入った、仄かに甘いお茶を……。
……仄かに。
おやつと合わせて呉れたの……。
……蜜を入れたのは、唇に潤いを持たせる為ね。
分かる……?
……乾燥して、少し荒れているようだから。
あなたは、どんなお茶を淹れて呉れるのかしら……?
……私は。
矢張り、良いわ……。
……どうして?
楽しみに、しておきたいから……。
……口に、合わないかも知れないわ。
其れは、ないわね……だって、あなたは私の好みをちゃんと憶えているもの。
……憶えているだけで。
あなたが淹れて呉れたお茶は、いつだって、美味しいの……。
……。
とと様だって、美味しいと言って呉れるでしょう……?
……言って呉れるけれど。
あのひとは、嘘は吐けない……お世辞も、どちらかと言うと苦手。
……私は、子供だから。
だとしても、改善すべき点があれば……あのひとは、正直に言って呉れるわ。
……。
幼い頃から、然うだったでしょう……?
……うん、然うだった。
だから……美味しいと言う時は、本当に美味しいのよ。
……ん。
ねぇ、アミ……。
……なに、かか様。
マコトと、とと様に、辰星の冷たいお茶を淹れてあげた……?
……。
鍛練を見に行った時に……。
……どうして、分かるの。
どうしてかしらね……。
……かか様は、何でも分かってしまうのね。
残念ながら、何でも分かるわけではないわ……。
……本当に?
ん……本当に。
……ひとのこ、だから?
ふふ……然うよ、私だってひとのこだもの。
……。
誰だって、ただのひとのこでしかない……だから、知らない事を知りたいと思うの。
まぁ、知らない方がしあわせ、とも言うけれどね……。
……とと様も。
とと様も……。
……マコちゃんも。
マコトも……心が、ある限り。
……心。
私はずっと、心は頭の中にあるものだと考えていたのだけれど……。
……思考する脳は、頭にあるから。
然う……けれど、心は胸の奥にもある。
……とと様が、教えて呉れたわ。
私も、とと様に教わったの……。
……。
色々な事を、あのひとに教わったわ……。
……辰星では、知り得なかった事。
辰星に居ては、一生、知り得なかった事……。
……ねぇ、かか様。
なぁに……?
……一度で良いから、行ってみたいと思っているの。
辰星に……?
……若しも、行く事が出来たなら。
ひとりで、行くの……?
……ひとり、でも。
マコトは、行かなくても良いの……?
……マコちゃん、は。
あの子は、あなたと一緒に行きたいと言うかも知れないわ……。
……言うかしら。
言わないとは、思えない……。
……。
然うしたら……どうする?
……どうするって。
ふふ……答えはもう、決まっているようね。
……。
ふたりで、行ってらっしゃい……。
……とと様にも、聞いてみないと。
ん、聞いてみて……多分、私と同じ事を言うと思うけれど。
……。
辰星に、行って……。
……帰って来るわ。
うん……?
……歳星に。
若しも、辰星に……。
……私は、とと様とかか様が居る此の星に帰って来る。
……。
……だって。
待って、アミ……。
……。
私は、と、言ったけれど……マコトは、帰って来ないと思っているの?
……マコちゃんは。
どうして、然う思っているの……?
……辰星、に。
辰星に……?
……良きひとが、居るかも知れないから。
良きひと……。
……マコちゃん、とと様に良く似ているし。
好みも、似ていると……?
……マコちゃんが、言ったの。
なんて……?
……良きひとは、辰星に居るかも知れないと。
其れを……鵜吞みにしたの?
……若しかしたらって。
……。
其れなら、其れで……マコちゃんが、しあわせになれるのなら。
……ふ、ふふ。
かか様……?
……あなたは、私に似ているわ。
……。
髪の色も、瞳の色も……躰のつくりだって。
……え、と。
つまり……あなたの容姿は、辰星の民に近いの。
……辰星の、民に。
此の意味、分からない……?
……分からないわ。
ふふ……。
……あの、かか様。
マコトは、帰って来るわ……あなたと、一緒に。
……。
あの子は、然ういう子だもの……。
……本当に、然うだったら。
……。
……ううん、なんでもない。
然う……?
……うん。
然う……。
……そろそろ、お茶の支度を。
ねぇ……とと様が居る時に、来て呉れても良かったのよ。
……ううん、其れは出来ないわ。
何故……?
とと様とのお茶の時間は……とと様とかか様、ふたりだけの時間だから。
ふたりだけの……?
……邪魔をしては、いけないと。
邪魔だなんて……そんな事、全く思わないわ。
……だけど。
まさか、其れで来て呉れなくなったの……?
……然ういう、わけでは。
お年頃、というものなのかしらね……。
……お年頃?
気にしなくても良いのよ……私は、あなた達が来て呉れたら嬉しいのだから。
……とと様も。
勿論……とと様も。
……。
だから、遠慮なんてしなくても良いの……。
……考えて、おくわ。
考えておくの……?
……。
此れが、反抗期というものなのかしら……。
……反抗期?
親の事が嫌になって、避けるようになると……。
……別に、避けているわけでは。
私達と居るよりも、楽しい事が増えたのかも知れない……其れは、とても良い事なのよね。
何故ならば……其れだけ、世界が広がっているという事なのだから。
……。
図星、かしら……。
……とと様とかか様、ふたりとお茶を飲みながらお話する事も楽しいわ。
退屈ではない……?
……そんな事は、一度も思った事ない。
一度も……?
……ん、ただの一度も。
ふ……。
……本当よ。
有難う、アミ……。
……。
……私の事よりも、お勉強を優先するようにと。
かか様……。
……そんな事ばかり、言っていたから。
お茶の時間は……来るようにするわ。
……時間が合えば、で、良いわ。
成る可く……。
……無理は、しないでね。
ん……しないわ。
……。
……お茶の支度をします。
ん……どうぞ。
かか様の分も、用意して良い……?
私は……一杯だけ、頂くわ。
あの、無理だったら……。
……無理は、しない。
……。
あなたとマコト、其れから、とと様と約束しているから……。
……うん。
ふふ……楽しみね。
27日
……。
……ふ。
……。
……ユゥ。
やぁ、メル……目が覚めたみたいだね。
……然う、みたい。
おはよう……。
……どうして、あなたがここに?
此処は、私の部屋でもあるからね……。
……其れは、然うなのだけれど。
改めて……おはよう、メル。
……ん、おはよう。
ふ……。
……なぁに。
相変わらず、書物を読んでいたみたいだな……。
だって……躰が、重たいだけだったから。
……だった?
眠る前よりは、幾分か良いと思うの……。
……躰が重たいだけであっても、休むには十分な理由だ。
だから、休んでいたじゃない……。
出来る事ならば、何も読まずに休んでいて欲しいところだけれど。
読んでいたと言っても……子供達が小さい頃に、読んであげたものばかりだから。
だとしても、書物には違いないだろう……?
……然うだけれど。
全く……メルは。
……仕方無いでしょう、好きなんだもの。
私よりも?
……また、然ういう事を言って。
ははは。
……比較するものではないの。
ごめん。
……。
また、言うかも知れない。
……あなたを選ぶわ。
うん?
……世界が終わる時に、どちらかをひとつだけ選べと言われたら。
……。
ただ……其の選択肢の中に、子供達が入っていたら話は別だけれど。
……然うなると、話は別だ。
あなたも、子供達を選ぶ?
私は、最後まで君と子供達を守る。
……どうしても、どちらかを選ばなければいけないの。
だとしても、私は最後の最後まで皆を守る。
……聞かないひとね。
マコトは、最後までアミを守って呉れるだろう。
……マコトは誰が守るの。
私が守る。
……私も居るのだけれど。
子供達を守って呉れる君を、私は守る。
結果的に、君達三人を私は守る事になる。
……。
ジュピターも居るしな。
……もぅ。
マーキュリーも居るぞ。
……然ういう話をしていたわけではないのだけれど。
私は、子供達を守ろう。
……。
けれど、君を諦める事も出来ないんだ。
……ばか。
ん。
……そんなの、私だって同じよ。
……。
……諦める事なんか、出来るわけがない。
うん……。
……もう。
と……。
……あなたが比べるから、こんな話になったの。
ん……済まない。
……。
……ごめんよ、メル。
許さないと、言ったら……?
……許してもらえるまで、誠心誠意、謝る。
初めから、言わなければ良いだけの事なのに……いつも、然う。
……ごめん。
はぁ……。
……メル。
本当に、仕方の無いひと……。
……あ。
書物……片付けてもらっても良い?
あぁ、任せて呉れ。
……ええ、任せるわ。
ん。
……。
久しぶりに、読んでみようかな。
……どうぞ、お好きに。
メル。
……なに。
ごめんなさい。
……マコト?
え。
……似ていたから。
いや、然ういうわけでは……。
……まぁ、良いけれど。
ん……。
……読むのなら、眠る前にどう?
眠る前……は、メルと話したい。
……今、話しているわ。
話しているが……眠る前にも、話したい。
……然う。
……。
ふぅ……。
……なぁ、メル。
なぁに……。
……ごはんは、食べられそうかい?
然うね……多分、食べられると思うわ。
……量は、あまり食べられない?
ごめんなさいね……お代わりは、出来そうにないわ。
……敢えて、一口分だけよそろうか。
一口分だけ……?
……然う、一口分だけ。
どうして、そんな事を……?
然うすれば……足りなくて、お代わりをして呉れるかも知れないだろう?
わざわざ、そんな手間を掛けて……ふふ、子供騙しみたいね。
マコトには通用した。
……あの子は、食べ過ぎるくらいに食べたから。
今でも、良く食べる。
……おかげで、順調に躰が大きくなっている。
筋肉の付き方は、悪くない……だが、未だ物足りないな。
……成長期だもの、もっと逞しくなるわ。
成長期、か……。
……あなたも、あの子ぐらいの年頃から。
夜になると足に痛みが走って、何度目が覚めた事か。
……所謂、成長痛。
成長するのに、痛みが伴うとは思わなんだ。
……痛む度に、ジュピターを起こしてしまったのでしょう?
うん、気配で……だけど、ちびは嫌がらなかったんだ。
……寧ろ、心配して呉れた。
痛むところを、温めようとして呉れたよ……。
……。
……やってみても良いかい、メル。
手間だと思うけれど……やってみて。
……ん、分かった。
……。
……。
……マコトの成長痛。
マコトの……?
痛む度に、アミが和らげてあげているみたいね……。
……聞いてないな。
私には、言って呉れるわ……。
……む。
けれど……甘えて呉れたりは、しない。
……。
……少しだけ、寂しいと思う。
然うだな……。
……。
……なぁ、メル。
なに……?
……喉は、乾いていないかい?
喉……?
……そろそろ、な。
若しかして……お茶の時間?
実は、然うなんだ……。
……学び舎での、講義は。
アミが、代わりに。
……アミが?
うん……なかなか、様になっていたようだ。
然う……あの子が。
……実は、マコトも。
マコト?
……鍛練の後に、アミの講義を受けていた。
マコトが……。
ほとんど、分からなかったみたいだが……全く、分からなかったわけでもないらしい。
……マコトは、其の気になれば出来る子だから。
ふふ、然うだなぁ……問題は、其の気にさせる事だが。
……其れは、アミ次第。
矢張り、然うだよな。
アミが、望めば……マコトは屹度、其の気になる。
……王にならずとも、知識は必要だ。
王……。
……どうやら、外の世界が見たいらしい。
今でも、全く見られないわけではないのに……。
然うだけれど……自由では、無いからな。
……自由。
私にも、心当たりがあるよ……昔は、外の世界で暮らしていたからさ。
……あなたも。
然うだなぁ……戻れるものならば、戻っても良いと思っている。
……其の時は、ひとりで。
まさか……君も、連れて行く。
……。
ただ、君が望まなければ……。
……望まないわけ、ない。
然うか……良かった。
……けれど。
アミをひとり、残して行くわけにはいかない。
……アミは、外の世界には。
興味が無いわけではなさそうだが、此処に残るみたいだ。
本音を言えば、マコトとは離れたくはないだろうに。
……若しも、私達の思いを引き継ぐつもりならば。
見聞を広めてからでも、遅くはない。
……ジュピターの背に乗って、マーキュリーを連れて。
アミが、其れを望むのなら。
……私達は、構わない。
此処に残っては、見聞を広める事は難しいだろう……で、あるならば。
……外に出るべき。
元々、世襲ではない……子が引き継ぐ必要は無い。
……。
其の割には、子を求められたが……。
……アミは、良い老師になれると思う。
あぁ……私も、然う思う。
……マコトは。
王の気質は持っている……が。
……あの子は、少し軽薄なところがあるから。
軽薄……。
……けれど、アミが傍に居れば。
マコトは、アミが居れば……迂闊な事は、しないだろう。
……城の者を、口説く事も。
あれは、本当に口説いているのだろうか。
思った事を素直に言っているだけで、他意は無いように見えるが。
……だからこそ、性質が悪い。
ん。
あの子が、然う思っていなくても……言われた方は、然う思わない。
あぁ……其れは、然うだな。
……あの子には気を引き締めて呉れる、確りとしたひとが傍に居ないと。
と、なると……矢張り、アミだな。
……他にも、居ると思うわ。
居たとしても……マコトが心を許さなければ、意味が無い。
……。
あれでなかなか、拘りが強い。
……然うね。
此の星では……。
……。
いや……其れ以上は、言うまい。
……子を生す必要は無い。
……。
子が、全てではないから……。
……若しも。
其の時は、其の時……なるようにしか、ならないわ。
……まるで、此の星の民のようだ。
もう、長いもの……馴染んでしまったわ。
ふふ……然うか。
……。
さて、お茶の支度をしようか……暫し、待っていて呉れ。
……ねぇ、あなた。
なんだい……?
……。
どうした……?
……頬に、触って。
え……。
……優しく。
……。
……突然、何を言っているのかしらね。
触っても、良いのかい……?
……。
触っても、良いのなら……喜んで。
……ただ、触って欲しいの。
優しく……?
……初めての時のように。
初めて……。
……もう、遠い昔のようね。
其処まで、遠くはないさ……。
……。
……メルクリウス。
ん……。
……君は変わらず、きれいだ。
歳を重ねたわ……。
……重ねたからこその、美しさがある。
あなたは……何処となく、威厳が出てきたと思う。
……然うかな。
子供達の前では変わらずに、優しいとと様だけれど……。
……君の前では?
私の前では……甘えた。
……。
ふふ。
……抱き締めても、良いかな。
其処までは、お願いしていないわ……。
……然うか。
……。
メル……。
……私が。
うん……。
……抱き締めてあげる。
……。
……いや?
嫌なわけ、ない……。
……ならば。
抱き締めて、欲しい……。
……もう少し、此方に。
ん……。
……。
……。
……ねぇ。
ん、少し窮屈か……。
ううん……水浴びをしたでしょう。
あぁ……マコトと、鍛練をした後だからね。
……良い匂いがする。
良かった……汗臭くなくて。
……あなたのにおい、ずっと好きよ。
メルも、良い匂いだ……。
……少し、薬臭いでしょう。
薬のにおいなんて、なんでもないさ……。
……若しかしたら、増えるかも知れない。
だとしても……君のにおいが好きな事に、変わりはない。
……。
メル……メルクリウス。
返して……ユピテル。
……。
抱き締め、返して……。
……あぁ。
……。
君は未だ、生きる……。
……あなたと。
私と、共に……。
……生きたい。
生きよう……。
……あなたと、一緒に。
私と、一緒に……。
……子供達が、自立しても。
其の先も……。
……あと、十年くらいは。
いや……三十年だ。
三十年は……流石に。
……生きてみなければ、分からない。
ユゥ……。
……優しく。
あ……。
……触って欲しい、此の先もずっと。
ユピテル……。
……メルクリウス。
……。
……愛している。
う、ん……。
……。
……乾燥、しているでしょう。
潤いが、必要かな……。
……。
然ういう時は……お茶に、蜜を入れると良い。
……蜜。
君に、とっておきのお茶を……。
……あの子達にも。
勿論さ……。
……。
……。
……有難う、あなた。
もう、良いのかい……?
ん……また、夜に。
……夜。
眠る時に……。
……あぁ、分かった。
……。
直ぐに、お茶の支度を……。
……ん、待ってる。
26日
……ふぅ。
鍛練、お疲れ様。
……ん。
マコちゃん。
アミちゃん、来てくれたんだ。
来ない方が、良かった?
ううん、来てくれてすっごくうれしい。
ふふ、良かった。
けど、お勉強は良いのかい?
ん、今は休憩中だから。
休憩?
大事だもの、休憩を取る事は。
ん、確かに。
冷たいお茶を用意したのだけれど、飲む?
うん、一緒に飲みたい。
一緒に?
だって、休憩中なんだろ?
であるならば、一緒に飲んでも良いと思うんだ。
んー……どうしようかしら。
一緒に、飲んで欲しいなぁ。
……。
ね、お願い。
……仕方ない、一緒に飲んであげる。
はは、やった。
とと様は?
向こうにいるよ。
向こう……。
あそこで、ひとと話してる。
……。
鍛練をしている最中に来たんだよ。
それで、とりあえず休憩ってことになったんだ。
……然う。
とと様が一緒でなくて、残念かい?
ん……然ういうわけでは、ないのだけれど。
その顔は……然ういうわけでは、あるな。
そんな言葉はありません。
ははは。
マコちゃん?
はーい。
はい、は伸ばさない。
はい、アミちゃん。
全く。
むくれたアミちゃんも可愛いなぁ。
マコちゃん。
ん。
私は、むくれてなんかいません。
ほっぺた、ちょっとだけふくらんでいたような気がするけど。
気のせいです。
気のせい?
もう、マコちゃんは直ぐ然ういう事を言うんだから。
それは、アミちゃんが可愛いからだよ。
然うやって、城のひと達を口説いているのね。
くど?
誰彼構わず、可愛いと言っていると。
誰彼構わずではないさ。
可愛いって言う時は、ちゃんと決まってるんだ。
例えば?
あたしの琴線に触れた時、かな。
琴線?
琴線。
其れ、ちゃんと意味は分かって言っているの。
うん、一応ね。
ふぅん。
心の奥にある感情の線の事を、琴線と言う。
……間違ってはいないけれど。
けれど?
