日記
2026年・3月
16日
……亜美ちゃん。
ん……。
……お茶が入ったよ。
あぁ……ありがとう。
……蜂蜜とお砂糖、ここに置いておくね。
うん……。
……隣、良いかい?
ええ……どうぞ。
……よいしょ、と。
お茶は、何を淹れて呉れたの……?
……さぁて、なんでしょう。
……。
肩、良い……?
……あなたは、読まないの?
読むけど……今はまだ、読まないから。
……然う。
……。
……許可は、まだしていないのだけれど。
だめだったら、離す……。
……。
分かった……?
……ルイボスティーね。
うん……正解。
……。
蜂蜜とお砂糖、どちらにする……?
……蜂蜜を少し、もらっても良いかしら。
ん、蜂蜜だね……。
……自分で。
そっか……。
……今夜の読書時間に、うってつけのお茶だわ。
ふふ……それは、良かった。
……カフェインも入っていないし。
眠る前に、カフェインは厳禁だ……。
……若い頃は、平気だったのに。
今だって、十分に若いさ……。
……三十代になって、体質が少し変わった。
それは仕方ないんじゃないかな……ひとのこは、体質も、変わりゆくものだから。
……あなたは、平気よね。
平気だけど……寝る前は、あまり飲まないようにしている。
……私に合わせて?
あたしは幾つになっても、愛しいひとと同じものが飲みたいんだ……。
……分かち合う為に。
外だったら、違うものを選ぶんだけどね……。
……それもある意味、分かち合う為だと言える。
ふたつの味が楽しめて良いだろう……?
……ええ、然うね。
ふふ……。
……あなたは、どちらを?
あたしは勿論、蜂蜜を……。
……どれくらい?
入れて呉れるのかい……?
……自分で、入れたいのなら。
亜美ちゃんと同じくらいで……。
……然う、分かったわ。
……。
……面白い?
お茶と、混ざり合っていく過程がね……。
……。
砂糖は、溶ける……蜂蜜は、混ざり合う。
……ふ。
今更……?
……いいえ、良いと思うわ。
……。
……蜂蜜は、一歳未満の乳児に摂取させてはいけないのよね。
蒸しパンやクッキー……過熱してあるお菓子でも、食べさせては駄目なんだ。
……芽胞は、一般的な加熱調理では死滅させることが出来ないから。
120度で、4分以上の過熱が必要……クッキーはそれ以上の温度と時間で焼くけれど、滅菌するまでには至らない。
……乳児ボツリヌス症に感染した赤ちゃんを、何度か見たことがあるけれど。
全身の筋力が低下してしまうんだろ……?
……顔面は無表情になり、頸部筋肉の弛緩により頭部を支えられなくなる。
泣かないんだっけ……?
……泣いたとしても、声が小さい。
命には……。
……稀に。
……。
……適切な治療をすれば、ほとんどの場合は、治癒する。
周りの大人次第だね……。
……ええ。
蜂蜜は、様々なものに入っているから……。
……市販品は、特に気を付けないと。
りんごジュースにも入っているからなぁ……買う前は、確りと確認しないと。
……まこちゃんのお店でも、注意喚起はされているのよね。
うん……店頭のポップや、プライスカードで。
会計時に、口頭で伝えることもあるよ……。
……良いと思う。
だけど、たまに……。
……たまに?
きょとんとしているご両親が居て……然ういう時はそれとなく、詳しく説明するようにはしているんだけど。
……やっぱり、居るのね。
やっぱり……?
……説明して、理解して呉れる?
して呉れるご両親も居れば、最後まで何のことか分からないという顔をしているご両親も居る……。
……。
亜美ちゃん……?
……危険性を知らないご両親が、たまに居るのよ。
知らない……て。
……乳児には何故、蜂蜜を与えてはいけないのか。
だけど、講習か何かで習うんじゃなかったか……?
……忘れてしまうのか、それとも、初めから聞いていないのか。
恐らくは、聞いていないか……或いは、興味がないか。
……命を預かっているのに。
やっぱり、注意喚起は必要だな……お店の表示も、改めて見直さないと。
……私に出来ることは、ご両親に詳しく説明することと、赤ちゃんを治療すること。
……。
……はぁ。
亜美ちゃん……。
……今日はまだ、終わっていないのに。
仕方ない、かな……。
……こんな本を読んでいるのが、悪いのかしら。
どんな本……?
……これ。
小さな巨人……なんの本?
……微生物について、書かれている本。
微生物……。
……細菌は、微生物の一種だから。
あぁ……成程。
……今夜は、レシピ本にでもしておけば良かったわ。
レシピ本……?
……料理の写真を眺めるだけでも、興味深いから。
ならば……これから、一緒に見るかい?
……。
それでさ……何か気になる料理があったら、そっと教えて欲しい。
……ふたりしか、居ないのに?
ふたりしか、居なくても……。
……。
……静かな夜だから。
ふ……。
……耳元で、そっとね?
良いわ……そっと、呟いてあげる。
……やった。
はい……お茶を、どうぞ。
……うん、ありがとう。
……。
……。
……お買い物に行ったら、買ってこないと。
蜂蜜……?
……そろそろ、なくなりそうだから。
同じもの……それとも、違うもの?
……この蜂蜜も、美味しかったけれど。
レンゲ……アカシア……クローバー……オレンジ……。
……アカシアで。
同じもの……?
……使いやすいから。
ん、確かに……。
……。
……さぁ、冷めないうちに。
ええ……。
……。
……ん、美味しいわ。
あたしも、美味しい……。
……ふふ。
はは……。
……。
……。
……ところで。
ん……?
どうして、声を潜めているのかしら……?
あぁ……それはね。
ん……。
……亜美ちゃんが、難しそうな本を読んでいたからだよ。
……。
実際、難しい本だった……。
……気を遣って呉れなくても良かったのに。
出来るだけ、集中力を途切れさせてしまわぬよう。
……どのみち、頁をめくる手は止まったのだし。
ぅ……。
……お返しよ。
ふふ……してやられた。
……それで、レシピ本は。
あぁ、うん……ちょっと待ってて。
……。
……。
……肩が、ひんやりする。
ん……何か、言ったかい?
……別に、何も。
肩がひんやりする?
……ひとが悪い。
あれ、当たり?
……いいえ、外れ。
ん、残念。
……で。
これと、これ。
スペイン料理と……グラタン・ドリア?
然う。
……わりと、普通ね?
結構、参考になるんだよ。
……成程。
まずは、どちらを見る?
……グラタン・ドリアにしようかしら。
ん、分かった。
……。
早速?
……ナンプラーを使うグラタンもあるのね。
然うなんだ、珍しいだろう?
……グラタンと言うより、オーブン料理だわ。
グラタンとはそもそも、料理の表面にオーブンなどで焦げ目を入れるように調理する、ものだからね。
……フルーツグラタン。
どうだい、美味しそうだろう?
……。
お……。
……洋梨のプディンググラタン、バナナとマシュマロのメープルグラタン、さつまいものレーズンバターグラタン。
……。
それから……りんごとナッツのカスタードグラタン、オレンジのマリネグラタン。
分かった……どれも、作るよ。
……ん。
良かった……気に入ってもらえて。
……私の為?
頭を使うと、甘いものが欲しくなるからさ……。
……糖分に気を付けないと。
大丈夫……毎日は、作らない。
……。
さて、あたしも……。
……。
シェリー酒を使う料理も載っているな……うん、丁度良い。
……ニョッキ。
ニョッキも、美味しいよね……。
……うん。
……。
……。
……これ、美味しそうだな。
どれ……?
……反応が早い。
聞こえただけ……それで、どれ。
……これ。
グレープフルーツと、帆立のサラダ……?
ドレッシングは、オリーブオイルと白ワインビネガー、塩胡椒に、固ゆで卵の黄身……だって。
……黄身をドレッシングにするのね。
スペインでは、良く使うみたいだ。
……ふぅん。
どうだろう、食べてみたいかい?
……ええ、食べてみたいわ。
なら、作ろう。
……緑のものが入っているけれど。
これは……胡瓜だね。
……胡瓜。
全体的に黄色いから、緑は良いアクセントになっていると思う。
……たまごの白身は。
粗みじんに切って、ふりかける。
……カップに盛り付けられていて、きれいね。
パッと見、デザートみたいだと思う。
……確かに、見えなくもないわ。
うちで作る時は……盛り付けるのは、お皿でも良いかな。
……お皿でも、きれいだと思う。
うん……なら、お皿に。
……。
固ゆで卵の黄身と言えば、こんな料理もあるよ。
……どれ。
これ。
……ポジョ・エン・ペピトリア?
ポジョは、スペイン語で鶏肉のことみたいだ。
……ペピトリアは。
卵黄ソースを使った料理のことを、スペインではペピトリアと言うんだって。
これは……煮込み料理なのかしら。
ん、然うみたい。
……シェリー酒。
ね、丁度良いと思わない?
……アンダルシアは、スペインだったわね。
ん。
……サフランライスに合うのかしら
パンにも合うみたいだよ。
……パン。
グレープフルーツと帆立のサラダに合わせても良いと思うんだ。
……ええ、然うね。
早速、今度のお休みに作ってみようと思うんだけど……どう?
ん……良いと思う。
ごはんとパン、どちらが良い?
私は、どちらでも……まこちゃんは、どちらが良い?
あたしも、どっちでも良いかなぁ。
……。
んー……折角だから、両方用意してみようか。
パンなら、買ってくれば良いだけだし。
……それでも、良いかも知れないわ。
なら、然うしよう。
ごはんは、サフランライスを?
然うするつもり。
手間ではない?
ふたりがお休みならば、手間じゃない。
……。
デザートは、レモンムースか……あ、干しいちじくと胡桃のコンポートも良いなぁ。
亜美ちゃんがそっと呟いて呉れたものは、おやつの時間にでも……。
……食べすぎてしまいそう。
あまり、作りすぎないようにはするけど……。
……ふたりで作りましょう。
うん、然うしよう……。
……。
……。
……今度の食事会は、うちでしても良いかも知れない。
え……?
……母は、まこちゃんの手料理が好きだから。
なら……然うしようか。
……言ってみるわ。
うん……。
……。
……明日の朝ごはんは、フラメンカエッグにしようかなぁ。
フラメンカ……?
生のトマトに卵を落として、オーブンで焼くだけ。
……パンと?
然う、パンと。
……。
フラメンカエッグとパン、それから……然うだ、りんごがあるから、ガスパチョにしよう。
あれなら、材料を揃えてミキサーに掛けるだけだし。
……朝からご馳走だわ。
だけど、手軽に作れる……。
……まこちゃんだからよ。
亜美ちゃんでも……ん。
……私だったら、仕事の朝にオーブンを使いたいとは思わないわ。
そっか……。
……。
……あ。
なに……。
……。
まこちゃん……?
……ゆうべ作った、豚肉のロースト。
……?
スペインでは……怠け者の豚のロースト、と言われているみたいだ。
……怠け者?
ほら、見て。
……。
ね、書いてあるだろう?
……本当。
作るのに手が掛からないから、というのが理由らしい。
……だからって、怠け者は。
手軽に作れるとは、思っていたけど……。
怠け者は、豚肉のローストなんて手が掛かるもの、作らないと思うわ。
……下拵えをして、オーブンに入れて、焼くだけ。
そもそも、料理すらしないと思う。
まぁ、確かに。
……価値観の違いなのでしょうけど。
面白いよねぇ。
……面白い?
うん、面白い。
……まこちゃんって。
料理の文化の違いに触れることは、とても興味深い。
……。
知らない文化に触れることは、新しいケーキの参考にもなるしさ。
……然ういえば、この間はイギリスの家庭料理の本を読んでいたわよね。
あれも興味深かったな。
イギリス料理と言えば美味しくないと聞くけれど、実際は然うでもなさそうで。
……ただの、偏見よね。
だから、作ってみたいと思う。
……作って呉れたわ。
もっと、だよ。
……。
もっと、亜美ちゃんに……ふたりで、食べる為に。
……まこちゃん。
肩は、まだひんやりするかい……?
……もう、しないわ。
ん、良かった……。
……。
……と。
今日も、とても良い日だった……。
……亜美ちゃん。
きっと、また……。
……うん、また。
……。
……触れ合うだけの、キス。
もう……?
……気が早い、かな。
早い……。
……む。
続きは……本を読んだ後で。
……はい。
……。
……穏やかな夜だね。
ええ……とても良い夜だわ。
15日
ん、美味しい。
亜美ちゃんの味付けはやっぱり絶妙だなぁ。
絶妙かどうかは自分では分からないけれど、マヨネーズを控え目にした分、胡椒を効かせてみたの。
胡椒とマヨネーズのバランスが取れていて、とっても美味しいよ。
白菜の甘みも、ツナのしっとりした食感も、ちゃんと活かされていてさ。
パンにバターは塗らなかったのだけれど、水っぽくはないかしら。
うん、大丈夫だ。
パンにはまだ移ってない。
然う、良かった。
時間を置いたら水分が出て水っぽくなってしまうけれど、出来立てならば、問題ないよ。
うん。
……。
……。
……ん、白菜がしゃきしゃき。
白菜とツナのサンドイッチ。
……ん?
初めて作ってもらった時は、こんな食べ方もあるのだと。
初めて作ったのは……いつだったっけ。
中学二年生の頃。
二年生ってことは、出逢って一年も経ってない頃だ。
うん……あの頃から、まこちゃんは色々なサンドイッチを作って呉れたの。
サンドイッチが好きだって、聞いたからさ。
……それだけじゃない。
うん?
私、いつも同じようなものを食べていたでしょう?
あぁ、然うだったね。
……お店で売っているものは、いつも決まっていて。
ツナと白菜、この組み合わせのものは、お店では売られていないもんな。
然うなの……ツナのサンドイッチは、あるけれど。
ツナはサンドイッチでも定番の具だ。
ん。
お店によっては、ツナだけでなく、みじん切りにされた玉葱が入っていたりするんだよね。
……あんまり玉葱の主張が強いと、ツナの味がどこかに行ってしまって。
まるで、ツナ風味の玉葱サンドイッチを食べているよう。
美味しくないわけでは、ないのだけれど。
ツナが食べたいひとは、なかなかがっかりすると思う。
……ツナサンドが食べたいのに、これでは玉葱サンドだって。
うん?
高校生の頃、美奈子ちゃんが怒っていたことがあったわ。
あぁ、そんなこともあったかも知れないなぁ。
確か、これは詐欺よ、詐欺詐欺って騒いでいたような気がする。
ええ、騒いでいたわ。
それで、うさぎちゃんが興味を持って。
やめておけば良いのに、一口もらって。
美奈子ちゃんと一緒に、詐欺詐欺言ってた。
そして口直しに、まこちゃんのお弁当から、から揚げをひとつずつ。
ん。
あっと言う間に、うさぎちゃんの機嫌が直った。
然うだ……あたしのおかずが、まんまとなくなったんだ。
だから、私のお弁当からひとつ、まこちゃんに。
亜美ちゃん、大好きだ。
元々、まこちゃんが作って呉れたお弁当だったし。
だとしても、大好き。
ありがとう?
どういたしまして?
……ふふ。
はは。
……。
……。
……今はもう、そんなサンドイッチはないと思う。
企業努力で、どれも美味しくなったもんなぁ。
……種類も、かなり増えたわ。
然うだね……今じゃ、アボカドだって当たり前に使われているし。
まこちゃんは、アボカドのサンドイッチも作って呉れたわよね。
本に載っていたから、作ってみたんだ。
然うしたら、意外と美味しくて。
ハムやチーズ、ツナ、玉子、ボイルした海老とも合うの。
……ふふ。
なに……?
あの頃の亜美ちゃんも、喜んで呉れたなぁって。
……。
食べた瞬間に、瞳の青が弾けるように光るんだ……それがまた、可愛くて。
……だって、美味しかったから。
だから……本当に、作り甲斐があった。
……。
それは……今も。
……もう。
ん、拗ねるところ?
……拗ねてない。
ふふふ。
……ツナと白菜だけでなく。
……。
……お店では売っていないような、色々なサンドイッチを作って呉れて。
サンドイッチは、万能だから。
……。
梅干しだって挟めるんだ……勿論、種は取り除くけれどね。
……梅干しと海苔、それから、たまご。
和風なサンドイッチも、作ってみたかった。
……梅干しは普段、食べることがあまりないから。
念の為、確認したんだ……。
……たまごに入っていたのだけれど、思っていたよりも、酸っぱくなくて。
メインではなく、アクセントみたいな感じにしたかった……。
……梅干しがメインだったら、苦手だったかも。
流石に、メインにはしないかな……梅干しが大好きなひとには、良いだろうけれど。
梅干しがメインと言えば……やっぱり、白米ではないかしら。
梅干しがひとつあれば、ごはん一杯、食べられる。
なんて言うひとも、居るよね。どちらかと言うと、年配者に多いけれど。
……。
ん?
……考えてみれば、まこちゃんのお弁当に。
日の丸弁当?
……。
白米の真ん中に梅干しが入っているお弁当。
……なかったわよね?
うん、作らなかった。
……どうして?
それはね。
うん。
あたしが、あまり好きではないから。
……然うなの?
梅干しは嫌いではないけど、日の丸弁当はあまり。
……知らなかったわ。
言わなかったっけ。
うん、聞いていない。
そっか。
……言いたくなかった?
と言うより、話す機会がなかったのかも知れない。
……。
亜美ちゃんが食べたいと言えば、話したかも知れないけど。
……考えたこともなかった。
んー……。
……まこちゃん?
男は黙って日の丸弁当。
……はい?
なんて、さ?
……言われたことがあるの?
昔ね。
……。
ご希望通りに作ってあげたら、梅干しが口に合わないって言われてさ。
挙句にろくなおかずがないと、一口食べただけで突っ返された。それから、作ろうとは思わなくなったんだ。
……最低。
でもまぁ、本性が知れたし、丁度良かったよ。
まこちゃん……。
だけど、亜美ちゃんが食べてみたいと言うのなら、吝かではない。
ううん……出来れば、他のものが良いわ。
然うか。
うん。
……。
……今でも、色々なものを作って呉れる。
……。
サンドイッチだけでなく……。
……同じものばかりでなく、色んなものを食べて欲しかった。
思えばあの頃から、バランスを考えて呉れて。
考えるのも、楽しかったんだ。
……今も、でしょう。
あぁ、今も。
……りんごとレーズンのビネガーサラダ、美味しいわ。
ん、良かった。
……。
……玉葱と言えば、美奈子ちゃんは玉葱があまり好きではなかったな。
だから、詐欺だ詐欺だと騒ぎ立てたのでしょう。
であるならば、はじめから買わなければ良かったのに。
どうしても、ツナサンドが食べたかったと。
たく……昔から、面倒な奴だな。
ふふ、然うね。
……外れを引くたびにおかずを取られるのは、いつだって、あたしなんだ。
引かなくても、取っていたけれど……腹が減っては部活が出来ぬと言って。
……あいつは本当に、調子が良い。
……。
……これからも。
変わらないかも知れないわ……。
……全く、困ったもんだ。
ん……。
……。
……。
……味、食感、におい。
……。
玉葱は、苦手なひとが多いような気がする。
新玉葱なら、甘みがあって、まだ食べられると思うのだけど。
……玉葱の場合は、アレルギーの可能性もあるわ。
アレルギー……それでは、食べられないな。
食物アレルギーは、命に係わることもあるから。
……子供に多いみたいだね。
ええ、多いわ……だから、病院食にも気を付けないといけない。
病院食……か。
……せめて、美味しいものを食べて欲しいと。
子供が点滴に繋がれている姿を見ると、心がざわざわするよ……。
……うん。
……。
……。
……亜美ちゃん、お茶のおかわりは要るかい?
ううん、もう良いわ……ありがとう。
ん。
……。
レーズン、もっと食べる?
ん……もう少しだけ。
うん、分かった。
……。
これくらいで、良いかな。
ん、それくらいで。
じゃあ、どうぞ。
……ありがとう。
サンドイッチ、もうひとつあるよ。
サンドイッチも、もう。
そっか、じゃあ食べちゃっても良い?
うん、食べられるようなら食べてしまって。
では、遠慮なく。
ん。
……うん、美味しい。
……。
……。
……クリームスープ、優しい味がするわ。
クリームスープは、躰を温めるのに良いんだ……真冬の夜だったら、生姜をほんの少し入れても良い。
……あなたが作って呉れる温かいスープは、どんなものでも、心を温めて呉れる。
……。
……今日は冷えることなんて、一瞬もなかったけれど。
うん……あたしもだ。
……。
ビネガーサラダは、甘みを活かせるように、酸味を少し抑えて。
酸味が強いと、かえって、胃の負担になってしまうから。
……最近気が付いたのだけれど、果物のサラダは作っていて楽しいわ。
あぁ分かるよ、それ。
サラダなんだけど、デザートを作っている感覚になるんだ。
お酢がまろやかだから、酸味が強くなりすぎることもないし。
と言っても、掛けすぎると、酢味が強くなってしまうけどね。
いつだったか、りんごのサラダがりんご酢になったことがあったわよね。
あったねぇ。
お湯や炭酸水で割って飲んだり、サラダのドレッシングとして使ったり。
あれはあれで、悪くなかった。
確か、手元が狂ったのよね。
然うなんだ、あれは本当に一瞬の隙だった。
マリネにもとても合っていたから、機会があれば、また作って欲しい。
ん、任せて。
……。
お腹いっぱい?
ん……いっぱい。
御粗末さまでした。
ご馳走さま……今日も、美味しかったわ。
ふたりで作ったから、尚更だ。
……次は、いつ。
……。
ううん……なんでもない。
……近いうちに、また。
……。
約束。
ん……約束。
……。
……お茶のお代わり、淹れましょうか。
ん、自分で……。
ううん……淹れさせて。
……ありがと。
……。
然ういえば、今日はテレビを一度もつけなかったね。
……見たい番組でもあった?
ううん、特にない。
……天気予報だけでも、確認しておく?
然うだなぁ、一応確認しておこうかな。
お天気にも左右される仕事だから。
……雨の日でも、並ぶことはあると。
雨の日クッキーを目当てに来て呉れるお客さんが居るんだ。
……雨の日だけに、焼くのよね。
雨の日に来て呉れたお礼にね。
……クッキーだけが、目当てなのではないと思うわ。
……。
……まこちゃんのお店のケーキは美味しいと、うちの病院でも評判だもの。
全部、店長の力だ……あたしは今でも、ただの従業員でしかない。
……そんなこと、ない。
……。
今のあなたは、チーフパティシエなのだから……。
……ありがとう、亜美ちゃん。
……。
……。
……どうぞ。
ん……ありがと。
……忙しいことは、良いことだけれど。
……。
……無理だけは、しないでね。
うん……分かっているよ。
……。
……亜美ちゃんもね。
ん……。
……うっかり、忘れていたんだけど。
うん……?
雨の日クッキー、次はあたしが焼く番だった。
……然うなの?
うん、だから天気予報は確認しておかないと。
それは、確認しておかないと駄目ね。
持って帰ってくるよ。
……。
亜美ちゃんの分も。
……お金。
良いんだ、雨の日のサービスだから。
……ううん、良くないわ。
ならば……あたしからの、プレゼント。
……。
どうか、受け取って欲しい。
……。
だめかな……。
……ううん、だめじゃない。
なら。
……大丈夫なの。
あぁ、大丈夫だよ。
……。
だから、ね。
……あのね。
うん?
……雨の日クッキー、一度で良いから。
若しかして、食べてみたかった?
……もう、先に言わないで。
ん、ごめん。
……買いに行けたら、良いのだけれど。
言って呉れれば、買ってくるよ。
……。
ご予約、ありがとうございます。
……予約にも、付けて呉れるの?
雨の日にご購入、或いはご予約を頂いたお客様には、全て、お付けしています。
……。
ここだけの話……お店で予約した日と取りに来た日、どちらも雨だと、二回もらえるんだ。
……知らなかった。
ごめん、言ってなかったね。
……電話で予約した場合は。
その場合は、つかない……来店して呉れたお客様へのサービスだから。
……ならば、私ももらえないわ。
……。
まこちゃんが、
あたしがお客さんとして買えば良い。
……。
それは、あり。
……ありなの?
うん、ありなの。
だって、雨の中帰るのだから。
……あぁ。
納得?
……納得、かしら。
うん、良かった。
……。
出来たらで良いから、感想を聞かせて欲しい。
辛口でも、全く構わないからさ。
ん……分かった。
……。
……。
……明日の朝ごはんは、ベッドの中で考えようかな。
……。
今は、まだ……。
……ん、良いと思う。
14日
~~♪
……。
~~~♪
……その曲、どこで覚えてきたの。
休憩時間に、ラジオから流れてきた。
然う……何処となく、物悲しい曲ね。
……物悲しいんだけど、美しい曲だったんだ。
だから、覚えられたの……?
うん……と言っても、全ては覚えられなかったけどね。
印象的な主旋律だけが、頭に残ったんだ……。
曲名は……。
……そこまでは。
歌詞は、あるの……?
それとも、インストゥルメンタル……?
歌詞は、あると言えばあるのかな……。
……日本語ではない?
多分、英語でもないと思う……単語の音が、違ったから。
……。
……若しかしたら、造語かも知れないなぁ。
造語……?
……なんとなく、そんな気がする。
あなたが言うのなら……然うなのかも知れないわね。
……でもまぁ、世界には様々な言語があるから。
然うね……。
……存在すら、知らない言語も。
知らない言語の方が、ずっと多いわ……。
……然うだねぇ。
人知れず、滅んでしまった言語も……。
……例えば、前世の言葉。
……。
あたし達が、憶えているから……完全には、滅んではいないけれど。
……けれど、使うことはないわ。
憶えているとは言え、不完全だしね……。
……。
……若しかして、亜美ちゃんは。
話そうと思えば……幾らでも。
……いつから。
気が付いたら……。
ん……然うか。
……別に、思い出さなくても良かったのに。
月に行くようなことがあれば……若しかしたら、必要とされる場面があるかも知れない。
……生憎、宇宙飛行士になる予定はないもの。
或いは、人類が何かしら持って帰ってくるとか……。
……一生、関わることはない。
……。
……あなたは、関わりたい?
全く、関わりたくない……。
……私には、関わって欲しい?
出来れば、関わって欲しくない……。
……うさぎちゃん達もきっと、関わらないと思うわ。
面倒だもんな……。
……そもそも、信じてもらえるかどうか。
……。
……だって誰も知らない、見たこともない言語だもの。
ただの模様、記号……文様?
……良くて、記号かしらね。
そんなものを読めると言っても、名のある学者でない限り、相手にもされないか……。
門前払い……洟も引っ掛けないでしょうね。
……月に古代文明があっただなんて、知らない方が良い。
いずれ……。
……。
人類は、月に居を構えるようになるかも知れない……。
あんな場所の、何処が良いのかな……空は真っ暗で、風も吹かない、酸素だってないのに。
宇宙へ進出する為の、一歩……。
……この星に勝るものはないと思うよ。
なくても……かつての人類がアフリカを出て、世界中に広がっていったように。
……宇宙を目指す、か。
月の次は、火星……。
然うか……火星も、目指しているんだっけ。
その為には、この星の近所である月ぐらいには進出しておかないとね……。
それは、確かに……月にも行けないのに、火星なんて行けるわけがないもんな。
……火星は、遠いわ。
亜美ちゃんは、行きたいかい……?
……いいえ。
……。
私は……この星で良い。
うん……あたしもだ。
……。
……水星や金星は、流石に無理だよね。
木星も、ね……。
木星は……今となってはただのガスの塊で、足場がないからなぁ。
……嵐が、吹き荒れていて。
あの星に、命が芽生えることはない……すっかり、死の星になってしまったから。
……木星の場合、衛星ならば。
エウロパ……ガニメデでも、良いか。
……ふたつの星ならば。
だけど、遠いよ……火星よりも、ずっとずっと先だ。
……。
火星と木星の間には、小惑星帯もあるし……其処では、数百万個以上の小惑星が、ごろごろ回ってるんだ。
……今の人類では、到達は難しいわね。
探査機は、飛ばせても……ひとのこを飛ばすのは、まだ不可能だろう。
命を惜しまないのならば、飛んでも良いけれど……少しでも惜しいと思うのなら、今は止めておいた方が良い。
……いつか、人類は。
太陽からも、遠く離れてしまうし……あたしとしては、お勧めは出来ないな。
……。
……恐らく、新たな差別も生まれるだろうし。
生まれないとは、言えないわね……ひとのこは、然ういう生き物だから。
……だろ?
ええ……。
……地球人は地球で生まれて育つ、故に、地球で生を終える方が良い。
けれど、宇宙進出が当たり前の世界になったら……。
……黴の生えた古臭い思考だと、言われてしまうだろうなぁ。
それでも、その考えは廃れないと思うわ……。
……かな。
皆が皆、宇宙が良いとは……あぁ、でも。
……ん?
その頃には、月生まれや木星生まれが居るのかも知れないのね……。
……月人と、木星人?
木星の場合は、エウレパかガニメデの生まれになるのでしょうけれど……。
エウレパ人と、ガニメデ人……なんだか、SFの世界だな。
……今は、然うでも。
それまで、人類が存在していれば良いけれど……。
……。
いずれ、来る……滅びを、乗り越えて。
……うん。
いつ、来るんだろうな……。
……分からない。
このまま、歳を取り続けたら……ちょっと、辛いかも知れない。
……銀水晶が、あるから。
あー……然うか、その手があるのか。
……出来るかどうかは、分からないけれど。
うさぎちゃん次第、だな……。
……あまり、負担は。
掛けたくは、ないけど……必要であれば、うさぎちゃんは。
……その時は、支えることが出来るように。
出来ることは、するつもりだよ……。
……頼りにしているわ。
あたしも、しているよ……。
……。
ねぇ、亜美ちゃん……。
……なに。
あたし……すっかり、地球人だろう?
ふふ……然うね。
……亜美ちゃんも。
水星……月の民にも、戻ることはないわ。
……ん。
ごめんなさいね……。
ん……何がだい?
……折角、気持ち良く口遊んでいたのに。
あぁ……いや、別に良いよ。
亜美ちゃんを待っている間に、口遊んでいただけだから。
……。
……そろそろ、入るかい?
良いかしら……。
勿論……さぁ、どうぞ。
……ありがとう。
あたしが、一緒に入りたいって言ったんだ……。
……然うだった。
へへ……。
……。
と……。
……寄り掛かっても?
もちろん……良いに、決まってる。
……じゃあ、遠慮なく。
ふふ……うん。
……。
はぁ……やっぱり、良いなぁ。
……逆上せないようにしないと。
うん……気を付けよう。
……ふぅ。
良いお湯……?
……ん、とても。
湯張りしておいて、良かった……。
……少し、過ぎてしまったけれど。
それは、まぁ……想定内って、ことで。
……調子が良いんだから。
はは……。
……幾つも、残して呉れて。
うん……残した。
……。
……ん、亜美ちゃん。
まだ、終わっていないけれど……良い一日だったわ。
……美味しい夜ごはんが、待っているよ。
寝る前の、読書の時間もね……。
……。
……なぁに?
いや……本を、読むんだなって。
……悪い?
悪くは、ない……。
……読むと言っても、少しだけよ。
……。
今夜は、ゆっくりと休みたいし……。
……何が、飲みたい?
然うね……リラックス出来るものが良いわ。
分かった……考えておく。
……ん、ありがとう。
さて、何が良いかな……。
……ねぇ、まこちゃん。
なんだい……。
……。
亜美ちゃん……?
……母のこと、なのだけれど。
お義母さん……?
……お風呂に入る前に、何気なくスマホを確認したらメールが来ていて。
然ういえば、見ていたね……。
……それで。
若しかして、食事のお誘いかい?
……。
あれ、違う……?
……ううん、違わない。
ふふ、そっか……。
……あなたにも、届いていると思う。
お風呂から出たら、確認しておく……。
……。
お義母さんと食事をするのは久しぶりだ……ふふ、楽しみだなぁ。
……。
外で食べても良いけど、うちに来てもらって……ん?
……。
亜美ちゃん……お義母さんに、何かあった?
……何か、と言うほどのものではないのだけれど。
良かったら、教えて。
……。
言いたくなかったら……。
……母は、いずれ。
いずれ……?
……有料老人施設に、入るつもりだと。
ゆうりょう、ろうじん……?
……将来、私達のお世話になる気はないって。
え、え……?
急にこんな話……吃驚するわよね。
あたし達のお世話って……お義母さんは、まだまだ元気じゃないか。
ついこの間だって、ひとりで旅行に行って……お土産だって、頂いて。
……自分の頭が正常に動いているうちに、話しておきたいと。
いや、でも……ちょっと待って。
……本当に唐突よね。
まさか、食事って……その話をするつもりで。
……メインではないと、思うけど。
あ、あぁ……。
……私も、あまりにも急すぎて。
そんな素振り、今までに一度もなかったよね……?
……なかったと、思う。
詳しいことは、まだ……。
……追伸という形で、書かれていたの。
追伸って……お義母さんらしいと言えば、らしいけど。
……重要なことをさらっと書くのは、やめて欲しいわ。
……。
……母は、いつだって然う。
亜美ちゃんは、どう思っているの……。
……まだ、考えていない。
ん、然うか……。
……まこちゃんは、どう思う?
あたしは……お義母さんの好きにして欲しいと、思っていたけど。
若しも、老人ホームに入ったら……お義母さんが今、住んでいるマンションは。
……手放すことになるわ、必要ないから。
然う、か……然う、だよな。
……母に、集団生活が出来るかどうか。
……。
それにしたって……なんで、こんな日に。
……今直ぐでは、ないんだろう。
……。
だったら……明日以降に、考えようよ。
……返信。
今日のところは、分かりましたと返しておけば、それで足りると思う……。
……。
お義母さんは多分、それ以上の答えは待っていないと思うから。
……あくまでも、食事がメイン?
うん……。
……だったら、書かないで欲しい。
ん……それは、然う。
……かと言って、いきなり話されるのも。
吃驚、するよね……。
……もう、どうしていつも然うなの。
は、はは……。
……まこちゃん。
ん、ごめん……。
……。
……。
……半ば強制的に、現実に引き戻されたようだわ。
うん……。
……まだ、戻りたくなかったのに。
……。
……お休みにスマホなんて、見るものじゃないわね。
今日は、まだ。
……ん。
終わってない……。
……。
お風呂から出たら……ふたりで夜ごはんを作って、美味しく食べよう。
……。
それから、明日の用意をして、お茶を飲みながら本を読んで、お話をして……軽く、キスをして。
……。
ね……然うしよう。
……キスは、お休みの?
お休みのキスとは、また別……。
……。
……軽く、触れ合うだけの。
じゃれ合うような……?
……然う、そんな感じの。
……。
……だめかな。
だめでは、ないわ……。
……うん。
はぁ……。
……。
……今日だけでも、48時間になれば良いのに。
ん。
……不可能なことは分かっているけれど、思わずにはいられない。
すごく、分かる……。
……。
……肌、きれいだね。
唐突……。
13日
……ん。
……。
……夕焼け小焼けが、聞こえる。
もう、5時なのね……。
……さっき、おやつを食べたばかりなのになぁ。
然うねぇ……。
楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまう……もう少し、のんびりして呉れても良いのに。
……忙しい時間も、振り返ってみれば、あっという間だったと思える。
忙しい間は、大変だけどね……だから、忙しい時間はのんびりして呉れなくて良いかな。
……時間が足りない時は、のんびりして欲しいわ。
ん……それは、確かに。
……感じられる時間の長さに影響を及ぼす要因は複数あると、言われているけれど。
例えば……。
……時間経過に対する注意。
それは、どういう……。
……退屈だと、時間ばかりを気にしてしまうでしょう?
早く過ぎて欲しいから……30分くらいは経っただろうと思って確認すると、まだ5分くらいだったりするんだ。
……結構、がっかりするわよね。
かなり、がっかりする……。
……時間の経過に注意が向けられる頻度が高いほど、時間はより長く感じられるの。
楽しい時間、若しくは、忙しい時間が短く感じるのは……。
時間の経過に注意が向けられる頻度が低い場合、或いは、時間の経過以外の事柄に注意が向けられる場合に……時間は、短く感じられる。
……若しも、楽しい時間を長く感じようとするのなら。
時間経過に注意を向けることになるだろうから、楽しいことに集中出来なくなって……楽しみが、損なわれてしまうかも知れない。
……つまり、思うようには出来ない。
で、あるならば……仮令短く感じようとも、楽しんだ方が良い。
……うん、然うする。
ん……。
……6時まで、まだ時間はあるから。
もう少し、休みたいのだけれど……。
……じゃあ、もう少しだけ。
もう、くすぐったいわ……。
ははは……。
……いたずらっこ。
鬱陶しい……?
……鬱陶しかったら、もっと強く言ってる。
ふふ……うん。
……。
……外、明るいね。
日が……大分、伸びたわ。
……少し前までは、日が沈むのが早くて。
冬至の頃だと、5時頃になると真っ暗だった……。
……あたしの誕生月は、特に日が短い時期だからさ。
3時過ぎには、夕方の気配がしてくるの……。
……冬の夕方は、何処か侘しくて、心淋しい。
気温も、関係していると思うわ……。
寒いと、心が弱りやすくて……ひとの温もりが、余計に恋しくなる。
……あ。
あたしの場合は、亜美ちゃんの温もり……。
……他のひとの温もりは。
欲しくなることは、ない……。
……。
誰でも良いわけではないんだ……亜美ちゃんも、然うだろう?
私は……そもそも、好きではないもの。
……触れられること?
あなた以外の誰かに、触れられること……。
……触れることは。
仕事でない限り、あなた以外の誰かに触れることはない……触れたいとも、思わないわ。
……仕事。
……?
……。
まこちゃん……?
……なんでもないよ。
何か、気になることがあるのなら……。
……。
……言葉にして欲しい。
だけど……。
……構わない。
……。
……言い難い?
心配は、今でもしている……。
……。
……してるんだ。
うん……ありがとう。
……。
……嫌な話だけれど、少しだけ話しても良い?
……。
ごめんなさい……嫌よね。
……ううん、聞くよ。
無理はしないで……。
……寧ろ、亜美ちゃんの方が。
私は……あなたの腕の中に居るから。
……。
それに……今はもう、然ういうこともないから。
亜美ちゃん……。
……以前よりは、ね。
気安い奴は……。
……触れることはコミュニーケションの一環なのだと、然う言い張っている時代錯誤の者達は未だに居るわ。
居るのか……。
……ハラスメントは、完全にはなくならない。
……。
単なる暴力も……なくなることなんて、ない。
……許さない。
私も、許さない。
……許せない。
ん……。
……もう、誰にも触らせない。
心配しないで……私に寄ってくる者は、もう、居ないから。
……肩を、抱かれただの。
……。
腰に触れられただの、頭を撫でられただの……そんなことを聞いた時は、本気で。
……。
直ぐに、除けたとはいえ……。
……話を聞いて呉れた時のあなたの瞳、ジュピターの色になっていたわ。
心の底から、怒っていたからね。
……今にも、雷(いかずち)を降らせてしまうような色で。
触れられた場所は、念入りに、洗っていたんだろう?
ええ……だって、心の底から気持ちが悪かったから。
……やっぱり、今でも許せないな。
私も、許してはいないわ……。
……叶うことならば、痺れさせてやりたかった。
その代わり、凍瘡を負わせてあげたから……。
……。
……私に触れた者は、全て。
思えば、亜美ちゃんも……マーキュリーの瞳になっていたっけ。
……水を被せるよりも、凍瘡の方が良いと思ったの。
凍瘡って、霜焼けのことだったよね……。
……然う、霜焼け。
凍傷との違いは……。
簡単に言ってしまえば……凍瘡は血行不良が起こることで皮膚に炎症が生じ、凍傷は皮膚や組織が凍結し、血行が阻害されることで組織が損傷する。
……亜美ちゃんは、優しいなぁ。
優しいかしら……凍瘡も結構、厄介なものだけれど。
ましてや、手全体となると……暫くの間は、まともに使えない。
……凍傷は、負わせなかった。
……。
凍傷は、症状が重度になると……組織が壊死して、酷ければ、切断しなければならなくなるだろう。
……腐っていても、一応、ひとのこだから。
「ジュピター」(あたし)だったら……軽度の麻痺ぐらいで済ませることなんて、出来なかったかも知れない。
……けれど、性根が腐り切っている者は別。
……。
……ひとりだけ、ね。
あぁ……。
……あれは医学生の頃から、権力を笠に着て、何人もの女性を傷付けてきたそうだから。
玩具にされて……中には、妊娠してしまったひとも居たんだろ。
……ひとりではないわ。
亜美ちゃんにも、目をつけて……。
……近寄ってきたから、良い機会だと思って。
話を聞いた時は、心臓が止まるかと思ったよ……。
……問題ないと思ったの、私には木星の加護もあったから。
あったかも知れないけど……それでも。
……指一本、触れさせやしない。
……。
あの時のあなたは、然う言って呉れたわ……。
……うん、言った。
結局、あれは……私に指一本どころか、爪先ですらも、触れることは出来なかった。
……。
あなたの加護が、触れさせなかったのよ……。
……あたしの加護がなくても、マーキュリーならば。
ううん……あなたの加護があったから。
……。
下卑た笑い声は、暫くの間は耳に残っていたけれど……でも、それだけ。
……まさか、病院内で。
完全に私物化していると、話には聞いていたから……特段、驚きはしなかったわ。
……そんな奴が医者だなんて。
……。
……有り得ない。
権力とは、然ういうもの……簡単に、ひとを歪めてしまうのよ。
或いは、本性をありのままにする……とも、言えるわね。
……なんにせよ、そんな奴は医者になってはいけない。
然うね……。
……他にも、居るんだろ。
ええ、残念ながら……。
……。
私なら、大丈夫……今でも、あなたの加護に守られているから。
……何度だって。
うん……ありがとう。
……。
あれは、もう……二度と、使い物にはならない。
……良いよ、それで。
ただ、あの腐り切った性根は……治ったかどうかは、分からないけれど。
……医者は、辞めたんだろう。
ええ、辞めたわ……仕事を続けられるだけの気力はなかったみたい。
……そんな奴は、医者であって欲しくない。
……。
……患者さんにすら、手を出すような奴は。
本来ならば、法で裁かれるべきなのよ……。
……だけど、それが難しいのならば。
凍瘡程度では、とてもではないけれど、済ませることは出来なかった……。
……。
私は、医者なのに……。
……ただの、正当防衛さ。
過剰防衛というものも、あるけれど……。
いや、正当防衛の範囲内だよ……相手は、立派な成人男性なのだから。
……。
成人男性は一般的に、成人女性よりも力が強いとされているだろう。
そんな存在が明確に、加害の意思を持って襲ってきたのであれば……抵抗しなければ確実に、傷付けられる。
性加害の性質の悪いところは、同意があったと言われることだ……であるならば、その場で返り討ちにした方が良い。
……ふ。
ん、なに……?
まこちゃん……ジュピターの瞳になっているわ。
おっと……。
……。
亜美ちゃん……。
……母からは、聞いていたの。
お義母さんから……?
……その時に初めて、女性医師である母の苦労を知った。
……。
母も、色々あったみたい……だけれど、ずっと抗って。
……お義母さんは、力を持っていないから。
持っていたら……どうだったかしら。
……どうだろう。
私のように……。
……したかも知れない。
……。
ひとには、防衛本能がある……抵抗するだけの力があるのならば、行使してもおかしくはないさ。
だから、亜美ちゃんが気に病むことは……全く、ないんだ。
……ありがとう。
ん……。
……ごめんなさい、嫌なことを思い出させてしまって。
良いんだ……亜美ちゃんは何も悪くないのだから。
……まこちゃん。
寧ろ、あたしよりも……。
……また、忘れさせて。
あぁ……もちろん。
……。
……触れても、大丈夫かい?
大丈夫だけれど……。
……だけど?
6時になったら、夕食の支度を始めるのよね……?
……時間を、忘れてしまうかも。
忘れそう……。
……時間を気にしていたら、亜美ちゃんに集中出来ない。
それは……ん、然うなのだろうけど。
……改めて、思ったよ。
何を……?
……あたしは一日中、亜美ちゃんを抱くことが出来るということ。
……。
体力も、まだまだ大丈夫そうだ……。
……あなたはきっと、四十を過ぎても大丈夫だと思うわ。
還暦を過ぎても、大丈夫でいたい……。
……還暦って。
あたしは、本気だよ……。
……。
本気なんだ……。
その為には……元気で、いてね。
あぁ……元気で、いたい。
……。
……お風呂、一緒に入ろう。
ううん……お風呂は、ひとりで。
……お風呂では、しないよ。
しないと、本当に言える……?
言える……お風呂では、ゆっくりしたい。
……ゆっくりしたいのなら、ひとりの方が。
お風呂も、久しぶりだろう……?
……然うだけど。
明日からまた、頑張る為に……。
……。
だめかい……?
……仕方ないわね。
ふふ……やった。
……しないと、約束して。
うん……約束するよ。
……ぁ。
夜ごはんを食べて、お風呂に入ったら……。
……本音を言えば、食事の前にお風呂に入りたいのだけど。
ん……。
……でも、今日は良いわ。
んー……。
……まこちゃん?
お風呂の湯張り、しておこうか……。
……。
然うすれば……6時に、お風呂に入ることが出来る。
……かも、知れない。
少し、過ぎてしまうかも……。
……つまり、予定を入れ替えるのね。
どうだろう……?
……出来れば、食事は9時までには済ませたい。
ん、分かった……。
……。
然うと決まれば、ちょっとお風呂場に行ってくるよ。
……そのまま、行くの?
下くらいは、履いた方が良いかな。
と言うより……上を羽織った方が良いわ。
ん、然うか……なら、然うする。
……。
ボタンは、掛けない。
……良いんじゃない。
ん。
……。
じゃあ、直ぐに戻って来るから……。
ええ……待っているわ、ダーリン。
……。
なぁに……まさか、照れているの?
……明るいうちに、言われたことがあまりないから。
今日は、特別……。
……へへ、そっか。
……。
改めて……行ってくるよ、ハニー。
……。
ん……?