……簡単に、心の奥にある筈の線に触れてしまうのね。
アミちゃんはいとも容易く、あたしの心の奥にある線に触れてしまう。
……。
あたしの琴線に触れるのは、アミちゃんだけ。
……城のひと達に言っているのは。
ただの、挨拶代わりかな。
深い意味は、全然、ないよ。
……。
ん?
……取り敢えず。
とりあえず?
汗を拭いて。
お。
お茶を飲むのなら、さっぱりしてから。
はい、分かりました。
……もう。
ん、なんだい?
別に、何でもありません。
そうかなぁ。
然うです。
ん、そっか。
……。
大丈夫だよ、アミちゃん。
……何が大丈夫なの。
一番可愛いと思っているひとは、アミちゃんだから。
……。
本当に、そう思っているよ。
……もう、良いから。
こういうことは、ちゃんと伝えておいた方が良いと思うんだ。
……はいはい、然うね。
あは。
……何。
今の言い方、かか様に似てた。
……私はかか様の子だもの。
そういえば、かか様は?
……。
アミちゃんが休憩中ということは、かか様もどこかで休んでるのかな。
いや、かか様のことだから、何かの書物を読んでいるかも。
……かか様なら。
折角だから、かか様も見に来てくれないかなぁ。
あたしの動き、かか様にも見て欲しい。
……お部屋で、お休みしているわ。
部屋で?
……。
アミちゃん、詳しく教えて。
……体調が、あまり優れないみたい。
いつから?
朝は元気そうだったよね。
……いつからかは、分からない。
部屋に行ったのは?
……講義が終わってからだから、然程、経っていないわ。
そのこと、とと様は。
……知らせは、行っていると思う。
知らせ……あのひとが、そうかな。
……然うかも知れない。
……。
……マコちゃん?
今日の鍛練は、ここまでかな。
……どうして然う思うの?
とと様はこれから、かか様のところに行くかもしれないから。
……かか様は、それを望んでいないわ。
だとしても、だ。
……だから私は、此処に来たの。
あたしの鍛練を見に?
……私はマコちゃんのように躰を動かす事は出来ないけれど、目で見て学ぶ事は出来るから。
己のことよりも、学びが優先……流石は、かか様だ。
……此処に来る前に、お部屋に行ったの。
行かないわけない。
……熱を測って、脈を取って。
問題なかった?
……熱は低め、脈は少しゆっくりだったけれど。
疲れ、かな。
……恐らく。
かか様、ちょっとでも元気だと無理をしてしまうところがあるから。
……あまり無理はしないように、伝えているのだけれど。
かか様も、一所懸命なんだ。
……其れは、分かっているの。
あと、アミちゃんと同じように、学ぶことが好きだから。
……其れも、分かってる。
かか様に、言われたんだろう。かか様のことよりも、あたし達の鍛練を見に行くように。
そして、いつもと変わらずに振る舞うように。成る可く、かか様のことは言わないように。
……。
かか様にそう言われたら、聞かないわけにはいかない。
……かか様の手首が、いつもよりも、か細いように感じてしまって。
ごはんは毎日、ちゃんと食べている。今日の朝ごはんだって、ちゃんと食べてた。
たまに、お昼を忘れてしまうみたいだけど、そんな時はとと様とのお茶の時間に食べているから問題ない。
それに、かか様の傍にはアミちゃんがいるから。もしもかか様に食欲がなかったら、すぐに分かる。
……ちゃんと食べてはいるけれど、最近は特に食が細いの。
食が細くても、食べられないよりはずっと良い。
そうだろう?
……でも、栄養が。
栄養、か……他の何かで補えれば良いんだけど。
……他の、何か。
こう、おやつとかで。
……おやつならば、とと様とのお茶の時間で。
今日も用意するんだろなぁ、とと様。
……屹度。
とと様は昔から、色々作ってくれるよね。
……うん。
今は、かか様のことを考えて。
……かか様が、食べやすいように。
今日は、何を作るんだろう。
あたし達の分もあるかな。
……あると思う。
そうだ、今日はかか様と食べようかな。
……かか様と?
だめかな。
ううん……大丈夫だと思う。
なら、アミちゃんも一緒に。
……でも、とと様との時間を邪魔してしまうのは。
とと様との時間でない時に行けば良いさ。
……つまり、ずらすの?
かか様は屹度、歓迎してくれる。
……ん。
まぁ、とと様との時間でも、あたしは構わないと思うんだけどさ。
小さい頃は、みんなでお茶の時間を過ごしていたし。
……もう、幼子ではないわ。
だとしても、あたし達はとと様とかか様の子供に変わりないよ。
其れは……然うだけど。
確かに、部屋はもう違う。
とと様とかか様と、一緒に寝ることはない。
……。
でもだからって、ふたりの部屋に行ってはいけないなんて決まりはないし、言われてもいない。
ごはんも、一緒に食べているし……であるならば、お茶の時間だって、一緒に過ごしても良いと思う。
……私、考え過ぎ?
それは、あると思う。
……マコちゃんは、とと様とかか様のお部屋には。
ちょくちょく行っているよ。
……然う。
だけど、小さい頃のように甘えることはなくなったかなぁ。
……。
かか様に抱き締めてもらうことが、大好きだったんだ。
……知ってる。
アミちゃんは?
私は……私も、好きだった。
かか様、良い匂いがするよね。
……ん、ふんわりと甘い香りがするの。
とと様とは、違うんだ。
……とと様は、おひさまの匂い。
おひさま?
……日向の匂いがする。
日向……ん、確かに。
……マコちゃんと、少し似ているわ。
あたしと?
……うん。
えと……好き?
……え?
あたしのにおい、好き?
ん……どちらかと言うと。
どちらかと言うと?
……好き。
あはっ。
……落ち着く、から。
そっか、うれしいな。
……マコちゃんは、どうするの。
どうするって?
……かか様の、様子を見に。
行くよ。
……直ぐに行く?
ううん、すぐには行かない。
……良いの?
とと様よりも、先に行くことはしない。
……それは、どうして。
とと様が鍛練の続きをすると言った時に、あたしがいなかったら話にならないだろ?
其れは……然うだけれど。
つまり、とと様が行かなければ、あたしも行かない。
何故ならば、かか様はそれを望んでいないだろうから。
……マコちゃん。
へへ、少しは見直してくれた?
……どうして、茶化すの。
茶化してはいないよ。
あたしはただ、アミちゃんに見直して欲しいだけ。
……そんなの。
ん、まだまだ弱いかな。
……はぁ。
溜息?
……痛いところは、ない?
ん、そうだなぁ……特には、ないかな。
……手合せは、未だしていないの。
休憩後にする予定。
……予定、ね。
とと様次第だ。
……ところで、汗は拭いたの?
今、拭こうとしているところ。
……。
かか様のことが心配なら、行っても良いよ。
……ううん、今は行かない。
そっか。
……かか様の期待に、応えたいの。
期待?
……私ね。
うん。
……とと様とかか様の志を、引き継ぎたいと思っているの。
こころ、ざし?
……此の星に、知識を重ねる事。
あぁ。
……其の為に、色々な事を学ばなければならない。
あたしに出来ることはある?
……マコちゃんに?
あたしには、ないか。
勉強は、苦手だし。
……そんな事ない。
ん?
マコちゃんが……マコちゃんが、傍に居て呉れたら、私。
なら、いるよ。
アミちゃんの傍に。
……。
ずっと一緒にいるって、言ったろ?
……言われたけど。
この、ジュピターの鱗に誓う。
あたしはアミちゃんの傍にずっといると。
……でも。
たとえ、アミちゃんに良きひとが現れたとしても、あたしはあたしとして、とと様とかか様の志を引き継がんとするアミちゃんを支えたいと思う。
……マコちゃんに、良きひとが現れたら。
それはそれ、アミちゃんはアミちゃんだよ。
……それは、それって。
アミちゃんはアミちゃんしかいない、代わりなんてどこにもいないんだ。
……良きひとだって。
今は、考えられない。
……いつか、とと様がかか様に出逢ったように。
辰星に、いるかもしれない。
……。
なんて、さ。
……もう、茶化して。
あたしは、とと様の志を引き継ぐことなんて出来ないかもしれない。
……。
王になんて、なりたくないんだ。
あたしはもっと、自由に生きたい。
……自由に生きたいのならば、私の傍に居るべきじゃない。
ん、どうしてだい?
……私は、屹度。
色々なことを学びたいのなら、城の外、もっと広い場所に行かなくちゃ。
……。
ジュピターの背に乗って、マーキュリーを頭に乗せて。
……見聞を、広める?
そう、それ。
だけど……見聞を広めても、城から離れてしまったら。
学び舎の老師になれば良いさ。
アミちゃんなら、必ずなれる。
……。
外で知ったことを、次の代に伝えれば良い。
……あぁ。
それも、悪かないだろ?
……うん、悪くないわ。
なら、考えておいてよ。
あたしの元服の儀まで、まだまだ時間はあるから。
……だけど。
ん?
……とと様とかか様に、なんて言えば良いか。
真っ直ぐに言えば良いと思う。
……真っ直ぐ。
とと様とかか様なら、分かってくれる。
……。
あたし達の思うように、好きなように生きればいい。
小さい頃からずっと、そう言ってくれているから。
……ごめんなさい、マコちゃん。
え?
……私は、矢っ張り。
ん……そっか。
……手紙を、書いて。
手紙?
……外の世界から。
ん、分かった……必ず、書くよ。
……待っているから。
うん……待っていて。
……。
でもまぁ、まだまだ先の話だ。
……直ぐに、其の日は来てしまうかも知れない。
……。
……時が経つのは、早いから。
アミちゃん。
……。
ちょっと、ごめん。
……え。
……。
な、なに……。
……やっぱり、アミちゃんはいいにおい。
……っ。
あたしの、一番好きなにおいだ。
……もう、マコちゃんは。
あーぁ、アミちゃんと番になれたら良いのに。
……。
そうすれば、離れていても……心は、傍にいられる。
……番に、ならなくても。
あたしが王になれば、なれるかな。
……王になったら、マコちゃんは自由になれない。
でも、アミちゃんと番になれるのなら……それでも、構わない。
……本気で、言っているの。
冗談では、言えないよ。
……。
言えない。
……マコちゃん。
ん、汗は拭き終わった。
……。
とと様も、今はかか様のところには行かないみたいだ。
……とと様。
ね、冷たいお茶が飲みたいな。
……。
アミちゃんも、一緒に飲もう。
……良いの、一緒に飲んでも。
あれ、気が変わった?
……。
一緒に飲みたいんだ。
ひとりで飲むよりも、アミちゃんと一緒に。
……ん、分かった。
ふふ、やった。
……ありがとう。
ん、どうしてだい?
……言いたいだけ。
なら、あたしもありがとう。
すごくうれしいよ。
……。
とと様、こっちに来るかな。
……マコちゃん、どうぞ。
うん、頂きます。
……。
……はぁ。
どう?
ん、冷たくてとってもおいしいよ。
やっぱり、アミちゃんが淹れてくれたお茶はおいしいなぁ。
……かか様に教わったの。
かか様に?
ん……此のお茶は元々、辰星のお茶だから。
あぁ、そっか。
辰星のお茶なら、とと様より、かか様だね。
……とと様が淹れて呉れるお茶も美味しいけれど。
だけど、辰星のお茶ならば、かか様だ。
……それ、とと様には言ってはだめよ?
言わないよ、拗ねちゃうかもしれないから。
……拗ねは、しないと思うけど。
自分も飲みたいと始まる。
かか様はちゃんと、とと様の分も淹れてくれると言うのに。
……とと様は、かか様の事を愛しているから。
然う、心から深く。
ん。
……とと様。
とと様、鍛練の続きは……ん、分かりました。
ならば、休憩を終えた後に……勿論、おいしいに決まってるさ。
冷たいお茶なのですが……とと様も、如何ですか。
……。
はい……では、どうぞ。
……やっぱり、欲しがった。
マコちゃん……。
……なんでもないです。
もぅ……。
アミちゃんも、飲も。
……うん。
25日
……メル。
ん……。
取り敢えず、戻って来た。
然う……お帰りなさい。
あぁ……ただいま。
マコトは、眠っているの……?
うん……書物を片手に、すやすやと眠っているよ。
……アミは?
マコトの傍で、書物を読んでいた。
……過去形?
其のうちに、マコトの隣で。
ふふ……然う。
マコトと遊んでいて、疲れてしまったのだろう。
あの子は放っておくと、ずぅっと動いているから。
……マコトは、全身を使って遊ぶわよね。
使わないところは無いと、断言しても良いだろう。
……頭から足の先まで、全て動かして遊んでいる。
昔の私を見ているようだよ。
……矢張り、似ているのね。
と言っても、私の場合は狩りなどの食糧集めもしていたが。
……あの子にも、其の適正はあるかも知れないわ。
もう少し大きくなったら、教えてやろうと思っている。
出来ないよりも出来た方が、将来、何かあった時に困らないかも知れない。
……困るような事が、何もなければ良い。
私も、然う思っている……が、先の事は不確かだ。
近い未来であろうとも、何が待っているか分からない。
……。
済まない。
……一寸先は闇。
……。
……あなたの言う通りだから。
アミには知識を、マコトには技術を。
……だからと言って、偏り過ぎてはいけないわ。
苦手な事であろうとも、避けてはならぬ……か。
……身に付ける努力を、怠ってはいけないの。
あぁ……。
……全く出来ないより、幾らかでも出来た方が良い。
取り敢えず……読み書きと計算は必須だな。
……マコトは最近、私達の名を書けるようになったの。
うん。
……また、見てあげて。
ん……夜にでもまた、見ようと思っている。
……。
メル。
……ゆっくりだけれど、マコトの中にも知識が重なり始めている。
アミが傍に居て呉れる事も、大きいのだろう。
……大分ね。
マコトには、アミが居る……アミには、マコトが居る。
……けれど、ずっと一緒だとは限らない。
……。
いずれ、離れる時が来るかも知れない……。
……ひとりになっても、活かせるように。
他の誰かが傍に居る事だってあり得るわ……。
……他の誰か。
私が姉姫様から離れて、あなたと生きているように……。
然うか……然うだな。
……複雑?
マコトは兎も角、アミは複雑かも知れない……。
……マコトは、どうして?
多分……私と同じ、種だからだろう。
……成程。
メルは……どうだい?
……どちらにも、良きひとが見つかれば良いと思っているわ。
良きひと……。
……私達のようにね。
ん、其れは絶対だな……。
……ふふ。
……。
……勿論、離れずにふたりで生きても良い。
あぁ……あくまでも、ふたりの好きにすれば良い。
……。
あの子達が、己の足で歩けるようになるまで……力の限り、務めるつもりだ。
……私も出来る事をするわ。
出来れば、無理のない範囲で頼む。
……少しくらいの無理ならばするわよ、子供達の為だもの。
其れは、然うなのだが。
……先ずは、学び舎を軌道に乗せなくては。
育ってきては、いるのだろう?
……うん、悪くはないわ。
今の代が順調に育って呉れれば、次の代へ自ずと繋がってゆく筈。
……思うように、進んで呉れれば良いのだけれど。
進んで呉れるさ、メルが教えているのだから。
……私の力だけでは。
メル。
……ごめんなさい。
知識は時間を掛けて積み重ねてゆくもの、然うだろう?
……私達は知識と言う種を蒔いた。
其の種が今、やっと芽吹いた。
だけど其れは、まだまだ小さな芽に過ぎない。
……大事にしないと、直ぐに駄目になってしまう。
私達に出来る事は大切に育てて、次の代へ引き継ぐ事だ。
……小さな芽が大きく成長するまでには、長い時間が掛かる。
私達の代では、叶わない。
……其れでも、出来るだけ。
若しかしたら、アミが引き継いで呉れるかも知れない。
……あまり、期待をしては。
アミは小さい頃から、メルのようになりたいと言っていた。
故に、メルの知識を受け継ごうと、今でも一所懸命に勉強を続けている。
……今ではもう、辰星の古語の読み書きも出来るようになったわ。
あぁ……此の間、私に読んで聞かせて呉れたよ。
……マコトも、アミと一緒に。
仲良く育って呉れていて、私は嬉しく思う。
……うん。
引き継いで呉れるかも知れないが、引き継いで呉れなくても構わない。
……。
アミが思うようにすれば良い、好きなように生きれば良い。
……でも、期待してしまう。
其れはもう、仕方の無い事なのだろう。
……次の王は、誰がなるか分からないけれど。
……。
……ユゥ。
出来れば……マコトに。
……。
期待しているわけではないんだ。
マコトもまた、思うように、好きなように生きて欲しいと思っているから。
……だけど。
マコトならば、アミとふたりで引き継いで呉れるかも知れない……そんな事を、どうしても考えてしまう。
……。
飾り物の王になど、なるものではないと言うのに。
……今ではもう、飾り物などではないわ。
然うだろうか……今でも、私は。
……あなたは最初から、飾り物なんかではなかったの。
メル……。
……私にとって、あなたはずっと立派な王様。
君だけだ……然う、思っているのは。
……ううん、私だけではないわ。
ジュピターも、か……?
……誰よりも長く、あなたの傍に居るんだもの。
……。
ユゥ……?
……あいつは、私達よりも長く生きるだろう。
……。
仮令、私達が居なくなったしても……アミと、マコトの傍に。
……ジュピターは、お願いしなくてもふたりの傍に居て呉れる。
……。
だって……あの子達の事が、大好きなのだもの。
あぁ……見ていて、良く分かる。
……今だって。
ふたりの傍で、昼寝しているよ。
……誰よりも、頼りになる守り人。
あいつの腹に寄り掛かって寝ている限り、何人も容易に近寄る事は出来ぬ。
……ましてや、邪な考えを抱えている者など。
命までは取るな、と……伝えてはいるが。
……取ってしまったら、口無しになってしまうわ。
口無し……?
……死人(しびと)に、口は無い。
あくまでも、生かして話を聞く……だな。
……処分は、其の後でも良い。
あぁ……メルの言う通りに。
……とは言え、今のところ。
今後も、なければ良い。
……うん。
……。
……。
……マーキュリーも、傍に居て呉れる。
然う言えば、あの子は何処に居るの……?