……少し、恥ずかしいわね。
あはっ。
……ふふ。
……。
……ん。
直ぐに、また……。
……ん、待ってる。
12日
はい、どうぞ。
……ありがとう。
蜂蜜、足りなかったら言ってね。
……うん。
蒸しパンは要らない?
……うん、今は良い。
ん、分かった。
……ココアの蒸しパンにしたのね。
うん、無糖のココアを使ってね。
……甘さは、控え目?
砂糖を少なめにしたから、ほんのりと甘い程度かな。
……然う。
気になるかい?
……何度か、食べているから。
言って呉れたら、直ぐに用意するよ。
……ひとつは、食べ切れないわ。
なら……一口だけ、食べるかい?
……食べたら、あなたの分が減ってしまう。
亜美ちゃんの一口くらいなら、問題ない。
バナナ入りのホットヨーグルトもあるしさ。
……半口くらいなら。
分かった、半口だね。
……自分で。
あーん?
……は、しない。
しない?
……しない。
そっか、残念。
……良い匂い。
一瞬、チョコレートも考えたんだけど、砂糖が入ってるなと思ってやめたんだ。
……甘いチョコレートなら、無糖の紅茶かカフェラテが良いわ。
大人になっちゃったなぁ。
……どういう意味?
子供の頃は、甘いものに甘いものでも、わりと平気だったのに。
……お互い、糖分が気になるお年頃。
三十路を過ぎると、色々とねぇ。
……二十代の頃はなんともなかったのに、三十代になったら血圧がほんの少し高くなってしまって、泣きべそをかいてるひとも居るわ。
泣きべそって。
……大袈裟なのよね。
よっぽどだったんだなぁ。
少しくらいならば……放っておかなければ、改善出来る。
ん、確かに。
……。
然ういえば最近、健康貯金と言うものがあって、それが尽きるのが三十路だって力説されたっけ。
……初めて聞く貯金ね。
その名の通り、健康の貯金のことなんだけど、なんでも若いうちは健康を貯めておく期間らしいんだ。
だけど運動不足、暴飲暴食、あとは煙草の吸いすぎだったかな。そんなことばかりしていると、貯めるどころか、減っていく一方で。
二十代の頃までは若さでなんとかなるんだけど、三十路を過ぎるとそれもなくなってしまうから、それはもう、がつんと不具合が出てきてしまうらしい。
……店長さん?
いや、お店のパートさん。
旦那さんが若い頃にお酒を浴びるように飲み過ぎて、三十代で糖尿病になってしまったらしいんだ。
……糖尿病になってしまうと、良くて寛解、完治は難しいわ。
だから、生活改善とお薬でなんとか維持するしかなかったんだけど……。
……確りと、生活改善が出来なかったのね。
うん、薬を飲んでいるのに、お酒はやめられてなくて……今ではもう、インスリン注射を手放せなくなってしまったんだって。
……旦那さんの年齢は。
今は、五十代半ば。
……話を聞いた限りだけれど。
ん。
健康診断を受けていたのにも関わらず、結果を重く見ずに放置して、初めて医療機関を受診した時には既に血糖値が200mg/dLを超えてしまっていたのではないかしら。
そうそう、何かで渋々お医者さんに行って検査を受けたら、血糖値がものすごく高くなっていて大変だったって言ってたよ。
インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンなのだけれど……高血糖になることで膵臓が疲弊して、インスリンの出が悪くなってしまうの。
然うなると、ますます高血糖になってしまって、悪循環に陥ってしまう。それで、インスリンの補充が必要になるわけだけれど。
インスリン注射?
然う……注射でインスリンを補充して血糖値を下げてあげることで、膵臓の負担が減り、インスリンの出が良くなるの。
つまり、悪循環から良い循環に切り替えてあげるのか。
……然ういうこと。
然ういえば、最初はインスリン注射を打っていたって言ってたなぁ。
それで数値が下がって、
飲み薬に切り替わった。
飲み薬になったことに初めは喜んでいたんだけど、結局またインスリン注射に戻ってしまって、今では手放せない。
……確かに、薬で治療は出来るのだけれど。
やっぱり、生活改善が鍵?
薬で取り敢えず血糖値は下げたけれど、生活改善が確りと出来ていないと、時間が経つうちに徐々に膵臓が疲弊してしまって、インスリンが出なくなっていく。
然うなってしまったら、否が応でも、インスリン注射に頼らざるを得なくなってしまうわ。
……旦那さん、どうやら家族の言うことを、ほとんど聞かなかったらしいんだ。
でしょうね……多いのよ、然ういったひと。
家族が幾ら生活改善を促しても、聞く耳を持たなくて……合併症を引き起こして入院となった時に、酷く後悔することになるの。
早い時点で、気が付いていれば……まさに、後悔先に立たず、か。
……糖尿病の治療は本来、膵臓が疲弊してしまうのを防ぐことなのよ。
だからこそ、疲弊させてしまう原因を改善しなければならない……。
……でも難しいのよね、欲と結び付いているから。
酷くなると、足を切断しなければならなくなることもあるんだろう?
……糖尿病の合併症である神経障害や血管障害は、組織が腐敗してしまう壊疽を招くことがあるの。
腐敗……。
……壊疽は一度起きると、治すことは難しいから。
旦那さんは、入院することはあったけれど……幸い、そこまでには至らなかったらしい。
然う……それは、良かった。
……でも、油断は出来ない。
治療は一生、続けていくことになるわ。
うん……やっぱり、健康って大事だな。
健康貯金とやらがあっても、大体のひとは、加齢によって失っていくんだもの……保てるうちは、保った方が良い。
う……言葉が重い。
……まぁ、体力はあるに越したことはないわ。
うん……然うだね。
……はぁ。
亜美ちゃん……
……自分の言葉が、思い切り刺さる。
あぁ……。
……今度、お散歩に付き合ってもらっても良い?
もちろん……幾らでも付き合うよ。
……ありがとう。
お礼は要らないさ……亜美ちゃんとのお散歩は、あたしの望むことでもあるからね。
……。
今のところ、引っ掛かりそうな数値はないけれど……あたしも、そのうち出てきてしまうのかな。
仕方ないわ……年齢を重ねるとは、然ういうことでもあるのだから。
……どんなに気を付けても?
ある程度は……ね。
……。
ん……なに。
……最近、貧血はどう?
うん……悪くないわ。
然うか……良かった。
……貧血は老若男女、関係ないから。
亜美ちゃんの場合は、鉄欠乏症って言うんだろ……?
……放っておいたわけでは、ないのに。
……。
心配しないで……肝臓のフェリチン値は、改善されているから。
でも、油断は出来ない……。
……。
……心臓に負担が掛かると聞いた時は、驚いたんだ。
酸素供給量が、減ってしまうから……どうしてもね。
……また、他人事のように。
大丈夫……ちゃんと、自覚しているから。
他人事のように聞こえるのは……職業柄、仕方ないの。
……。
ん……まこちゃん。
……ちゃんと治そうね。
うん……。
……。
……蒸しパン、もらっても良い?
あぁ、然うだった……はい、どうぞ。
好きなだけ、食べて良いからね……。
半口……いえ、一口で良いわ。
ふふ……そっか。
……いただきます。
はい、召し上がれ。
……。
……。
……うん。
どう……?
ほんのり甘くて……ホットヨーグルトに、合っているわ。
ふふ、だろう……?
……。
インターバルには、丁度良いかな……?
……ええ、丁度良いわ。
……。
……。
……疲れた?
疲れが、ないわけではないわ……なんせ、朝からだもの。
……ん、然うか。
でも……悪くはない。
……夜は、ゆっくり休もう。
ええ……是非、然うさせて。
……うん。
……。
……夜ごはんは、どうしようかな。
私は……あまり、重くないものが良いわ。
お肉が続いたもんね……。
……ん。
じゃあ、白菜とツナのサンドイッチと……りんごとレーズンのビネガーサラダでも作ろうかな。
スープは……ブロッコリーのクリームスープで。
……美味しそうね。
ん……決まりだ。
……あなたは、それだけで足りる?
うん、足りるよ……若しも足りなかったら、丸パンが残っているから。
……。
……ふぅ、お腹があったまるな。
ねぇ……。
ん……なんだい?
次は、私の番……。
……。
……と、言いたいところだけど。
出来れば、渡したくないなぁ……。
……抱かれたくは、ないの?
そんなことは、ないんだけど……抱きたい欲の方が、今日は強い。
……。
だけど……あたしだけじゃあ、ね。
……良いわ、今日は。
……。
……良いの。
……。
こぉら……。
……ヨーグルトの匂いがする。
当たり前でしょう……?
……バナナも、混じってるかな。
だめよ……。
……ちぇ、残念。
子供みたいな言い草……。
……へへ。
ふ……。
……ごはんの支度は、6時頃からでも良いかな。
出来ればあまり、遅くならない方が良いのだけれど……。
……7時頃までには、用意する。
ふたりでやれば、早く用意出来るはず……。
……。
なぁに、その顔は……?
ううん……夜も一緒だ、嬉しいなって。
……久しぶりだから、ね。
……。
……?
まこちゃん……?
……今日が、終わってしまう。
……。
……今日だけ、48時間になれば良いのに。
まだ、夜にもなっていないのに……。
……ごめん。
……。
ん……なに?
……頭を。
あ……。
……持っているものを、テーブルに置いて。
ん、分かった……。
……。
……こう?
ええ……。
……。
……この一日があるから、私は日々を乗り越えられる。
うん……。
……仮令、苦しい一日があったとしても。
忙しい日々が、続いたとしても……。
……たったの一日しかない。
……。
然う、言われるかも知れないけれど……それでも、あなたと過ごす穏やかでしあわせな一日は必ずあるから。
……だからあたしは、日々を乗り越えられる。
子供の頃のような、自由はもうないけれど……。
……でも、大人になったことで得られた自由もあるから。
……。
……。
……明日の夜も、叶うなら、ベッドで。
明日も、帰ってくる……?
……ええ、帰ってくるわ。
じゃあ……また、ベッドで。
……明後日も仕事だから、しないけれどね。
ふふ……うん、然うだね。
……。
……気持ち良い。
私は……今日は、これだけで良いわ。
……。
……あなたの頭を抱いて、撫でるだけで。
ありがとう……。
……。
……大好きだ。
うん……。
……。
……ところで。
あ、もう終わり……?
……また、後でね。
後……うん、分かった。
……。
……それで、なに。
糖分と……言えば。
あぁ……うさぎちゃんのこと、かな。
……衛さん曰く、以前よりは控えているみたいなのだけれど。
最近さ……。
……。
甘いチュロスを、甘いホットチョコにたっぷりと浸して食べることが、うさぎちゃんの中だけで流行っているらしい。
……テレビで、スペイン特集を見てからよね。
たまたまお休みだった衛さんに強請って、作ってもらって。
……今でも、うさぎちゃんには甘いから。
それがまた、糖分たっぷりだったみたいで……出来れば、控え目にして欲しかったんだけど。
……嵌まってしまうとは、思っていなかったのでしょう。
今では、一週間に5回は食べているみたいだ……流石に、衛さんの手作りではないようだけど。
……他にも、ケーキにシュークリーム、チョコレート、プリン、アイスクリーム、大福、餡蜜、お饅頭、その他甘いもの。
うーん……糖分過多。
……チュロスの食べ方は、想像しただけで歯が抜け落ちそうだと、レイちゃんが言っていたわ。
チョコかチュロス、どちらかを糖分控え目にすることが出来れば、少しは抑えられると思うんだけどね。
……何か良い案はない?
ん、然うだなぁ……抑えるとしたら、チュロスかなぁ。甘くないチョコなんてチョコレートじゃないって、駄々……言うだろうし。
うさぎちゃんが好むチュロスには多分、砂糖が塗されていると思うから、これをなくせば少しは違うと思う。
……お砂糖。
それか、チュロス自体の甘みを抑えるか。
少し減らす分には、気付かないと思うし。
……手作りなら、それも出来るけれど。
お店のものだと……甘くないものは、選ばないだろうしなぁ。
……はぁ。
心配事が尽きないね……。
……出来れば、病気にはなって欲しくないだけ。
うん、分かるよ……。
……糖分控え目のお砂糖があれば良いのだけれど。
人工甘味料が、あるにはあるけど……。
……人工甘味料は低カロリーで血糖値の上昇にほとんど影響を与えないけれど、過剰に摂取すると健康リスクを増加させる可能性があるから。
結局は、ほどほどが良いんだよね……。
……病気のない世界だったら、私は失業してしまうし。
ん……。
……複雑だわ。
それは……複雑だよね、うん。
はぁ……。
……。
……ん、まこちゃん。
心配するのは、取り敢えず……。
……ここまでに、しておくわ。
休んだら、また……。
……まだまだ、増えるのね。
……。
……あなたの、あと。
うん……もっと、残したい。
……見えるところは、やめてね。
11日
……朝昼ごはん、美味しかったな。
……。
とても、美味しかった……。
……夜まで、もつ?
ん、どうだろう……もつとは、思うけれど。
……間食が、必要ならば。
作ったら……亜美ちゃんも、食べる?
……その時のお腹次第、かしら。
ふふ……それは、確かに。
……何を作るの。
然うだなぁ……。
……。
ん……くすぐったい。
……少し、肌が乾燥している。
あぁ……あとでまた、クリームを塗っておかないと。
……今、塗ってあげるわ。
今……?
……忘れてしまうかも知れないから。
大丈夫だよ……。
……そんなこと、言って。
亜美ちゃんは、忘れないだろうから……ん。
直ぐに終わるから、じっとしていて。
……はい。
それで……間食は、何を作るの。
ヨーグルトで何か、簡単なものを……と、思っているんだけどね。
……例えば。
電子レンジで作る、ヨーグルト蒸しパン。
……他には。
バナナを入れて、ホットヨーグルト……温かいから、お腹にも優しい。
……。
バナナではなく、りんごでも良いかな。
……電子レンジって、便利ね。
どうだろう……?
ホットヨーグルトは……お砂糖、それとも、蜂蜜?
お好みで……。
……まこちゃんは、どちらにするの。
あたしは……蜂蜜にしようかな。
然う……なら、バナナのホットヨーグルトで。
蜂蜜?
……あなたと同じものを。
うん、分かった……。
……はい、おしまい。
ん……ありがとう。
……肌荒れが酷くなるようだったら、迷わずに皮膚科に言ってね。
うん……時間を作って行くよ。
……。
……亜美ちゃん。
……。
そろそろ、良いかい……?
……あなたは。
あたしは……いつでも。
……。
歯磨きも、したしね……。
……瞳の色を、見せて。
うん……。
……。
どうかな……?
……熱を帯びているわ。
……。
……まこちゃん。
まだなら……待つよ。
……シャツは。
出来れば、脱がせたい……。
……ボタン。
外す時間も、楽しい……。
……まだ、余裕はありそうね。
あまり、ないかも知れない……。
……。
ん……。
……躰も、熱い。
亜美ちゃんのことを、求めている……。
……。
欲しくて、堪らないんだ……ん。
……。
……良い?
唇も、熱いわ……。
……分かりやすい、だろ?
ええ……とても。
……。
……待て。
う……。
……は、もう、おしまい。
あ……。
……まこと。
……っ。
……ぁ。
亜美ちゃん……亜美。
……あ、ん。
……。
シャツ……脱がせる、と。
……脱がせるよ、でも。
あ……ぁ。
……焦らすには、これが良い。
……。
……下着は邪魔だから、上にずらすけどね。
も、ぅ……。
……もどかしさが、良いんだ。
ばか……。
……ふふふ。
……。
下着は……あとで、ちゃんと外すから。
……そのまま、脱がして呉れれば良いのに。
楽しみたい……。
……あなただけ。
さて、それはどうかな……。
……シャツは、あなたのものよ。
だからこそ……遠慮しなくて良い。
ん……あっ。
……。
……あ、……ん。
ね……もどかしい、だろ?
……あなたも、でしょう。
まぁ、ね……。
……。
それでも、見たいからさ……。
……なに、を。
亜美の……もどかしそうな、表情。
……は。
それに……亜美だって、あたしにやるだろう?
……とう、ぜん。
ふ……。
……あと、で。
今日は……。
……あ、ぁ。
渡さないかも、知れない……いや、渡せない、かな。
……ずるい、わ。
ごめんね……?
……。
あぁ……かわいいな。
……もう、いいでしょう。
ん……?
……シャツ。
直接、触って欲しい……?
……いわない。
じゃあ……もう、ちょっと。
……どうせ、我慢出来なくなるの。
亜美が……?
……いいえ、まことが。
む……。
ねぇ……然うでしょう?
……。
まこと……。
……ボタン、引き千切りたい。
あなたの、シャツだから……。
……それも、見越して?
ええ……然うよ。
……じゃあ、遠慮なく。
……。
と、思ったけど……やっぱり、焦らしたいし。
……あなたはいつ、脱ぐの。
亜美のシャツを、脱がしてからだ……。
……私が。
好きなように……。
……んっ。
うん……きれいについた。
……いくつ、つけられるのかしら。
見え難いところにも、つける予定だから……。
……予定ではなく、決定事項でしょう。
背中……脇腹……太腿……二桁は、軽く超えるかな。
……調子に、乗って。
大分、乗ってる……。
……。
あぁ……何度見ても、きれいだ。
相変わらず、貧相な躰だわ……。
……何度も、言っているけど。
油断していると、直ぐに骨が浮いてしまって……。
……貧相では、決してないよ。
……。
……ちゃんと、感じて呉れてる。
つながって、ない……。
……。
ぁ……。
……。
……まだ、途中。
ごめん……つい。
……。
唇、尖らせてる……。
……そんな子供染みたこと、しない。
キス、したくなる……。
……。
……ん、全部外せた。
待たせすぎ……。
……もう、待たせない。
……。
あたしが、待てない……。
……待って。
あたしのシャツは、また後で……。
……眼鏡を、外す。
あぁ、眼鏡……。
……。
待って。
……なに。
眼鏡は、そのままでも……。
……何度も、言っているけれど。
……。
……フレームが曲がってしまう可能性があるから、嫌よ。
最近のフレームは、昔のものと比べて曲がり辛いと……亜美ちゃんから。
……それでも、過度な力が掛かると曲がってしまうから。
……。
……こら、悪戯しない。
外すのなら……あたしが。
……片手はだめよ。
じゃあ、両手で……。
……丁寧にね。
うん、分かってる……。
……。
……。
……外さないの?
本音は、外して欲しくない……。
……。
外したら……あたしの顔が、ぼやけてしまうだろう?
……距離が近ければ、ぼやけないわ。
近い時ばかりではないし……近過ぎても、ぼやけてしまって見えない。
……ぼやけているだけで、全く見えないわけではないけれど。
はっきりと、見て欲しい……。
……。
見て欲しいんだ……。
……私に抱かれている、あなたの表情を?
ん……。
……それならば、良いわ。
それも、良いけど……。
……見せつけたいの?
……。
……私を抱いている時の、あなたの表情を。
見せつけたい……と言うより、見て欲しい。
……同じだと、思うけれど。
少し、違う……。
……少し、ね。
亜美……。
……コンタクトで、良いのなら。
コンタクトでも、良いけど……眠ってしまうかも、知れないし。
……我儘。
ごめん……。
……どうしても、眼鏡が良いのね。
曲がらないように、気を付けるから……。
……あなたが気を付けても、私が耐えられないかも知れない。
……。
学生の頃に一度、曲げるどころか壊してしまって……予備のものがあったから、良かったけれど。
……それが切っ掛けで、新しい眼鏡を買うことになった。
元々、大学進学を機に新調しようと考えていたの……だけど、まさかね。
……あたしが、うっかり潰してしまって。
途中で外したところまでは、良かったのよ……あなたも、待って呉れたし。
……あたしがちゃんと、置き場所を確保しておけば良かったんだ。
そんな余裕……すっかり、なくしてしまっていたから。
……。
……眼鏡を外したのと、ほぼ同時だったもの。
受験から解放されたというのも、大いにあったと思う……。
……「待て」が長く続くと、ああいう状態になる。
……。
……あなたの姿がひとつ知れて、良かったわ。
許してもらえて、心から良かったと思う……。
……。
……やっぱり、だめかな。
する時は……眼鏡は、外す。
これは、変えられない。
うん……然うだよね。
……外すのなら、早く外して。
ん……。
……。
……あたしの顔、見える?
残念ながら、ぼやけてる……。
……この距離なら。
見えるわ……。
……。
ん……まこと。
……はっきり見えてしまうと、恥ずかしいと。
……。
だから、ぼやけている方が良いのだと……コンタクトも、ちゃんと外して。
……コンタクトをしたまま眠ってしまうと、目に負担を掛けてしまうから。
うん……目は、とても大事だ。
……。
今は、どう……?
……今更。
ん……。
……もう、何度もしてるわ。
もう、恥ずかしいと思わない……?
……明るい所でも、さんざ、見られて。
いや、そこまでは……う。
……意地の悪いな表情も、昂揚している表情も。
亜美ちゃんに、夢中になっている表情も……。
……繰り返し、何度も見てきた。
……。
……だから、もう。
今でも、たまにね……。
……。
いやいやって、するんだよ……。
……いやいや?
首を小さく、横に振るんだ……か細い声で、「いや」って言う時もある。
……。
……然う、学生の頃のように。
それは……ただの癖よ。
あたしも、然う思っていた……。
……それこそ、学生の頃からの。
だけど、途中から気が付いたんだ……。
……癖以外の、なんでもない。
亜美が、いやいやをするのは……決まって、あたしの顔がはっきりと見える時。
……。
つまり……ん。
……言わなくても、分かる。
……。
分かるから……ぁ。
あたしには……その動きが、まるで恥じらっているように見えて。
……そんな、わけ。
ない……?
……もう、子供ではないの。
子供では、なくても……幾つになっても、恥じらうことはあっても良いと思う。
そんなの……あなたの願望でしかない。
あぁ、然うかも知れない……。
……仮定では、ないわ。
はっきり、言う……。
……言わないで。
あたしは……ん。
……言わないで、と。
ごめん……言わせて。
……いやよ。
言いたい……。
……いや。
あたしは……恥じらっている亜美が、見たい。
……言わないでと、言ったでしょう。
ごめん……。
……。
怒っ、た……?
……優等生。
……?
……眼鏡は、その象徴。
……。
違う……?
……違わない、かな。
……。
……乱れているところが、見たい。
まこと。
……。
……今回は、諦めて。
今回は……。
……それに、少しは見たでしょう。
……。
……私も、あなたのいたずらっ子のような顔を見たわ。
そんな顔、してた……?
……してた。
……。
眼鏡……安全な場所に。
……うん、分かった。
ついでに……。
……ん?
シャツも、脱がせてあげるわ……。
……。
後でなんて……許さないの。
……はい。
……。
脱がしている間は、何もしないでね……。
……しないよう、がんばる。
ええ……がんばって。
10日
……。
……。
……あーみちゃん。
危ないから、だめ。
……う。
待て。
……はい。
……。
……気配、消したつもりだったんだけどな。
今朝は、隠し切れてない。
……因みに、今朝はどんな気配?
どこまでも、甘ったるい気配。
うん……土台、無理な話だったかも知れない。
今のあなたは、完全に緩み切っているもの。
甘ったるさを例えるのなら……ショコラ、それとも、カスタードクリーム?
或いは、生クリーム、マスカルポーネクリーム、キャラメル、餡子に落雁、
お砂糖を塗した蜂蜜。
……おはよう、ハニー。
おはよう、ダーリン。
ゆっくりだったわね。
ベッドで気持ち良く微睡んでいたら、ハニーが腕の中から居なくなっていることに気が付いたんだ。
直ぐに気が付かないだなんて、愛が足りないわ。
ごめんよ、ハニー。
許さないわ、ダーリン。
どうすれば、許して呉れる?
どうしようかしら。
望みがあれば、何でも言って欲しい。
叶えられるよう、力を尽くすから。
それで、許してもらえると?
そんなことは思っていない。
あくまでも、あたしがしたいだけだよ。
ふむ。
何か、あるかい?
然うね、今は特にないわ。
あれ。
服も、ちゃんと着ているようだし。
ボタンは、掛けていないけど。
ならば、掛けて。
うん、分かった。
……。
これで、どうだい?
良いんじゃない。
ん。
許してはいないわよ?
うん、分かってる。
……ふ。
はは。
ふわふわと、ご機嫌な栗色。
……うん?
寝室から出てくるのが、視界に入った。
あー……。
敢えて、声は掛けなかったの。
……参った、亜美ちゃんには敵わない。
ありがとう。
……許して呉れた?
いいえ?
……ん。
……。
あの、亜美ちゃん……気が付かなくて、本当にごめんよ。
私、怒っているように見える?
……え。
見える?
え、と……。
正直に言って?
その……見えない。
ふ。
あ、や、でも
見えるわけない、だって初めから怒っていないもの。
……。
安心した?
……すごく、した。
然う、それは良かった。
……。
わざと、声を掛けなかったの。
……わざと?
あなたが、あまりにもしあわせそうだったから。
……そんなに?
そんなに。
……そっか。
いつ気が付くか、様子を見ていたけれど……思っていたより、早かった。
……どこまで、進んでる?
食材を一通り確認してから、必要なお野菜を水で丁寧に洗い、まずはブロッコリーを小房に分けた。
今は。
玉葱をみじん切りにしようと思って、半分に切ったところ。
ということは、ミートボールのお肉はこれからなんだね。
ええ、然うなの。
お肉は最後に用意しようと思っていたから。
あぁ良かった、間に合った。
起きなかったら、そのままひとりで作ってしまおうと思ったのだけれど。
ありがとう、亜美ちゃん。
お礼を言うところ?
待ってて呉れて。
待っては、いないわ。
然うだとしても、だよ。
……まぁ、良いけれど。
うん、良いんだ。
……ご機嫌。
あは。
……ふふ。
ところで、亜美ちゃん。
なぁに、まこちゃん。
まだ、待て?
分かっていて、言ってる?
若しかしたら、と思って。
包丁を持っている間はだめよ、私の可愛い木星。
……ん。
待っている間、顔を洗ってきたら?
甘い酔いから醒めるかも知れないわよ。
……その前に、後ろから、ほんの少しだけでも。
待っている時間が勿体ないわ。
……顔、洗ってきます。
はい、行ってらっしゃい。
……ん、行ってきます。
ついでに、手も良く洗ってきてね。
……はぁい。
……。
然ういえば、今、何時だろ。
時計、見ていないの?
ん……亜美ちゃんしか、見てなかったから。
10時過ぎ。
10時過ぎか……思っていたより、遅くないな。
朝食を取るのは、11時過ぎになるでしょうね。
ん……想定内、だ。
……。
亜美ちゃん、目は大丈夫かい?
……大丈夫よ、眼鏡をしているから問題ないわ。
眼鏡、便利だなぁ。
あたしもしようかなぁ。
……伊達?
似合うかな。
……フレームにも、よるわね。
フレームかぁ。
……あなたは、丸みのあるフレームが似合うと思う。
しゅっとしたものより?
……しゅっとしたものも、悪くはないと思うけど。
学生の頃の亜美ちゃんは、丸みのあるフレームの眼鏡を掛けていたよね。
……高校生の頃までね。
そっか、大学生になってから新調したんだっけ。
……まこちゃん。
ん?
……実際は、眼鏡をしていてもしみるわよ。
やっぱり、ゴーグルじゃないと駄目か。
……顔、洗わないの?
ん……今、洗うところ。
早く洗わないと、玉葱の準備が終わってしまうわよ。
然うしたら、違うものを
次は、お肉の準備をしようかしら。
あぁ、待った待った。
ねぇ、まこちゃん。
なんだい、亜美ちゃん。
ふたりで作ろうと言ったのは、だぁれ?
はい、あたしです。
もう少しくらいなら、待っていてあげるから。
うん、待っていて。
……成る可くで良いから、早くしてね。
はぁい。
……。
亜美ちゃん、作る気満々だったんだな……ふふ、嬉しいな。
スープの具……グラタンにトマトと玉葱、お肉を使っているから。
ん……春とは言え、水はまだ冷たいな。
白菜にしようかと思ったけれど、茹でたほうれん草が残っていたから……味付けは、シンプルに塩胡椒。
でもまぁ、さっぱりするには丁度良い……。
サラダは、サニーレタスオンリー……ドレッシングは、まこちゃん特製のものを。
……うん、手はこれで良し。
ミートボールのお肉は、まこちゃんにお願いして……。
次は、顔……うん、今朝は悪くない。
ここのところ、いまいちだったからな……。
うん……お野菜は、これで良いわね。
然ういえば、亜美ちゃんの髪の毛……後ろが、少しだけはねてたっけ。
……。
シャツは、あたしのものを羽織っていたし……。
……はぁ。
お休みの日にだけ、見せて呉れるんだ……本当、可愛いよなぁ。
まこちゃん。
ん、なに?
聞こえているわよ。
あれ、聞こえてた?
寧ろ、聞かせていたでしょう。
そんなつもりは、ないんだけど……ごめん?
今日は直すつもりないから。
うん?
だから、直して呉れなくて良い。
……。
今日は一日、家に居るつもりなのでしょう?
まぁ、予定が変わったのなら? 後で自分で直すけど。
……今のところ、変える予定はないよ。
然う……なら、直さないわ。
あなたはだらしない私のことも、可愛いと思って呉れるようだから。
可愛いよ、とても。
はいはい、ありがとう。
ところで、洗い終わった?
……。
まだ、終わってないのね。
……ん、さっぱりした。
良く洗った?
洗ったよ、あとは髪の毛をまとめるだけ。
然う。
……ん、これで良し。
もう?
お休みだからね。
それなりに、乱れていたようだけれど。
出掛ける予定はないから、今日は適当で良いんだ。
……。
だらしないあたしは、嫌いかい?
今更、ね。
はは、なら今日はこのままで。
後でまた、解くかも知れないし。
……邪魔にはならないの?
その時によるかな。
……嫌いでは、ないわよ。
ん?
……髪を緩やかにまとめているあなたも。
……。
まぁ、あなたの好きにすれば良いけれど。
……分かった、好きにする。
……。
……解くのは、いつだって出来る。
ん……。
……包丁、今は握っていないだろ?
だとしても……だめよ。
……だめ?
朝食の支度が、先。
それは……もちろん。
……さぁ、離れて。
あとは、お肉だけ……?
……然うよ。
然うか……では、始める前に。
……ん、まこちゃん。
頬に……軽く。
……唇は、駄目よ。
唇は……また、後に。
……。
……ふふ。
仕方のないひと……。
……良い匂い。
……。
……む。
早く始めないと、12時になってしまうわ。
ん……それでは、始めよう。
……全く。
お腹は、空いているかい?
少し……あなたは?
あたしも、空いてる。
……。
亜美ちゃんは少しの間、休憩していて。
……ここで、あなたを見ているわ。
ん、分かった。
……。
……ミートボールを作るのなら、挽肉を買ってきた方が手っ取り早いんだけど。
厚みのあるお肉を細かく叩いてミンチにした方が、お肉らしい食感と旨みが出る……。
……あたしの、ちょっとした拘り。
確かに、挽肉とは違うのよね……。
……手軽に作りたい時は、素直に挽肉を使うけどね。
挽肉で作ったものも、美味しいわ……。
……亜美ちゃんは昔から、なんでも美味しく食べて呉れる。
だって、なんでも美味しいんだもの……。
……流石に、焦がしてしまったものは食べられなかったけど。
ふふ……そんなこともあったわね。
……煮物を焦がしてしまった時は、途方に暮れたなぁ。
全体的に焦げた臭いがしてしまって……泣く泣く、全部処分したのよね。
……あれは、本当に勿体ないことをしたよ。
まこちゃんでも、こんなことがあるのだと……。
……がっかりされると、思った。
……。
……だけど、亜美ちゃんは。
がっかりなんて、するわけない……寧ろ、安心したの。
……そんなことを言いながら微笑む亜美ちゃんが、とても不思議に思えたんだ。
まこちゃんは、失敗なんてしないと思ってた……。
……そんなことない、あたしは失敗してばかりだよ。
その言葉を聞いた時、酷く嬉しかった……まこちゃんは、落ち込んでいるのに。
……。
失敗しない人間なんて居ない……どんなに得意なことであっても。
……亜美ちゃんでも。
私も、ただの人間だから……今でも、失敗ばかり。
……あたしと、同じだ。
……。
……うん、少し硬いかな。
筋がある……?
……だけどまぁ、これくらいならば問題ない。
いつ見ても、手際が良い……。
……亜美ちゃんもね。
まこちゃんと一緒に、お料理していたから……。
……ふふ、嬉しいな。
……。
……トマトソースがなくなったら、次はミートソースを作り置きしておこうかな。
私も、一緒に作っても良い……?
うん……一緒に作ろう。
……約束、ね。
あぁ……約束だ。
……。
ミートペンネグラタン……。
……根菜のミートドリア。
シェパーズパイ……。
……きのこと葱の玄米ドリア。
んー……お餅のミートソースグラタン。
……あなたと食べれば、どれもご馳走になる。
うん……。
……。
……もう少しだ。
今更だけれど……代わらないで、良い?
大丈夫……ありがとう。
……うん。
……。
……。
……良し、これで良い。
ボウルに、入れても……?
ん……お待たせ。
……ううん。
はぁ……。
……お腹、空いた?
ん……大分、空いた。
……我慢は、出来そう?
する……。
……どうしてもと言うのなら、丸パンがあるから。
……。
ふふ……良いわよ、食べても。
……いや、やっぱり我慢する。
良いの……?
……うん、良いんだ。
然う……。
……シェリー酒、取ろうか。
ん……お願い。
9日
……ふぅ。
……。
……何処か、旅行に行きたいなぁ。
ひとりで、気儘に……?
ううん……出来れば、亜美ちゃんとふたりで。
……ひとりの方が、身軽。
どこかの誰かは然う言うけれど……あたしは、亜美ちゃんとふたりが良い。
……これからも?
うん……これからも。
……然う。
亜美ちゃんは、ひとりの方が良い……?
……ひとりでは、分かち合えないもの。
……。
ご馳走とか、ね……。
……どんなご馳走だって、ひとりでは味気ない。
どこか、物足りないの……。
……やっぱり、ふたりで食べた方が美味しいよね。
そもそも、ひとりでは食べたいとも思わないわ……。
……うん、分かる。
だけど、あなたでないのなら、ひとりの方が良い……。
……気を遣いながら食べるごはんも、美味しくないもんな。
私は基本的に、ひとりが好きなのよね……。
……子供の頃から。
社会に出て、思い知ったわ……私という人間は、ひとりの方が良いのだと。
他人(ひと)に合わせることは、出来なくもないけれど……。
……疲れてしまう。
誰かと行動することが苦手なのよ……だから仕事以外では、出来るだけ、関わりたくない。
……仕事の付き合いも、極力、控えているよね。
職場から一歩でも外に出たら、あとは私の時間……邪魔されたくないの。
……。
そのせいで、出世の道からは外されたけれど……私はつくづく、人間に向いていないんだわ。
……でも、出世なんて初めから望んでいない。
まぁ、ね……だって、煩わしいんだもの。
……ふふ。
子供の頃は、自覚していなかった……淋しいという感情に、覆い隠されて。
……嬉しいよ。
嬉しい……?
……亜美ちゃんを心置きなく、独り占めにすることが出来るから。
独占欲……?
……強めなんだ、あたし。
社会に出てからよね……欲が、強くなったのは。
然うでもないさ……子供の頃から、あたしは独占欲が強かったんだ。
……然うだったかしら。
分かっていて、言っているだろう……?
いいえ……分からないわ。
……何度か、抑え切れなくなった。
けれど、あなたは私を閉じ込めようとはしなかった……。
……しなかっただけさ。
したかったの……?
……出来ることならば。
試しに、してみれば良かったのに……。
……そんなこと、出来るわけがない。
私に、嫌われたくなかったから……?
……あたしは、臆病なんだ。
臆病……いいえ、違うわ。
……違わない、何も。
あなたは、優しいだけ……。
……傷付くのが、怖いだけだよ。
いつだって、自分よりも……ん。
……どうしても。
どうしても……?
……どうしても、失いたくなかった。
……。
……亜美ちゃんだけは、どうしても。
だったら……尚の事、閉じ込めてしまえば良かったのよ。
……言うほど、簡単なことではないんだ。
簡単なことだとは、言わないわ……思ってもいない。
……であるならば、どうして。
あなたなら、出来るからよ……。
……。
……物理的には無理でも、精神的にならば。
精神的……。
……現実、私はあなた以外のひとと一緒に居たいとは思わない。
……。
あなた以外のひとと、時間を共有するくらいならば……ひとりの方が、ずっと良い。
……参ったな。
ある意味、閉じ込めに成功していると……言えなくもないでしょう?
……然うなのかな。
然ういうことにしておけば良い……なんにせよ、あなたにしか出来ないのだから。
……。
私の心は……生涯、あなただけのもの。
……はは。
笑うところ……?
……嬉しいから。
……。
……ん。
独占欲……外では、決して見せようとはしない。
隠しているんだ……あたしも一応、大人だからね。
……でも残念、隠し切れてはいない。
ん……若しかして、漏れてる?
……取り繕っては、いるみたいだけれど。
あー……。
……そんなところも、愛しいと思っているわ。
うん、ありがとう……。
……ねぇ。
なんだい……。
あなたは、私でなくても……ん。
……そんなわけ、ないだろう?
あなたは……人付き合いが、上手だから。
……然う、見せているだけだよ。
大人だから……?
……大人は、窮屈だ。
……。
子供の頃は……もっと、自由だと思っていた。
なんでも出来て、何処にでも行けて……。
それは……ないわね。
……うん、なかったよ。
義務と責任に縛られて……そのくせ、権利は蔑ろにされる。
……煩わしい柵もあるし。
それでも、出来ることは増えたわ……子供の頃よりも、ずっと。
……それが、子供の目には自由に見えたのだろうか。
屹度……。
……うん、腑に落ちた。
ねぇ……。
……ん?
行くとしたら、何処へ行きたいの……?
……。
あなたが言ったのよ……私と、何処か旅行に行きたいと。
然うだったね……。
……それで?
然うだなぁ……ひとのこが、あまり居ないところが良いかな。
……であるならば、ひとのこが集まりやすい観光地は駄目ね。
観光地は、平日でも多い……。
……最近は、海外からのお客様も増えているみたいだし。
お店にもたまに、海外からのお客さんが来るよ……。
……どんなケーキを買っていくの?
日本人と、大して変わらないけど……強いて言えば、国産の果物を使ったケーキが人気かな。
……まこちゃんのお店で使われている果物って、ほぼ国産よね。
ん、まぁね……その分、お値段はお高めになってしまうけど。
……品質と見合っているのならば、何ら問題ない。
然うなのだけれど……あまりにも高いと、買ってもらえない。
品質と利益……商売の難しいところだよ。
……売り上げは、悪くはないのでしょう?
うん……お陰様で。
……。
……?
亜美ちゃん……?
……果物のタルト。
食べたくなった……?
……久しぶりに。
なら、今度……。
……お金は、払うから。
いつも、ありがとうございます……水野様。
……此方こそ、美味しいケーキをありがとう。
ふ……。
……あなたのパティシエ姿、久々に見たいわ。
じゃあ、今度……。
……今度?
家で、亜美ちゃんだけのケーキを作る時に……ね。
ん……楽しみにしているわ。
……希望があったら、言って欲しい。
うん、考えておく……。
……うん。
……。
……。
旅行……亜美ちゃんは、何処へ行きたい?
……私は。
若しも、行きたいところがあったら……。
……私も、ひとのこがあまり居ない場所が良いわ。
……。
……静かな場所で、あなたと過ごしたい。
ふふ……然うか。
……。
……あぁ、なんだか良い気持ちだ。
アルコールは、入れてないわよ……。
……はは。
もう少ししたら、ベッドに……。
……うん、戻ろう。
……。
はぁ……穏やかな夜だ。
……ねぇ。
ん……なに。
……今日の朝食のことなのだけれど。
珍しいね……?
……たまには、ね。
何か食べたいものでも、あるのかい……?
……作り置きのトマトソースがあるから、ブロッコリーとミートボールのグラタンを作ろうと思っているの。
それは、朝からご馳走だね……。
……若しかしたら、遅めの朝食になってしまうかも知れないから。
お昼と兼ねて……ということか。
……だめかしら。
だめじゃない……とても良いと思う。
……。
腕によりをかけて作るよ……。
……ううん、私が作るわ。
亜美ちゃんが……?
……折角の、お休みだから。
……。
……だめ?
まさか……すごく、楽しみだ。
……まこちゃんが、作り置きをしておいて呉れるから。
使って呉れて、嬉しいよ……折角だから、シェリー酒も使うかい?
……使うつもりでは、いるのだけれど。
何か、気になることでもある……?
……分量は、大さじ1で良いかしら。
あぁ……うん、それくらいで。
……。
ね……お手伝いは、しても良いだろう?
ふたりで、キッチンに立ちたいんだ……。
……お願いしても?
うん、ミートボールは任せて……。
……。
久しぶりに、作りたいんだ……ミートボール。
……ミートボールは、私が。
じゃあ、ふたりで作ろう……?
……。
ね、良いだろう……?
……もう。
やった……。
……。
ん……亜美ちゃん。
……今日は、お買い物に行く?
んー……昨日買ってきたし、今日は行かなくても良いかな。
……一日、家に居る?
出来れば……然うしたいと、思ってる。
……然う、分かったわ。
何処か、行きたいところある……?
……特にない。
そっか……。
……顔。
ん……。
……にやけてる。
だらしない……?
……寧ろ、良かったわ。
良かった……?
……力が、抜けているようだから。
亜美ちゃんのおかげだ……。
……私は、特別なことは何もしていないけど。
特別なことを、しなくても……。
……。
亜美ちゃんが、寄り添って呉れるだけで……あたしの心は、癒される。
……。
ね……もっと、にやけても良いかな。
……気が早いわ。
朝が来るのが、待ち遠しくて仕方ないんだ……。
……大袈裟。
然うかな……。
……期待が外れてしまったら、どうするの?
外れる可能性は、ある……?
……何事も、零ではない。
ん、そっか……。
……。
う……。
……いつまで、あなたは私を求めて呉れるのかしら。
いつかも言ったと思うけど……ずっと、だよ。
……年齢を重ねても?
重ねるのは、何も年齢だけじゃないさ……。
……。
……想いも、重ねていく。
想い……ね。
……あたしの心は生涯、あなただけのものだ。
ふ……。
……笑うところ?
嬉しいと、ひとは笑うものだから。
……。
……泣くことも、あるけれど。
……。
顔……緩んでる。
……緩まずには、いられない。
……。
……亜美ちゃんは、いつまで。
ずっと、かしらね……。
……。
……不服?
全然……。
……。
……このまま、亜美ちゃんと。
……。
……誰も居ない、ふたりだけの世界へ行けたなら。
まこちゃん……。
ごめん……何を、言ってるんだろうね。
……。
……ごめん。
別に、謝ることではないけど……。
……。
……。
……最近さ。
なに……。
……なんとなく、思うことがあるんだ。
何を思うの……?
……。
……まこちゃん。
若しも……若しも、うさぎちゃんが。
……。
女王として、此の世界を統治していたら……どんな世界に、なっていただろうって。
……前世の世界の延長。
やっぱり、然うかな……。
……うさぎちゃんは、それも嫌って。
不老長寿は、要らないんだ……。
……。
ただ……今よりももう少し、穏やかな世界だったのではないかと。
……それは、分からない。
……。
今よりも……混迷している可能性は、ないとは言えない。
……不老長寿でなくても。
此の世界は、前世のそれよりも、ずっと複雑だから……ひとつになんて、屹度、ならない。
……仮令、ならなくても。
どんな世界であろうとも、歪は必ず生まれる……。
……。
……つまり、ないものねだり。
ないもの……。
……。
……そっか。
……。
ごめん……少し、疲れているんだと思う。
謝らないで……私も、考えないわけではないから。
……亜美ちゃんも。
なんとなく……ね。
……。
……今日は、ゆっくりしましょう。
亜美ちゃんと、ふたりでね……。
……然ういうわけだから。
うん……?
……然ういったことは、程々に。
……。
……程々にしておかないと、疲れが残ってしまうかも知れないわ。
それに関しては、大丈夫だと思うんだけどな……。
……然うかしら。
寧ろ、解消されると思うんだ……。
……心の疲れは、ね。
躰の疲れも……。
……。
仮令、疲れが残ったとしても……心地好いものならば、問題ない。
……あなたは、然うでも。
亜美ちゃんは、違う……。
……。
……明日、起きられる程度に。
ちゃんと、休ませて……。
……。
……インターバル。
ん……分かった。
……くれぐれも、忘れないよう。
8日
……。
……目が覚めてしまった?
ん……。
……まこちゃん。
どうして……いや、流石亜美ちゃん。
……少しは、眠れた?
うん……さっきまでは、眠ってた。
……一時半、悪くはないわ。
ごめんよ……起こしてしまって。
……構わない、今日はお休みだもの。
……。
心配しないで……。
……期待、していても。
……。
……良かった。
何か、飲む……?
……暖かいのでも、飲もうかな。
然う……分かった。
自分で……ん。
……やらせて?
亜美ちゃん……。
……私にお願いして、まこちゃん。
……。
……ね。
うん……亜美ちゃんに、お願いする。
……何が飲みたい?
亜美ちゃんが用意して呉れるものなら、何でも良いけれど……やっぱり、睡眠を妨げないものが良いのかな。
お勧めはホットミルク、カモミールティー、ホットレモネード、白湯……夜中だから、カフェインは避けた方が良いわね。
……ほうじ茶にも、カフェインは入っているんだっけ。
量は、少ないけれど……全く、入っていないわけではないから。
んー……それじゃあ、白湯をお願いしようかな。
……白湯で良いの?
いや、ホットミルクの方が良いかな……。
……。
ん……亜美ちゃん?
分かった……ならば、ホットレモネードを作るわ。
……え。
いや?
いやでは、ないけれど……レモンを切らなきゃいけないし。
それくらい、手間でもなんでもない。
……。
若しも、飲みたくないのなら……あなたの言う通り、ホットミルクを用意する。
だけど、飲みたいと少しでも思ったのなら……正直に、言って。
……ほんのりと甘い、ホットレモネード。
ほんのりと……?