……今は、マコトの腹の上だ。
お腹の上……流石に、頭の上ではないのね。
書物を読む時に、頭から降ろしたんだ。
流石に、重みが気になるらしい。
……冠も、外した?
アミに、外してもらっていた。
……自分で外せるのに。
マコトは、アミの事が大好きだからな。
……アミも、甘やかすから。
はは、然うだな。
……。
まぁ、仲が良い事に越した事はないさ……。
……然うね。
……。
……其れにしても。
うん?
……マーキュリーを、頭の上に乗せるだなんて。
あぁ……あれには大分、意表を突かれたなぁ。
流石の私でも、頭に乗せようなどとは思わなんだ。
……落としてしまうからと言っても、また乗せて。
マーキュリーが乗せて欲しいと、言っているからだと。
……確かに、然う言っているようにも見えたけれど。
アミも、困っていたっけな……何を言っても、聞かなくて。
……初めて、喧嘩らしい喧嘩をしたのよね。
と言っても、私とジュピターがしたものに比べれば、かなり穏やかなものだけれど。
……あなたとジュピターは。
其れはもう、互いにまくし立てるかのように言い合ったよ。
と言っても、あいつはずっと不服そうに唸っていただけだが。
……手は出なかったのよね。
私は出さなかったし、あいつも出さなかった。
手を出したら、大変な事になる……其れは、ちゃんと分かっていたから。
……手を出す喧嘩は駄目よ。
ん……あくまでも、口で。
だからと言って、感情に任せて罵るような言い合いもしてはいけないわ。
あくまでも論理的に、そして理性的に、口論しないと。
論理的……あの頃の私達には程度遠い概念だったなぁ。
喧嘩の原因は大体、食い物の事で……内容は、食った食わないだったから。
……あなたが大体、食べられる方。
然うなんだ……ちびは私の分まで食ってしまって。
あれには、手を焼かされたなぁ。仕方無いから水だけ飲んで、一晩我慢した事もある。
……だけど、獲って来て呉れたのでしょう?
あぁ、然うなんだ……だから、許してしまう。
……獲ってきたものを、ふたりで食べる。
分け合って食っていると、不思議とどうでも良くなってしまうんだよ。
……其れは屹度、あなただから。
私だから?
こういう言葉もあるでしょう……食べ物の恨みは恐ろしい、と。
あぁ……あるな。
……でもあなたは、遺恨を残すような事はなかった。
今となっては、全て、過ぎた事だ。
……あなたのようなひとは、なかなか居ないと思うわ。
メルもだろう?
……私?
メルも食べ物で遺恨を残すような事はないように思える。
私は……どうかしら。
食べ物の事で怒っている君を、一度だって見た事がない。
あなたは、私の分を食べてしまうどころか、己の分を分けて呉れようとするから。
若しも食われてしまったら、恨みを残すかい?
ん……。
……後々まで。
……。
メル……?
……なけなしの食糧を、食べられてしまったら。
許さない……?
……其れが子供達の為に残しておいたものだったら、許せないかも知れない。
其の場合は、私も許さない。
……。
ジュピターも許さないだろう、若しかしたら、何処までも追いかけて行くかも知れぬ。
……だけど奪った理由が、己の子供の為だったとしたら。
其れでも、全てを奪う事は許さない。
……。
どうしたって、物事には順番と言うものがある。
其の順番はいつだって、守るべき者が一番上だ。
……然うね、否定はしない。
メルは……。
……私は、あなたと子供達が最優先。
私よりも、
……いよいよの時は、子供達。
うん……其れで良い。
……あなたは。
君と子供達だ。
……私よりも。
其の時に考える。
……。
ぎりぎりまで。
……もぅ。
……。
ん……ユゥ。
……最終的には、子供達になるだろう。
……。
……其れでも。
其れで、良いわ……。
……。
けれど……出来れば、そんな事はないように。
……あぁ、そんな事には決してさせない。
……。
……ところで、体調はどうだい。
うん……悪くないわ。
……お茶のおかわりは、要るかい。
ん……もらおうかしら。
……ん、分かった。
有難う、ユゥ……。
礼には及ばない……私も、飲もうと思っていたから。
……其れでも、有難う。
ならば……どうしたしまして。
飲み終わったら、あの子達の傍に行きましょう。
……寝顔を見に、其れとも。
一緒に、お昼寝をしても良い……。
……。
其の為に、膝掛けも持って来たから。
……然うだったな。
無くても、ジュピターのお腹は温かいけれど。
……だとしても、あった方が良い。
うん……。
……。
……マコトがね。
なんだい……?
……皆で、お昼寝がしたいと。
其の皆には、私達が含まれているのだな。
……お昼寝は、なかなか一緒にしてあげる事が出来ないから。
昼寝は、難しいな……。
……だから、今日くらい。
あぁ……一緒にしよう。
……喜んで呉れれば、良いけれど。
喜ばないわけがないな……。
……屹度、今だけなのよね。
今だけ……?
……大きくなったら、一緒にお昼寝なんて。
然うだな……大きくなったら、もうしないかも知れない。
……ならば、大事にしないと。
今、此の時を……?
……三人目は、無理だと思うから。
……。
……ごめんなさい。
謝る事はない……。
……。
……私は、ひとりで良いと思っていた。
うん……。
……君と良く話し合って、二人目を望んだ。
私が、望んだの……。
……。
……もうひとり、欲しいと。
姉姫殿とも、話し合ったんだ。
……私も、一緒に。
躰の事を考えて……育ち切る前に、産むと。
……。
辰星からも、ひとを寄越して呉れて……大いに助かった。
……姉姫様が動いて呉れるだなんて、思いもしなかった。
姉だから、と。
……言ってはいたけれど。
……。
ふたり居れば……ひとりを、辰星に。
……其の申し出は、固辞した。
……。
……姉姫殿は分かった上で、援助して呉れたのだ。
記録は、求められたけれどね……。
……ただの好奇心だと、言っていたな。
満たして呉れていれば、良い……。
……言って来ぬから、大丈夫だとは思う。
……。
……マーキュリーと言えば。
なに……?
また上手い具合に、マコトの頭にしがみついているんだよ。
マーキュリーにあれ程の力があるとは思わなんだ。
……私も、考えた事も無かったわ。
マーキュリーを連れ出す時は手で抱えるか、籠に入れるかしていたから。
……どうしても頭に乗せるのならばと、あなたが特別な冠を作って呉れて。
囲ってしまえば、万が一の時でも落ち難くなるだろう。
其れこそ、逆さまになって、引っ繰り返らない限り……ね。
……アミが傍に居れば、其の心配も要らない。
ん……。
……。
……ねぇ。
なんだい……。
……マコトの躰力は、アミよりも。
間違いなく、あるだろう。
……アミもアミなりに、頑張ってはいるのだけれど。
アミがついていくには、少々厳しい。
……あの子に、躰力が無いわけではないのよね。
うん、其れは無いよ。
……あなたは、どう?
私かい?
マコトについていくのは、きつい?
いや、私は未だ大丈夫だ。
未だ?
マコトが元服の儀を終えたしても、未だ大丈夫だろう。
マコトが……然う、子を持つ頃になったら?
其れでも、大丈夫だな。
……矢張り。
矢張り?
……マコトの躰力は、あなた譲りね。
ん。
ジュピターとも、あの歳から張り合って。
まさか、ジュピターと張り合うようになるとはなぁ。
ジュピターにもうひとり、きょうだいが出来たみたいね。
出来れば、子であって欲しかったんだけどな。
子は、アミが居るから。
マコトも、子だぞ?
然うなのだけれど……あなたに、似ているから。
あたしに似ていると、きょうだいのようになってしまうのか。
あの子が張り合わなければ、違ったのかも知れないけれど。
……似ている、か。
ええ……似ているわ。
……ふ。
……。
アミは、マコトと遊ぶ事で……大分、持久力がついたと思う。
……走る事が、特に苦手だったものね。
ん……直ぐに、息が切れてしまって。
……お散歩は好きなのよ。
あぁ、小さい頃からね……。
……マコトがアミの速度に合わせている事には、気付いている?
ん、気付いているよ……其の為に、手を繋いでいるという事も。
手は……マコトが繋ぎたいだけだと思うわ。
……矢張り、然うか。
大好きだもの、アミの事。
……はは。
あの子達は……ふたりで、良かったのかも知れない。
……確実に、ふたりで良かったと思う。
……。
……メルクリウス。
ユピテル……。
改めて、有難う。
……ううん。
……。
……。
……どうぞ、メル。
有難う……ユゥ。
……飲み終わったら。
ふたりの傍に……。
24日
んー……。
……。
どこかな、どこだろ。
……。
ここかな、ここだろ。
……。
あれ、いないや。
んー、いるとおもったんだけどなぁ。
……。
どこに、かくれたのかなぁ。
きょうこそ、じぶんでみつけるんだ。
……。
こういうときは、けはいをかんじるんだって、ととさまがいってた。
けはいをかんぜんにけせるようになるには、いっぱいれんしゅうしないとだめだから、なかなかできないって。
でも、ぜーんぜん、わかんないだよなぁ。ジュピターのはないきなら、わかるんだけ……て。
……。
もーなにするんだよ、ジュピター。え、あたしのほうがひとりでうるさいって?
べつにいいだろ、かくれんぼしてるんだからさ。こころのなかでいうのは、あたしにはむつかしんだよ。
……ふ。
はないきがうるさいなんて、いってないじゃないか。
はないきなら、わかるっていっただけで。
……。
あ、こら、やめろ、やめろって。ジュピターのうろこ、ちくちくするんだよー。
あーもーわかった、わかったから。もう、いわないよーいわなきゃいいんだろー。
……。
また、いいそう? だーかーら、もーいわないっていってるだろ。そーいうの、いいがかりっていうんだぞ。かかさまが、いってたんだ。
あたしがわるい? だから、あやまっただろーしつこ……え、まだあやまってない? そうだっけ?
……ふふ。
わるかったよ、ごめんよ。
もう、いわないよう。
……。
あやまったぞ、もーいいだろ。あたしはいま、かくれんぼしてるんだ。だから、いそがしいんだ。
ジュピターをかまってるひまなんて……かまってほしいなんて、いってない?
なんだよもーーあたしだって、みつけるのにいそがしいんだよーー。
……。
そーだよ、みつからないから、いっしょけんめん……いっしょめんめいに、さがしてるんだ。
はやくみつけないと、まちくたびれて、でてきちゃうんだ。それじゃ、だめなんだ。
きょうこそ、あたしのちからで、ぜったいにみつけるってきめてるんだ。
……一所懸命。
あたしは、かくれんぼにもどるからな。
ジュピターとは、あとであそんで……て、おい、なんでそっぽむくんだよーもーー。
……。
もー、ジュピターはいつもそーなんだ。みてろ、いつかぜったい、ジュピターよりおっきくなってやるんだからな。
ジュピターよりおっきくなったら、みんなをせなかにのせて、そらを……あたしはとべない?
のせるなら、あたまのほーがいい? とべないけど、とべるし、せなかのほーがひろいんだから、せなかでいいんだ。
……。
はやく、さがさなきゃ。
ほんとに、まちくたびれちゃう。
……。
けはい、けはい、けはい、けはい、けはい……。
……。
あーーー……。
……。
うーーー……。
……。
……かんじない、ぜんぜん。
……。
ととさまと、ねるまえに、れんしゅうしてるのにな……なかなか、じょうたつしないな。
マーキュリーは、わかるかい? あ、わかっても、いっちゃだめだよ。
……。
なぁ、ジュピター……おまえは、どこにかくれたか……しってるんだろ。
……。
おしえてなんて、いわないよ。いうわけないだろ。
あたしは、じぶんのちからで、みつけるんだから。
……。
……はじめるまえに、じぶんでみつけるって、いっちゃったしさ。
……。
おなかのところに、かくれてるとおもったんだけどなー……どこに、かくれたんだろ。
……ジュピター。
ん?
……。
ん、ん?
……。
けはい、なんとなくかんじたようなきがする!
……。
なぁ、ジュピターもかんじたろ? とぼけたって、だめだぞ。
あたしには、きこえたんだからな。ジュピターって、よんでるこえが。
……。
それは、こえだろって? けはいでも、こえでも、なんでもいいよ。
だって、わかったんだからさ! あとは、みつけにいくだけだ!
……耳が、良い。
また、きこえた! まちがいない!
ね、マーキュリーもきこえたろ?
……。
えと、きこえたのは……そうだ、ジュピターのせなかだ! ジュピターのせなかなら、あたしだってのぼれるぞー!
とくいなんだ、ジュピターのせなかにのぼるの! ととさまのせなかと、おなじくらい!
……。
ジュピター、ちょっと……あ、こら。
うごくな、うごくなって……あーーもう。
……良いわ、ジュピター。
ん!
……。
やっぱり、せなかだ! せなかに、かくれてるんだ!
マーキュリーも、そうおもうだろ! あ、そうおもっても、いわなくていいからね!
……。
ぜったい、ぜったい、みつけるんだ!
きょうこそみつけて、ととさまとかかさまに、ほーこくするんだ!
……きっと、褒めてくれる。
だからごめんよ、ジュピター!
あたしはおまえのせなかに、よじのぼる!
……。
あやまらなくていい? あそんでるだけだから?
わかった! じゃあ、あやまらない!
……。
ねぇ、これからみつけにいくから、よぉくきいて!
……なぁに。
あたしがみつけたら、おちゃのじかんだって!
……。
ととさまが、いってたんだ!
かくれんぼがおわったら、おちゃのじかんにしようって!
……とと様。
かかさまも、いるよ!
……かか様も。
だから!
だから!!
……。
みつけた、アミちゃん!
……ん。
へへ!
……マコちゃん。
びっくり、した?
……うん、した。
はは、やった。
……まだ、下にいるのだと思っていたの。
はなしながら、のぼってたんだ!
……ふふ、そうだったのね。
ね、おもってたより、はやかった?
ん……ずっと、早かった。
へへ、そっか!
マコちゃんは、ジュピターの背に登ることも上手ね。
とくい!
……うん。
やった、やった、アミちゃんをみつけたぞ!
じぶんのちからで、アミちゃんをみつけたぞ!
ふふ……とうとう、見つかっちゃった。
あたまの、かんむりのところにかくれてたんだね!
うん、そうなの。
ぜんぜん、おもいつかなかった!
……とと様が、良いだろうって。
ととさま?
ううん……宣言通り、ちゃんと見つけられたね。
うん、ちゃんとみつけたよ!
ジュピターに、お願いする?
おねがい?
鱗、ずっと欲しがっていたでしょう?
あ!
きっと、くれると思うの。
ひとりで、見つけられたから。
もらう!
もらえたら。
アミちゃんとおんなじのを、ととさまにつくってもらう!
私とお揃いで良いの?
アミちゃんと、おそろいがいい!
……ジュピター、お願いしても良い?
ジュピター、ジュピター!
……ん、くれるって。
やったー!
……ありがとう、ジュピター。
うろこ、うろこ!
マコちゃんも、お礼を言わないと。
ありがと、ジュピター!
……ん、良い子。
あは!
……。
アミちゃんの、きれいだね。
……マコちゃんの首飾りも、きっと。
ん!
……。
ははは。
……ねぇ、マコちゃん。
なぁに、アミちゃん。
かくれんぼ……次はマコちゃんが隠れる番、なのだけれど。
あたしも、かくれたいんだけど!
私を見つけたら、お茶の時間なのよね?
うん、そーなんだ! ととさまが、おちゃにしようって!
おちゃのよーいをして、まってるんだ!
かか様も、来ているの?
うん、かかさまもきてるよ!
もう、来ているの?
うん、もうきてる!
ん……。
ほら、あそこ!
ととさまのとなりに!
あぁ……本当。
ね、ととさまとかかさま、みえるだろ?
うん、見えるわ……とと様が、大きく手を振ってくれているのも。
かかさま、きょうはたいちょうがいいんだって。
……ご無理は、されていないかしら。
え、なに?
……。
アミちゃん?
ううん……なんでもないわ。
そっか?
……ん。
そっか!
……。
おーい、ととさまー!
あたし、アミちゃんをみつけたよー!
……かか様も、小さいけれど、手を振ってくれている。
かかさまー!
かかさまーー!!
……かか様。
ね、アミちゃん。
……なぁに、マコちゃん。
おちゃ、なんだろうね!
そうね……きっと、かか様が好きなお茶だと思う。
かかさまの?
こういう時、とと様は決まって、かか様が好きなお茶を淹れてくれるの。
じゃあ、ほんのりあまいおちゃだ!
マコちゃんは、そう思う?
おもう!
アミちゃんは?
私も、そう思う。
ふふ、おんなじだ!
ん、同じね。
いこ、アミちゃん!
うん、行きましょう。
よーし!
降りる時も、気をつけてね。
え?
寧ろ、降りる時の方が危ない。
それ、かかさまがいってた!
とと様も、言っていたわ。
ん、そーだった!
もしもすべり落ちるようなことがあったら、大きな怪我をしてしまうかもしれないから。
だから、きをつける!
うん。
いいこ?
ん、とっても。
へへっ。
じゃあ、ゆっくり行きましょうか。
うん、ゆっくりいく!
ん。
ねぇねぇ、アミちゃん。
なぁに、マコちゃん?
ジュピターからおりたら、て、つなご。
ん、繋いで行きましょう。
やった!
ふふ。
ジュピターも、いっしょにいくぞ。
ジュピター、背中を貸してくれてありがとうね。
マーキュリーも、いっしょだよ。
マーキュリーも、マコちゃんと一緒に探してくれてありがとう。
マーキュリーは、なんにもおしえてくれなかったけど!
それは、マコちゃんが教えないで良いと言ったからでしょう?
おしえてもらったら、ひとりでみつけたことにはならないから!
……。
ん?
相変わらず、上手に乗っているなぁって。
ふふ、そうだろ?
とと様が特別に作ってくれた冠の中に収まって。
ていきてきにおみずをあげなきゃいけないけど、おちることはないよ!
あたしがさかさまに、ひっくりかえらないかぎり!
じゃあ、余計にすべり落ちないようにしないと。
うん?
でないと、マーキュリーも一緒に落ちてしまうから。
あ、それはだめだ。
マーキュリーがけがしちゃう。
ん、そうね。
マーキュリー、しっかりつかまっていてね!
……。
おへんじ、した?
ん……した。
めのおく、きらっとした?
目の奥はきらっとしなかったけれど、片目を瞑ったわ。
まばたき?
ゆっくりと。
マーキュリーのまぶたは、したからうえにうごくんだよね。
そう……ひとのこの瞼とは逆なの。
ジュピターにもまぶたはあるんだけど、とーめーのうすいまくもあるんだ。
瞬膜と言うの。
そう、しゅんまく!
とじていても、みえるんだよね。
目を閉じていても見えるだなんて、とても便利だと思うの。
うん、とってもべんりだ。
ひとのこにも瞬膜があれば、目を瞑りながらでも、書物を読むことが出来るかもしれないのに。
ん。
名残は目頭に残っているけれど……機能は、完全に失われてしまったから。
だめだよ、アミちゃん。
……何が、だめなの?
めをつむりながら、しょもつがよめたら、アミちゃん、ずっとしょもつをよんでるだろ。
ずっとでは、ないけれど……。
めは、ちゃんとやすませなきゃだめだって、ととさまがいってたんだ。
瞬膜があれば、完全にではないかもしれないけれど、休ませることは出来ると思うの。
ううん、できないよ。みえてるんだから、できない。
やっぱり、まぶたをとじて、なんにもみえなくならなきゃ。
……。
てーきてきにやすませることは、だいじなんだよ。
かかさまも、いってた。
……そう、なんだけど。
だから、おひるねしよ。
……お昼寝?
みんなで、おひるね。
皆……ジュピターとマーキュリー?
ううん、ととさまとかかさまもだよ。
それは……難しいと思うわ。
むつかし?
とと様は、王様としてのお務めがあるし……かか様だって。
できない?
……ふたりに、聞いてみないと。
じゃあ、きこ。
ん。
ね。
……うん。
できたら、いいな。
……ん、そうだね。
おひるねのあとは、しょもつをよむんだ。
……。
いっしょに、よも。
……うん、一緒に。
やった。
だけど……ひとりで、読める?
よめる。
ん、分かった。
よめるけど、むずかしいところは、よんで。
難しいところ?
えと……よめない、ところ。
じゃあ……読み方を、教えるね。
うん、おしえて。
意味は、自分で調べる?
しらべる。
ん。
しらべるけど、わかんなかったら、おしえて。
……うん、任せて。
ありがと。
どういたしまして。
あたしね。
うん。
ととさまの、かかさまの、アミちゃんの、じぶんの。
……。
それから、ジュピターの、マーキュリーの。
……。
なまえ、かけるようになったんだ。
……後で、書いて見せてくれる?
うん、いいよ!
ふふ、ありがとう。
いちばんに、アミちゃんのなまえをかくね!
私が一番でいいの?
うん、いいの!
……。
ん。
……楽しみにしてるね。
うん、してて!
……。
ふふっ。
……ふふ。
アミちゃん。
なぁに。
だいすき。
私も、大好きよ。
ととさまも、かかさまも。
ジュピターも、マーキュリーも。
みんな、だいすきだ。
私も、大好き。
うん!
……叶うなら、ずっと一緒にいたい。
ずっと、いっしょだよ。
……ずっと?
ずっと、ずっと、いっしょ。
……そうだったら、うれしい。
あたしは、アミちゃんとずっといるよ。
……マコちゃん。
ととさまも、かかさまも、ジュピターも、マーキュリーも。
……。
ずっと、いっしょ!
……ん。
あ。
……うん?
ととさまが、あたしたちをよんでる。
……。
かかさまも、まってる。
……早く、行かなきゃ。
さきに、おりるね。
え。
よっと。
……身軽。
つぎは、アミちゃんのばん。
……私は。
ゆっくりでいいよ、まってる。
……。
だいじょうぶ、おいてかない。
……うん、ありがとう。
アミも、マコトも、ゆっくりしているな。
……良いじゃない、ゆっくり待っていれば。
まぁ、然うだな。
……急がれて、足を滑らせてはいけないもの。
アミは大丈夫だろうが、マコトがなぁ。
……でも、許したのね。
ん。
……ジュピターの背に。
あぁ、アミが居るから大丈夫だろうと。
……。
未だ、子供達だけでは早かったか?
……ううん、良いと思う。
ん、良かった。
……。
マコト、今日は自力で見つけられたみたいだな。
……然うかしら。
うん?
……アミが、ほんの少しだけ。
んー……。
……だけど、言わないわ。
うん、其の方が良いかな。
……。
お、降りてきた。
……お茶の支度を。
ん、始めようか。
……。
はは、元気だな。
……ん、本当に。
23日
……。
マコちゃん。
……ぅ。
おなかいっぱいになった?
ふふ、よかったね。
……ぁ。
なぁに?
……。
わたしのことが、わかるの?
そうだったら、うれしい。
……。
わたしはずっと、あなたのそばにいるわ。
だから、だいじょうぶ。なんにも、しんぱいしないでね。
……。
あ、わらった。
ふふ、かわいい。
……。
ね、あなたのくびがすわったら、いっしょにおさんぽにいきましょう?
ジュピターがね、あなたのことをまっているの。はやく、あそびたいって。。
……あ、ぅ。
なぁに、マコちゃん。
……。
ことばをおぼえたら、おはなしもいっぱい、しましょうね。
しょもつも、いっしょによめたらいいなぁって、おもっているの。
……。
しょもつにはね、いろんなことがかかれているのよ。
ほかのほしのこと、ことば、おはなし、きろく、いいつたえ、それから、せいぶつ、すうじ、きか……しらないことばかりで、とてもおもしろいの。
……。
しらないことをしることは、とてもたのしいわ。マコちゃんにも、そのたのしさを、しってほしい。
それで、いっしょにたのしむことができたら、きょうゆうできたら、とてもうれしい。
……ぁ。
かかさまはね、どんなことばもはなすことができるし、どんなしょもつもよむことができるの。
ふるいことばでかかれているしょもつだって、すらすらとよむことができるのよ。
わたし、かかさまのようになりたいの。そのためには、いっぱいおべんきょうしないと。
……。
ととさまもね、かかさまにずっと、おそわっているんだって。かかさまにおそわることが、とってもたのしいんだって。
ととさまはとてもすなおだから、おぼえがはやいのよって、かかさまはたのしそうにいっていたわ。
わたし、そんなととさまのようにもなりたいの。おうさまにはなれないけれど、ととさまのように、すなおでつよいひとに。
……。
マコちゃんはととさまににているから、からだをうごかすことのほうがすきかしら。
ととさまはね、とてもつよいの。さいせいのだれもが、ととさまにはかなわないの。
……。
ととさまはおうさまとして、きょうも、りっぱいにおつとめをはたしているわ。
おうさまのときのととさまは、おうさまのおかおをしていて、りりしくて、とってもかっこよくて。
だけどね、かかさまとわたしのまえではべつ。ととさまはととさまになって、かかさまにあまえたり、わたしとあそんでくれたりするの。
しょもつだって、よんでくれるのよ。ジュピターのせなかに、のせてくれることもあるわ。
……。
そう、ジュピターといえば。わたしね、ジュピターののりかたをととさまにおそわっているの。
まだ、ひとりではとぶことはできないけれど、いつかきっと、とべるようになりたいとおもっているの。
とべるようになったら、マコちゃんもいっしょにのってくれたらうれしい。
……う、ぅ。
のってくれるの?
ふふ、ありがとう。
……。
わたしは、からだをうごかすことは、あまりとくいではないのだけど……マコちゃんとなら、からだをうごかして、いっぱいあそびたいとおもっているの。
かけっこ、かくれんぼ、あしとび、たまなげ、それから……え、と……こんど、あそびかたをしらべておくわ。ととさまなら、いっぱいしっているとおもうし。
ううん、しっているわ。だって、ととさまだもの。かたぐるまをしてはしってくれたり、ジュピターのまねをしてせなかにのせてくれたり、たくさんあそんでくれるから。
……。
あ、でも、わたしがマコちゃんをかたぐるましたり、せなかにのせたりすることはできないとおもう……ごめんなさい。
それいがいのあそびだったら、いっしょけんめいにするから……ううん、あそびはいっしょけんめいにしなくてもいいんだった。
たのしく、あそぶことができたら、それでいいって……ととさまだけでなく、かかさまにも、いわれたの。
ぁ……。
かかさまにも、きいてみようかしら。
かかさまは、いろんなことをしっているから……きっと、あそびもしっているわ。
……。
ね、マコちゃん……わたしね、あなたのことがだいすきよ。
ととさまとかかさまも、あなたのことがだいすきだから……あと、ジュピターとマーキュリーも。
……。
ちいさな、おてて……きゅって、にぎってくれて。
わらって、くれて……ほんとうに、かわいいとおもっているの。
……。
あ、おねむかしら……じゃあ、しずかにしないとだめよね。
いま、しずかにするわ……だけど、みていることはゆるしてね。
……。
ねぇ、マーキュリー……あなたもマコちゃんのこと、みていてあげてね。
ほんとうは、ジュピターにもみていてほしいのだけれど……まだ、むずかしいから。
……。
だけど、そばにはいてくれてる……よべば、すぐにきてくれる。
ね、マコちゃん……みんなが、あなたのそばにいるわ。
だからね……あなたもわたしも、ひとりになんてならないの。
……。
かかさまは、まだ……ながくは、おきていられないけれど。
ととさまも、おうさまのおつとめがいそがしくて、ずっといっしょにはいられないけれど。
でも、でも、よるになれば、あさまでみんないっしょだから……ととさまもかかさまも、わたしたちのことをおもってくれてるから。
……。
かかさまがおきられなくて、ととさまもいないあいだは、わたしとマーキュリーで、あなたをみているわ。
じゅうしゃのみんなも、いてくれるけれど……でも、わたしにできることなら、なんでもしたいの。
……。
ふふ、ほんとうにかわいい……こんなにかわいいこ、ほかにいるのかしら。
きっと、あかちゃんはみんなかわいいのだろうけど……でも、わたしは、マコちゃんがいちばんだとおもう。
……。
ねぇ、マコちゃん……マコちゃんは、どうしてこんなにあったかいのかしら。
まるで、ねつのかたまりみたい……あ、かたまりなんていいかた、だめかしら……でも。
アミも可愛いし、あったかいよ。
……え。
アミ。
ととさま?
戻って来た。
おつとめは、いいの?
務めは大事だが、休息も大事だ。
……。
マコトを見て呉れていたんだね。
う、うん……。
有難う、アミ。
う、ううん、わたしはうえのこだから。
だとしても、有難う。
ととさま……。
……。
あ。
マコトは、眠っているのかい?
……ねむたそうに、しているわ。
ふふ、然うか。
……あの、ととさま。
なんだい、アミ。
どうして……その、だっこしてくれるの?
其れは、アミも私の可愛い愛し子だからだよ。
いとしご……。
アミもマコトも、私達の大切な愛し子だ。
……。
ん、どうした?
……ううん、どうもしないの。
然うかい?
……うん。
本当に?
……ほんとう、に。
アミは、我慢してしまうところがあるみたいだから。
……がまんなんて、していないわ。
していない?
……。
アミ。
……ととさまのだっこ、うれしい。
ならば、ずっとしているよ。
……それは、むりだとおもう。
無理かな。
……かかさまのことも、みてあげて。
かか様?
……いまは、おやすみになっているの。
あぁ……然うか。
……ととさま。
うん?
……さびしい?
ううん、寂しくはないよ。
……でも、さびしそうだわ。
アミとマコト、其れから、ジュピターとマーキュリー、皆が私の傍に居て呉れる。
だから、寂しさなんて感じない。感じるわけが、ない。
……。
アミ?
……だけど、わたしはさびしいわ。
アミ……。
……かかさまが、いないと、さびしい。
……。
みんながいてくれても、さびしいの……。
……あぁ、然うだな。
う……。
……とと様も寂しいよ、アミ。
ととさま……。
……。
マコちゃんは……マコちゃんはね、とってもかわいいわ。
……口元が、かか様に似ているんだ。
かかさまに?
あと、耳の形……髪質も、似ているかな。
くちもと……みみのかたち……かみしつ……。
だけどかか様は、マコトは私にそっくりだと言う。
……。
アミは、どう思う?
……わたしも、ととさまにそっくりだとおもう。
アミも、然う思うかい?
……ひとみのいろも、おなじだし。
ん、確かに。
……わたしのひとみは、かかさまとおなじいろなのでしょう?
あぁ……かか様と同じ、きれいな青だ。
……ととさまとマコちゃんは、きれいなみどり。
きれいかい?
うん、とてもきれい。
ふふ、然うか。
嬉しいな。
わたし、ととさまのみどりも、かかさまのあおも、マコちゃんのみどりも、みんなすきよ。
とと様も、かか様の青も、アミの青も、マコトの碧も、皆大好きだ。
ジュピターのひとみのいろもすき。
あいつの瞳は、青と碧が混じっているような色だ。
まるで、ととさまのみどりとかかさまのあおが、まじっているみたいね。
私達の?
あおとみどりで、あおみどりいろ。
青と、碧……青碧色。
うん。
……。
ととさま?
……あぁ、然うか。
どうしたの?
言われてみれば、私達の色が混じっているのだな。
……。
教えて呉れて有難う、アミ。
アミに言われるまで、気付かなかった。
……そうなの?
とと様は、何処か鈍いところがあるからね。
……。
かか様は、気付いていそうだ。
……ほんとうは、かかさまにおしえてもらったの。
かか様に?
……かかさまがしんせいのふるいことばでかいた、せいりゅうのしょもつ。
青龍の……あ。
……あ?
確かに、書いてあった……あぁ、なんて事だ。
……ととさまも、かかさまのしょもつをよんだことがあるの?
うん、何度も読んだ。
だけど、捉え方を間違えていたようだ。
……とらえかた?
青龍の瞳の色は青と碧、然う書かれていた事は憶えている……でも、其れをひとつの色だとは思わなかったんだ。
ひとつの、いろ?
青碧という、ひとつの色。
……え、と。
つまり、青と碧、ふたつの色だと思っていたんだよ。
……。
もっと言えば、其の色が私達の瞳と同じものだとは考えなかった。
……ととさま、にぶい。
う。
かかさまは、そのつもりでかいたとおもうのに。
うん……今更ながら、とと様も然う思う。
……かかさまに、きかなかったの?
青龍……ジュピターの瞳は、子供の頃から見ていたから。
から?
其の……然ういうものだと思っていて、深く、考えなかったんだ。
……。
は、はは……。
……ふふ、ととさまったら。
いやぁ、参ったなぁ。
かか様に言ったら、屹度。
きっと、わらってくれるわ。
アミも、然う思うかい。
だってととさま、にぶいんだもの。
あー……然うだよなぁ。
でも、うれしいのでしょう?
……うん?
かかさまが、わらってくれたら。
……。
……ちがう?
ううん……違わないよ。
……ん。
とと様は……私は、メルに笑って欲しい。
……わたしも。
ん……。
……かかさまに、わらってほしい。
アミ……。
……でも、いまは。
ん……然うだな。
……。
なぁ、アミ。
……なぁに、ととさま。
ジュピターの瞳の色が青碧ならば、マーキュリーの瞳の色は何色だと思う?
マーキュリーのひとみのいろは、くろだとおもう。
黒?
きれいな、くろ。
然うか。
ととさまは、なにいろだとおもう?
とと様は、蒼い黒だと思う。
あおい、くろ?
蒼が深まった、黒。
あおがふかまった、くろ。
たまに、其の奥できらりと光るんだ。
ひかる……なにが、ひかるの?
深い蒼が。
……。
かか様が書いた玄武の書物に、書いてなかったかい?
……げんぶ。
あれは……マーキュリーの事だよ。
マーキュリー?
……然う、辰星の守護者。
あ。
ふふ、書いてあったろう?
うん、かいてあったわ。
あおいくろって。
うん、其れだ。
あれは、あおがふかまったくろ、といういみだったのね。
今度、マーキュリーの瞳を観察してみてごらん。
うん、してみる。
観察したら、其の結果をとと様に教えて欲しい。
かならず、おしえるわ。
かか様にも。
ん、かかさまにも。
楽しみにしているよ、アミ。
うん、してて。
応。
ふふふ。
ははは。
おしえてくれてありがとう、ととさま。
どういたしまして。
とと様も、アミの役に立てたかな?
ととさまは、いつだって、わたしにおしえてくれるわ。
然うかい?
そうだ。
うん?
ととさま、あそびをおしえて。
遊び?
マコちゃんがおおきくなったら、いっしょにあそびたいの。
とと様と、ではなく?
ととさまとも、あそぶわ。
ふむ。
……だめ?
駄目ではないけれど……少ぉし、気が早くないかな。
ないわ、だって、れんしゅうしないといけないもの。
練習?
マコちゃんは、からだをうごかすことが、きっととくいだとおもうの。
どうして然う思うんだい?
ととさまに、にているから。
……。
だから……その、なんとなくね。
……成程。
わたしは、からだをうごかすことがにがてだから。
良し、分かった。
おしえてくれる?
教える為に、とと様と躰を動かして遊ぶ時間を今よりも増やそう。
え。
遊びながら、覚えよう。
え、えと……。
頭で覚えるだけでなく、躰でも覚えるのよ……。
あ。
おはよう……アミ。
かかさま。
マコトを見ていて呉れて、有難う。
ううん……それより、おきても、だいじょうぶなの?
ん……大丈夫。
かかさま、むりはしないでね。
うん、しないわ……心配、させたくないもの。
……。
あなた……アミを連れて、此方に。
……かかさま。
改めて……おはよう、アミ。
……おはよう、かかさま。
唐突だけれど……喉は、乾いていない?
……のど?
かか様は、乾いているわ……。
……あ。
一緒に、どう……?
いっしょに、のみたい。
ふふ……ならば、一緒に飲みましょう。
うん!
あなた……淹れてもらっても、良い?
あぁ、勿論だ。
ん……有難う。
どういたしまして……君が起きたら、淹れようと思っていたんだ。
……然う?
あぁ、然うだよ。
ならば……美味しく、淹れてね。
はは、任せて呉れ。
……マコトは。
今は、眠っている。
……然う。
あの子は良く眠る子だ。
……屹度、大きくなるわ。
どうして、然う思うんだい?