……眠る前だから、甘いものは良くないかも知れないけれど。
蜂蜜には、虫歯予防の効果があるそうよ……。
……甘いのにね。
同じ甘味でも、虫歯の原因になるのはショ糖だから……。
……虫歯には、ならないけど。
少量ならば、そんなに気にする必要はないわ……あなたも、知っているでしょう?
……本当に、お願いしても良い?
良いに、決まっている……。
……ん。
あなたのお願いならば……私は、聞きたいの。
……飲みたい。
うん……それじゃあ、大人しく待っていてね。
……なんだか、子供に戻ったみたいだ。
たまになら、良いんじゃない……?
……小学生くらいでも?
なんなら、五歳児でも構わないわ……。
……五歳児。
三歳児……?
……せめて、五歳児が良いな。
ふふ……然う?
……三歳児は、流石に。
五歳児と三歳児、大して変わらないと思っていたけれど……結構、違うのよね。
……かなり、違うと思うよ。
……。
ん……亜美ちゃん。
……中には、頭を撫でられるのが好きな子も居るらしくて。
あー……。
……若しかして、好きだった?
もう、大分昔だから憶えていない……と、言いたいところだけど。
……元々、好きだものね。
はい……その通りです。
……立っている時は、なかなか出来ないから。
横になっている時に……たまに、して呉れる。
……甘えたいのかと思って。
うん、然うなんだ……。
……今夜も。
甘えて、良い……?
……良いわ。
ありがと……。
……お礼には、及ばない。
ん……へへ。
……ふふ。
あの、さ……。
……なぁに?
お願い……もうひとつ、良いかな。
……言ってみて。
え、と……良かったら、一緒に飲んで欲しいな。
一緒に?
……ひとりで飲むより、亜美ちゃんと。
私と、飲みたい……?
……飲みたい。
然う……。
……飲みたく、なかったら。
良いわ……一緒に飲みましょう。
……無理は。
していない……。
……若しかして。
然う……最初から、一緒に飲むつもりだったの。
あは……。
……。
なんだか、こそばゆいな……。
……私は小児科の先生になった気分。
小児科……亜美ちゃんみたいなひとが先生だったら、子供も怖くないだろうね。
然うかしら……あまりの怖さに、泣いてしまうかも知れないわ。
えぇ、然うかなぁ……あたしには、想像出来ないけど。
実際、泣かれたことは何度もあるもの。
何度も?
然う、何度も。
中には、私の顔を見ただけで泣き出す子も居たわ。
一度や二度ではなく?
少なくとも三桁。
三桁も……?
それでも小児科の先生に比べればずっと少ないわ。
小児科では毎日のように、子供が泣いているから。
……四桁くらいかな。
ベテランの先生の場合、四桁では利かないかも知れない。
はぁ……大変だ。
子供にとって、お医者さんはやっぱり怖い存在なのでしょうね。
怖い先生ばかりではないけどな……まだ、分からないか。
病院の前で、大泣きしたり尻込みしている子も居るし……。。
まぁ、病院は楽しい場所ではないかな……大人でも、嫌いなひとは居るし。
嫌いでも、構わないけれど……異常を感じたのならば、早めに受診して欲しいとは思うわ。
何事も、早期発見……?
医療技術が昔よりも発達、及び発展しているとは言え……それでも、手遅れになってからでは遅いのよ。
……壊れてしまったら、どうしようもない。
技術は日々、進化しているとは雖も……今はまだ、それだけの力はないの。
……まだ、追い付かない。
だから……検診は、必ず受けてね。
……はい、次も必ず受けます。
うん、良いお返事……まこちゃんは、良い子ね。
へへ、水野先生に褒められちゃった……。
……ふふふ。
でも、知らなかったな……。
……うん?
水野先生が、そんなに子供に泣かれていただなんて。
……話すほどのことでは、なかったから。
話したくない……?
話したくないわけではないけれど……面白い話では、ないから。
……話したい時は、話して欲しい。
……。
聞くことぐらいしか、出来ないけど……それでも、良いのなら。
……聞いて呉れるだけでも、十分よ。
なら……いつでも。
……ん。
……。
……世の中には、どうやら。
うん……?
……白衣を着ているだけで、駄目な子も居るみたいなの。
白衣を着ているだけで……よっぽど怖い目に遭ったのかな。
……然うかもね。
だけど……。
……だけど?
それならば、亜美ちゃんが怖いというわけではないな。
……。
泣く子供が怖がっているのは、白衣を着たお医者さんという存在。
だから、亜美ちゃんが怖いわけではない。
……個ではなく、全?
水野先生は怖くないと知れば、水野先生を怖がることはなくなるだろう。
……私には、難しいわ。
初めは泣かれても、優しく接していれば……きっと、伝わるさ。
……私のことなんか伝わらなくても良い、病気や怪我さえ治って呉れれば。
……。
然う、思っていたけれど……出来れば、病院嫌いな大人にはなって欲しくないから。
……初めが肝要だ。
とは言え、大好きになられても困るのだけれど……。
……大好き?
病院に来る為に、わざと怪我をするとか。
それは……流石に。
ないと、思いたいわよね……。
……まさか、居るのかい?
足を痛めたと言っては、頻繁に通ってくるひとが居たわ……。
……足。
怪我ではなく、実際は痛風だったのだけれど……どうやら、目当ての看護士が居たみたいで。
……まさか、そのひとに会う為に。
数週間という短期間で、再発を繰り返した。
痛風って確か、激痛だと。
……眠れないほどのね。
それは……さっさと告白して、振られた方が良いのでは。
結局、振られたみたい……それから、あまり来なくなった。
……それで、良かったと思うよ。
然う思っていたら……腎結石で。
……。
高尿酸値も、放っておいては駄目なのよ……ましてや、通風の再発を繰り返すだなんて。
……覚えておく。
……。
しかし、病院が好きと言うよりも、その中で働くひとが好きと言うか……まぁ、素敵なひとは居るだろうけど。
……居るとは思うけれど、その為に躰を痛めつけるようなことをするのは止めて欲しい。
水野先生も、素敵だしなぁ……あたしの中では、一番だ。
……まこちゃん。
はは……。
……用意してくる。
ん……ありがとう。
……蜂蜜は少なめで良いのよね。
うん……少なめで。
……ん。
ね……あたしも、行って良いかな。
……あなたは、ベッドで。
ううん……。
……仕方ないわね。
へへ……。
……。
う。
……大きな子供。
うん……然うなんだ。
……。
ごめんね……?
……別に、構わないわ。
ふふ……良かった。
……ねぇ、まこちゃん。
なんだい……?
……なんでもない。
うん……?
……今、するべき話ではないから。
聞かせて。
……ろくでもないから。
だからこそ……聞きたいんだ。
……明日でも。
ホットレモネードを作ってもらうお礼……。
……。
どうしたんだい……?
……親子。
ん、親子……?
……病院へ来る為に、子供を使う親の話。
子供を、使う……?
たまに居るの……子供を使って、来院する親が。
子供を使って……それは、どういうことだい?
まさか、子供にわざと怪我をさせるというのか?
その場合……多くは、家庭内暴力。
……。
……疑われる時は相談所、或いは支援センターなどに、情報を提供する体制は取っているのだけれど。
病院に来る為に、子供に暴力を……あたしには、理解出来ない。
……到底理解は出来ないけれど、然ういった事例がないわけではないの。
若しかして、最近の話……?
……。
然うか……。
それとは別に……何でもないのに、子供を連れて来院する親も居る。
それは……病気でも、怪我でもないのに来るということ?
子供が居た方が、病院内に立ち入りやすいと思うのでしょうね……まこちゃんは、座っていて。
うん……ありがとう。
……。
だけど、どうしてそんなことを……子供にとっては、迷惑でしかないだろう。
わざと痛めつけられるような子まで居て……。
前者は勝手な自己満足、或いは、肥大化した承認欲求。
後者は……医療従事者、或いは、病院スタッフへの悪質な付き纏い。
……は?
付き纏いの場合、酷いと長時間留まって……帰ろうとしないの。
……考えられない。
でも……残念ながら、居るのよ。
そんなことの為に、子供を使って……有り得ないにもほどがある。
子供は分かっていないの……親の都合で、連れて来られているだけだから。
つまり、手前勝手な欲の為だけに、そんな小さな子を使っているのだろう……?
……どこまで行っても、卑怯。
そんな親で……子供が、気の毒だ。
……対策はしているのだけれど、一向になくならない。
……。
付き纏いは、子連れだけとは限らない……中には、高齢の方だって居るわ。
付き纏って、卑猥な言葉を吐いたり、みだりに触れようとしたり……。
……歳を重ねて、尚。
最近も、問題になってね……付き纏われた看護士がひとり、辞めてしまったの。
なんでも、部屋にまで押し掛けられたとかで……最終的に、警察沙汰になって。
……押し掛けた奴は、捕まったのか。
捕まったらしいけれど……不起訴になったと聞いたわ。
……ひとつ間違えたら、逆恨みされるかも知れない。
それを、恐れたのでしょうね……。
若しかして、それで病院を辞めた……?
……そして、故郷に帰ったと。
……。
以前から、付き纏いはあったけれど……ここ何年かで、更に酷くなっている。
……虐待は。
それは分からない……日常的に暴力をふるう親は、子供を外に出そうとはしないみたいだから。
……ということは、稀なケースだったのか。
まこちゃん。
……。
どうぞ。
あぁ……ありがとう。
私こそ、ありがとう……こんな話を聞いてもらって。
……溜めるのは、良くないからね。
……。
ねぇ、亜美ちゃん……。
……なに。
亜美ちゃんは、今までに。
……幸い。
然うか……良かった。
……あったら、あなたに話しているわ。
ん、直ぐに話して欲しい。
……今でも、頼りにしているの。
うん……。
……私ね。
……。
……白衣を着ると、雰囲気が変わるみたいで。
雰囲気……?
……少し、近寄り難くなる。
……。
……たまに、眼鏡が光っていると言われるわ。
眼鏡……あぁ、それは分かる気がする。
……分かるの?
学生の頃から、然うだったから……。
……。
あの時は、お勉強だったけどね……特に、うさぎちゃんや美奈子ちゃんに対しては良く光っていたなぁ。
亜美ちゃんの眼鏡が光ると、流石のふたりも大人しくなるんだ。
……私はそんなに怖かったかしら。
あたしは、怖くなかったよ……水野先生は、学校の先生よりも丁寧で優しかったし。
……慣れない頃は、大変そうだったけれど。
まぁ、慣れない頃はね……でも、眼鏡が光ったことはなかった気がするよ。
まこちゃんは、一生懸命だったから……分からないところがあれば、正直に聞いて呉れたし。
……分からないままにしておくのが一番良くないと、亜美ちゃんに教わったからね。
……。
ん……ほんのり甘くて、美味しい。
……良かった。
ね……。
……なぁに。
水野先生は、怖くないよ。
うん……ありがとう。
……変な虫が付きそうになったら、言って。
今更、付くかしら……。
……年齢なんて、関係ないよ。
……。
ないから。
……はい、分かりました。
うん……良い先生だ。
……。
……ゆっくり飲んでも、良いかな。
ん……もちろん。
……じゃあ、ゆっくりと。
……。
亜美ちゃんの手に、触れながら。
……どうぞ、好きなように。
7日
-Lomo de Cerdo al Jerez(現世2)
……。
……まこちゃん。
ん……。
……オーブンが、呼んでいるわ。
うん……聞こえてる。
……放っておいて、良いの。
良くない……今、行くよ。
……代わりに、私が。
ううん……亜美ちゃんは、休んでいて。
……別に、大丈夫だけれど。
だとしても、あたしが行く……。
……然う。
はぁ……。
……やっぱり、私が行きましょうか?
もう少し、時間が欲しかったなって……。
……仕方ないわ。
分かっては、いるんだけど……もう、5分だけでも。
……オーブンは、予め設定されていた時間を忠実に守っただけ。
もっと言えば、その時間はあたしが設定した……。
……ええ、然うね。
あれ以上は、長く出来ないしなぁ……。
……長くしたら、焦がしてしまうだけ。
焦がしてしまったら、折角のお肉が台無しになってしまう……。
……良いお肉なのでしょう?
ん……ちょっと、奮発した。
……お土産に、良いシェリー酒を貰ったから。
折角だし、良いお肉で作ってみようと思って……これを作るのも、久しぶりだし。
……旅行先は、アンダルシアだったかしら。
然う、アンダルシア……アンダルシアのお土産と言えば、彼女の中ではこれらしい。
……確か、オリーブオイルも有名だったと思うけど。
だとしても、やっぱりお酒なんだよね……この間も、然うだったし。
……シェリー酒は、ワインの一種なのよね。
然う、酒精を強化されたワイン。フォーティファイド・ワインとも呼ばれてる。
普通のワインよりもアルコール度数が高いから、そのまま飲むにはきついんだけど……料理に使うと、味に深みが出るんだ。
……色々な料理に使える。
お肉だけでなく、魚介類にも合わせることが出来る。
だから、飲まないあたしにも、お酒を買ってくるんだよ。料理に使うようにって。
……間違ってはいないわね。
ケーキに掛けると、大人の味になるんだけれど……生憎、子供だから。
……苦手なんだもの、仕方ないわ。
うん、然うだよね……。
……いつか作って呉れた、鱈と浅蜊の煮込みも美味しかったわ。
あぁ、あれか……良かったらまた作るけど、どうだろう?
……ありがとう、楽しみにしているわ。
うん……。
……どう?
あぁ、大丈夫だ……美味しそうに、焼けている。
然う……良かった。
……ん。
大丈夫……?
ん……問題ない。
……気を付けて。
ありがとう……うん、良い香りだ。
……こちらまで、香ってくるわ。
どうだろう……?
……良い香りだと思う。
食欲は、刺激されるかい……?
……とても、ね。
ふふ……それは良かった。
シェリー酒は、あとどれくらい残っているの……?
開けたばかりだから、半分以上は残っているよ……だから、食べたいものがあったら遠慮なく言って欲しい。
……然うね。
ん、早速何かあるのかい……?
……言っても?
うん……聞かせて。
……マッシュルームの詰め物も、美味しかったわ。
マッシュルーム……チョリソと大蒜を詰めたものだね。
ぴりっとしたチョリソが後を引いて、癖になるんだ……。
……マッシュルームも美味しくて。
あぁ……シェリー酒は、マッシュルームのうまみと香りも引き立てて呉れるから。
私はお酒は飲まないから分からないけれど……なんとなく、お酒のおつまみにも良さそうだと思うの。
うん、あれはお酒に合うと思うな……あたしもお酒はあまり飲まないから、想像でしかないけど。
……美奈子ちゃん、曰く。
料理に使われているお酒は、その料理との相性が良い……だったかな。
けど、美奈子ちゃんはお酒が飲めればそれで良いと思っているところがあるから……良し、火は通ってる。
……知られたら全部、飲まれてしまいそうね。
全部、飲んでしまうだろうなぁ……アルコール度数が高かろうが、美奈子ちゃんには関係ないんだ。
……でも、殊更強いわけではないから。
いい加減、肝臓が心配だよ……あたしは。
……一度、徹底的に検査してあげたいと思っているのだけれど。
なんだかんだ言い訳をしては、逃げてばかりいるからなぁ……。
……手遅れになる前に。
手遅れ……肝硬変?
……或いは、肝がん。
ないとは、言えないな……。
……いずれ、レイちゃんに協力してもらうつもり。
あぁ、それは良い……良かったら、あたしも協力するよ。
……良かったわ、お願いしようと思っていたの。
ふふ……任せて。
……。
ん、亜美ちゃん……?
……私も。
うん……ありがとう。
……。
どうだろう……お料理の出来具合は。
……お肉だけでなく、ズッキーニも美味しそうだわ。
ズッキーニが、たまたま安かったんだ……と。
……なに。
見えてる……。
……見ないで。
それは……難しいな。
……大蒜が、入っているから。
……。
残念ながら……続きは、出来そうにないわね。
……流石に、難しいか。
お互いに、嫌でしょう……?
……まぁ、然うだね。
初めは、そんな気分ではなかったのでしょうけど……。
……ひとのこはいつだって、発情出来る生き物だからさ。
壊れているとは、良く言ったものだわ……。
……はは。
だから……年がら年中、性犯罪が起こるのよ。
……。
ごめんなさい……まこちゃんのことを責めているわけではないの。
分かっているよ……病院で起こった、不祥事のことを言っているんだろう。
……八つ当たり、してしまって。
良いんだ……気持ちは、分かるから。
……。
……痴漢の腕を軽く捻ってやったら、情けない声を出していたよ。
また……?
……被害者は、あたしではないけど。
被害者は……。
……それがさ。
精神状態が不安定になったであろうことは、察するわ……。
……余程怒り心頭だったのか、犯人の股間を思いっ切り蹴り上げてさ。
は……?
犯人は当然の如く、悶絶して……もう、大変だった。
それは……別の意味で、大変だったわね。
被害者の子はその後、当たり前なんだけど、泣き出してしまって……警察が来て呉れるまで、ひたすら慰めていたよ。
事情を説明したら、警察は直ぐに解放して呉れた……?
駅員さんも居たし、わりと直ぐに……おかげで、豚のローストが作れた。
……全ては、痴漢が悪いのだけれど。
もうね……撲滅されて欲しい。
……心から、同意するわ。
……。
……お疲れ様。
ありがとう……その一言だけでも、疲れが吹き飛ぶよ。
……もっと早く言って呉れれば。
先ずは、ごはんの用意をしようと思って……。
……それなのに、私を求めたの?
それは……亜美ちゃんが、良い匂いだったから。
……汗だと思う。
亜美ちゃんの、汗のにおいは……あたしにとっては、ね。
ばか。
……はい。
お肉……切り分けるわ。
うん……お願い。
……。
本当はさ……。
……違う料理にしようと思っていたの?
然うなんだ……だけど、疲れてしまって。
……ローストも、手が掛かっているわ。
掛かっていると言っても、ほんの少しだけ……このローストは、手軽に作れるから。
……お肉全体に塩胡椒を擦り込み、包丁で切れ目を入れて、半分に切った大蒜とローリエを挟む。
それくらいなら、直ぐに出来る……大蒜は、皮がついたままだし。
……切ったズッキーニと残った大蒜を器とお肉の間に詰めて、シェリー酒を注ぎ、温めておいたオーブンで焼く。
ね、手軽だろう……?
……私には、出来ないわ。
そんなことは、ん。
……あるわ?
んー……。
……しかも、焼いている途中にシェリー酒をスプーンで掬ってお肉に掛けてあげるなんて。
その方が、美味しくなるから……。
……私だったら、設定したまま、放っておく。
なんて、言いながら……亜美ちゃんも、拘りのひとだから。
……だから、私なら作らない。
ん……然うか。
……本当に良い香り。
お酒の臭いは、苦手だけれど……。
……これならば、悪くないわ。
ねぇ……付け合わせは、トマトにオリーブオイルを掛けたもので良い?
ええ……十分よ。
……ん。
やっぱり、良いシェリー酒だと違うものなのかしら……。
……うん?
味は、然(さ)ることながら……風味や、香りも。
曰く、然うみたいだよ……だから、お気に入りの中で、とびきり良いものを買ってきて呉れたらしい。
……まこちゃんのことも。
うん、あたし……?
……まこちゃんのことも、気に入っている。
それは……どうかなぁ。
……でなければ、とびきり良いものなんて買ってこないわ。
……。
……やっぱり、心当たりがあるのね。
強いて言えば……腕を買われていることぐらいしか。
……十分よ。
下心ではないと、言い切れる……。
……だと、良いけれど。
大事な恋人が居るからね……。
……恋人?
然う……そのひととは、若い頃からずっと恋人同士らしい。
……ふぅん。
安心したかい?
……最初から、不安なんて感じていないもの。
お……。
……それとも、不安にさせたかった?
まさか……そんな気持ちを、あたしが持つわけない。
……だから、ならないわ。
然うか……。
……でも、やきもちはやく。
やきもち……。
……良い歳をして、みっともないかも知れないけれど。
やきもちに……年齢は、関係ない。
……然うかしら。
あたしだって……未だに、やくからね。
……あなたも?
然う……あたしも。
……美奈子ちゃんには、言えないわね。
それこそ、お酒のつまみにされてしまうよ……。
……容易に想像がつくわ。
あたしもだ……だから、ふたりだけの秘密ということで。
……異存はない。
うん……。
……シェリー酒、結構残っているわね。
だろ……だから、暫くは使えるよ。
……普通のワインだったら、一度栓を開けると味が落ちてしまうけれど。
シェリー酒は、栓を開けても問題ない……何故なら、アルコール度数が高いから。
……このシェリー酒は、どれくらいもつの。
三週間はもつって、言っていたかな……。
……三週間。
その間、色々作ってみようと思っている……なんでも、中華料理にも合うそうだから。
……美奈子ちゃんが押し掛けてこなければ良いけれど。
鼻が利くからなぁ……。
……殊、お酒に関しては。
良し、気を付けよう。
……押し掛けてきたら、そのまま病院に連れて行きたいわ。
夜だったら、難しいなぁ……。
……気持ち良く眠らせて、翌日に。
だけど、お酒が残っていたら……駄目だろう?
……寧ろ、飲んでいない日はあるのかしら。
……。
休肝日を作るように、言ってはいるのだけれど……果たして、聞いて呉れているか。
……難しいかな。
然うよね……。
……。
……ねぇ、どう?
あぁ……とても、きれいだ。
……美味しそうかしら。
うん、とっても……。
……然う、良かった。
盛り付けも、大事……。
……疲れていたら、出来ないけどね。
まぁ、然ういう時は食べることを優先して……。
……楽をすることも、大事?
然ういうこと……。
……先に、テーブルに並べておくわ。
ん、お願い……。
……。
……ふぅ。
まこちゃん。
ん、なんだい……?
今夜は、早めに休んで。
……。
私も、成る可く早く休むから。
分かった……然うする。
言っておくけれど。
……今夜はもう、求めない。
また、明日ね。
……。
だから……今夜は、躰と心を休めて。
……明日、期待しても良い?
期待が外れても、がっかりしないでね。
それは……するかも。
然うならない為にも。
……待ってるよ、ベッドの中で。
……。
ん……。
……約束よ。
うん……約束。
……。
……亜美ちゃん。
まだ、夕食も食べていないけれど……。
……おやすみの、キス?
ううん……約束の、にするわ。
……約束の、キス。
守ってね……ちゃんと。
……して呉れたら守る、ちゃんと。
破ったら……。
……その時は、叱って。
……。
……。
……ん。
少しだけ……此れ以上は、しないから。
……。
……あぁ、安心する。
あまり、無理はしないで……。
……ん、しないようにする。
……。
……愛してる。
私も……。
……。
……さぁ、冷めてしまう前に。
お茶は、何が良い……?
然うね……お肉に合うものが良いわ。
じゃあ……ほうじ茶、かな。
ほうじ茶……うん、良いわね。
……亜美ちゃん?
私が淹れるわ……あなたは、ごはんをよそってテーブルに。
……。
待っていて?
……トマトも、持っていくよ。
ん……お願い。
……。
ん……。
……お茶碗の、三分の二で良いかい?