……あなたに、そっくりだから。
君にも、良く似ているが……。
だとしても……なんとなく、然う思うの。
……ふふ、然うか。
はぁ……。
……メル。
ん、大丈夫……。
……アミ。
……。
かか様と、一緒に。
……ユゥ。
ん?
……アミと、待っているわ。
あぁ……待っていて呉れ。
アミ……待っている間、かか様とお話しましょうか。
22日
メル。
……ん。
何を読んでいるんだい?
今度、あの子に読んであげようと思っている書物。
どんな内容のものなんだい?
青龍について。
青龍?
然う。
龍についての書物ならば、あの子はもう、何度も読んでいるのではなかったか。
未だ、一度も読んでいない書物があるの。
一度も?
私が辰星の古語で書いたものは、未だ読んだ事がない。
……あぁ。
ジュピターについて、簡単に書いたものなの。
辰星の古語に触れるのに、丁度良いと思ったのだけれど。
あぁ、其れは丁度良いな。
屹度、喜んで呉れるだろう。
あの子ならば、一日で覚えてしまうと思う。
ましてや、ジュピターの事だ。
直ぐに、覚えてしまうに違いない。
其れから、辰星の玄武について。
マーキュリーの事だな。
其の書物も、メルが?
ええ……此方も、興味を持って呉れると思うの。
うん、確実に持って呉れるだろう。
あの子はマーキュリーの事も大好きだから。
……楽しんで呉れるかしら。
私には、楽しそうにしているあの子の顔しか思い浮かばない。
……然う?
ん、然うだよ。
……然う。
メルがあの子の為に書いた書物、私も読んでみたいな。
……。
だろう?
……あなたも、読む?
是非。
……なら、あの子の後に。
有難う、然うしよう。
……。
メル、お茶のお代わりはどうだい?
茶碗が空になって、久しいだろう?
……有難う、頂くわ。
ん、分かった。
あなたが戻って来たと言う事は、あの子は眠ってしまったの?
あぁ、書物を読んでいるうちに眠ってしまったよ。
今はジュピターとマーキュリーが、傍で見ていて呉れている。
然う……ならば、安心ね。
あのふたりが傍に居て呉れるのならば、何も心配は要らない。
マーキュリーは見ているだけで、鳴かないけれど。
あの子に何かしらの異変を感じれば、直ぐにジュピターに伝えて呉れる。
マーキュリーから異変を伝えられたジュピターは、直ちに私達に知らせて呉れる。
あの子の守り人として、どんな者よりも心強い。
あれ程頼りになる者達は、他には居ないだろう。
いつの間にかジュピターは、分かるようになっていたのよね。
うん?
マーキュリーが伝えんとする事が。
あぁ。
あんなに怯えていたと言うのに。
いつの間にか、親し気な声で鳴くようになって。
慣れぬ頃は、か細い声できゅぅと鳴いていたのよね。
其れこそ、マーキュリーを見ただけで腰が引けてしまって。
そんな姿も、可愛かったけれど。
けれどもう、そんな姿はあまり見られないだろう。
然うかしら。
あいつとしても、弱々しい姿は見せたくないだろうから。
あの子に?
守るべき対象に、己の弱い姿、情けない姿は見せたくない。
其の気持ちは、とても良く分かる。
では、私には?
メルには……メルにも、見せないかも知れない。
私には、見せて欲しいわ。
……変わらずに、甘えて欲しい?
だって、可愛いんだもの。
ふむ。
なぁに?
いや、今は止めておこう。
……。
ん。
甘えるあなたも、可愛いわ。
……。
とでも、言って欲しかったの?
……あの子が、眠っている間に。
あの子が起きている時は、あくまでも、威厳のあるとと様で居たい。
威厳、とまでは、言わないが。
でもね、あの子はもう知っているわよ。
知ってる?
歳星の王であるあなたが、私にだけは甘えていると言う事。
……。
あの子は良い目を持っているから。
……本当に、知られているのだろうか。
あの子の目の良さは、あなただって良く知っているじゃない。
……。
先刻も、褒めていたし。
あー……参ったな。
……別に、良いと思うわよ。
良い、か?
王とて、或いは親とて、ただのひとのこでしかないのだから。
……。
其れに、あの子は誰にも言わないわ。
ちゃんと分かっているから、あなたの立場が。
……然うか。
あの子は、とても賢い子なの。
……流石は、私達の子だ。
……。
メル……?
……ふふ。
どうした?
……ジュピターが、小さく鳴いているわ。
ジュピターが?
あの鳴き声は……屹度、寝言。
……あぁ。
静かで穏やかだから、眠くなってしまったのね。
……全く、褒めたそばから。
けれど、ちゃんと張り巡らされている。
……。
此れならば……眠っていたとしても、直ぐに気付く。
……まぁ、然うなのだが。
だからこそ、どんな者よりも信頼出来る……でしょう?
ふ。
もう。
……なんだい?
あの子に対してだけは、素直ではないの。
然うか?
褒める時はちゃんと褒めているぞ?
はいはい、然うね。
本当なのだがなぁ。
……。
メル?
……あなた達は、其れで良いのよね。
……。
だって……きょうだいみたいなものなんですもの。
きょうだい……きょうだい、か。
……あの子と此の子も、然うなるのかしら。
うん?
……きょうだい、だから。
あぁ……。
……あなたは、どう思う?
然うだな……あの子は、張り合うような事はしないような気がするな。
どうして?
あの子は何事に対しても、おっとりとしているところがあるだろう?
常に自分の速度でものを考え、行動しているように見える。
故に、此の子と張り合ったりはしないと。
張り合わないが、面倒見は良いと思う。
屹度、可愛がって呉れるだろう。
勝手な期待。
む。
……でも、してしまうのよね。
……。
あの子は……何処か、期待に応えようとするきらいがあるから。
……責任感が強い、か?
責任感が強い事は、悪い事ではないわ……けれど、度が過ぎてしまうと潰れてしまうから。
……。
あの子は確かに、おっとりとしているところがあるけれど……其れと同時に、責任感が強いところもある。
ふたつの性質は相反しているようで、実は、然うでもない……同時に、存在する事が出来るの。
……ひとのこの、複雑なところだな。
此の子が生まれたら……少し、変わるかも知れない。
……張り合うだろうか。
少しくらいならば、張り合って呉れても構わない……。
……度が過ぎない程度なら、だな。
度が過ぎてしまうと……其れは其れで、大変だもの。
あなたとジュピター、其れくらいで丁度良い……。
ん……然うか。
……ねぇ、マーキュリーのお世話をしているのは誰だと思う?
最近は専ら、あの子だと。
時間になったらきっちりと、適量のごはんを与えるの。
過不足無く、だな。
棲み処のお水も定期的に換えて、お掃除もして、常に清潔さを保ってあげていて。
おかげで、あの子はいつだって快適そうに、そして眠たそうに過ごしているわ。
お散歩にも行っているのだろう?
……マーキュリーのお散歩には、ジュピターが同伴して呉れているの。
お散歩をした後は、ジュピターの腹で寛ぎながら書物を読む?
三人で、のんびりと過ごしながらね。
ふむ……なんと面倒見が良く、そして長閑な事か。
……けれど、今は。
……。
本当は、私は居ない方が良いのかも知れない……と。
……どうして、然う思うんだい。
折角、三人でのんびりと過ごしていただろうに……。
……あの子はメルが一緒だと、とても嬉しそうにしている。
然うかしら……。
……然うだよ。
窮屈ではないかしら……。
……そんな風には、全く見えないな。
……。
私が迎えに行った時だって、とても楽しそうに笑っていた。
……其れは、あなたが迎えに来て呉れたから。
其れだけではない。
……。
あの子は……君の事も、大好きだ。
……ユゥ。
見ていて、分かる。
……うん。
……。
……あの子は屹度、此の子の事も見て呉れる。
あぁ……私も、然う思う。
駄目ね……矢張り、期待してしまう。
……重荷にならないようにしないといけないね。
ええ……本当に。
……どうぞ、メル。
ん……有難う。
……どういたしまして。
ふぅ……。
……メル。
なぁに……
躰の調子は、どうだい?
大丈夫……悪くはないわ。
冷えは、感じていないか。
……平気よ。
貧血は……顔色は、良さそうだが。
今のところ、問題無いわ。
然うか……良かった。
ねぇ。
……ん。
桃の初物を挟んだ麦餅……とても美味しかった。
……。
あの子も、とても喜んでいたわ。
……元々、桃が好きだからなぁ。
あの子は、甘いものが特に好きなの。
メルにそっくりだ。
……ん。
はは。
……もぅ。
矢張り、皆で食べた方が美味しい。
……。
……いずれは。
此の子も……。
……楽しみだなぁ。
……。
メル……お腹を撫でても、良いかい?
……どうぞ。
有難う……。
……今ね。
うん……。
……吃逆をしていると思うの。
吃逆?
……規則的な動きを感じるから。
どれ……。
……。
んー……。
……どう、感じる?
ん……残念ながら、私には分からない。
ふふ……然うよね。
……もう少し、大きくなれば。
どうかしらね……。
……あの子の時は、あまり無かったのだろう?
ん……全く、無かったわけではないけれど。
……此の子の方が、多い。
少しね……でも、気にする程ではないわ。
……お腹の中で、しゃっくりか。
成長を、感じるの……。
……うん、私も感じる。
ん……。
……健やかに、育って欲しい。
くすぐったいわ、ユゥ……。
ん……済まない。
……。
……本当に、楽しみだなぁ。
あの子も、楽しみにして呉れているの。
……毎日、お腹に話し掛けているのだろう?
ふふ……然うなの。
……する事が、私と同じだ。
本当にね……。
……ジュピターも、楽しみにしているんだ。
今日も、気遣って呉れたわ……。
……然うか。
マーキュリーも……屹度。
……していないわけ、ない。
ねぇ、ユゥ……。
……うん?
ジュピターが居て呉れるから、あの子は寂しい思いをせずに済んでいると思うの……。
……メルが居ない時は、ジュピターの傍に居る事が多いのだろう?
マーキュリーを、連れてね……。
……あいつもふたりと過ごす事が出来て、とても楽しそうだ。
うん……。
……取り敢えず、咥えていないようで良かったよ。
ふふ……然うね。
……いつか、ひとりでも乗れるようになる。
其の為にも……ちゃんと、教えてあげて。
……あぁ、勿論だ。
……。
……ジュピターだけでなく、マーキュリーもあの子の傍に居て呉れる。
かつて、私に寄り添って呉れたように……。
……マーキュリーに、読んで聞かせているとか。
ふふ……然うなの。
……マーキュリーは、ちゃんと聞いているのかい?
ええ、聞いているわ……相変わらず、眠たそうな目をしながら。
……優しいな、マーキュリーも。
お話もしているのよ。
……例えば、どんなお話を?
然うね……今日は、ジュピターの鱗について話していたわ。
ジュピターの鱗?
……最近、ジュピターからもらったでしょう?
あぁ、然う言えば。
其れが、心の底から嬉しかったみたいなの。
メルに似ているなぁ……メルも、喜んでいたから。
鱗を見せながら、一生のお守りにするのだと……。
一生……だからかな。
……だから?
首から下げて、常に持ち歩きたいと。
首から……首飾り?
もらったのが、小さな鱗だったから。
……作ってあげるの?
あぁ、近いうちに。
……どんな飾り紐にするの?
其れなんだが。
……もう、決まっている?
出来れば、メルにも見立てて欲しいと思っている。
……私にも?
ふたりで、あの子に似合う飾り紐を選びたいと。
……。
だめかい?
ううん……だめではないわ。
ん、良かった。
……あの子の喜ぶ顔が、目に浮かぶよう。
喜んで呉れると、良いな……。
……喜ばないわけがない。
うん……。
……。
……余程、楽しかったみたいだ。
あの子にしては……分かり易く、はしゃいでいたわ。
今日は、良く笑って呉れた。
……矢張り、あなたが居ると違うわね。
皆と居ると、ではないか?
……あの子は、あなたの事が大好きだから。
あの子は、君の事も大好きだ。
……ええ、知っているわ。
ふふ、良かった。
……ジュピターと、マーキュリーの事も。
ん……。
……ねぇ、ユゥ。
ん……?
……少し、気になっている事があるのでしょう?
……。
……あの子が、下の子のお手本にならなければならないと言った時に。
分かるか……?
……ええ、分かるわ。
あの子の目の良さは矢張り、君譲りだ。
……あなたも、良い目を持っているわ。
では……私達譲りと言う事か。
……。
……手本になる必要など、ない。
……。
あの子はあの子らしく、居て呉れれば良い……私は、然う思っている。
手本になりたいのならば、なれば良い……私は、然う思っているわ。
だけれども……強制は、されるべきではない。
……負うべきではない責任を強いられたら、息が詰まってしまうから。
……。
あの子は、私の事も気遣って呉れている……。
……本当に優しい子だ。
だからこそ……心配なの。
……あぁ。
良く、見ていないと……小さな心が、押し潰されてしまわぬように。
……私も成る可く、見ているようにしよう。
ジュピターとマーキュリーにも話しておくわ……。
……ん、頼む。
……。
……なぁ、メル。
なに……。
……寝顔、見に行かないか。
……。
……起こさぬように。
ん……然うね。
……では。
其の前に。
……あぁ、未だ飲み終わってないか。
お茶は、後でも良いの。
……うん?
ユゥ、頭を。
……。
約束、したでしょう?
……今?
あの子が眠っている間に、と思ったのだけれど……都合が悪いのなら、後にするわ。
……。
ん?
……お願いしたい。
然う……ならば、頭を。
……ん。
……。
可愛い子……。
……あは。
ふふ……。
21日
ジュピター。
……。
昼寝をしているところ済まないが、アミを見ていないか。
そろそろ昼ごはんの時間なんだが、城の中を探しても見当たらないんだ。
……。
どうして、お前のところに来たかって?
ここ最近は、城の中に居ない時はお前の傍で書物を読んでいる事が多いと聞いているからだよ。
……ん。
聞けば、お前の腹に寄り掛かって書物を読んでいるそうじゃないか。
確かに、寄り掛かるのにお前の腹は丁度良い。眠くなれば、其のまま眠る事も出来るし。
眠ってしまったとしても、お前が傍に居れば安心だ。ん、当たり前だという顔をしているな。
……。
実はメルの姿も見えないのだが……お前、何か知らないか?
知っているのならば、教えて……おい、顔を逸らすな。
……とと、さま?
其の顔は知っているだろう?
皆で昼ごはんを食べる為にも、隠さずに教えて呉れ。
……ととさまの、おこえがする。
因みに、皆の中にはお前も入っているぞ。勿論、マーキュリーもだ。
お前が好きな焼き鳥もたんと用意した。食べるだろう? なぁ、ジュピター。
……ジュピター?
ジュピター、さぁ、教えて呉れ。
メルとアミは、お前の傍に居るのだろう?
……かかさま、どうしてわらっているの?
かくれんぼは其れくらいにして、私とごはんを食べよう。
私はもう腹が空いて、背中とくっついてしまいそうなんだ。
……かくれんぼ?
ふむ、反応が無いな……良し。
……ととさま、かくれんぼをしているの?
メル、アミ、私が君達を見つけたら、直ぐにごはんにするぞ。
……ごはん。
今日は私が作ったんだ。勿論、君達が好きなものばかりだぞ。温かいうちに、是非とも、食べて欲しい。
お代わりもあるから、遠慮などせずにどんどん食べて呉れ。ジュピター、お前もだ。沢山、食べろ。
……かかさま、ととさまが、ごはんをつくってくれたって。
なんと、桃の初物もある。
……もものはつもの。
ん、尾のところには居ないか。
という事は矢張り、腹の辺りか。
……かかさま、いいの?
お茶の用意もしてあるんだ、今日はメルが好きなお茶だよ。
……かかさまのすきなおちゃ。
ほんのりと甘いお茶だ、アミも好きだろう?
……かかさま、ほんのりあまいおちゃだって。
さぁ、そろそろ本気で見つけるぞ。
こら、ジュピター。邪魔はして呉れるな?
……うん、わたしもすき。
マーキュリーも連れて来たんだ。然うか、嬉しいか。
今じゃお前も、すっかり懐いているもんな。ん、懐いたのではない?
でも、気に入っている事には違いないだろう?
……ふふふ。
マーキュリー、悪いがジュピターの相手を頼む。
ジュピター、嬉しいのは分かるが、間違っても口の中に入れて呉れるなよ。
……ね、かかさま、ととさまのところに。
さぁ、メルとアミは何処だ。
早くしないと、ごはんが冷めてしまう。
……え、もうすこし?
ふむ、ジュピターの足が少々行く手を塞いでいるな。
此れならば、外敵は容易に入れぬ。つまり、此の中は安全という事だ。
……ん、わかった。
退かして呉れたら、手っ取り早いのだが……仕方ない、乗り越えるか。
私ならば、振り払ったり、ましてや、爪を立てたりはしないだろう。
……かかさま、たのしいの?
然し、何処もかしこも逞しくなったものだな。
卵から出てきた時は、こんなもんだったのに。
……うん、わたしもたのしい。
よ、と……。
……しぃ。
ふ。
……。
メル、アミ。
……あ。
見つけた。
……ととさま。
アミ、また書物を読んでいたのかい?
ん……きょうは、かかさまにおそわっていたの。
然うか、かか様に。
ねぇ、かかさま。
何処まで読めるようになったんだい?
えと……このしょもつなら、もう、ぜんぶよめるわ。
へぇ、もう全部読めるのか。
アミはすごいなぁ。覚えるのが早い。
ううん、すごくなんてないわ。
もっと、もっと、おべんきょうしないと。
もっと、もっとするのかい?
とと様は、其れだけ出来れば十分すごいと思うが。
もっとおべんきょうして、かかさまみたいに、いろんなしょもつをよめるようになりたいの。
かか様みたいに?
さいせいのふるいことばも、しんせいのふるいことばも、けいこくやたいはくのことばも、ぜんぶ、よめるようになりたい。
ん、其の意気や良し。
アミならばいつか必ず、読めるようになるだろう。
そのためには、もっともっと、おべんきょうしなきゃ。
うん、然うだな。
とと様に出来る事があったら、なんでも言って呉れ。
じゃあ、さいせいのしょもつをよんで。
歳星の?
ととさまにも、よんでほしいの。
良し、任せて呉れ。
眠る前に、読んであげよう。
ほんと?
あぁ、本当だとも。
ふるいことばのしょもつも、よんでくれる?
勿論だ。
歳星の古い言葉ならば、とと様でもちゃんと読めるから。
しんせいのことばも?
辰星の言葉は……まぁ、読めなくもない。
よめなくもない?
実はとと様も、かか様にずっと教わっているんだ。
そうなの?
あぁ、然うなんだ。
かかさま、そうなの?
かか様はずっと、とと様が知らない事を教えて呉れているんだよ。
辰星の古い言葉だけでなく、色々な事も、沢山ね。
かかさま、すごい。
然う、かか様はすごいんだ。
とと様のところに来て呉れた時にはもう、歳星の言葉だって完璧に話せたんだよ。
かんぺき?
其の頃のとと様は、辰星の言葉を話す事が苦手だったから、とっても助かったんだ。
かかさまはほんとうに、いっぱいいっぱい、おべんきょうしていたのね。
わたしも、みならわなくっちゃ。みならって、かかさまみたいに、はやくなりたい。
大丈夫、アミならばなれる。
なぁ、メル。メルも然う思うだろう?
……ふふ。
ところで、アミ。
なぁに、ととさま。
お腹は、空いていないかい?
喉は、乾いていないかい?
……ととさまは、おなかすいた?
とと様は、空いている。
……たくさん?
ん、沢山。
……。
アミは、どうだい?
わたしは……すいて、ないかも。
ん、然うなのか?
かかさまは、すいてる?
メルは、空いているだろう?
……かかさまも、まだだって。
む。
ふふ……やっぱり、すいてるって。
……アミは?
わたしは……わたしも、すいてるかも。
では、喉はどうだい?
のどは……すいとうを、もってきたの。
水筒?
これ……かかさまが、よういしてくれたの。
中身は何が入っているんだい?
かかさまがいれてくれたおちゃよ。
今日は、どんなお茶を淹れて呉れたんだい?
きょうはね、すっきりするおちゃをいれてくれたの。
かか様が淹れて呉れたお茶は、美味しいかい?
うん、とってもおいしいわ。
良いなぁ、とと様もかか様が淹れて呉れたお茶が飲みたいなぁ。
ととさまだって、のんでいるじゃない。
飲んでいるかな?
だって、かかさまはととさまにもいれてあげるもの。
でね、ととさまはいつだって、おいしいっていいながらのむの。
アミは、良く見ているなぁ。
ふふ、みているわ。
アミの目も、良い目だ。
うふふ。
なぁ、アミ。
なぁに、ととさま。
とと様と、ごはんを食べて呉れないか。
とと様は、皆でごはんが食べたいんだ。
ん、たべるわ。
ねぇ、かかさま。
メル。
ととさまと、いっしょにいきましょう?
来て呉れるかい、メル。
かかさま、いくって。
ふふ、然うか。
では、行こう。
ふふ、よかった。
ね、ととさま。
うん、とっても良かった。
ふふ、ふふ。
アミ。
なぁ……あ。
ははは。
と、ととさま。
アミは、羽根のように軽いなぁ。
わたし、もう、ひとりであるけるわ。
肩車されるのは、嫌かい?
いやでは、ないけど……でも。
でも?
……わたし、うえのこになるのに。
上の子になっても、アミはアミだよ。
……でも、したのこのおてほんにならなきゃ。
お手本?
……ねんちょうしゃは、したのこのおてほんにならないといけないの。
メル?
……しょもつに、かいてあったの。
書物に?
……うん。
然うか、書物に書いてあったのか。
……だからね、しっかりしなきゃ。
アミはもう十分、確りしているよ。
……ううん、まだしてないの。
私よりも確りしているかも知れない。
なぁ、メル。
……そんなこと、ぜんぜん、ない。
全然?
ととさまは、さいせいのおうさまだもの。
王ではあるが、確りしているかと問われると然うでもないかも知れない。
そうでも、あるわ。
だってととさま、ちゃんとおうさましてるもの。
王様、してる?
おつとめをはたしているとき……ととさまは、おうさまのかおをしているわ。
王様の顔……。
だから、だからね……わたし、ととさまのようにもなりたいの。
とと様のようにも?
わたしは、おうさまにはなれないとおもうけど……でも、それでも、ととさまのようになりたい。
アミ……。
からだは、おおきくならないかもしれないけど。
躰が大きくならなくても、アミはアミが出来る事をすれば良い。
……できること?
其の為に、かか様にいっぱい教わって、出来る事をひとつでも増やすんだ。
……ととさまも、おしえてくれる?
あぁ、私に教えられる事ならば、なんでも。
なんでも、おしえてくれるの?
なんでも、教えるよ。
ジュピターの乗り方とかね。
ジュピターの?
ほんとに?
ん、本当だ。
ふふ、やった。
あはっ。
かかさま、ととさまがジュピターののりかたをおしえてくれるって。
ん、だいじょうぶ、ちゃんときをつけるわ。ジュピター、よろしくね。
ジュピター、頼むぞ。
かかさまも、いっしょにのってくれるでしょう?
かかさまとも、のりたいの。ね、いいでしょう?
メル、私からも頼む。
だめ?
ジュピターも、メルに乗ってもらいたがっている。
ととさまのいいつけは、ちゃんとまもるわ。
ととさまとかかさまに、やくそくする。
うん、アミは約束をちゃんと守れる子だ。
其れは、メルも良ぉく知っている。
……ほんと?
お。
ふふ、やったぁ。
はは、良かったなぁ。
うん、とってもよかった。
だが、アミ。
なぁに?
ジュピターの乗り方に関しては、私は厳しいぞ?
はい、わかってます。
本当に、とっても、とっても、厳しいぞ?
はい、きびしくしてください。
良いのかい?
だって、ちゃんとしないとあぶないもの。
ねぇ、かかさま。そうでしょう?
此れならば、大丈夫そうだなぁ。
ん……あぁ、分かっているよ、メル。
ねぇ、いつからおしえてくれるの?
然うだなぁ、アミがもうひとつ、歳を重ねてからにしようかな。
もうひとつ?
ん、もうひとつ。
わかったわ。
それまで、ジュピターとなかよくしてる。
うん、仲良くしていて呉れ。
信頼を積み重ねる事も、とっても大切な事だから。
マーキュリーとも。
マーキュリーとも?
うん!
ははは、アミは優しい子だ。
ね、ととさま。
なんだい、アミ。
とっても、たかいわ。
ふふ、然うだろう?
とおくまで、みえるきがする。
とと様は、大きいからな。
かかさまも……かかさまは、いいの?
メル、君が望むのならば……今は、駄目か。
いまは……あ、そうだった。
うん、いつかまた。
うふふ。
ではアミ、食卓に着くまで暫しの間、頭からの眺めをゆるりと楽しんで呉れ。
うん!
はは。
~~♪
ん、声も良い。
~~~♪
……ん?
……ユゥ。
なんだい、メル。
楽しそうね。
あぁ、楽しいよ。
メルも、楽しいだろう?
どうして然う思うの?
笑っているから。
ふ。
メル、手を。
大丈夫よ。
私が繋ぎたいんだ。
肩にアミを乗せているのに。
手はふたつ、あるから。
……。
だろう?
……仕方無いわね。
はは、有難う。
……どういたしまして。
躰は、大丈夫かい?
ええ、問題無いわ。
然うか、良かった。
外に出たかったの。
ん、良いと思う。
ジュピターの傍ならば、安心だし。
呼んだら、直ぐに来て呉れたわ。
だろうなぁ、呼ばれるのを待っているから。
ん。
だけど。
……だけど?
ジュピターと一緒に行くのならば、私も誘って欲しいな。
あなたには、王としての務めがあるでしょう?
そんな事よりも……。
……そんな事?
勿論、ちゃんと務めも果たすよ。
……そんな事と、言ったわよね?
確かに、言ったが……ふたりと過ごす時間は、何ものにも変えられないし。
……ふふ。
ん、アミ?
ととさま、おつとめはちゃんとはたさないとだめよ。
あ、はい……ごめんなさい。
ふふ、よろしい。
あは。
~~~♪
メル、行こうか。
ジュピターも行くぞ。
いきましょう、ジュピター。
きゅう。
うふふ、いいおへんじ。
ジュピター、マーキュリーを頼む。
マーキュリーは、私が。
メル。
有難う、ジュピター……良い子ね。
……。
なぁに、あなた。
……私も、撫でられたいな。
はいはい、後でね。
……後で?
然う、後で。
……食後?
時間はあるの?
ある、作ったから。
あぁ、然う。
食後が駄目ならば……眠る前でも。
ならば、食後に。
え、良いのか。
気が変わったのならば、
全く、変わってない。
然う、残念。
私は嬉しい。
でしょうね。
出来れば……眠る前にも。
欲張り?
駄目かな……矢っ張り。
然うねぇ。
……。
返して呉れる?
返しても、良いのなら。
返して?
喜んで。
ならば、良いわ。
やった。
……。
ん?
矢張り、良く似ているわね。
何が、似ていた?
言い方。
言い方?
やった、と。
あぁ、そんなに似ていたかい?
ええ、似ていたわ。
ふふ、然うか。
……似るのは何も、外見だけではない。
書物を読んでいる時の雰囲気は、メルに良く似ている。
……然う?
うん、然うだよ。
ととさまと、かかさまも、にているわ。
……。
ふたりも、にているの。
……私達も、似ている?
ん、にてる。
……何処が、似ているの?
やさしい、えがお。
……。
とっても、にているの。
……然う。
かかさま。
なぁに、アミ。
また、おべんきょうおしえてね。
ええ、喜んで。
20日
……うん。
……。
此度も、良く飲んでいるようだな。
……食欲、良し。
食欲、良し……と。
……有難う。
うん。
……。
余程、
ユゥ。
……はい。
……。
然し、可愛いなぁ……いつ見ても、懸命に飲んでいて。
……もぅ。
ふふ……。
……何度も、見ているのに。
何度見ても飽きない、飽きる気がしない。
……別に、飽きろとは言わないけれど。
メルの状態を知る為にも、必要な事だと思うんだ。
……つまり、私の事も観察していると。
大事だろう?
……確かに、第三者の目で見る事も大事だけれど。
メルが気付いていない事に、私が気付くかも知れない。
……然うね。
乳房が張って、痛むと言う事はないか?
曰く、張ると大層痛むらしいから。
……今は大丈夫よ。
冷やすと良いらしい。
……抑える事が出来るから。
だから、痛む時は直ぐに言って呉れ。
……痛む時は、自分でするから。
自分で出来そうにない時も、直ぐに言って欲しい。
……出来そうに、なかったらね。
我慢は良くない。
……もぅ。
む、痛むか?
冷やすか?
……仕方無い、とと様ね。
ん。
……気が散って、飲めない。
そ、然うなのか?
……今は、飲んでいるけれど。
然うだよな……飲んでいるよな。
……もう少し、静かにして欲しいと思っているかも知れないわ。
……。
……音や声は、お腹の中に居る頃から聞こえているから。
分かった……少し、静かにする。
……。
いっぱい飲んで……健やかに、育つんだぞ。
……ん。
ん……?
……ごちそうさま?
あれ……もう、良いのか。
……もう、良いみたい。
飲み始めたばかりだが……。
……やや、多め。
おおめ……?
……先の授乳時に比べて。
……。
記録……良い?
……おっと、然うだった。
多少の差はあるけれど……。
だとしても……まだまだ、少ないな。
……此れくらいの時は、あまり飲めないの。
……。
……歳星の子ならば、もう少し飲めるのかも知れないけれど。
辰星の子は、此の子よりも飲まないのだろう……?
……生まれた時の体長は、あなたの手の平ふとつ分くらいしかない。
……。
……離乳する頃になっても、同じ頃の歳星の子の半分くらいで。
小さいな……。
……だから、直ぐにお腹いっぱいになってしまうの。
確かに、多くは飲めないな……。
……此の子は、辰星の子よりは大きいけれど。
……。
……まだまだ、胃の容量は小さいの。
然うか……まだまだ、小さいか。
……そんなに急には大きくなりません。
はい……。
……。
お……。
……うん、噯気も良し。
偉いぞ……ちゃんと、おくびも出来たな。
……記してね?
ん、分かっている。
おくびも、良し。
……よしよし、良い子ね。
本当に良い子だ……。
……抱っこ、する?
うん、する。
……早い。
此の時を、待っていたんだ。
……知ってる。
ん。
……抱っこしたくて、うずうずしていたもの。
分かり易いか?
……とても、ね。
ははは。
……とと様のところに、行く?
さぁ、とと様のところにおいで……。
……。
お。
……くしゃみ。
こんなに小さな鼻でも……ふふ、くしゃみはするんだよなぁ。
……。
くちゅんって……くしゃみすらも、とても愛らしい。
……目に入れても痛くないとは、こういう事を言うのね。
鼻水は……ん、大丈夫そうだ。
……鼻詰まりの症状も見られないし、此度も何かに刺激されたのかも知れないわ。
赤子の鼻の粘液は、とても敏感なんだよな。
然う……だから、ちょっとした刺激でもくしゃみが出てしまうの。
例えば、気温の変化……メル、寒くはないか?
……私は、大丈夫。
然うか、良かった。
……。
ん、どうした?
……ううん、なんでもないわ。
本当に、なんでもないか?
……ない。
……。
ん……ユゥ。
……なんでもなくはないだろう?
どうして、然う思うの……?
……勘だ。
勘……?
……ほんの少し、寂しそうに見えた。
……。
気のせいならば、其れで良い。
……別に寂しくなんかないわ。
ん、然うか。
……。
メル。
……なに、ユゥ。
後で、一緒にお茶を飲もう。
……。
今日は時間があるんだ。
……戻らなくて、良いの?
あぁ、直ぐには戻らなくて良い。
……。
メル?
……初めから、其のつもりだったの?
うん、初めから其のつもりだった。
……言って呉れれば良いのに。
お茶の支度は私がする、したいんだ。
……。
良いだろう?
……何のお茶を淹れて呉れるの?
其れは……今は、内緒だ。
……。
はは。
……分かった、楽しみにしているわ。
応。
……期待に応えてね?
必ず。
……。
さて……改めて、とと様のところに、
……また、くしゃみ。
んー……部屋の気温に反応しているのか。
……若しかしたら。
ん?
……あなたの呼気に反応しているのかも知れないわ。
私の呼気に?
……丁度、此の子の鼻に掛かっている。
……。
可愛いのは、分かるけれど……もう少し、落ち着いて?
……ん、分かった。
……。
ほぉら、とと様だぞ……。
……何も、呼吸をとめなくても。
よしよし……今度は、大丈夫だ。
……。
お腹は、いっぱいになったか……?
然うか、いっぱいになったか……良かったなぁ。
かか様が君の為に、いつも美味しい
ユゥ。
……良い子だなぁ、可愛いなぁ。
息継ぎは、ちゃんとしてね。
ん……大丈夫だ。
……。
ふぅ……。
……わざわざ、上を向いてしなくても。
念には念を、だ。
……あぁ、然う。
ふふ……とと様の事は、好きか?
とと様は、君の事が大好きだぞ……。
……まぁ、良いけれど。
矢張り、メルに良く似ているなぁ……ん、メルに良く似ている?
……。
と言う事は、メルが赤子の頃は……此の子に、良く似ていたのだろうか。
……私の口元は、あなたに似ていないから。
メルが、赤子の頃……あぁ、想像しただけでも可愛いな。
実際は屹度、もっと可愛かったに違いない……。
……いつも、此の繰り返し。
あぁ……私は本当に、果報者だ。
こんなに可愛い番と、子に恵まれて……。
……ねぇ。
うん……?
……そろそろ、名付けを。
……。
……ユゥ、聞いている?
何か、聞こえる……。
……何か?
微かに……ひっく、ひっくと、聞こえるような。
あぁ……其れは、
ど、何処か、悪いのだろうか。
……。
メ、メル、ど、どうすれば、
吃逆。
……きつぎゃく?
しゃっくりの事。
……しゃっくり。
此の子は未だ、躰のあらゆる機能が発達の途中なの。
う、うん。
横隔膜の動きを制御する神経も未熟だから、しゃっくりが出易い。
……横隔膜。
例えば……母乳を飲む時に、一緒に空気を飲み込んでしまう事があるの。
然うすると胃が空気で膨らんで、直ぐ上にある横隔膜を直接押し上げてしまう。
……其れで、しゃっくりが出る?
刺激される事で、誘発されてしまうの。
……。
つまり、大丈夫という事。
そ、然うかぁ……良かったぁ。
……。
ん……しゃっくりも、可愛いな。
……何もかもが、可愛い。
……。
今度は、どうしたの?
首も未だ、据わっていないんだよな。
……もう少し、時間が要るわ。
ふむ……。
……高く抱き上げて遊ぶ事は、未だ駄目よ。
ちびは、高く持ち上げてやるとすごく喜んだんだ……。
……首が据わるまで、待って。
矢張り、勝手が違うなぁ……。
……龍の仔と?
ちびの首は、卵から出てきて暫くしたら、据わったから。
……龍の仔の躰は、孵化した時にはもう、ある程度は出来ていると言われているから。
ひとのこの赤子の首の据わりは、龍の仔の牙と爪、鱗が生え揃うようなものなのかな。
……少し、違うと思う。
ちびは、高く高く持ち上げてやると喜んだんだよなぁ……みゅうみゅう鳴いて。
……もう一度言うけれど、未だ駄目よ。
ん、分かっている……。
……確りと据わるまで、待ってね?
幾らでも、待つ。
……うん。
よしよし……大きくなったら、いっぱい遊ぼうな。
……もう、十分に遊んでいると思うわ。
ん、然うかな?
……抱っこして、話し掛けてあげるだけでも、十分に。
然うか……。
……王としての務めも、忘れないでね?
あぁ……忘れない。
……うっかり忘れそう。
ふふ、本当に可愛いなぁ……小さくて、メルに良く似ていて。
……あなたにも、似ている。
然う、私にも似てる……此の子は紛れも無く、私達の子だ。
……。
ん、メル?
動いて、大丈夫か?