ええ……良いわ。
6日
……。
……ぅ。
……。
……はぁ。
亜美ちゃん?
……まこちゃん。
目が覚めたかい?
……うん、さめた。
ふふ、そっか。
……どこ。
キッチンだよ。
キッチン……なに、してるの。
朝ごはんを作ってる。
あさごはん……もう、そんなじかん?
もう、8時半を回っているからね。
そろそろかなぁって、思って。
はちじはん……いけない、かんぜんにねぼうだわ。
大丈夫、今日もお休みだから。
……きのう、おやすみで。
今日は日曜日、昨日は第四土曜日。
だいよん……あぁ、そうだった。
まだ、慣れないよね。
……どようびは、がっこうのかんかくだから。
分かるよ、お休みと言えば日曜と祝日だ。
……どようびが、おやすみになるなんて。
週六日、学校に行くのが当たり前だったもんなぁ。
そのうち、毎週お休みになったりするのかな。
……なるかもしれない。
そしたら、完全に週五日になるんだ。
うさぎちゃんと美奈子ちゃんは大喜びするだろうなぁ。
……だけど、まだ、さきだとおもう。
なる前に、学校卒業しちゃう?
……たぶん。
それは、残念。
でもま、今でも月二回休みだし、十分かな。
……ねぇ、まこちゃん。
なに?
……まこちゃんは、しゅういつかになってほしい?
なったら、うれしいけど……亜美ちゃんは、どう?
わたしは……ごぜんちゅうだけでも、じゅぎょうをうけたい。
自習するよりも、学校で授業を受ける方が良い?
……じしゅうもすきだけれど、じゅぎょうをうけるのもすきだから。
そっか……。
……それに。
それに……?
……おひるは、まこちゃんとすごせる。
……。
どようびが、かんぜんにおやすみになってしまったら……まこちゃんと、すごせなくなっちゃう。
……亜美ちゃん。
おかしい、わよね……げつようびから、きんようびまでは……いっしょに、すごせるのに。
……。
どようびが、おやすみになったって……げつようびになれば、また、きんようびまで……ようじがなければ、すごせるのに。
……ちっとも、おかしくないよ。
たったのいちにち……おやすみがふえたって。
土日が連休だと、月曜日が遠く感じる。
……。
あたしも、然う思う。
……まこちゃんも。
学校があるとさ、どっちかが休まない限り、学校で会えるだろ?
……うん。
やっぱり、気持ちが違うんだ。
……きのうは、おやすみだったけど。
……。
……まこちゃんとおやくそく、してたから。
お泊まりは、約束してなかったけどね……。
ふふ……そうね。
……泊まって呉れて、嬉しかった。
……。
土日休みの良いところ、かな。
……がっこうでも、おとまりはできるわ。
……。
……できる、から。
じゃあ……これからは、して呉れるかい?
毎週とは言わない、たまにで良いから。
……まこちゃんさえ、よければ。
良いに決まってる……悪いわけ、ない。
……ん。
亜美ちゃんがお泊りする日は、出来たら、お買い物もしたいな。
……おかいもの?
夕ごはんと朝ごはんの材料を、ふたりで話しながら買いたい。
……。
うちにあるもので作っても良いんだけど、たまには、ね?
……うん、いいわ。
やった。
……かんがえてみれば。
うん。
……そういうかいもののしかた、あまりしたことがない。
ふたりで……と言うより、付き合ってもらう買い物ばかりだったからね。
……。
ね……なんとなく、新婚さんみたいだと思わない?
……しんこんさん?
然う……新婚さん。
……しんこんさん、だけ?
え。
……ふたりで、おかいものをするのは。
あ。
……しんこんさん、だけなの?
ううん、新婚さんだけじゃないよ。
熟年になっても、一緒にお買い物したい。
……じゅくねん?
兎に角、ずっと。
ふたりでお買い物が出来るふたりで居たい。
……。
な、なんて、結婚もしていないのにね。
そもそも、出来ないし。
……わたしも、そういうふたりでいたい。
……。
まこちゃんと……ずっと。
……ありがとう、亜美ちゃん。
どうして……?
……そんな風に、思って呉れて。
じゃあ……わたしも、ありがとう。
……へへ。
まこちゃん……?
今朝は……なんだかとっても甘い朝だ。
……あまいあさ?
然う……甘い朝。
……。
ふふ……分からないって、顔。
……おさとう?
たっぷり。
……あまそう。
今朝は、そんな朝なんだ。
……。
今は、それだけにしとく。
……ちゃんと、おしえてくれる?
多分、教えなくても……亜美ちゃんなら、近いうちに分かると思う。
……わかる、かしら。
きっと、分かるよ。
……。
あ、誰にも言わないでね。
あたしが遊ばれちゃうだけだから。
……いわない。
ふぅ、良かった。
……みなこちゃんとまこちゃんがじゃれあっていると、もやもやするから。
ん。
……これも、やきもち?
だと、思う……。
……たまに、うさぎちゃんにも。
え、うさぎちゃんにも?
……レイちゃんにも。
それは……思ってなかったな。
もしかしたら、わたし……どくせんよくが、つよいのかもしれない。
独占欲……亜美ちゃんが。
……じぶんでも、しらなかった。
あたしも、全然気が付かなかった……まさか、亜美ちゃんが。
……おかしい?
ううん、おかしくない。
……ん。
亜美ちゃんも、ひとのこだから。
……ひとのこ。
然う……ひとのこ。
……いやじゃ、ない?
ちっとも、嫌じゃない。
……よかった。
……。
ん……どうしたの?
な、なんでもない。
……なんでも、ない?
ちょっと……したいなって。
……したい?
う……まず。
……まず?
はぁ……。
……。
亜美ちゃん、ちょっとごめん。
……ん。
……。
……てのひら。
ごめん……びっくり、した?
……ん、へいき。
そっか……良かった。
……。
今は、これで……。
……ね、まこちゃん。
あ、もう、離すよ。
……ううん、まだ。
……。
ごめんなさい……あさごはんを、つくっているのに。
……朝ごはんなら、後でも作れるから。
……。
亜美ちゃんの、思うように……。
……まこちゃんと、おともだちになるまえは。
うん……?
がっこうがおわると、すぐにじゅくにいって……おひるは、じゅくでたべていたの。
あぁ……うん、然うだったみたいだね。
でも、まこちゃんとおともだちになって……すこし、たったころに。
五月だったかな……あたしと、土曜日でもお昼を食べるようになったんだ。
よかったら、どようびもって……まこちゃんが、さそってくれたの。
亜美ちゃんと、一緒に食べたかったんだ……部屋に帰ったら、ひとりだから。
……ひとり。
きっと、断られると思っていた……だから、受け入れて呉れた時はすごく嬉しくて。
……ことわる、なんて。
亜美ちゃん、学校が終わったらすぐに塾に行っていたろ……だからさ、無理かなって。
……ちっとも、むりじゃない。
亜美ちゃん……。
……そうなるといいなって、おもっていたの。
然うなの……?
でも、じぶんからはいえなくて……だからね、まこちゃんがさそってくれたときは、ほんとうにうれしかったの。
……。
じゅくでも、いえでも……わたしはずっと、ひとりだったから。
……ひとりで食べても、あまり美味しくないんだ。
……。
もう、慣れたと思っていたのにさ……。
……ふたりでたべたほうが、おいしい。
……。
まこちゃんが、おしえてくれたの。
……あたしも、亜美ちゃんに教えてもらった。
……。
好きな子と、ふたりでごはんを食べると美味しいって……。
……おとこのこ、は。
……。
……ごめんなさい。
あれはあれで、楽しかったのかも知れない。
恋に恋をしていたから、気持ちが浮かれていて。
……。
だけど、亜美ちゃんとふたりの時に感じる楽しさとは違うと思うんだ。
……どう、ちがうの。
まず、食べていても味が分からない。
だから、美味しいも何もなくて。
あじが……わからない?
相手のことばかり気にして、食べた気がしなかった。向こうが何か話していたら、それを聞くのに一生懸命になってしまったりさ。
うっかり変な返事をしないように……あたしは緊張すると、どんなに気を付けていても、どもってしまって、うまく喋れなくなるから。
……。
お弁当、気に入って呉れたら良いなとか……あたしだけを好きになって呉れたら良いのに、とか。
そんなことばかり、考えて……気が付けば、食べ終わってる。だから、味なんてなんにも分からない。
自分で、作って……味見だってして、どんな味か知っているはずなのに。何も残らない、残ってない。
……。
思えば、勝手だったなって。
……こいを、しているから。
独り善がりな……ね。
……ん。
それは……今でも、変わってないかも知れない。
……いまでも?
ん……今でも。
……そうとは、おもえないわ。
ただ、気が付いていないだけで……。
……。
……いつだって、嫌われてしまうのが怖いんだ。
あじ、わかるのよね……?
……。
わたしと、たべても……。
……亜美ちゃんと食べると、とても美味しく感じる。
なら……かわっていると、おもうわ。
……そう、かな。
あぁ、でも……。
……やっぱり、独り善がり?
そうじゃなくて……おともだちだったから。
……。
だから……ううん、ちがうかしら。
……ふふ。
……。
……ありがと、あみちゃん。
……。
ね……亜美ちゃんを初めて誘った日のこと、憶えてる?
ん、おぼえてる……わたしのぶんも、おべんとうをつくってきてくれたの。
どうせだから、亜美ちゃんの分も用意して誘おうと思ったんだ……駄目だったとしても、夕飯に食べれば良いだけだし。
……きのこのたきこみごはん、とりのからあげ、あまいたまごやき、ほうれんそうのごまあえ、それから、みにとまと。
お弁当の中身まで……。
だって、ほんとうにうれしかったの……まこちゃんが、さそってくれて。
亜美ちゃん……あたしも、すごくすごく嬉しかった。
……。
……さて、そろそろ朝ごはん作りに戻ろうかな。
もどる……?
うん、戻る……亜美ちゃんは朝ごはんが出来るまで、ベッドの中でゆっくりしてて。
……。
じゃあ、また後でね……。
……まって。
ん……?
……まだ、いってなかった。
何を……?
……おはよう、まこちゃん。
……。
……けさはまだ、いってない。
あぁ、然うだった……。
……おはよう。
うん、おはよ。
……ん。
んー……。
……?
まこちゃん……?
……いつか、ね。
いつか……?
然う、いつか。
……いつか、なに?
……。
……おしえて。
おはようの……キスを。
……きす。
亜美ちゃんの……。
……ほほ?
……。
……ちがうの。
くつびる、に。
……くつびる?
違う……くちびる、に。
……くちびる。
うん、この話はここまでにしよう。
じゃあまた後でね、亜美ちゃん。
……う、ん。
良し、今朝も美味しく作っちゃおうかな。
……。
今日の朝ごはんは~ドリア~~♪
……ふ。
ドリアの歌?
……そっきょう?
なかなか、そのまんまだろ?
……ふふふ。
よし。
……よし?
なんでも~ないよ~~♪
……。
ははは。
……ふふ、まこちゃんったら。
5日
亜美ちゃん、狭くはないかい?
私は、平気……まこちゃんは?
あたしも平気。
……。
肩、気になる?
……仰向けよりも、横向きになった方が良いかしら。
あたしは、どっちでも良いよ。
……横向きの方が、ぶつからないと思うし。
分かった、じゃあ横向きになろうか。
……うん。
よ、と。
……え。
それじゃ、おやすみ。
あ……。
また明日ね、亜美ちゃん。
……う、ん。
……。
おやすみなさい、まこちゃん……また、明日。
うん。
……。
……。
……まこちゃん。
……。
……今夜は、眠る前のお喋りはしないの。
ん……。
折角……こんなに、近くに居るのに。
……亜美ちゃん。
ごめんなさい……。
……ううん、謝らないで良いよ。
寝る邪魔を、してしまって……。
……今のは、あたしが悪い。
悪い……何が悪いの?
……。
まこちゃん……?
……亜美ちゃん、さ。
なぁに……。
躰……こっち、向けてる?
それとも、そっち向いてる……?
……まこちゃんの、方。
近い……?
……うん。
そっか……じゃあ、少しだけ離れてもらっても良いかな。
……。
そっち……向きたいから。
……うん、分かった。
……。
……良いわ。
……。
あ。
……。
……ちか、い。
近い、ね……。
……。
あ、大丈夫……?
……ん、だいじょうぶ。
大丈夫じゃ、なかったら。
だいじょうぶ……少し、驚いただけ。
本当に、少し……?
……頭では、分かっていたの。
……。
……分かって、いたのに。
頭では、分かっていても……実際とは、違うことがあるから。
……。
やっぱり、別……ううん、向こうに。
……むかない、で。
でも……あたしがこっちを向いていたら、顔、上げられないだろう?
……だと、しても。
……。
もう少し……もう少し、だけ。
……亜美ちゃん。
顔、上げられなくて……ごめんなさい。
謝らないで……あたしは、気にしないから。
……。
……お喋り、する?
ん……したい。
……なに、喋ろうかな。
あの……まこちゃん。
……ん?
前から……。
……前から?
一度、聞いてみたいと思っていたことが……あって。
なんだい……なんでも、聞いて。
まこちゃんに……。
……あたしに?
作れないものって、あるの……?
……作れない?
あの……お料理。
……あぁ。
作れないもの、ある……?
然うだな……作り方が分からないものは、作れないかな。
……作り方?
そ……作り方。
作り方が分かれば、作れるの……?
材料が揃わないものも、作れないよ。
例えば、お酒が必須なものとか。
……材料が、揃えば。
大体のものは、作れるんじゃないかな。
……。
あ、でも、虫は勘弁して欲しい。
……虫。
虫は、食べたことがないんだ……蝗とか。
蝗……。
蜂の子とか。
……蜂の子。
大事な栄養分だってことは分かってる……でも、ちょっと。
……私も、食べられないと思う。
食べるものがなければ……その時は、考えるけど。
……蛙は?
蛙……まぁ、肉になっていれば。
……。
から揚げとか……食べたい?
……ううん。
鶏のから揚げは……?
……食べる。
うん……じゃあ、から揚げは鶏肉で作ろう。
……まこちゃんが作って呉れるから揚げは、お店のものよりも美味しいの。
お店のものより……?
……お世辞では、ないから。
知ってる……ありがと。
……ん。
然うだ……。
……なに。
今度、鶏のから揚げでサンドイッチを作るよ。
……照り焼きじゃ、なくて。
から揚げを、マヨネーズとほんの少しのマスタードを塗ったパンで挟むんだ。
……。
いけるかなって思って作ってみたら、意外と美味しくてさ。これなら、亜美ちゃんでも食べやすいかなって。
その時はから揚げしか挟まなかったんだけど、カツサンドのようにキャベツを入れても良いかも知れない。
……。
どうだろ……食べてみるかい?
……うん、食べてみたい。
じゃあ、明日のお昼に。
……明日。
お昼までは、居て呉れるだろ……?
……居ても、良いのなら。
もちろん、居て欲しい。
……。
……居て呉れる?
うん……居たい。
……帰りは、送っていくから。
いつも、ありがとう……。
……あたしこそ、ありがとう。
……。
それで……どうだろ、お昼にから揚げのサンドイッチ。
……。
ん、明日じゃない方が良い……?
……朝が、ドリアだから。
あ、然うか……ちょっと、重たいか。
……我侭を言って。
こんなの、我儘のうちに入らないよ……全然、ね。
……。
お昼は軽めに……玉子と野菜のサンドイッチにしようか。
玉子は輪切りにして、野菜は胡瓜とトマト……パンには、タルタルソースを塗って。
スープは……たまねぎが良いかな。コンソメで味を付けよう。
……まこちゃんは、すごいわ。
ん……。
……作れるだけでなく、献立も考えられて。
あたし、すごいかな……。
……とても。
ふふ……そっか。
……私も、見習わないと。
見習う……て。
……私も、出来るようになりたいの。
……。
まこちゃんと……ずっと、一緒に居られるように。
……っ。
一緒に……居たいの。
……。
あ……。
……一緒に居て呉れるだけで、あたしは良いんだ。
まこちゃん……でも。
だけど、それでは駄目なんだよね。
……。
料理と献立は……然うだな、取り敢えず慣れだよ。
……慣れ?
何度もやっているうちに、なんとなく出来るようになっていく。
まぁ、苦手だと難しいかも知れないけどさ。
……私、献立を考えられるかしら。
考えられるよ……そんなに難しいことじゃないんだ。
……。
主食、主菜、副菜、汁物……家庭科でも、献立を考えたことがあるだろ?
あるけど……毎日となると。
別に、同じものが続いたってあたしは構わない。
一度に食べ切れないものは、次のごはんに回したりするしさ。
……。
主食はわりと簡単だ。ごはんが三食、パンが三食だって良い。
そこに一食、うどんとかスパゲティとかラーメンとか、夏だったら素麺か冷麦かな。
……麵類?
然う、麵類。麵類を挟んでも良い。
麵類は手軽だから、お勧めだよ。
……カップラーメンでも?
もちろん、カップラーメンでも良い。
疲れている時、作るのが億劫な時、そんな時は迷わずに楽をする。
これは結構、大事なことなんだ。でないと、続けられないからさ。
……毎食は、だめよね。
毎食は……短期間なら良いかも知れないけど、長期間はきついかな。
栄養が偏ってしまうし、添加物も摂りすぎてしまうかも知れないから。
……一食を抜くのは。
一食でも抜くと栄養不足になる可能性があるから、出来れば、食べて欲しいな。
特に亜美ちゃんは、一食当たり、食べる量が少ないからさ。
……ん、成る可く気を付ける。
ふふ。
……なぁに?
返事の仕方が、可愛いなって。
……然う、かしら。
然うだよ……。
ん……まこちゃん。
……可愛い。
頭を、撫でなくても……。
ごめん……可愛くて、つい。
……。
今の亜美ちゃん……ちょっとだけ、小さな子みたいだなって。
……私、高校生なのだけど。
然うだよね……ごめんよ、もうしないから。
……。
ん……?
……しないの。
え。
……別に、撫でるだけなら。
然うかい……?
じゃあ、続けちゃおうかな……。
……ん。
ふふ……。
……もぅ。
高校生も、子供だからさ。
……。
お酒だって、売ってもらえないし。
……それは、仕方ないわ。
だから……良いんだよ。
……。
……あたしも、亜美ちゃんに甘えてるし。
甘えるのは……別に、子供じゃなくても。
……大人になっても、甘えても良い?
……。
ん……?
……私も、甘えると思うから。
ふふ……じゃ、お互い様だ。
……。
髪の毛、さらさらだね……。
……献立の続き。
と、然うだった。
……。
主菜と聞くと、大体、肉か魚を思い浮かべるかも知れないけど、野菜でも良い。
例えば肉なしの野菜炒め、肉なしの餃子。どっちも、さっぱりしていて美味しい。
……。
副菜は、野菜がメインかな。サラダを用意しても良いけど、トマトを切って添えるだけでも十分。
青物のお浸し、胡麻和えや白和え、なんだったらお新香でも良いし、汁物が副菜になっても良いと思う。
……。
汁物は主食や主菜に合わせて、お味噌汁でも、たまごスープでも、コンソメスープでも、中華スープでも、クリームスープでも。
手軽に作れるお味噌汁はマグカップにお味噌と鰹節、葱を入れて、熱湯を注ぐだけ。気分が乗っていたら、お豆腐を入れても良し。
……手軽でも、美味しいわ。
手軽味噌汁は作り置きも出来るから、おすすめ。
ふふ……うん。
ね、献立を考えるのって意外と楽しいものだろ?
色々、組み合わせがあって……まるで、パズルみたい。
パズル……ふふ、然うかも。
……食事のバランスを考えるパズル。
今度、亜美ちゃんが考えた献立を作ってみようかな。
……私が?
それも楽しそうだなって。
……。
ひとりで考えるのは不安かい?
……若しも、バランスが悪かったら。
そこまで考えなくても良いよ。
でも……慣れない間は、まこちゃんと。
そっか、じゃあ然うしようか。
……。
考えてみなくても、ふたりで考えた方が楽しいしね。
……うん。
ん……声が弾んだ。
……揶揄わないで。
揶揄ってないよ……可愛いと思っただけ。
……もぉ。
ふふ……。
……ぁ。
……。
……まこ、ちゃん。
だいじょうぶ……?
……だいじょう、ぶ。
……。
……まこちゃんのむね。
ん……?
……やわらかくて、あたたかいわ。
ん……。
……。
……良かった、硬くなくて。
硬いわけ、ない……。
……筋肉で。
胸筋は、誰にだってあるものだから……。
……硬くない?
硬くない……。
……。
……はぁ。
気持ち、良いかい……?
……うん。
なら、このままで……。
……。
……。
……あ。
うん……?
……ご。
ご……?
ご、ごめんなさい……っ。
どうして?
わ、私、な、なんてことを……。
あたしは、別に構わないよ。
か、構わないの?
うん、全然構わない。
で、でも、む、胸に……え、えぇ。
……良いんだ、亜美ちゃんなら。
……っ。
亜美ちゃんだけだよ?
わ、わたしだけ……。
……男の子にも、したことがない。
な、ないの?
ないよ。
……。
初めてなんだ……亜美ちゃんが。
あ……あぁ。
だから……嫌でなければ。
……い、嫌では、ないわ。
そっか……なら、好きなだけ。
……。
……大丈夫かい?
だいじょうぶ……だと、おもう。
……言ってね、すぐに。
う、ん……。
……。
……。
……ね、聞こえる?
なにが……。
……あたしの、心臓の音。
……。
どきどき、してるんだ……。
……。
……聞こえないかな。
きこえる……。
……。
……きこえるわ。
うるさい……?
……ううん、うるさくない。
……。
……。
あたしにも、聞こえる……亜美ちゃんの音。
……わたしの、おと。
穏やかな、音……。
……。
今夜は、新月で良かった……。
……くらい、から?
然う……暗いから。
……。
ね……白いご馳走、考えてみようか。
……しろい、ごちそう?
然う、白いご馳走……。
……。
今日の夕飯に、食べたもの以外でさ……。
……まこちゃんと、なら。
ん……ふたりで、考えよう。
……。
……白いオムレツ、なんてのもあるよ。
しろいオムレツ……らんぱくだけで、つくるの?
……正解。
らんおうは、どうするの……。
……プリンか、クッキーに。
……。
……亜美ちゃん?
ブランコ……。
……。
しろいオムレツのデザートに……マンハール、ブランコ。
ふふ……それ、とても良い。
……。
すごく良いよ、亜美ちゃん……。
……ふふふ。
お……。
……たのしみ。
あたしも……。
……。
いつ……。
……ふ。
……?
……。
亜美ちゃん……?
……。
……おやすみ、亜美ちゃん。
ん……。
……また、明日ね。
……。
4日
電気、消しても良いかい?
……うん。
じゃあ、消すね。
……ねぇ、まこちゃん。
ん、まだ消さない方が良い?
……ううん。
どした?
……ベッド、いつも使わせてもらってばかりで。
うん、いつも使って呉れてありがとう。
……。
あ、若しかして、何か臭う?
……まこちゃんの、においがする。
ん……気になって、眠れない?
……それは、へいき。
そっか……平気なんだ。
なに……?
ううん、なんでもないよ。
……そう?