大丈夫……少しは、動かさないと。
無理は
しないわ……あなたが心配するから。
心配性なんだ。
……良く知ってる。
部屋の外に行くのならば。
……部屋の外には行かないわ。
メル……。
マーキュリーの様子を見て……本当は、ジュピターにも会いたいのだけれど。
あいつなら、今日も外に。
……。
呼べば、来る。
……呼んでも良い?
勿論だ。
……なら。
……。
大丈夫よ……ひとりでも、歩けるわ。
……だけど。
あなたは、此の子を確りと抱いてあげていて……。
……。
ユゥ……?
……少し、待っていて呉れ。
……。
とと様は、かか様を支えたいんだ……分かるかい?
……良いのに。
布で巻いて抱っこしてあげるのは、龍の仔と変わらない。
……。
眠っているちびをこうやって抱っこしてあげたものだ。
……巻き方が、少し違うのでしょう。
ん……龍の仔は、ひとのこと顔の形が違うから。
……。
いや、頭か……でもまぁ、大きな違いはない。
……龍の仔は、横に。
ひとのこは、正面に……其れくらいだ。
……大分、異なると思う。
あは。
……。
良し、此れで良い。
……手慣れている。
何度も、抱っこしてやったから。
……起きている時でも。
せがんでくるんだよ、抱っこするまで。
……。
あいつは、抱っこされる事も好きだったんだ。
……今ではもう、出来ない。
潰れてしまうな。
……私もしてみたかった。
抱っこはもう、出来ないが……抱き締める事は出来る。
……。
と言っても、手は回らないが……。
……今度、してあげるつもり。
はは、然うか……喜ぶだろうな、ちびは。
……。
さぁ、行こうか。
……ん。
足元に、気を付けて。
……ゆっくり、歩くわ。
うん……。
……。
躰は、未だ重たいかい……?
……母乳をあげられるくらいには、回復しているのだけれどね。
……。
食事も、摂れるし……。
……焦らなくて良い。
ん……だから、焦らないわ。
……。
……ごきげんよう、マーキュリー。
……。
今日は、何を考えているのかしら……。
……メルの事かも知れない。
此の顔は……ジュピターの事かも。
……ジュピター?
気に入っているから……。
……其れでは、呼ぼうか。
……。
メルも、早く会いたいだろうし。
……ん。
良し。
……ジュピター。
ジュピター、来い。
……。
うん、来た。
……あぁ。
メルが、お前に会いたいと。
ジュピター……ごきげんよう。
……きゅう。
ふふ、有難う……私は、大丈夫。
ジュピター、マーキュリーもお前に会いたいらしいぞ。
……。
ん、大分慣れたな。
……ふふ。
ジュピター、此の子が気になるか?
……。
未だ、お前と遊ぶ事は出来ないが……いずれ、遊べるようになるだろう。
其の時は、宜しく頼むぞ……くれぐれも、落とさぬようにな。
……お願いね、ジュピター。
きゅう!
……ふふ、良いお返事。
全くだ。
……。
……メル。
本当に、有難う……ジュピター。
……。
お部屋の中からで、ごめんなさい……。
……構わないと、言っている。
外に出られるようになったら……また、一緒に過ごしましょうね。
……皆で。
ん……みんなで。
楽しみだな、ジュピター。
……。
勿論、此の子も……?
……はぁ。
メル。
……だいじょうぶ、もんだいないわ。
寝台に。
……ん。
然ういうわけだ、ジュピター。
また、後でな。
……ありがとう、ジュピター。
……。
……ねぇ、ユゥ。
なんだい……?
……このこの、なまえ。
……。
あなたは、なにがよい……?
……私は。
わたしは……アミが、よいとおもっているの。
……私も同じだ。
おなじ……?
……ジュピターも、アミが良いと。
きいて、くれたの……?
あぁ……ちゃんと、此の子を見せて。
……わたしも、いっしょにききたかった。
ごめん……。
……。
……名前は。
アミで、よい……?
……あぁ、異存は無い。
うん……。
……アミ、君は今からアミだ。
またせてしまって、ごめんなさいね……。
……。
アミ……どうか、すこやかに。
19日
……メル。
……。
……顔色は、悪くない。
……。
呼吸は……浅いけれど、ちゃんとしている。
……。
……体温。
……。
うん……あったかい。
……ゥ。
脈……。
……ユゥ。
ん……。
……。
メル……?
……おはよう、ユゥ。
メル……っ。
……なにを、しているの?
脈を……。
……みゃく?
脈を……其の。
……とろうと、してた?
そ、然うなんだ。
……なら、とってみて?
え……。
……とろうと、していたのでしょう?
然う、だけど……。
……せっかく、だから。
せ、折角……なのか?
……だめ?
だ、駄目ではない。
……なら、おねがい。
ん、分かった。
……。
では、メル。
……うん。
……。
……。
んー……。
……みつからない?
お、おかしいな……今までは、ちゃんと取れていたのに。
……いままで?
き、記録も取ってあるんだ。
……きろくも?
記録として、残しておいた方が良いと……メルに、教わったから。
……あとで、みせてくれる?
其れは、勿論。
ん……ありがと。
……。
まだ、みつからない……?
……どうしてだろう。
たぶん、だけどね……。
……うん?
てが、ふるえているから……。
……手?
かすかに、だけれど……ふるえて、いるわ。
……あぁ。
こきゅうを、ゆっくりとくりかえして……そうすれば、おちつくとおもうから。
分かった……やってみよう。
……ん。
はぁ……。
……はいて。
……。
……すって。
ふぅぅ……。
……また、はいて。
……。
……また、すって。
はぁぁ……
……。
良し。
……もう、だいじょうぶ?
うん……大分、落ち着いたと思う。
……そう。
手首……もう一度、良いかい。
……ん、いいわ。
……。
……。
ん……見つけた。
……ふふ、よかった。
いち、に、さん、し、ご……。
……すこし、ゆっくりね。
だけど……ちゃんと、打っている。
……みだれたりは、しない?
暫し……。
……ん。
……。
……。
……うん。
どう……?
大丈夫だ……今のところ、乱れは感じない。
……そう、よかった。
……。
ねぇ、ユゥ……。
……なんだい、メル。
わたしたちの……。
……今は、眠っているよ。
ねむって……ふふ、わたしとおなじね。
……君に、目元が良く似ているんだ。
そうかしら……。
……私が言うんだ、間違いない。
あなたは、わたしびいきだから……。
……口元は、私かも知れない。
くちもと……?
……多分。
ふ……。
……見てみるかい。
みたいわ……できるなら。
……メルが、望むのなら。
すぐそばに、いるの……?
……居るよ。
……。
直ぐ傍に、居る……。
……あいたい。
……。
あいたいわ……ユゥ。
……待っていて、メル。
ん……まってる。
……。
……そっと、ね。
ん……そっと。
……。
……小さい子なんだ。
ちいさい……?
……でも、小さくて良かったと。
よていよりも、はやかったから……。
……若しも、大きかったら。
ちゃんと、こきゅうはしてる……?
あぁ……ちゃんと、しているよ。
……うまれたときに、うぶごえは。
小さくて、か細い声だったけれど……確りと、上げて呉れた。
あぁ……よかった。
……。
……ユゥ?
直ぐには、上げて呉れなくて……。
……どれ、くらい。
実際は、寸秒……けれど、私には酷く長く感じられた。
……しょちは、だれが。
取り上げた者達が、直ぐに……私は、見ているだけしか出来なかった。
……みている、だけ。
済まない……役に、立てず。
ううん……あなたは、それでいい。
だが……。
……まかせることも、だいじ。
……。
……ね?
う、ん……。
……。
……思い出したかのように、上げて呉れたんだ。
てきせつなしょちを、してくれたのね……。
……流石は、幾千もの赤子を取り上げた者達だ。
ふふ……わたしたちのこも、そのなかに、くわわったのね。
……あぁ、加わった。
はぁ……。
……。
……ききまちがえでは、なかった。
若しかして、憶えているのかい……?
……ぼんやりと、だけれど。
然うか……。
……。
さぁ……お前の、かか様だよ。
……かわいい、こ。
ほら、目元が君に似ているだろう……?
……めもと。
そっくりだ……。
わたしは……あなたに、にているとおもうわ。
……いいや、メルに似ている。
ん……。
……口元は、私に。
そっくりね……。
……なんとなく、だと思うが。
はなのかたちも、にているわ……。
……鼻の形?
ふふ……ふふ……。
……直ぐ傍に。
うん……ありがとう。
……。
だっこ、してあげられたら、いいのだけれど……。
……出来るようになったら、沢山してあげれば良い。
そうね……そうする。
……。
ユゥは、やっぱりじょうずね……。
……抱っこ?
ジュピターを……ちびちゃんを、だっこしていたから。
……ひとのこの赤子とは、少し勝手が違うが。
どう、ちがうの……?
……形が違う。
それは、そう……。
……懐かしく思ったよ。
……。
ちびも、小さな赤子だった……。
……ちびちゃんを、まもってあげたように。
……。
このこのことも、まもってあげてね……。
……勿論だ。
ん……。
……メルの事も。
ユゥ……。
……出来る事は、なんでもしよう。
たよりに、しているの……。
……うん、して呉れ。
ふぅ……。
……大丈夫かい。
ん……だいじょうぶ。
……。
……ねぇ。
なんだい……。
ごはんは、たべてる……?
……ごはん?
すこし、きになって……。
……もう何度か、飲んでいるよ。
なんどか……?
君の代わりの者が、飲ませて呉れている。
……そう。
だから……心配、要らない。
……あなたは?
私……?
あなたは……ちゃんと、たべてる?
……量は多くないが、ちゃんと食べている。
ほんとうに、たべてる……?
……本当に、食べているよ。
それなら、いいのだけれど……。
……食べないと、元気が出ないから。
……。
番と子を護るのは……種である、私の役目だ。
……たね?
守れなければ、一人前の種とは言えぬ……。
……。
……此の星では、然う言われているんだ。
だからって……たねは、ないとおもうの。
……種には、種の責任がある。
……。
故に……敢えて、種と呼ぶのだ。
……せきにんを、わすれないようにするため?
然うだ。
……なるほど、それならばわからなくもない。
とは言え、不埒者は居るが。
……。
種の風上にも置けぬ。
……しんせいにも、かつては、いたらしいわ。
辰星にも……?
……いまは、かんりされているから、いないだろうけれど。
辰星の民にも、責任から逃れようとする種が居たのか……。
たぶん……そういうものは、どこにでもいるのだとおもう。
……私は、違う。
……。
違うからな、メル。
……わかっているわ、ユゥ。
うん。
……ふふ。
然う言えば、メルはどうだい。
……わたし?
お腹は、空いていないかい……?
ん……いまは、だいじょうぶみたい。
空いたら、言って欲しい……直ぐに、用意するから。
うん……ありがとう。
喉はどうだい……?
……のど?
乾いていないかい……?
のどは……すこし、かわいているかもしれない。
少し?
でも……ちょくせつは、のめないとおもうの。
であるならば、綿紗を水で湿らせよう。
……。
湿らせた綿紗を、唇に当てる……飲めない時は、然うするのだと。
……おぼえて、いてくれたのね。
あぁ、覚えているよ……君に、教わった事だから。
ふふ……うれしいわ。
……直ぐに用意する。
うん……ありがとう。
……。
……いまは、どれくらいの。
今は、夕方だ。
……ゆうがた。
……。
……ねぇ、ユゥ。
ん……?
……わたしのこと、よんでくれた?
……。
……よばれたような、きがするの。
あぁ……何度も、呼んだよ。
……やっぱり。
五月蠅かったかな……。
……ううん、ちっとも。
……。
ん……。
……届いて、いた?
ちゃんと、とどいていたわ……。
……ジュピターの声も。
ジュピターも、よんでくれたの……?
……今も、外に居る。
いまも……。
……ほら、聞こえるだろう?
……。
君を、呼んでいる声が……。
……ん、きこえる。
あれは、甘えている声だ……。
……あとで、へんじをしないと。
多分、聞こえている……鳴き声が、変わったから。
……わたしたちの、はなしごえ?
あいつは、耳も良いんだ……
……。
……メルの傍に行きたいと。
おれいを、いわないと……。
……お礼なんて、あいつは望んでいないさ。
それでも……いいたいの。
……メルにお礼を言われたら、ちびは喜ぶだろうな。
ちび……。
……もう、ちびではないが。
あなたにとっては……いまでも、かわいいちびなのね。
……みゅうみゅうと鳴く事は、もうないけれど。
ううん……いまでも、ないているわ。
……。
ね……ないているでしょう?
……うん、鳴いているな。
なでて、あげたい……。
……起きられるようになったら、沢山、撫でてやろう。
ん……かならず。
……マーキュリーも、呼んでいたと思う。
あいかわらず、ねむたそうなめをしながら……?
……マーキュリーの目は、奥が深い。
ふふふ……。
……思えば、落ち着いていたのはマーキュリーだけだ。
あなたは、おちついていなかったの……?
……大分、難しかった。
……。
……メルクリウス。
しんぱい、してくれた……?
あぁ……心底、心配していたよ。
……いまは?
今は……少しだけ、落ち着いた。
……あんしん、した?
ん……した。
……。
メル……?
……うでが、おもい。
躰が其れだけ、疲れているんだ……無理は、しない方が良い。
……あたまを。
頭?
……なでて、あげたかったの。
然うか……ならば、手伝おう。
……あなたの。
え……。
……あなたの、あたまを。
此の子では、なく……?
……なみだのあとが、あるようなきがするから。
……っ。
でも、ごめんなさい……うでが、あがりそうにない。
……メル。
ん……。
メル、メルクリウス……。
……。
良かった……本当、に。
……もう、だいじょうぶ。
うん……うん。
……。
ごめん……今、綿紗を。
……もものはつもの、たべておいてよかった。
……。
……たべさせてくれて、ありがとう。
また、食べよう……。
……このこにも。
食べさせて、あげよう……。
……らいねん、いこうに。
あぁ……必ず。
さんにん……ううん、ジュピターにも。
……皆で、食べよう。
マーキュリーは、たべないかも……。
……若しかしたら、食べるかも知れない。
……。
マーキュリーは、普通の亀とは違うようだから。
……ふふ、そうだった。
メル……綿紗を。
ん……ありがとう。
……どういたしまして。
……。
……ん。
湿らせ具合は、どうだろう……?
……。
少し、足りないかな……。
……うう、ん。
……。
……。
……少しずつ。
……。
少しずつで、構わないから……。
……ん。
18日
……メル。
……。
メル……。
……う。
メル。
……ユ、ゥ。
メル?
……ユゥ。
はは、良かった。
……わたし。
起こしちゃって、ごめんよ。
ずっと寝ているから、不安になって。
……あなたは。
あたしは、十四のあたしだ。
……じゅうし、の。
おはよう、メル。
……あぁ。
ん、おはようは、おかしいか。
……ううん、おかしくないわ。
じゃあ、おはよう!
ん……おはよう、ユゥ。
へへっ。
……。
また、逢えた。
……。
ん、どうした?
あたしの顔に、何かついてるか?
……思っていたよりも、早く逢えたから。
もしかして、たまげたか?
……たま、げ?
あはっ。
え、と……驚いたか、と、聞いているの?
うん?
……たまげたかって。
たまげたは、たまげただけど……あれ、聞いたことないか?
……今のあなたは、言わないわ。
城の者達も言わないのか?
いっぱいいるだろ?
……ん、聞いた事ない。
ふぅん、あたしは良く言ってるんだけどなぁ。
……いえ、あるかも知れない。
あるか?
……いつか、あなたが言っていたような。
……。
……ごめんなさい、少しぼんやりとしているみたい。
まぁ、寝起きだしな。
謝んなくても良いよ、メル。
……うん。
んー……。
……たまげた。
すっごく驚いたか。
……。
しいて言うなら、そんな意味だ。
……矢っ張り。
ん?
……聞いた事、あるかも。
はは、そっか!
……。
なぁ、メル。
……なぁに。
あたしに逢えて、たまげたか。
……。
そこまでじゃあ、ないか。
……ううん、たまげた。
そっか。
……ユゥは。
あたしも、たまげた。
……。
ははは。
……ね、ユゥ。
なんだい。
……起こして呉れて、有難う。
ん、どういたまして。
……。
ん?
……どう、いたしまして?
言えてなかったか、あたし。
……どういたまして、と。
あー、また口が回らなかったな。
……また?
どうにも、喋るのが苦手なんだ。
……苦手なの?
二十八のあたしは、そうじゃないか?
……苦手そうには見えないわ。
へぇ、そうなのか。
なら、良いな。
……良い?
今は苦手でも、メルと出逢う頃には苦手じゃなくなってるんだろ?
……然うなるまでに、練習したのかも知れない。
練習……鍛練、か?
……お喋りの鍛練。
……。
……ユゥ?
やっぱり必要かな、鍛練。
……鍛練しないと、苦手なままかも。
ん、それは困る。
……困る?
メルと、お喋り出来ない。
……出来なくはないわ、今だってしているもの。
でも、間違ってばかりいたら……好いて、もらえないだろう?
……どうして、然う思うの?
なんとなく、そう思うんだ……。
……。
……そんなこと、ない?
んー……もしかしたら、好きにならないかも。
んっ。
……ふふ、なんて。
な、なんて……?
……屹度、好きになる。
あ……。
……一所懸命な、あなたが好き。
んんっ。
……でも、鍛練はした方が良いと思うの。
そ、それは……。
……いずれ、あなたは歳星の王になるから。
王……。
……大変だと、思う。
……。
けど、あなたが王になって呉れないと……私は、あなたの番になれないかも知れないから。
鍛練、する。
……。
ちび以外のやつとも喋るようにする。
……うん、頑張ってね。
応、頑張る。
……。
ん、なんだい?
……ううん、なんでもない。
ほんとに?
ん……本当に。
そっか、なら良いや。
ふふ……うん。
へへへ。
……ユゥ。
なんだい、メル。
……また、逢いに来て呉れたのね。
うん、また逢いに来たよ。
……。
そうだ、メル。
……なぁに?
こたびは、躰も十四のあたしなんだ。
……え。
よぉく、見てみてくれ。
……。
な?
……言われて、みれば。
これなら、二十八のあたしと間違えることはないだろ?
……確かに、今現在のあなたより小さい。
む。
あ……ごめんなさい。
なぁに、これからさ。
……此れから?
あたしはもっと、大きくなる。
……もっと?
今は、小さくとも。
……然う、あなたは此れから大きくなる。
大きくなって、あたしのメルクリウスを守るんだ。
……ユピテル。
その為には、飯をたんと食わないと!
……。
だろ?
ふふ……然うね、いっぱい食べないと。
うん、食うぞ。
ちびと一緒に。
……。
ん、どした?
……あの、ユゥ。
どこか、悪いのか?
……ううん、大丈夫。
ずっと、寝ていたし……無理は、しない方が良いよ。
……ジュピターは、居ないの?
え?
……ジュピター。
あぁ、ちびか。
……居ないの?
いるよ、今のちびはあたしから離れないから。
……何処に。
あたしの足元に。
……足元。
ほぉら、ちび。
隠れてないで、出ておいで。
……あ。
前よりも、ちびっこいだろ?
……本当、前に見た時よりも小さい。
この頃のちびは、見た通り、弱々しくてさ。
……爪と牙は。
爪と牙は生え始めているけど、まだまだ、頼りない。
……歩けるの?
歩けるけど、よちよちしているんだ。
……鱗は。
鱗も生え始めたばかりだ。
だから、ふにょふにょしてる。
……ふひょふにょ。
触ってみるかい?
……触っても。
良いよ。
……ジュピターは嫌がらないかしら。
ちびは嫌がらないさ。
……。
ちび、メルがお前に触りたいってさ。
……あの、嫌なら。
さぁ、行け。
……。
ほら、行った。
……本当によちよちしてる。
ちびも、これからだから。
……ジュピター。
触って……いや、撫でて欲しいってさ。
……うん。
座った方が良いかもしれない。
ん……然うする。
よし、あたしも座ろう。
……ふふ。
よいしょ、と。
……ジュピター、おいで?
みゅん。
ふふ……お返事、有難う。
……。
……ん。
どうだい……やらかいだろ?
……うん、柔らかい。
やっぱり、嫌がらないな。
相変わらず、メルに懐くのは早い。
……赤ちゃんみたいね。
そう、だからあたしが守ってやらなきゃいけないんだ。
……。
でも、食うことだけは一人前だから、大変だったよ。
……目が、とろんとしているわ。
とろん?
……若しかしたら、眠たいのかも。
どうした、ちび……眠いのか?
……此のままだと、眠ってしまうと思う。
あー……。
……。
やれやれ、仕方ないな。
折角また、夢の中でメルと逢えたのに。
……抱っこ、してあげても良い?
抱っこ?
……抱き上げる事を、歳星では然う言うのでしょう?
あぁ……うん、そうなんだ。
……。
少し重たいと思うけど、大丈夫か。
……大丈夫だと思う、夢だから。
はは、そっか。
……ジュピターも、良い?
みゅぅ。
……あぁ、本当に可愛らしい。
赤子だからな。
……赤ちゃんでなくても、ジュピターは可愛いけれど。
メルも可愛いよ。
……。
メルも、とっても可愛い。
……もう、ユゥは。
あたしは本当のことを言っただけさ。
……本当に苦手なの?
苦手?
……お喋り。
うん、苦手だ。
……じゃあ、口説くのは?
くどく?
……私以外のひとにも、可愛いと。
言うわけない。
……。
可愛いと思うのは、メルとちび、それからマーキュリー、そして。
……マーキュリー?
マーキュリーも面白くて、可愛いと思う。
……あの子を、知っているの。
知ってるも何も、連れて来た。
……どうして、十四のあなたが。
なぜなら、これは夢だからだ。
……。
なんでもあり、だ。
……ふふ、本当ね。
今、マーキュリーを……。
……いけない。
ん?
……ジュピターが。
おっと。
……今、抱っこしてあげるね。
ふむ。
……なに?
あたしは、メルを抱っこしてみたいなぁ。
……え。
ふと、思った。
……抱っこなら、たまに。
それは、二十八のあたしだろ?
抱っこしたいと思っているのは、十四のあたしだ。
……私より、今はジュピターを。
ん、そうだった。
……あ。
よ、と……ん、よしよし。
……ユゥ。
抱っこするなら、胡坐の方が楽だ。
……あぐら。
メルも、あたしのように。
……これで、良い?
ん、良いな。
……。
ん?
……あっさりと、抱っこしてしまうのね。
いつものことで、慣れているからさ。
……私に。
うん、メルに任せる。
……。
手を出して……良いかい、離すよ。
……ん。
んー……なんとなく、危なかっしい手付きだなぁ。
……然う、かしら。
赤子の抱っこの仕方は知っているかい?
其れは……習ったわ。
城の者に?
……あなたにも。
あたし?
……丁寧に教えて呉れたの。
そっか、あたしも教えられるか。
今思えば……ジュピターを、抱っこしていたからなのね。
ひとのこの赤子とは、勝手が違うと思うけどね。
……ひとのこの赤子。
まぁ、重さは似たり寄ったりかもしんないけど……いや、ちびの方が重いか。
……。
まぁ、良いや。
いや、良くないか。
……ふふ。
ん、なんだい?
……元気ね、ユゥって。
応、あたしは元気だぞ。
……元気で、良かった。
メルも、元気だ。
……。
桃の初物を、食べたから。
……然うだと、良いけど。
メル……ちびを。
……ん。
うん……今度は良いな。
……。
……重たくないかい?
だいじょうぶ……。
……いつでも、交代するからさ。
うん……。
……。
ふふ……眠ってるわ。
……この頃のちびは、眠っている時間の方が長かったんだ。
眠っていない時は……?
……食ってるか、遊んでる。
ひとりで……其れとも。
……構って欲しがるんだ。
……。
だから……出来るだけ、ふたりで遊んでた。
……どんな遊びを。
それは……また、今度にしよう。
……ちゃんと、聞かせて呉れる?
あぁ……もちろん。
……。
……メル。
温かくて、柔らかくて……ジュピターの命を、感じる。
……まだ、小さな命だ。
守ってあげないと……。
……爪と牙、それから、鱗が生えそろうまで。
私も……守ってあげたかった。
……ちびに、仔が出来たら。
……。
守ってやって欲しい……。
……任せて、呉れるかしら。
任せて呉れる……メルになら。
……然うだったら、嬉しい。
……。
……。
……今のメルは、あたしと同じくらいだ。
え……?
……やっぱり、気が付いてなかったか。
あなたと……同じくらい。
……十四のメル。
十四……。
……。
……手の大きさは、あまり変わらないわ。
メルの手は……。
……。
……この頃から、この大きさだったんだ。
手だけでなく……。
メルの手は、可愛い手だ。
……あなたの大きな手が、私は羨ましい。
大きい方が良い?
……大きい方が、便利だと思うし。
まぁ、掴む時は便利かなぁ。
……良いなぁ、大きな手。
……。
私の手も……もう少しだけで良いから、大きくなって欲しかった。
……あたしの手は、大切な者達を護る手。
……。
メルも、ちびも、マーキュリーも、それから……あたし達の子も。
……。
みんな、この手で護る。
……護って呉れる?
あぁ、もちろんさ。
だから、どんどん頼ってくれ。
……ん、有難う。
応、どういたしまして。
……。
今度は、ちゃんと言えたか?
……うん、言えていたわ。
ん、良かった。
……。
……ちびのやつ、良く眠っているな。
うん……本当に、良く眠ってる。
……。
……マーキュリー。
連れて行って欲しいと。
……マーキュリーが、然う言ったの?
メルクリウス。
……ん。
願いは、叶ったと。
……願い。
マーキュリーが、そう言っている。
……マーキュリーが。
叶ったんだ、メル。
……。
……あたし達の願いが。
あぁ……。
……。
……呼びに来て呉れたのね。
もう少し、したら。
私……屹度、目を覚ますわ。
……心底、心配してると思うんだ。
安心、させてあげないと……。
……泣くかもしれないなぁ。
……。
……多分、だけど。
うん……。
……なぁ、メル。
なぁに……。
……二十八のあたしは、ちゃんと頼りになっているかい?
ええ、なっているわ……あのひとが居ないなんて、もう、考えられないの。
あは、そっか……そいつは良かった。
……ありがとう。
……。
ずっと……ずっと、傍に居て呉れて。
17日
……どうだい?
うん……優しい香りと味で、心が落ち着くわ。
然うか……良かった。
……此の香りは、桃よね?
あぁ、桃の葉だ。
……歳星の桃は小振りだけれど、瑞々しくて、程良く甘くて、とても美味しいの。
実が熟したら、一番に持って来よう。
……初物?
うん。
……初物を食べると、もっと元気になれると言われているのよね。
科学的根拠は、特に無いが。
……ふふ。
はは。
……そんな大事な初物を、私が頂いてしまっても良いの?
メルに食べて欲しいんだ。
……去年も、頂いたわ。
今年も是非、食べて欲しい。
……王である、あなたを差し置いて。
私はメルの後で良い、寧ろ、後回しにするべきだ。
……気持ちは、嬉しいけれど。
お願いだ、メル。
……お願いって、そんなに。
特別なんだ、桃の初物は。
……特別?
あぁ。
……他の初物より?
特別だ。
……どう、特別なの。
桃の初物には、願いが込められている。
……願い?
無事に、子を産む事が出来るように。
……安産、祈願?
桃を食べると命の時間が延びるという、歳星の言い伝えは知っているだろう?
……ええ、知っているわ。
桃には、其れ以外の言い伝えもあるんだ……腹に子を宿した者が桃を食べると、無事に子を産む事が出来るという。
……。
特に初物が良いらしい。
……其れは、何処で。
とある集落で。
……集落。
其の集落では言い伝えに則って、子を宿した者には初物の桃を食べてもらう、という決まりが古くからあったんだ。
……。
此の言い伝えは、書物には書かれていないと思う。
……ええ、然う言った記述は今のところ見た事がないわ。
若しかしたら、一部の地域……いや、其の集落だけなのかも知れない。
……他には、ない?
他では未だ、聞いた事がない。
……誰に聞いたの?
子を何人も産んだ事がある年嵩の者に聞いたんだ。
……いつ頃。
私が子供だった頃に。
……其のひとは、何人の子を産んだ事があるの?
確か、十人と言っていた。
じゅ……十人?
十人は、歳星でも多い方だ。
大体、五人くらいだから。
……辰星では有り得ない、躰が持たない。
考えられない?
ええ……考えられないわ、十人なんてとても。
其のひと曰く、初物の桃を食べていたからこそ、十人もの子を無事に産む事が出来たのだそうだ。
……桃に、其処までの効果があるとは到底思えない。
恐らくは、ないだろう。
……少なくとも、辰星の桃にはないわ。
研究されている?
……躰に良い栄養素は、確かに含まれているけれど。
であるのならば、効果はないと一概には言えないのかも知れない。
……。
成分を調べてみたいかい?
……比較をしてみたいと。
ふふ、然うか。
……。
……正直な事を言ってしまえば、其れはただの願掛けに過ぎないと思う。
私も、然う思う……。
けれど、集落の者達は其れをずっと信じている……私がとやかく言って良い事ではない。
……うん。
……。
……昔のあなたならば。
然う言うものなのだと、今でも思っていただろう。
……ごめんなさい。
どうしてだい?
……。
メル。
……。
謝られても、私は知る事を止めるつもりはないよ。
……ユゥ。
此れからも、知らなかった事を知りたいんだ。
君が持っている知識を共有して、そして、出来れば残したいと思う。
……共有、して欲しい。
だから……謝らないで欲しい。
……。
メル……。
……ふたりで、此の星に。
残そう……次の代、其の先の代、ずっと先の代へ。
……少しずつでも。
ゆっくりでも構わない……知識は詰めるものではなく、重ねてゆくものだから。
……うん。
……。
ユゥ……?
君が考えて呉れた学び舎の話……なかなか進める事が出来ず、済まない。
ううん、良いの……難しい事は、初めから分かっていたから。
……。
全く、進んでいないわけではないのでしょう……?
……あぁ。
あなたは、十分に頑張って呉れている……。
……此の子が生まれて、落ち着く頃までには、形にしたいと思っているんだ。
其の時は……此の子を任せても良い?
其れは勿論……親である私が、己の子の世話をする事は当たり前の事だ。
……其の頃はもう、親の手が要らなくなっているかも知れないけれど。
だとしても、私達が親だと言う事は変わらないさ……。
……うん、然うよね。
取り敢えず、ジュピターから転げ落ちる事がないように……。
……ちゃんと、教えないと。
私が教えずとも、ジュピターが教えて呉れるかも知れないが。
然うね……けれど、私達の口でも教えないと。
……あぁ、然うだな。
……。
……メル。
あともう少しで、会える……。
……。
心配……よね。
……心配だ。
素直……。
……ごめん。
ううん、良いの……心配されないよりは、ずっと良いから。
……。
……ねぇ、ユゥ。
メル……桃の初物、食べて呉れるかい。
……。
根拠は、無いけれど……其れでも、君に。
……頂いても良い?
あぁ、勿論だ……是非、食べて欲しい。
……出来れば、あなたと。
私と?
……ふたりで、分け合いたいの。
……。
私だけが元気になっても、意味がない……あなたにも、元気で居てもらわないと。
……けれど、私は。
ひとりでは、育てられない……ふたりで、ないと。
……。
だから……ふたりで。
……分かった。
ちゃんと、はんぶんこにしてね……。
……。
分け合うと言っても、はんぶんこではなく、私に……と、思っていたでしょう?
……参ったな。
ふふふ……。
……一口だけでも良い。
……。
……メルクリウス。
一口だけ、なら……。
……。
……あとね。
なんだい……?
……若しも叶うのならば、三人でも、食べてみたい。
三人?
……親子三人で。
親子……。
……生まれて直ぐには食べられないから、来年以降になってしまうと思うけれど。
……。
……だめ?
駄目なわけない、親子三人で食べよう。
……ん。
来年……いや、来年以降か。
……楽しみね。
うん……楽しみだ。
……。
……。
……なんとなく、だけれど。
うん……。
……分かるように、なってきたと思うの。
……。
何かに、願いを込める事……込めずには、いられない事。
……。
仮令、科学的根拠が無いとしても……其れで、気持ちが落ち着くのならば。
……気休めにも、ならないかも知れないが。
ううん、なると思う……だって、桃は美味しいもの。
……。
ね、然うでしょう……?
……うん、甘くて美味しい。
ふふ……。
……ジュピターも好きなんだ。
然う……なら、ジュピターにもあげないと。
……。
ずぅっと、張り詰めていたら……其の日を迎える前に、疲れ果ててしまうと思うから。
……有難う、メル。
どうして……?
……言いたくなった。
じゃあ、私も……。
……ん。
有難う……ユゥ。
……。
ん……。
……お返し、しても良いかい?
ん……良いわ。
……ならば、遠慮なく。
……。
……。
……熱いわ。
いやだったかい……?
……ううん、全然。
良かった……。
……。
……メルの唇は、甘い。
冷たくはない……?
……冷たくない、あったかい。
……。
……メル?
二度も、して……私は、一度しかしていないのに。
……じゃあ、するかい?
……。
……して呉れたら。
しない。
……。
……止まらなくなってしまうだろうから。
其れは……良くないな。
……今は、だめ。
はい……。
……。
メル……どうした?
……ん、なんでもない。
……。
……大丈夫。
飲み終わったら、横になるかい……?
……あなたは?
私も、なろうと思う……メルと一緒に。
……。
……眠らずとも、横になるだけでも良いと思うんだ。
うん……然うよね。
……傍に居る。
ん……居て。
……。
ねぇ……マーキュリーは、どうしてる?
マーキュリーならば……何事か、考えているようだ。
……眠たそうには、していない?
目だけ見ると、眠たそうだ。
……ふふ、然うよね。
連れて来るかい……?
……ううん、考え事の邪魔をしたら悪いから。
あぁ……確かに然うだな。
……マーキュリーの甲の上から、滑り落ちる。
うん……?
……日向ぼっこをしていたら。
マーキュリーの甲の上……ジュピターの背ではなく?
ふふ……矢張り、然う思うわよね。
……夢の話?
然う……あなたが見た夢の話。
私が?
夢の中のあなた。
メルの夢の中で、私は夢を見ていたのか。
……とても良い天気で、風が穏やかで、気持ちが良くて。
……。
……昼寝をするには、うってつけの環境だったと。
其れで、マーキュリーの甲の上から滑り落ちたと。
……然うみたい。
流石に、間抜けだな……其れは。
……ジュピターに私の膝枕をずっと取られていた事が、納得いかなかったみたい。
メルの膝枕を、ジュピターに……そんな事をしたら、メルが潰れてしまう。
……仔龍だったから。
仔龍……?
然う……此れくらいの。
……仔龍だな。
だから、潰れる事もなく……。
……甘えるちびの頭を撫でた。
撫でないわけ、ないと思うの……。
……ん、確かに。
ふふふ……。
……。
ユゥ……?
……まぁ、夢の話だしな。
ええ……所詮は、夢の話。
……。
今は、駄目よ……?
……分かってる。
ごめんなさいね……。
……何がだい?
ずっと、我慢させてしまって……。
……そんな事は、気にしなくても良い。
欲求不満に……なっていない?
……なるわけ、ない。
……。
膝枕をしてもらえずとも……。
……あ。
こうやって……触れ合う事は、出来る。
……。
触れ合う事が出来ない日でも……言葉を交わす事は出来る。
……ユゥ。
ごはんを食べたり、お茶を飲んだり……。
……夜になれば、同じ寝台で眠る。
然うだ……だから、欲求不満になんてなるわけがない。
……。
……横になるかい?
もう少し、起きていたかったけれど……。
……朝になったら、また、起きられる。
……。
……今は、休もう。
うん……。
……。
……お話は、もう少しだけ続けても良い?
ん……君が思うように。
……あなたも、何か話して。
さて、何を話そうかな……。
……何でも良いわ。
何でも……ならばまた、ジュピターがちびだった頃の話でもしようか。
……まだ、あるのね。
あぁ……まだまだ、ある。
……ふふふ。
私の事も、出来れば、聞いて欲しいな……。
……其れは、勿論。
勿論……?
……ユゥとジュピター、ふたりのお話だから聞きたいの。
あは。
……また、夢で逢えるかも知れない。
私達と?
……逢えたら、嬉しい。
……。
ん……ユゥ?
……此処にも、居る。
……。
居るから……。
……うん。