うん。
……そう。
電気……どうしようか。
……消しても、大丈夫。
分かった……それじゃあ、消すね。
……。
ん、今夜は暗いな……空、曇っているのかな。
夕方までは、晴れていたけど。
……今夜は、新月だから。
新月……じゃあ、星しか見えないね。
……今夜は、良く見えると思う。
そっか……。
……見る?
どうしようかな……亜美ちゃんが見るなら、あたしも見たいな。
……私はどちらでも良いけど、若しも見るのなら、躰を冷やさないようにしないと。
うん、上着を着よう。
……お部屋の中から、それとも、外に出て。
外に出て……と言いたいところだけど、もう遅いし、寝る支度もしちゃったし、部屋の中からの方が良いかな。
……ん、分かった。
……。
……まこちゃん?
ねぇ、亜美ちゃん……上着も、良いけどさ。
……うん。
躰を、寄せ合っても……その、あったかいと思うんだ。
……。
だ、だめかな。
……触れ合っていないところが、冷えてしまうと思う。
……。
……だから、上着は着た方が良いわ。
うん……然うだよね。
……電気、一旦点けてもらっても良い?
うん、今点ける。
……。
上着も取るよ。
……お願いしても良い?
もちろん。
……。
はい、どうぞ。
……ありがとう。
どういたしまして。
……外は冷えているかしら。
結構、冷えているかも知れない。
昼間はあったかいけど夜になったら気温が下がるって、天気予報のお姉さんが言っていたから。
……お姉さん。
ん?
……まこちゃんって、いつも決まった天気予報を見ているのよね。
平日の朝はね。
……時間を確認する為に、いつも同じチャンネルにしているから。
いつものチャンネルにしておくと、何がやっているかで大体の時間が分かるんだ。
天気予報がやってたら、7時前とかね。違うチャンネルだと、画面を確認しないと分からないから。
……休日の朝はどうなの?
んー、休日の朝はつけたり、つけなかったり……あぁでも、洗濯物を干す為に天気予報は見るかなぁ。
だけど平日の番組はやっていないから、チャンネルは決まってない。
……今日は。
今日の天気予報は、たまたまお姉さんだった。
いつもは小父さんなんだけど。
……今日も、洗濯物を干す為に。
今日は、亜美ちゃんが来て呉れる日だったから。
……。
鍵が折れていなかったら、迎えに行くつもりだったし。
迎えに行ったら、お散歩もしたかった。
……天気予報のお姉さんは、美人だった?
うん、美人さんだったよ。
……ふぅん。
と言うのは冗談で、顔はあまり見てない。
あたしが確認したいのは、今日の予報だから。
……。
実際のところ、予報を伝える声ばかり聞いていて、伝えるひとの姿格好はあまり見てないんだ。
大事なのはその日の天気予報で、見たとしても予報の画面くらいだよ。
……然う。
だけど、どうしてまた?
……別に、意味はないの。
ない?
……ない。
本当に、ない?
……本当に、ない。
そっか……なら、良いや。
……ただ。
ただ?
……まこちゃんは、顔が整っているひとが好みのようだから。
……。
男性に限らず……ううん、女性は特に。
そんなこと……一度も、考えたことないけど。
……テレビできれいな女性を見ては、このひときれいだよねって、たまに言うわ。
それは……それくらいは、誰でも言うと思うよ。
美奈子ちゃんなんて、うるさいくらいに言ってるし。
この間も……その、見ていたし。
女のひと?
……ん。
テレビで?
……ううん、テレビじゃない。
え、いつ?
……みんなで、お出かけした時。
みんなと……然うだったかな。
……憶えてない?
ごめん……全く、憶えてない。
……無意識だったのかも知れない。
あたしは、亜美ちゃん以外の女のひとには興味がないから。
テレビで見かける女優さんやアイドルだって、一般的にきれいだと思っているだけだし。
……でも、好みはあるわよね。
ん……ある、かな。
……女性に興味はなくても。
んー……。
……。
ねぇ、亜美ちゃん……あたし、思ったんだけどさ。
……なに。
興味があるとしたら、顔じゃなくて……。
……躰?
は……?
……顔で、ないのなら。
いや、何を言っているんだい?
……あ。
ないよ、躰に興味なんて。
あ、うん……ごめんなさい。
あたしが興味あるのは、何度も言うけど、亜美ちゃんだけだ。
亜美ちゃんを好きになってから、正しくは自覚してからは、男のひとにだって興味を持ったことがないんだ。
……。
聞いてるかい、亜美ちゃん。
……聞いてる。
……。
その……ごめんなさい。
もう、言わない?
……ん、言わない。
なら、許す。
……。
怒ってないよ。
……だけど、顔が怖かった。
そんなに怖かった?
……ごめんなさい、変なことを言って。
躰って言われた時は、少し嫌だった。
だけど、怒ってはいないから。
……嫌な思いを、させてしまったから。
したとしても、少しだし……。
だから……怒られても仕方がないの。
……。
本当に、ごめんなさい……。
……ねぇ、亜美ちゃん。
なに……。
あたしの好みは亜美ちゃん。
……う、ん。
だけど、他のひとを見てることがある。
……。
思い出した。
……え。
みんなと居る時、あたしは確かに女のひとを見ていたと思う。
……顔が、整っていて。
亜美ちゃんに似合いそうだって思ったんだ。
……私に?
女のひとがしていたアクセサリー。小さな青い石があしらわれていてさ。
多分、宝石だと思うんだけど……サファイアか、アクアマリンか、なんだったんだろう。
距離があったから、分からなかった。なくても、分からなかったも知れないけど。
……。
然ういうわけだから……あたしが見ていたのは、女のひとではなくて。
……アクセサリー?
然う、アクセサリー。
今思い出しても、亜美ちゃんに似合うと思うんだ。
どんな……ううん、やっぱり良い。
亜美ちゃんにプレゼント出来たら良いのになぁって、思ったんだけど。
でも、全く同じものを贈るのもなぁと思って、見るのをやめたんだ。
……然うだったのね。
うん、然うだったんだ。
安心した?
……変な誤解をしてしまって、ごめんなさい。
良いよ、気にしないで。
……。
あまり考え込まないで……やきもちをやいて呉れて、嬉しかったし。
……やきもち?
然う、やきもち。
……やきもちって。
嫉妬、とも言うよね。
……嫉妬。
だけど亜美ちゃんの場合は、嫉妬と言うよりもやきもちの方が合ってるかな。
……同じ意味なのに?
やきもちの方が、響きが可愛らしい。
……あの気持ちは、やきもちだったの。
だと、あたしは思うけどな。
……どことなく、胸の奥がもやもやしているような。
もやもやして、気分が晴れない。
もっと言えば、なんとなく面白くない。
……。
あたしもやくよ、やきもち。
……まこちゃんも?
例えば、ルナに。
ルナに……どうして?
亜美ちゃんに甘えているのを見ると、どうしてもね。
ルナは……別に、私に甘えたりなんてしていないわ。
あたしから見ると、甘えているように見えるんだ。
で、亜美ちゃんはルナを甘やかしているように見える。
……誤解よ。
でも、ルナのことは可愛いだろ?
……あまり、可愛いと思ったことは。
あれ、然うなの?
……喋るし、どこか人間くさいし。
それは……まぁ。
……だから。
だけど本当は、可愛くないわけじゃないだろう?
……。
大丈夫、今度ルナが亜美ちゃんの太腿を占領していたらそっと退かすから。
……まこちゃん。
なんて、しないよ。
……ルナは、猫の時は可愛いと思うの。
猫の時……?
……だけど、人間くさい時は少し苦手。
……。
……ちょっと前から、然う感じるようになって。
知らなかった……。
……多分、時間が経てばまた大丈夫になると思うから。
ルナと、何かあった?
ううん……特段、何も。
……。
……ただ、然ういう時期なだけ。
時期……ん、分かった。
……ルナには。
言わないよ。
……。
……あたしに対しては。
まこちゃんに対しては、ないわ。
……。
……ないの。
そっか……。
……星を、見るのよね。
……。
……見ない?
良いこと、思い付いた。
……良いこと?
小さい頃、良くやったんだ。
その時は、ひとりだったけど。
……何をしたの?
毛布を頭から被る。
……。
然うすれば、上着を着ていなくてもあったかい、はず。
……頭から被ってしまったら、前が見ないわ。
顔だけは出すよ。
……。
躰を寄せて、毛布に包まればあったかい。
……ベッドの上?
その方が良いかな。
……。
いや、かな。
……ううん、いやじゃない。
じゃあ、やってみる?
……うん。
然うと決まれば、電気消すね。
……ん。
それから……ベッド、良い?
……まこちゃんのベッドだから。
それでも、一応。
……良いに、決まってる。
そっか……分かった。
……。
窓を開けたらひんやりするから、亜美ちゃんは先に毛布を。
……ん。
よ、と……。
……。
ん、空気がひんやりする……真冬ほどでは、ないけど。
……まこちゃん。
星、見える?
……見える。
うん。
……まこちゃんも、早く。
ん。
でも……どうすれば良いの。
あたしに任せて。
……。
毛布、ちょっと良いかい?
うん。
……。
……。
よし……行くよ、亜美ちゃん。
ん。
よいしょ、と。
……あ。
ん、これで良し。
……。
亜美ちゃん、顔を出してごらん。
……こう?
うん、良いね。
……。
どうだい、あったかいだろ?
……まだ、良く分からないけど。
寒かったら、掛け布団も掛けるから。
……まこちゃん。
ん?
……もっと、躰を寄せてみて。
あぁ……うん、すぐに。
……。
……これで、どうだい?
うん……暖かい、かも。
……これから、もっとあったかくなるはず。
……。
空……新月だと、暗いね。
満月の明るさを、思い知るわ……。
……満月は、結構明るいもんな。
……。
……明日の朝は、ドリアにしようかなぁ。
ドリア……?
……。
まこちゃん……?
……あたし、何か言った?
明日の朝は、ドリアにしようかなって……。
……。
……眠たい?
いや、眠たくはないよ。
……口に、出てしまっただけ?
だと、思う……。
……突然だったから、少し吃驚した。
然うだよね……あたしも、吃驚した。
……ドリアのこと、考えていたの。
ん、さっきまでね……寝る時に朝ごはんのことを考えたりするから、そのせいだと思う。
……。
……木星が、見えるね。
うん……。
……水星も、見えれば良いのにな。
水星は……太陽に近いから。
……。
……明日、なんのドリアを作るの?
んー……きのこと、ベーコンにしようかな。
……きのこと、ベーコン。
どうだろ……?
……美味しそう。
ふふ……なら、決まりだ。
……でも、朝からドリアなんて。
朝からドリアは重い?
ううん、それは平気……ただ、手間がかかるんじゃないかって。
大丈夫、ホワイトソースは作ってあるんだ。
……。
だから、すぐに作れるよ。
……牛乳があったから?
ん……当たり。
……。
……あまり見ていると、寒いかな。
ねぇ、まこちゃん。
……ん?
こ……。
……こ?
こんや、は……。
……亜美ちゃん?
い……いっしょ、に。
……。
……ベッド、で。
ううん……無理はしないで。
し、して、ない……。
……。
……して、ないから。
狭くなってしまうけど……それでも、良いかい?
……かまわない、わ。
……。
……い、や?
へへ。
……へへ?
どうしよう……どきどきする。
……どきどき?
あたし……亜美ちゃんに、恋をしているんだ。
……ぁ。
だから……胸が、どきどきするんだ。
……。
……窓、閉めるよ。
う、ん……。
……閉めたら。
いっしょ、に……。
3日
……亜美ちゃん。
なぁに……。
……大丈夫かい。
うん……今はまだ、だいじょうぶ。
……すぐに言ってね。
ん……。
……。
……まこちゃん、あったかいわ。
亜美ちゃんも……あったかいよ。
……。
良かったら、さ……。
……うん。
頭を、あたしの肩に。
……肩?
のせて、欲しいな……。
……頭を?
然う、亜美ちゃんの頭を……。
……まこちゃんの、肩に。
た、高さがさ、丁度良いと思うんだ。
……。
き、気が向いたらで、い、良いからさ。
……こう?
あ。
……ちがった?
ち、違わない……。
……これで、いい?
ん……良い。
……。
姿勢が、辛くなったら……。
……肩が凝ったら、言ってね。
だ、大丈夫だよ、あたしの肩は凝らないように出来てるんだ。
……。
……。
……お勉強をしてる時。
うん……あたしでも、たまには凝ります。
……言って呉れたら、すぐに退かすから。
だ、だけど、今は平気だから……きっと、多分。
……ん。
……。
……まこちゃんの、においがする。
んっ。
……はぁ。
だ、大丈夫……?
……ん、へいき。
……。
……ねぇ、まこちゃん。
な、なんだい……。
……今、ふと思ったのだけれど。
う、うん……。
……今日のお夕飯、全部白いものだったわ。
は……。
ごはん、チキンのクリーム煮……それから、マッシュポテト。
確かに、言われてみれば全体的に白い……。
……。
えと……ちょっと、味気なかった?
……ううん、そんなことない。
マッシュポテトじゃなくて、ポテトサラダにすれば良かったかなぁ。
然うすれば、胡瓜の緑と人参の赤が入ってまた違ったかも知れない。
……まるで、白いご馳走のようだと思ったの。
白い、ご馳走?
……然う、白いご馳走。
そんなに、ご馳走だった?
……私にとっては、十分すぎるほどに。
……。
……ごめんなさい、急に変なことを言って。
白いデザートがあれば、完璧だったかも。
……白い、デザート?
然う、白いデザート。
……どんなデザート?
牛乳プリン、牛乳寒天、杏仁豆腐、今日食べた白玉団子に、白いチーズケーキ、パンナコッタ、それから、ブランコ。
……ブランコ?
正しくは、マンハールブランコ。
小さい頃、お母さんが良く作って呉れたんだ。
……お母さまが。
もちろん、公園にある遊具ではないよ。
……どんなお菓子なの?
んー、然うだな。
ちょっと説明が難しいから、作り方を言っても良い?
……うん、聞かせて。
まずは、ゼラチンを水でふやかす。
うん。
アーモンドパウダーにグラニュー糖を混ざて、温めた牛乳とゼラチンを加えてから木べらで混ぜ合わせる。
粗熱を取るのを忘れずに。
アーモンドパウダー……アーモンドを粉末にしたもの?
然う。
アーモンドプードルとも言うんだけど、あたしはパウダーって呼んでる。
……プードル。
然う聞いて思い出すのは、毛がもこもこでくるくるのわんこ。
毛のカットのされ方がとても特徴的な子も居る。ちっちゃい子はころころしていて可愛い。
……。
今、思い浮かべただろ?
……ううん。
あれ。
……話の流れでプードルの意味は分かったけれど、どこの言葉なのだろうって。
そ、そっか……流石、亜美ちゃん。
だけど……まこちゃんが言うように、プードルと言えば犬よね。
だ、だろ?
……プードルって。
え?
今は愛玩犬として飼われていることが多いと思うけれど……元々は、水猟犬なの。
すい、りょう?
水辺で狩りをする犬のことで、川や湖に落ちた獲物……主に鳥なのだけれど、回収するのに使われていたみたい。
落ちた獲物……じゃあ、泳ぎが上手なんだ。
……ちょっと、想像がつかないかも知れないけど。
犬かき、だよね?
……ん、然うだと思う。
んー、大きい子はまだ……ちっちゃい子は、泳げるんだろうけど、ちょっと想像出来ないなぁ。
あんな小さな躰で獲物を咥えるのは大変そうだし……あ、でも、ちっちゃい子は小回りが利いて良いのか。
……小さい子は、品種改良で生まれた子なの。
え、然うなの?
小さな子は芸を仕込む為に、最も小さな子は純粋に愛玩犬として飼育する為に改良されたみたい。
然うなんだ……。
……最も小さな子は、はじめは、奇形が生まれることが多かったんだって。
きけい……って、奇形?
ん……品種改良には、つきものなのかも知れないけど。
でも、犬がそれを望んだわけじゃないだろ。
どこまで行っても、ひとの勝手な都合でしかない。
……うん、然うよね。
自然に生まれた子なら、良かったのに。
……自然に生まれた子を利用するのもまた、人間だから。
ん。
……人間は昔から、ずっと。
……。
あ……ごめんなさい。
ううん……考えてみれば、犬って色んな犬種が居るよなって。
……猫よりも犬の種の方が多種多様なのは、ひとの役に立つからという説もあるわ。
猫も可愛いけど、番猫にはならないもんなぁ……。
……お店の看板猫になる子は居るみたいだけど。
人懐こくて、可愛いよね……。
……うん、可愛い。
しかし……プードルも、色々大変だったんだな。
……まこちゃん。
ごめん、何言ってんだろうね。
……ううん。
……。
……大きい子の、特徴的な毛のカット。
あれ、特徴的だよね。
他の犬にはないから、一目でプードルってわかるよ。
……あれは、水猟犬の頃の名残みたい。
え、お洒落じゃないの?
……今は、お洒落のひとつなのかも知れないわ。
少し変わってるなとは思ってたけど……猟犬の頃の名残なら分かる、ような。
……私は、そのままの方が可愛いと思う。
亜美ちゃん……。
……。
それ、とても良く分かるよ……。
……まこちゃんも?
うん、あたしも。
……。
愛嬌は、あるんだろうけど……あの形だと、あまりにもプードルすぎて。
……プードルすぎるって。
個性が強いというか……他にはない形と言うか。
いや、飼い主さんにはそれが良いのかも知れないけどさ。
……でも、小さな子には居ないわよね。
言われてみれば……居ないね。
……若しも。
居たら……ちょっと、可愛いかも。
……ふ。
ん?
……真面目な顔をして、言うから。
真面目……こんな顔かい?
……ふふ、まこちゃんったら。
はは。
……小さい子は可愛いけど、足元でじゃれつかれたら、踏んでしまいそうで。
亜美ちゃんになら、踏まれてみたいかも。
……。
なんて……。
……まこちゃん。
う、真顔。
何を、言っているの?
え、えと……ちょっとした、冗談かな。
ごめんなさい、本当に意味が分からないの。
う、うん、あまり考えないで良いよ。
……踏まれたら、痛いわ。
……。
だから、踏まない……踏みたくない。
……ごめん、変なことを言って。
まこちゃんのことだから、意味はあるのだろうけど……敢えて、聞かないわ。
……みんなにも、聞かないで。
みんなに?
特に……いや、やっぱりみんな。
然う……やっぱり、みんなには言えないことなのね。
は、はは……。
……いつか、教えてね。
え。
教えて。
あ、うん……じゃあ、いつかね。
……教えてもらっても、踏まないとは思うけど。
あの……良かったら、忘れて呉れても。
……忘れない。
だ、だよね……。
……まこちゃんのことだから、忘れた頃にまた、言いそうなんだもの。
う……確かに。
だから、忘れない。
……はい。
……。
え、と……話、戻そうか。
……パウダーとプードル、お店ではどちらの名前で売られているの?
プードルの方が多いかなぁ。
パウダーの方が分かりやすいと思うんだけど。
……フランス語かしら。
うん?
……今度、調べて。
亜美ちゃん?
……ごめんなさい、続けて。
今度さ、一緒にスーパーで見てみるかい?
……スーパーで?
アルファベットで書かれているのもあったと思うから。
調べるのなら、綴りが分かっていた方が良いと思うんだ。
……ん、見てみたい。
じゃあ、今度ね。
……うん。
因みにアーモンドパウダーには皮付きと皮無しの二種類があって、アーモンドの風味や香りを楽しみたい時は皮付きのを使うんだ。
だけど、スーパーに売っているのは皮無しの方が多い。多分、使い勝手が良いんだと思う。
……マンハールブランコを作る時はどちらを使うの?
アーモンドの風味を楽しみたい時は皮付きで作るけど、基本的には、どちらでも構わない。
なんだったら、その時の気分で決める時もあるよ。
……気分。
亜美ちゃんは、どっちを食べてみたい?
私は……ん。
……うん?
ごめんなさい……ちょっと、分からないわ。
そっか……じゃあ、最初は皮無しのパウダーを使って作ってみようかな。
……。
その後に、皮付きのパウダーで……然うすれば、違いが分かりやすいと思う。
……両方、作って呉れるの?
うん……両方、作るよ。
ただ、皮付きはちょっと茶色っぽくなるけど。
……。
でも、生クリームも入れるから……あぁ、然うだ。
作り方を、言っていたんだっけ。
……然うだった。
えと、どこまで……。
……アーモンドパウダーにグラニュー糖を混ざて、温めた牛乳とゼラチンを加えてから木べらで混ぜ合わせる。
……。
……粗熱を取るのを、忘れずに。
流石、亜美ちゃん……。
……続きを、教えて。
うん……生クリームをかために泡立てて、アーモンドパウダーのと混ぜ合わせるんだ。
……生クリーム。
それから、パウンドの型に流し入れて……そこに苺を埋め込んでも良いよ。
……苺。
お母さんは、ラズベリーを入れて呉れたこともあったかな……甘酸っぱくて、美味しいんだ。
……。
流し入れたものを、冷蔵庫で冷やして固める……その間に、ソースを作る。
……どんなソース?
苺とグラニュー糖、レモンのしぼり汁を一緒にミキサーにかけるんだ……苺は、ラズベリーでも良い。
……。
冷えて固まったら、型から外して、切り分けて……ソースをかけて、出来上がり。
……あぁ。
それが、ブランコ……マンハールブランコだよ。
……ケーキとは、違うのね。
うん……違う。
……。
食べてみたいかい……?
……まこちゃんと、作ってみたい。
……。
……だめ?
だめなわけ、ない……。
……あ。
一緒に、作ろ……。
……う、ん。
……。
……まこ、ちゃん。
亜美ちゃんのにおいがする……。
……ぁ。
安心、する……。
……。
……ごめん。
どうして……。
……恥ずかしいこと、言ってるかなって。
……。
ん……亜美ちゃん。
……だいじょうぶ。
……。
わたしは……だいじょうぶ。
ん……良かった。
……。
……。
……こうしていると、まこちゃんと私しか居ないみたい。
うん……あたしも、然う思ってた。
……。
……亜美ちゃん、今夜は。
まこちゃん……。
……。
……?
どうしたの……?
……ううん、なんでもない。
なんでも……?
……今夜もベッド、使ってね。
あ……。
……。
……今夜は、まこちゃんが。
ううん……亜美ちゃんに使って欲しい。
……でも、いつも。
良いんだ……。
……。
亜美ちゃんが、傍に居て呉れる……今は、それだけで。
……。
……そろそろ、離れた方が良い?
……。
亜美ちゃん……?
……もう少し。
……。
……もう少し、このままで。
2日
……。
……うん、正解。
単語の綴りも、合ってる?
間違ってない?
ん、大丈夫……合っているわ。
はぁ、良かったぁ。
……まこちゃんは、前置詞の使い分けがかなり苦手だったけれど。
ん?
……今では大分、使い分けが出来ていると思う。
それはね、亜美ちゃんの教え方が上手だからだよ。
中学生の頃から親身に丁寧に、特に前置詞は絵を描いて教えて呉れただろ?
説明しながら、さらさらっと描いて呉れてさ。
絵だなんて……あれは丸と線を描いただけの、ただの図よ。
いやいや、あれは絵だよ。
……説明する為に、さっと、描いただけのものだし。
丸と線を描いただけなんて言うけど ちゃんと立体感も感じられてさ。特に「on」の絵は衝撃的だったなぁ。
「on」と言えば、何かの上に載っているイメージだったのに、まさか、壁や天井にくっついていることにも「on」を使うなんてさ。
……「on」は、面に触れている状態を表すから。
亜美ちゃんが描いて呉れた絵のおかげで、あたしの中の「on」のイメージはがらりと変わったんだ。
「on」だけでなく、他の前置詞のイメージもしやすくなった。
前置詞によっては、単語よりも先に、亜美ちゃんの絵が思い浮かぶことすらあるよ。
……。
信じられない?
……まこちゃんは、そんな嘘は言わないから。
うん、嘘じゃない。
……あの図、そんなに分かりやすかった?
とっても、分かりやすかったよ。
……然う。
だけど亜美ちゃん、どうしてあの絵を描いて呉れようと思ったんだい?
英語の先生だって、そんな教え方、して呉れなかったのに。それこそ、堅苦しい文法の説明ばかりでさ。
……まこちゃんは文法で説明するよりも、図で説明した方が伝わるかも知れないと思ったの。
うん、まさにだ。ただの文法として覚えるよりも、あたしには絵の方が合っていた。
文法よりもずっと、前置詞の使い分けをイメージ出来るようになったんだ。
……。
テストの時、何度そのイメージに助けられたことか。
高校受験の時も、頭の中でイメージしながら問題を解いたんだよ。
……描いて、良かった。
今でもさ、亜美ちゃんが描いて呉れた絵をちょいちょい見ながら、英語の勉強をしているんだ。
……え。
今日は亜美ちゃんが居るから、見てないけどね。
……今でも、あの絵を?
うん、大事に取ってあるんだ。
だけどあれは、中学生の頃に描いたものだから……。
初心は忘れるなって、言うだろう?
……言う、けど。
辞書も引くけど、考えすぎて分からなくなったら、亜美ちゃんの絵を見た方が良いんだ。
……高校英語は、中学英語よりも難しいから。
だけど、基礎は変わらないだろう?
……。
ね、然うだろ?
……あの、まこちゃん。
なんだい?
……描き直しても、良い?
うん?
中学生の頃に、さっと描いたものだし……出来れば、描き直せたら。
また、描いて呉れるのかい?
……うん。
ありがとう、亜美ちゃん。
じゃあ、描いてもらおうかな。
……明日、描き直すわ。
だけど。
……今日の方が、良い?
ううん、描くのはいつでも良いよ。
……なに。
中学生の頃に描いてもらった前置詞の絵は、捨てずに取っておくからね。
……どうして。
あたしの、前置詞の初心だからさ。
……。
大事なんだ、初心は。
……然う、だけど。
捨てた方が良い?
……出来れば、もう古いものだし。
と言っても、二年前くらいじゃないか。
全然、古くないよ。
……中学生、だったし。
それはまぁ、然うだね。
……だから。
大事に取っておいてはだめかい?
……ん。
取っておきたいんだ……せめて、高校を卒業するまでは。
まこちゃん……。
ね……取っておいても、良いだろう?
……うん。
ふふ、良かった。
……明日、新しい絵を描くわ。
ん、ありがとう。
……若しかしたら、あまり変わらないかも知れないけど。
見比べてみようかな。
……。
なんてさ、しないよ。
……もう、まこちゃんは。
ははは。
……ふふ。
……。
……まこちゃん?
好きな科目は、家庭科だけだった。
数学も、理科も、英語も、社会も、どれも苦手で、好きではなくて。
……。
まぁ、体育はそこそこ出来たんだけどね。
……体育の授業を受けている時のまこちゃんは、いつだって、格好良いわ。
改めて言われると……ふふ、照れるなぁ。
……今は一緒に受けられないから、淋しいの。
亜美ちゃん……うん、あたしもだ。
……また一緒に、受けられたら良いのに。
家庭科もね……。
……ん。
……。
……まこちゃん。
苦手な科目の方が圧倒的に多かったあたしが……今では、得意とまでは言えないけれど、出来るようになった。
……。
と言っても、平均点そこそこなんだけどさ……。
……ううん、科目によっては平均点以上の時だってあるわ。
相変わらず、覚えるのは苦手だけれど……それでも、大分覚えられるようになったと思うんだ。
……これからもお勉強を続けていけば、今よりももっと、出来るようになると思うの。
なるかなぁ。
……まこちゃんなら、出来るようになるわ。
その為には……。
……ん。
亜美ちゃんが、あたしの傍に居て呉れないと。
……私なら、居るわ。
ずっと、だよ……?
……ん、ずっと。
うん……だったら、頑張れる。
……ねぇ、今でもお勉強は好きじゃない?
好きじゃない……。
……然う、よね。
とは、もう、言わない。
……。
覚えるのは、大変だけどさ……分かるようになると、楽しいんだ。
……ほんと?
うん……ほんと。
……。
……嬉しい?
うん……嬉しい。
……好きなひとが好きなものを、あたしも好きになりたい。
……。
サッカーでも、野球でも、バスケでも……あとは、なんだっけ。
鉄道、将棋……女性アイドルなんてのもあったかな……まぁ、今となっては、なんでも良いや。
……その中に、お勉強も含まれてる?
今まで以上なんだ。
……。
今まで以上に、好きになりたいと思った……亜美ちゃんの影響で。
……そんなに。
然う……そんなに。
……。
亜美ちゃんが好きなものを……亜美ちゃんと、共有したいと思ったんだ。
……いつから。
いつからかなぁ……きっと、亜美ちゃんへの恋心を自覚する前からだと思うんだけど。
亜美ちゃんに褒められると、すごく嬉しくて……また頑張ろって、思えたから。
……。
お勉強……まだまだ、だけどさ。
これからも、頑張りたいと思ってるんだ……。
……私も、共有したい。
うん……頑張る。
……まこちゃんが好きなものを。
え……?
……まこちゃんが好きなものを、私も共有してみたい。
あたしの……。
……だめ、かしら。
もちろん、だめじゃない……。
……あ。
だめじゃないよ……共有出来たら、とても嬉しい。
……まこちゃんが好きなものは、お料理よね。
あと、花……植物が好きだ。
……花、植物。
良かったらさ、今度、ふたりで植物園に行かない……?
ん……行く、行きたい。
やった……。
……季節ごとに行ってみたいわ。
季節ごと……?
……お花はそれぞれ、咲く時期が違うから。
あぁ……。
……春は新緑、夏は深い緑と書いて深緑、秋は紅葉。
冬に咲く花もあるよ……山茶花とか、椿とか、蝋梅とか。
まこちゃんと、見てみたい……今までも、見たことはあったけど。
あたしとふたりで見に行こう、亜美ちゃん。
……連れて行って呉れる?
もちろんさ。
その時は、お弁当も作るよ。
……お弁当。
夏は、難しいけど……涼しい時期なら、持って行ける。
お茶も用意するよ。亜美ちゃんが好きなお茶。
……まこちゃんが好きなお茶も。
じゃあ、順番こにしよう。
……私も、用意するわ。
亜美ちゃんも?
……良かったら、お弁当はふたりで作りたい。
あぁ、良いねぇ。
ふたりで作るなんて、新婚さんみたいだ。
……新婚さん?
あたしの憧れなんだ、好きなひとと料理するの。
……。
因みに、ひとりも居なかったよ。
……ん。
自分で作るなんて、考えたこともないようなひとばかりだったからさ。
そもそも包丁ひとつ、まともに持ったことがないんじゃないかな。
……ごめんなさい。
何を謝ってるんだい?
亜美ちゃんは、作れるじゃないか
……簡単なものしか。
あたしは知ってるよ、亜美ちゃんが調理実習でてきぱきとこなしていたこと。
あれは……授業、だったから。
授業でも出来ない子は何人か居たろ? 包丁を持つ手が危なっかしい子とかさ。
あたしが一番驚いたのは、洗剤でお米を洗おうとした子かな。いやぁ、あれには驚いたよ。
……確かに居たわね。
お米は、本当は洗うじゃなくて、研ぐなんだ。
それを知っていれば、洗剤なんて使うわけないんだけどね。
……お米は、私も。
でも、お米を研ぐことは知ってるだろ?
ん……それくらいは。
亜美ちゃんはただ、必要がないからやらないだけだ……やれないわけじゃない。
……今度、お米を炊いてみようと思う。
うん、良いと思う……。
……まこちゃんのお部屋で、炊いても良い?
うちで?
……うちは、炊いても食べないと思うから。
……。
だめ……よね。
まさか、そんなわけない。
亜美ちゃんが炊いたごはんで、お弁当を作ってみたい。
……お弁当を?
おかずは、あたしが作るんだ。
……。
だからさ……白米だけでなく、炊き込みご飯やおこわも炊いて欲しいな。
……私に、出来るかしら。
出来るよ……炊き込みご飯は、調理実習でも作ったろ?
炊き込みご飯は……だけど、おこわは一度も。
あたしが、教える……。
……。
だから、作れる……亜美ちゃんなら、作れるよ。
……炊き込みご飯と、おこわの違いって。
炊き込みご飯は、うるち米だけで作る……おこわは、もち米とうるち米で作るんだ。
だから、おこわの食感はもちもちとしてるんだよ……腹持ちも、良いしね。
……然うだったのね。
うん、然うだったんだ……。
……日本人って、お米が好きよね。
ふふ、然うだね……和菓子にも、使うしね。
……サフランライスも、作れる?
作れるよ……作ってみるかい?
……作ってみたい。
じゃあ、作ろう……大丈夫、難しくはないから。
……ん。
他にも……然うだ、ピラフも作ってみない?
……ピラフ?
炒飯は炊いたごはんで作るけど、ピラフはお米から作るんだ。
……。
どうだろう?
……教えて呉れる?
あぁ、もちろんさ。
……お花のことも、知りたいわ。
あたしが知っていることで良いなら……でも、亜美ちゃんも詳しいと思う。
私が知っていることは……主に、植物の構造だから。
お世話になっています。
……え?
生物で。
……あぁ。
……。
まこちゃん……。
……楽しいな。
……。
亜美ちゃんと居ると、とても楽しい。
……私も、まこちゃんと居ると楽しい。
あたし達……若しかしたら、相性がばっちりなのかも。
……然うだったら、嬉しい。
きっと、然うだよ……ん。
……。
亜美ちゃん……?
……ごめんなさい、勝手に。
良いよ……。
……。
……亜美ちゃんの手、あたしは大好きだ。
ありがとう……。
……。
今夜も……お勉強、お疲れさまでした。
……うん、ありがとう。
ご褒美に……花丸、欲しい?
花丸か……ふふ、もらっちゃおうかな。
……ふふ、良いわ。
……。
……はい。
ありがと……ふふ、花丸をもらうのなんて久しぶりだな。
……たまには、良いかと思って。
ん……とっても良い。
……。
亜美ちゃんは、もう少し続けるかい?
ううん……今夜はおしまいにするつもり。
良いのかい?
ん……今夜は、もう。
……そっか。
もう、寝る……?
……。
まこちゃん?
……寝る前に、仲良くしたいな。
ん。
……ただ、躰を寄せるだけ。
躰を……。
……ただ、それだけ。
……。
……無理だったら。
やってみる……やってみたい。
……。
……それでも、良い?
あぁ……良いに決まってる。
……ね。
なんだい……。
大丈夫だったら……そのまま、お話したい。
良いよ……しよう。
……うん。
……。
えと……。
……隣、良いかい?
う、ん……来て。
1日
……亜美ちゃんのほっぺた。
……。
少し、熱を持ってるような気がする……。
……持っているかも、知れない。
熱い……?
……少し。
離した方が、良い……?
……まだ、触れたばかりだから。
まだ、良いかい……?
……うん。
……。
……ん。
あ。
……。
ご、ごめん、やっぱり離した方が良い……?
……大丈夫。
でも……。
……まだ、だいじょうぶだから。
……。
……このまま、で。
だめだったら……言ってね、すぐに。
……ん。
……。
まこちゃんの手……温かくて、大きいわ。
うん……自分でも、大きいと思う。
……。
大きいよね……あたしの手。
その……気にしてる?
前は、気にしてた……なんで、こんなにって。
……。
あたしは女なのに、なんで好きになる男子よりも大きいんだろうって……手も足も、身長も。
バレー選手でも、バスケの選手でもないのにさ……身長は、いまだに伸びているし。
……ごめんなさい。
ん、何が……。
……もう、言わない。
何をだい……?
……手が大きいって。
言っても良いよ……今は、気にしてないから。
……だけど。
亜美ちゃんを……マーキュリーを、守れるから。
……ぁ。
あ、ご、ごめん……。
……う、ううん。
耳たぶ……触ってしまって。
……気に、しないで。
……。
まこちゃんの指は、とても長くて……。
……長すぎて、気持ちが悪いと言われたこともあるよ。
どうして、そんなことを言うの……。
……ごめん、余計なことだった。
違うの……どうしてまこちゃんに、そんなことを言うのか分からないの。
まこちゃんの指はすらりとしていて、とてもきれいなのに……それなのに。
自分よりも大きいのが、嫌なんじゃないかな……きっと、プライドが許さないんだよ。
だからって……そんな傷付けるような言葉を、口にするだなんて。
思えば……あたしの男を見る目は、とことんなかったと思う。
……。
どれも、これも……さ。
……せんぱい、も。
でかい女は嫌いだなんて……仮令思っていたとしても、口に出して言うものじゃない。
……。
だろう……?
……言うべきでは、ないわ。
なんとも思っていないひとには、平気で酷い言葉を投げつける……あの頃のあたしには、その意味がまだ、ちゃんと分かっていなかった。
……。
亜美ちゃんが教えて呉れたから、きれいに吹っ切ることが出来たんだ。
……私。
全部、亜美ちゃんのおかげなんだ……過去の恋を終わらせて、囚われることもなくなったのは。
……私、が。
亜美ちゃんが居なければ……あたしに、教えて呉れなければ。
あたしは終わらせることが出来ずに、だらだらと引きずったままだったかも知れない。
……まこちゃんなら、私が、居なくても。
最悪……悪い男に引っ掛かっていたかも知れない。
……悪い男って。
女を……その、食い物にするような。
く、食い物って……そんな。
あたしは一度好きになると、周りが見えなくなってしまうところがあっただろ……?
……。
良いんだ……無理に言葉を探そうとしなくても。
……確かに、然ういう面もあったわ。
あれは、本当に……心の底から悪い癖だったって、つくづく思うよ。
……それだけ、まこちゃんが一途なのだと思うの。
一途、か……だけど、行きすぎると良くない。
周りどころか、そのひとの悪いところすらも見えなくなってしまうからね……。
……。
たまたま、悪い男に引っ掛からなかっただけで……まぁ、酷い言葉は何度も吐かれたけれど。
……まこちゃんが悪い男のひとに引っ掛からなくて、本当に良かった。
若しも引っ掛かっていたら……尽くした挙句に、捨てられていたかも知れない。
……。
さんざ、弄ばれて……さ。
……そんな、こと。
ないとは言えないよ……なんせ、相手は悪い男なんだから。
……そんなこと、させない。
……。
私だけじゃない……皆だって、居て呉れる。
……全力で、止めて呉れそうだ。
止めるわ……。
……亜美ちゃん。
仮令、私ひとりだけだったとしても……必ず。
……ふふ。
私は、本気よ……。
……ん、知ってるよ。
どうして、笑うの……。
……嬉しくて。
……。
あと……やっぱり、大好きだなって。
……まこちゃん。
……。
……。
……実はさ。
な、に……。
然ういうことは良くあることだって……クラスの子達が話してたんだ。
あたしは別に、聞きたいわけではなかったんだけど……耳に入ってきてしまって。
……私に、聞いて欲しかったの?
話すつもりは、なかったんだけど……どこか、もやもやしてて。
……然う。
ごめん……。
……ううん、良いの。
……。
私で良かったら、聞くから……。
……ありがとう、亜美ちゃん。
ね……。
……うん?
然ういうことって……本当に、良くあることなの?
らしいよ……若しかしたら、誰かが引っ掛かったのかも知れないね。
まだ、学生なのに……。
……大人なら、分かる?
分からなくは、ないわ……。
……どうして、然う思うんだい?
社会に出れば、学校とは違って、色々なひとと知り合う機会があるだろうし……高校生よりもずっと、世界が広いと思うから。
……その中には、ろくでもない男も混ざってる?
言葉は、悪いけれど……混ざっていると思う。
……そっか。
あぁ、でも。
……うん?
世界が広がる分、見る目も磨かれるかも知れない……。
……あぁ。
然う思うと……そんな簡単には、引っ掛からない気も。
……みんなではないと思うよ。
……。
痛い目に遭っても、懲りない大人は居るかも知れないし……恋は盲目で、一度好きになると悪いところが見えなくなってしまう大人も居るかも知れない。
……確かに。
高校生の世界は、大人よりも狭いと思うけど……ううん、狭いからこそ。
ん……。
……ろくでもない男に、引っ掛かりやすい。
……。
かも、知れない。
然う、言われると……分かる、気がする。
だから……高校生でも、分からない。
相手は……やっぱり、高校生なのかしら。
けど、高校生でそこまで悪い男の子は……。
……居ないとは、限らないよ。
……。
……知らない世界、だよねぇ。
知らないわ……そもそも、恋愛に興味がなかったし。
……良かった、亜美ちゃんに悪い虫が付かなくて。
悪い虫……。
……あぁ、あたしか。
まこちゃんは、悪い虫ではないわ。
……お。
悪い虫なんかじゃない……。
ふふ……ありがと。
……ん。
本当に、ありがとう……大好きだ。
……私、も。
……。
……。
……自分と、重なってしまったんだ。
……。
だから、もやもやしていたんだと思う……。
……まだ、してる?
ううん……大分、すっきりした。
もう、大丈夫だ……。
……話したくなったら、また話してね。
うん……。
……。
ごめんよ、こんな話をして……。
……ううん。
亜美ちゃん……。
……。
ごめん……ちょっと、近いね。
……へいき、よ。
ううん……あまり、平気ではなさそうだ。
……まっ、か?
耳まで……。
……。
もう少し、良い……?
……うん、もう少し。
じゃあ、離さない……と、思ったけど。
……。
……蕁麻疹、大丈夫?
ん……だいじょうぶ。
……少しでも感じたら、すぐに言ってね。
うん……言う。
……。
……ねぇ、まこちゃん。
なんだい……?
まこちゃんのお話で……思い出したことが、あるの。
……聞かせて。
あまり、気分が良い話ではないと思うけれど……良い?
……うん、構わないよ。
……。
……。
……中学生の頃。
うん……。
塾にね……とても成績優秀な子が居たの。
全国の模擬試験でも、常に上位で……。
その子は……ううん、やっぱり良いや。
……。
その子が、どうしたいんだい……?
……突然、塾に来なくなったの。
え、なんで……。
……分からない。
何か、あったのかな……多分、あったんだと思うけど。
……理由を知っているひとは、塾生の中には居なかったと思う。
……。
ずっと、来なくて……初めのうちは、ただのお休みだと思っていたんだけど。
その子は、来るようになったのかい……?
ううん……結局、辞めてしまったの。
然う、なんだ……。
詳しい理由は、分からないまま……塾の関係者なら、知っていたと思うけど。
……辞めた理由なんて、教えるわけないよね。
家庭の事情かも知れない……或いは、塾を変えたのかも知れない。
若しかしたら塾に通わずとも、志望校に受かると判断したのかも知れない……。
転校しちゃったのかも知れないしね……。
……然うね、その可能性もあるわ。
急だと、みんなに話す時間もないし……どうしても、慌ただしくなってしまうからさ。
……その子はいつも、ひとりだった。
……。
私が通っていた塾は、慣れ合うことを嫌う傾向があって……大体の子は、ひとりだったの。
誰かと一緒に居ても、親しさは感じられなくて……塾の中はひたすら、ぴりぴりとした雰囲気に覆われていたわ。
ぴりぴり……うん、そんな感じだった。
私は、楽だったのだけれどね……誰とも、関わらなくて良かったから。
ひたすら、お勉強に集中することが出来たから……。
……。
誰もが、他人に興味がなかった……あるのは、成績だけ。
……だからこそ、大変だったこともあったろう?
……。
ライバル同士だから……目の敵にされるようなこともあって。
あったけれど……それでも、学校よりは。
……。
意味が分からない言い掛かりや……班行動が、ないだけでも。
亜美ちゃん……。
……ごめんなさい、話を元に戻すわね。
ううん……亜美ちゃんの好きなように話して欲しい。
どんな話だって、あたしは聞くから……。
……ありがとう。
……。
……。
……その子が辞めて、暫くしてから、ある噂が流れるようになった。
どんな噂……?
……男に誑かされて妊娠したから、塾を辞めたんだって。
は、なんだそれ……誰がそんな噂を。
……成績が思うように上がらない子達が、鬱屈した気持ちを晴らす為に。
それで、そんな噂を?
そいつらは、馬鹿なのか?
……愚かだとは、思う。
愚か以外、なんでもないよ……幾らなんでも、酷すぎる。
……でも、ひとって容易く信じてしまうの。
……。
信じていなくても……自分が、面白ければ良い。
楽しめれば、それで良い……そんなくだらないことで、気分が晴れるのなら。
……最低だ。
本当に……。
……亜美ちゃんは。
私は……。
……。
……酷いと、思ったわ。
あぁ……良かった。
……信じて、呉れる?
当たり前だろう……?
……。
ん……亜美ちゃん。
……ありがとう、まこちゃん。
ううん……お礼なんて、要らないよ。
……噂は、どんどん広がっていったの。
塾の先生は、止めなかったの……?
……お勉強に関係のない話はやめろと、注意はされたけど。
勉強って……ひととして、おかしいだろう?
……皆がストレスを抱えていることを、知っているから。
だからって……。
……その噂が流れ始めてから、酷く居心地が悪くなった。
……。
休むことも、考えたけれど……然うしたら、自分もあらぬことを噂されそうで。
……嫌だね。
……。
然ういうの……本当に、嫌だ。
……ごめんなさい。
良いんだ……話して呉れて、ありがとう。
……。
ずっと、抱えていたんだろう……?
気付かなくて、ごめんね……。
ううん……まこちゃんはいつだって優しくて、傍に居て呉れたから。
……。
それだけでも、私は……。
……亜美ちゃん。
……。
……大好きだ。
私も……まこちゃんが、好き。
……あたしには、男を見る目はなかったけど。
……。
女の子を見る目は、あったみたいだ……ううん、あった。
……私は、ん。
ね……耳たぶ、かわいいね。
……耳たぶって、かわいいもの?
うん、かわいいものだよ……。
……基準が、分からないわ。
然うかい……?
……。
……そろそろ、離すよ。
いい、の……。
……お勉強、もう少ししなきゃね。
おべんきょう……。
……ホットハニーレモンも、残っているし。
……。
……ありがとう、触らせて呉れて。
ひんやり、する……。
……ひんやり?
まこちゃんの手が、触れていたところ……。
……。
……ねぇ。
なに……。
……また、触れて呉れる?
もちろん……触れたい。
……じゃあ、またね。
うん……また。
……。
さぁ、もう少し頑張ろうかな……。
……ん。